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御用の際は召喚魔法にてお申し付けください

作者: 日高ましる

テスト投稿も兼ねて。


 読者諸兄に置かれましては、召喚魔法と聞いてどのようなものを思い浮かべられるだろうか。

 昨今の流行りといえば、どこぞの異世界くんだりまでわざわざ出張って魔王某を討伐したり、大量に呼んでおいて役立たずだからと見捨てられたりといった異世界召喚だろうか。正直これ召喚じゃなくて拉致誘拐目的の転移魔法じゃねーかと思わなくもないが、まぁ帰るための方法もあったりなかったりするので一括りにしたんだろうと思われる。切羽詰まって助けを求めたパターンからガチで人間の屑みたいな理由のパターンもあるしね。人間以外が関わっている事例もそこそこ。

 因みに俺が思う召喚魔法は、莫大なリソース(MP)を消費して伝説の生物やら偉人やらの必殺技を借りるというものだ。10もいいけど9が好きです。


 さて、なぜこのような話をしているかというと、俺自身が現在召喚されてる真っ最中だからである。とは言え別段初めての経験というわけでもないので落ち着いたものだが。

 先にあんな質問をしたのだから予想がつくと思われるが、この召喚魔法は俺が述べた必殺技の方である。流れてきた情報によれば制限時間内に受け取ったリソースを使い果たせばいいらしい。ただ術者が下手くそなのか文明的に技術の進んでいない世界なのか、待機時間が長い。現にこんな無駄話をしていられるぐらいの暇がある。


『──類稀なる力を持つものよ、言の葉に込めし幾千幾万の魂を操る稀人よ──』


 まだ時間かかりそう。歌に例えるとまだAメロ辺りだなこれ。

 手持ち無沙汰だし、もうちょい世間話でもして待ちましょうかね。差し当って俺がこうなった始まりから説明していこうか。



 俺が所謂どこにでもいる平凡な少年だったのは15歳まで。誕生日の朝、目が覚めたら突然【ふしぎなちから】に目覚めたという、物語の出だしとしては赤点レベルの始まりだった。

 15歳になったばかりでも、14歳ハートを持ったままの当時の俺はえらく興奮していたと思う。なにせ漫画やラノベのような境遇に自分が置かれたのだ。その力の危険性など度外視で使いまくっていた。今の俺なら怖くてできない行動である。


「これが……これが俺の真の力……」


 黒歴史である。できれば聞き流してほしい。

 漫画やラノベならこの後に、謎の敵と戦う秘密結社だとか異能力者を秘密裏に集めて育てる学園だとかと接触するのだが、別段そういったこともなく。期待とは裏腹に何も事件が起きず、そのまま中学校を卒業して高校に入学。なんかこう、美少女キャラとキャッキャウフフする未来予想図とは全然違うなぁと思いながらも、そんなものかと実に平和に過ごしていた頃だった。


「やれやれ……まぁ目立たないなら願ってもない、か」


 黒歴史である。できれば聞かなかったことにしてほしい。

 平和に過ごしていたが、本当に、本当に唐突に異変と遭遇した。


 帰り道の途中である。ふと視線を上げれば何だかよくわからないモノが目に入った。それは犬とも狼とも取れる巨大な四ツ足の影だった。

 明らかに常ならざる存在。影が立体的になったような、不安定な見た目のくせに存在感はバリバリあるし、いつも通りの夕焼け空がその空間だけ歪んで見えるという異常事態。

 生まれてこの方活躍しなかった危機管理能力が、今更のように活動しだしたぐらいだ。曰く、アレはヤバいと。

 最初は自分の命が危ないという意味だと思っていたが、数瞬対峙しているとやがて別の可能性が唐突に思い浮かんだ。ヤバいのは自分では無いんじゃないかと。

 多分その閃きは間違いじゃなかったと思う。何せ歪んで見えた空間が更にひどい事になっていき、段々聞くに堪えない断末魔のようなものまで聞こえてきたのだから。

 そう思った瞬間、何のためらいもなく【ふしぎなちから】を使った。向こうはこちらに注意を払っていなかったのか、綺麗に攻撃が決まり消滅。随分とあっさり終わったが、当時は得体の知れない気配に冷や汗ダラダラだったし、本当に倒せたのかわからず周りをキョロキョロと見回してもいた。


