表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
金曜日は課外授業
13/96

彼は全部知っていた

 バークは人外は嫌いだが子供の存在は許しているのか、廊下での出来事の後は学校の集会で見せた気さくなお兄さんの体で私達を案内しだした。


「では、留置場にまず案内しようか。喧嘩を続ける悪い子は牢屋に入れちゃうからね。ねぇ、リサちゃん。君は大きくなったら保安官になってみる?」


 違った。


 彼は唯一の人間の子供であるリサを守ろうとしているようだ。

 そして気が付いたのだろう。

 彼の一挙手一投足で学校に通う子供達の誰かが不幸になるという事実を。

 うわあ、ジュスランてなんて糞野郎なんだろう。


「あなたは凄いわね。一瞬であの保安官を蜘蛛の巣に絡めた。」


「お褒め預かりありがとう。これも君達の醜い喧嘩のお陰だね。」


 私は顔をクシャっとして見せると、ジュスランの脇から離れてシルビアの方へと移動した。

 焦げ茶色の髪をショートカットにしたシルビアはバレリーナのようにスラっとして手足が長く、人狼というよりもバンビかカモシカのようだ。

 しかし彼女が私に向けた瞳は、人狼独特の紺色のものだった。

 人狼は全員が黒目だが、黒い虹彩と白目の境目には紺色の輪があるという瞳をしているのだ。


「何?」

 上級魔族である人狼だからか、彼女はデーモンである私にそっけなかった。


「いえ。あの、あなたはリサを守っていたから、私をシャーロットから守ってくれるかしらって思ったの。」


「ハン!自分で守れるだろ。力のある者は弱い物を守るのが当たり前だ。リサはお前達から身を守れない。それだけだ。」


 なるほど、人狼は正義感というか道徳心というものを持っていたのか。

 パラディンスキ家の経営するクラブやカジノに人狼は多く出没しているが、そこにいる人狼全員が考えの浅い享楽主義者であったので私は勘違いしていた。


「あなたは素晴らしい人ね。弱い子を守ろうとする人は私の尊敬対象だわ。」


 まあ、シルビアは真っ赤になった。

 そして、はにかんだようにして私にありがとうと呟いた。


「あれ、嬢さん。見学ですか?」


 軽い若い男性の声に私は見返せば、留置所で牢の前に立っている制服を着た男は消えたと思っていたろくでなしと有名な人狼だった。

 彼の胸には保安官助手のバッジが光っている。

 え?人間の部下になったからろくでなし?

 シルビアはろくでなしと呼ばれていた仲間の男、たしかジェイク・リンドンという名前だった青年の方へと歩いて行った。


 私は人外を殺したがっている保安官の巣に人外しかいない事に首を傾げながら、一体何が起きているのか探るためにシルビアの後を追いかけた。

 盗み聞きをしなければ!


「あなたはここに慣れて?」


「ええ。意外と居心地がいいですよ。俺はティリア家では出来損ないですからね。嬢さんは面会日以外にもボスに会いに行ってくださいよ。あの人は自分から甘えられない人ですから。」


 シルビアはかっと頬を赤らめた。

 え、ティリアのボスってロリコンだったの?


「お父さんはあたしが面倒だと思っていた。」


「そんなことないですよ。あの人は愛情深い人です。家業に入らない俺だって見捨てずに口利きまでしてくれましたから。」


 うそ!シルビアはブランドン・ティリアの娘だったのか!

 それから、ジェイク・リンドンがろくでなし呼ばわりの意味が分かった。

 ティリア家は警察組織と癒着もある、いや、パイプがある大手警備会社や銃器を取り扱う店を経営している。

 ブランドン自身、世界の紛争地域に出向いては傭兵仕事していた事もあり、彼の部下や幹部は戦地での実戦経験者が多い。

 いや、ティリア警備会社は傭兵仕事で稼いでいるとも聞いた事がある。

 と、いうことは、家業から逃げた青年は弱虫の使えないろくでなしの烙印を押されるという事か。

 そして、傭兵が家業という事は、ティリア達人狼は金と契約さえあれば人間だって守るだろう。


 ジュスランが見せた子供でわかる親の相関図。


 つまり、現在の人狼は人間と契約しており、フラーテルの側にはない、ということだ。


「ああ、だからバークはちくしょうって、言ったのね。全部わかっているって、ジュスランに言われたも同じなんだわ。バークは人狼と手を組んでフラーテルを攻撃しようとしていた?」


「正解。」


 私の耳元にジュスランの囁きと吐息が掛かり、私はびくりと体を硬直させた。


「おや、ジャンプはしないんだ?期待したのに。」


「心臓がちゃんとジャンプしたわよ。」


「わお!良かった。みんなは次は尋問室に行くようだよ。僕と君はバークをもっと探ろうよ。君のクロテンを使ってくれるかな?」


「いいけど、テンは一人分しか化けられないわよ。」


「うん。君の影だけ作ればいい。僕はスーと消えた事になっている。」


「可哀想なスー。」


「そうかな。彼女も僕も助け合っているだけだよ?人は助け合うもの、でしょう。」


「あなたって、本当に女の敵ね。」


 私こそジュスランの言いなり、だが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