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秘められた紫  作者: みすみいく
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拘束処分

 シェネリンデに囚われ人として戻ったアレンは、アウルが、自分を切り捨てる判断を下したと悟る。戻った省の中は全く別の体制に作り替えられて居た。

 彼等の運命は?!


 国境に着いたのは土砂降りの雨の中だった。


 車の中には、俺を、国逆の徒として処断するまでは、逃してなるものかと、シュバルト自ら隣に陣取って、かけた手錠を再三確かめている。

 車が首都の門を潜り、市街を走っている間に雨が上がった。明るく晴れ渡る空に浮かんで内務省の庁舎が見えてきた。

 晴澄む空とは裏腹に、俺の心には暗雲が垂れ込めていた。自分の信念に基づいた行動に、俺自身は些かの後悔も無かったが、相手の罠に架かって終うと言う結果は、周りに多大な困難を強いる事態をもたらした。


 「公に何と言ってお会いになろうかと、考えておいでなのですか?!」


 嘲るようにシュバルトが聞く。

 こんな男に何と言われようが知ったことでは無かったが、アウルの名を聞いて心が揺れた。


 アウルは俺が裏切ったと思っているんだろうな…何気なく考えて、胸がずきりと痛むのを感じた。

 アウルに裏切ったと思われている。

 その事だけが、俺を思わず顔を覆わせる程に震撼させていた。


 アウルにとって、俺の行動の動機がいかなるもので有っても、結果として、彼の企てを根底から覆すものであったのは変わりが無い。

 

 庁舎の車寄せに着いて、驚いた。

 扉脇の詰め所にカール本人はおろか、顔見知りが1人も居ない。

 入り口を入り、対応に出てきた所員も、廊下を行き来する人々を見ても、然りだった。その上、内務省の中は、誰も彼もが右往左往する、とんでもない混乱に支配されていた。

 アウルは?!彼がいるのに、この混乱ぶりは如何したと言うのだろう?!彼自身に何か有ったと言う事だろうか?!。


 彼の下には、ルィザもハンスも、緊急事態に対処できる人物は何人も居るはずだった。ならば何故?!。


 「貴方に統制されていた証ですな。公に取って代わられるべく、随分と掌握を進めて居られたようだ。貴方が囚人として戻られたので、内務省は機能を失ってしまった」


 それは俺の意図した事では無い。で、有れば、この混乱の理由は他に有る。


 「公爵閣下に拝謁を願いたいのですが」


 進み出たのは俺の知らない所員だった。


 「申し遣って居ります。こちらへ」


 若い所員は言い遣っていると言った。言い遣って対応に出て来ていると。段取りを心得て案内していると。


 ここの主はアウルだ。

 彼は俺の親しい人物を、全て排除して終ったと言う事だろうか?!であれば、俺を切り捨てる決断を下したと言う事だった。

 

 終わりだった。


 この先何が与えられようと、彼の信頼を失った俺は、何の意味も持たない者に成った。


 気が付くと、中庭に面した小さな面会室にいた。

 庭に面したフランス窓が、残照に、大理石の床の上を影となって動いていった。


 アウルが幼い頃から、庭師について、薔薇を育てていた庭だ。グラブゼルから、休暇の度に訪れた庭だった。


 目で追っていた窓の影が空いて、テラスからアウルが部屋へと入ってきた。


 如何なる者にも、関心を向ける必要の無いその顔は、残照が作り出す影に沈んで、表情は伺うことが出来ない。


 シュバルトが進み出て、俺を捕らえた折の状況説明を始めた。


 「シュバルト君。君はリント伯爵の命でカーライツ伯爵を監視していたのだな?!」


 声を聞いた途端に胸が震えた。


 「御意」

 「伯爵の処分を私に委ねてくれるのか?!」


 常の、執務室での彼の声だった。

 抑揚を抑え、低く澄んだ声音。

 聞いているだけで、考えが何も浮かばない。

 俺というものが無くなったようだった。


 「シェネリンデを憂慮する気持ちは、閣下と同様で有るとお伝えせよと申し遣って参りました。お役に立って…と」


 「で?!何日要る?!」

 

 あと何回聞けるのだろう?!。

 

 「は?!」

 「審議会に提出する告発書の作成に、何日要るのか、と聞いたのだ」


 夢見心地で聞いていた俺の耳に、アウルの癇癪が引っかかる。


 「あ…はい。2~3日。いえ、2日」

 「では、明後日」


 それだけ言うと、靴音がして、アウルが部屋を出て行って終う。

 シュバルトが後を追う。


 「あの…閣下お待ちを。審議会までの伯爵の処遇は?!」

 

 靴音が止まったのを聞いて、思わず顔を上げた。

 その時、シュバルトを振り返り、秀麗な顔に怒りを掃いて、思う様叩き付けたその光景を、俺は忘れはしないだろう。

 

 「拘束処分に決まっているだろうがっ!!それとも何か?!内務省の庁舎内では、管理に不服でも有るというのか?!」


 怒気をまともに食らって、シュバルトは余りのショックに凍り付き、動けなくなっていた。


 呆然と見ていた俺に気付いて、アウルの視線が捕らえた。シュバルトに向けた以上の怒りをぶつけるのだろうと覚悟した。

 自分でも可笑しい位に、恐ろしいと言う気がしてこないのを、不思議に思っていた。


 この、貴重な一刻一刻が、アウルと関われる最後の時間だと思えば、どんなに叱責されようと、構うものではなかった。

 まだ、衝撃の余韻に、カタカタと震え続けるシュバルトを越えて、アウルの視線が俺に向けられた。

 だがそれは、予想に反して悄然と、悲しげで、もどかしさを湛えていた。


 違いを確かめかねて、躊躇う間に、アウルも又逡巡した結果、別の、決然とした顔を上げた。

 心を決めた時の顔だった。


 俺の眼を、不思議な一瞥で捕らえたまま、行ってしまった。


 「保安局のエンデを呼べ!」


 アウルに呼ばれた警備担当者に、連行され身体検査を受けた後、予想に反してアウルのお気に入りの図書室に拘束された。


 ここには俺も、以前、何度か入った事が有る。

 昔の国王の隠れ家として作られた所なので、囚人に与えられる部屋としては別格だった。


 奥には、休日や庁舎に泊まり込む時に使う寝室が付いているはずだった。

 ここそこに、細々としたものが置いたままになっている所を見ても、アウルの、俺に対する憐れみだけはまだ残っていて、完全な囚人の扱いでは無いのが判った。


 アウルの気遣いが返って辛かった。

 

 俺のせいでと、この時とばかりに放り出してくれれば良いのに。そうすれば少しは気が楽になる。


 これではまるで、俺のための筋書きの様だった。

 お読み頂きありがとうございます。

 また遣っちゃいました。上げたと思ったんだけど、実は最後の確認押してなかった。

 改めて宜しくお願いいたします!

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