 結局その時の異変は収まったけど、それ以降影たちとは何度も遭遇することになる。時に街中で、時に森の中で、場所は選ばずとも不思議と夕暮れ時だけ存在しているような奴らだった。

 ここまでくればいよいよ謎の存在と戦う組織が俺と接触しに来るはずだ、と待ち構えていたが、結局来ることはなかった。色々考えたが、多分こいつらと戦っているのは俺だけなんだと思う。現在に至るまで接触がないどころか影も形も見当たらないから間違ってないんじゃないかな。

 その後は単独で影たちを討伐しつつ、彼らの正体を探っていた。ほとんどインターネット頼りという、なんかこうじゃねぇんだよなぁ感満載の情報収集だが、結果的に彼らの片鱗を掴めたのだから文句は言えない。

 推測に憶測を混ぜたものだから完璧にこれと言えるものではないんだが、影たちの正体は現世に湧きだした魑魅魍魎の類なのではないかと考えている。と言うのも、彼らが出現するのが決まって夕方、つまり逢魔が時である。詳細は民俗学の本でも読んでもらうとして、簡単に言えば常ならざる者が出やすい時間帯に出てきた化け物だということだ。

 正解は知らん。誰も教えてくれないし。



 結論から言うと、影たちを討伐していったことは間違いでなかったらしい。何故なら察知に遅れてしばらく放置してしまった土地が謎の異変を起こしていた。オタク知識と14歳ハートをフル稼働させて推測した結果、その周囲が異界化とでも言える状態になっていたのだから。

 その件もなんとか解決して、人知れず活躍する孤独なエージェントだとか悦に入っていたあたりだったか。突然気が遠くなったかと思うと頭の中に情報が流れ込んできた。無理矢理文章化すると『指定時間20秒・魔力128 以上の条件で敵性対象に攻撃』といったものだ。魔力云々はゲームを元にそれぐらいだと判断したので、そう受け取ってくれ。

 これが記念すべき第一発目の召喚要請である。頭が付いて行かないながらもなんとか任務はクリアしましたよ。


『──衝いて出るは我が行く末を導く言祝(ことほ)ぎ也……出でよ、言霊を操るもの(トーカー)!!』


 とかなんとか言っている内に詠唱が終わったらしい。それにしても自分で考えた登場台詞と二つ名が詠唱文と召喚名になってるとか軽く死にたくなるネ!

 ……ともかくようやくのお呼びだ、張り切って仕事しますか。



 どこからともなく落ちてきた本がひとりでに浮き、頁を高速で捲っていく。すると捲り終わった頁がどんどん剥がれ落ちては重なり合い、一つの扉を形成していった。

 紙でできた扉。よく見れば重なり合った頁の文字や絵図が一つの魔法陣を描いており、黒いインクのそれが白く輝き始めれば、それは開錠の合図。

 開かれた扉から歩み出てきたのは、人型の何者か。揺れる黒いコートはシルエットを覆い、大きなキャスケットとマフラーで隠された頭部は、僅かに空いた目元さえ影になっていて人相がよくわからない怪人。

 手にはいつの間にか先ほどの本。パラパラと幾つか頁を捲った後、打倒すべき敵を見据える。その双眸は見えるはずもないのに、冷酷なものを想像させた。



 ……以上、登場演出でした。いや召喚獣として召喚される奴らは大なり小なり演出をする必要があるんですよ。ハッタリも重要だしね。

 因みに召喚獣って基本的に全盛期の姿で召喚されるんだよね。つまりこの14歳ハートが炸裂している香ばしい姿が俺の全盛期だそうだ。死にたい。いや一応人相を隠す変装なんだけどねこれ。


 さてさて今回の依頼主はっと。

 横目で見たら顔色悪そうなお嬢さんが後ろに控えていた。いや顔色悪いっていうか肌色が青いっていうか。よくよく見れば側頭部から伸びる一対の角もあるし、これは所謂魔族という方かしらん。

 となれば相対している四人の若者。なんか豪華な剣を構えた黒髪黒目の勇者っぽい少年に清廉そうな服を着た金髪の少女、杖を携えた勝気そうな赤いツインテールの少女、銀色の犬みたいな耳と尻尾を生やし短剣を逆手持ちにした軽装の少女……ハーレムパーティやんけ。こりゃあっちが勇者っぽいな。


『異界の強者(つわもの)よ、我等魔族の安寧のためどうかお力添えを……』


 魔族っぽい……というか自分で魔族って言ってるね。魔族の依頼主が手を組んで懇願してくる。正規に召喚されてるんだから力を貸すのは当たり前なんだけど、落ち着かせるためにも顔を向けて頷きひとつ。


『英霊召喚……皆さん、お気をつけて!』

『へっ、何をしようがやられる前に斬る!』

『ちょっと何勝手に前に出てるのよ!』


 おっと、勇者君が名前通り勇み足を踏んでいるようだ。時間制限もあるんだし悠長にはしてられないな。


「止まりなよ。【赤の合図は停止の合図、勇み足は事故の元と知れ】ってね」

『……へっ?』


 俺の言葉を聞いた勇者君がその場で急停止。すると目の前を何かが猛スピードで走り去っていった。うーむ、止まらなければノックアウトできたのに。


『大丈夫?』

『今アイツ……日本語を──』

『ニホンゴ? それってあんたがいた国の言葉っていう……』


 黒髪黒目だしまさかとは思っていたけど、やっぱり勇者君自身が被召喚者かぁ。

 絡まれたら面倒だし早いとこ済まそ。


「なぁアンタ──」

「【日が落ち、闇が染み出し、世界が赤にぼやける刻】」


 俺が意図して口にする言葉に従い、周辺の明度が明らかに落ちる。


『何、これ……? さっきまでお昼だったよね!?』

『……時間操作?』

『そんな、時属性魔法なんて神々の時代の御業なはずです!』


 この【ふしぎなちから】って、魔法と言いたくなるけど安易に決めつけたくないんだよね。あと別に時空間を操ってるわけじゃないです。

 二つ名とこの現象から察せられるように、俺の【ふしぎなちから】はまぁ所謂言霊というもので。簡単に言えば条件付きで口にした言葉全部が現実になる力だ。便利そうに見えるけど、これの制御が大変で大変で……。

 おっと、愚痴になるところだった。

 それはそうと、俺の言葉によってここら一帯が強制的に夕暮れ時になっている。ここから色々組み立てていきますよー。


「【影は伸びる。それは夜よりも闇が活きている証】」


 四人の足元にある影の闇が深まり、起き上がる(・・・・・)


『なっ……!』

『こいつらっ、攻撃してくる!?』

「まだまだ。【影踏み影討ち影縛り。搦め手三昧、篤と味わえ】」


 勇者君の影が勇者君を、少女たちの影が少女たちそれぞれを襲う。ほぼ自分と同じ姿かたちだし能力も同等なので、戦いにくいことこの上ないだろう。

 足止めしている内に一気に畳みかけますかねっと。


「【魔王、魔王、影の魔王よ。己の偉を取り戻すため、人形引き連れ全てを覆え】」


 俺の足元の影が伸びて広がる。それはどんどん広がり、視界の果てまで伸び、それだけには留まらず空を覆いつくす程に巨大化する。

 唖然とした勇者君パーティを睥睨し、ニタリと笑った。


『まずっ──』

「総括。これぞ影達の狂餐、【”黄昏の宴”】也」


 影が空を覆ってできた影すら支配する。それはまさに影の氾濫とも言える光景だった。

 やがて一面を覆っていた影はどんどん縮小して元の影に納まると、倒れ伏した勇者君パーティが現れる。……ヤッちゃいないよ? いくら召喚獣とは言え手を汚したくないし、推定日本人を殺したくないし。そもそもオーダー自体が敵対者の無力化だったし。この結果はちょっと精神力的なアレコレを削っただけです。

 とにかくこれでお仕事終了だ。ちょうど時間もリソースも使い果たしたし、言霊を操るもの(トーカー)はクールに去るぜ。


『ご助力に、感謝を』


 依頼主からの労いだ。それには閉じた本を軽く振ることで答え、光の粒となって消えた。うん、退場もバッチリ。



 まぁそんな感じで普通の生活と同時に召喚獣ライフも送っています。因みに召喚されるのは生身ではなく精神だけで、体は召喚主の魔力で作られている。なので例え召喚先で返り討ちにあっても本体は無事なまま。その影響か、本体の方では時間が経過しないのはとても助かることだ。

 召喚獣になって面白かったのが、たまに同僚と居合わせることかな。複数召喚をやってのける術者だとたまに起こることで、なんか綺麗な色をしたドラゴンだとかローブを目深に被ったご老体とか男心をくすぐるロボとか、まぁ色んな奴らと共闘したり。その時も待機時間が発生して、色々と世界について教えてもらっていた。

 召喚獣になってと言ったがこれはふざけた言い回しではなく、本当に世界によって召喚獣登録されたのだ。ドラゴンさん曰く『世界の危機を救うほどの偉業や、世界自身がどうにもできなかった問題の解決をした場合などに、その力を制限する意味も含めて登録される』んだとか。まぁ言ってしまえば監視がついた様なものである。つまりあの影たちの出現が、世界的にはいかんともしがたい事態だったということらしい。似たような現象は別の世界でも起きてると、ローブのご老体が言ってた。ロボに至っては対影用決戦兵器なんだと。


 もう一方の普通の生活については、まぁ最近大学を出て中学教師としてデビューしました。もともと文系でそっちのほうが成績が良かったので国語教諭。……たぶんこの【ふしぎなちから】の影響なんだろうなぁ。

 いや、それはいいんだ。重要なことじゃない。目下の問題はなんか見覚えのある奴らが担当クラスにいることと、すっごい気になる子が同じクラスにいることだ。

 見覚えのある奴は、当たり前だが黒髪黒目のどっかで見たことのある少年と、当たり前じゃない金髪、赤いツインテ、銀髪の四人組。あと最初は気付かなかったけど、もし肌が青くて角が生えてたら見覚えがある女の子。基本黒髪の集団の中にまぎれてるから目立つこと目立つこと。ていうか何で誰もツッコまないんだ。

 ……同僚になった賢者さん曰く、『召喚術は時空間を超えて呼び寄せる。例えば、同じ世界の未来の英雄を呼び寄せることもある』だとか。まぁ向こうはこっちのことに気付いてないからスルーでいいだろう。関わり合いになりたくない。

 ただ、もう一方の気になる子はそうも言っていられない。確証はなく感覚的なことなんだけど、彼女は多分俺と同じように【ふしぎなちから】を持っている。実際に使っているところを目撃したとかでなく、何となくでしか説明できないんだが。

 これ絶対関わらないといけない案件だよなぁ……気付いちゃったもんなぁ……。



 以上が自己紹介というか何というか。こんな変な奴でもいいなら気軽に召喚してくださいな。

 俺の能力は先に出た通り、言葉を具現化する力。これだけだとちょっとわかりにくいんで、もう少し詳しく語ろうか。

 具体的には俺の発する言葉全てが現実化してしまう力だ。例えば「おはようございます。今日もいい天気ですね」と言ったらその日一日、気象条件を無視して快晴が続くといった風に。バイトしているときに迂闊にも「おはようございます」って挨拶したら、バイト中の俺の動きが1.5倍速くなったのは流石に笑ったが。

 発言一つ一つに効力があるので、意図しない力の発動を防ぐために予め打消しの言葉を使う必要もある。これを忘れると悲惨な目に合うからね……。

 それと、俺が勇者君パーティと対峙していた時に言った条件について。基本的に俺が具現化できるのは、この目で見たものだけに限られたり。まぁこの条件も結構ガバガバで、目で見れば空想の出来事──漫画やアニメ、ゲーム内での出来事とか──でも実現可能だったりする。

 あの時具現化したのは【赤信号】【夕焼け空】【影の呪い】【影三昧】【影の魔王】の5つ。内訳としては、前2つは日本で見れるもので、【影の呪い】は召喚先で見た魔法、【影三昧】【影の魔王】はゲームです。

 結構万能だけど消耗も激しいので、もし呼び寄せるなら十分なリソースとそれに見合った相手が必要になる点に注意ね。詠唱文はなんかそれっぽい文章を適当に。鍵言は、あー、まぁ、他になかったら言霊を操るもの(トーカー)でいいです……。


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