自立
思いを振り切って、次へ進もうとするアウルと、彼に対するスタンスが、変わったことを自覚するアレン。
彼等の今後は?!
政治の王道だった。
本来の役割と責任において、私利私欲無くものを言えば、アウルの主張に行き着くだろう。
その場にいた皆が、リントでさえも、己の本音との余りの落差に言葉を失っていた。
沈黙の重圧を嫌って、リントが、叫く。
「い…未だその時で有るものか!其方の言う「時」で有ろうが!!」
当然の如く、必要な言葉を導き出して、言うべき言葉を吐く。
「仰るとおりだよ。リント伯爵。私が願い、行い、叶っている。それを「時」が私を選んだのだと思っている」
「不敵な事を!!「時」に見離されたとて悔やまれぬことじゃの!」
「ご忠告、肝に銘じておくよ」
リントの捨てゼリフに、買い言葉を言い捨てて、ドサッと自分の席に着いてしまった。
アウルの行動のアンビバレンツに、俺自身が面食らい、慌ててしまっていた。
「何てことを言うんです?!あれでは…」
アウルの事だから、腹を立てて見境無くと言う事はあり得ない。だが、その怒りは相当なものに見えた。
「あのもうろく爺!!言うに事欠いて、お前を私の寵臣だとぬかしやがった!!」
「アウル!声が大きい…」
声を潜めずに罵るのを小声で叱る。
「人を若造だと言うのは良いのか?!」
まだ、怒りが治まらない様だった。
「俺が言いたいのはですね…」
「んじゃ、何か?!お前は男妾の様に言われたままで、良かったのか?!」
「あれじゃ貴方1人が悪者に…妾ぇ?!」
何とか事態を収拾しようとしていた俺の意識が、とんでもない言葉に途切れた。
「と、同時に、私を、公に私情を持ち込むバカ者だと言ったことになるんだぞ!!」
この言葉で、初めて俺は合点が行った。
全ては布石だったのだ。
リント伯爵を挑発して、乗ってくるのを待っていたのは知っていた。だが、こんなあからさまなやり方は初めてだった。仕方なくアウルの横に座を占めて、様子を伺った。
周りで小声で囁かれるのは、リントの失態だった。
その顔は強ばり、謀られた事を悟りはしても、既に失態は失態として詫びねばならない。
「…わしとしたことが…御無礼をお詫びする」
苦虫を噛み潰し、怒りを押し殺した声だった。
「アウル」
リントの詫びが聞こえて居る筈だった。黙り込んで応えない彼を嗜めた。ここで一方的に断ち切っては如何にも大人気ない。
「ご丁寧に痛み入る」
議長によって議題が告げられて、会議が始まった。
俺に何の打ち合わせも無く、今後に大きな方策の転換を図った彼が、不可解だった。
「おい、アレン。良いこと教えてやるから耳貸せ」
憮然としている俺の、機嫌を取り結ぼうとしているようで不可解が募る。仕方なく耳を傾けると、何故が嬉しそうに見えて驚いた。
「さっきのリントはな。爺さんのヒステリーだ。女性の更年期と同じだな。男として役に立たなくなって、焦ってイラついてるんだ、奴は」
うわ。口が悪い。物凄いギャップ。
「冗談じゃ有りませんよ。リント伯をまともに見たら噴き出しそうだ」
言うと、悪い顔をして、面白そうに笑う。
「そりゃいいや。派手に笑ってやれよ。魂消るぞぉ、きっと」
病室の件以来、アウルの体調が少しは良いように思う。体調が悪くて、気力が保たれて居なければ、先程のようなバトルなぞ出来るはずも無い。
だが、どう言うわけか、別の弊害が有って、会議を終えて帰る車の中はもちろん、いつにも増して眠いらしく、執務室に向かう廊下を歩いていても、足元が頼り無い様子で、何となく付いて歩いている。
こういう所はまるで子供みたいだ。
あの老獪なリントと渡り合う彼と、眠気に抗う子供と…
王の婚礼の日、久しぶりにアウルの横に並んで驚いた。彼に向けた視線が、僅かだが俯く。
そう言えば、あの日から…16のあの時からアウルの印象はさして変わっていない。年を重ねた男の体躯に変わらないから、ともすれば少女の趣なのだ。
6歳から兄を抱えて、大人の役を振られてしまって…一足飛びに、精神の部分が飛んでしまっているのだろう。
空白の10年…。
執務室に辿り着くと、真っ直ぐ窓際にあるディバンに歩み寄ると腰を下ろしてしまった。そのまま、体を横たえてしまう。
「アウル」
「…ん?!」
生返事。
「俺は1度執務室に戻ります。次の予定まで1時間程有りますから…」
既に唇を薄く開いたままで、眠りかけている。
「また出た。眠りこけ姫。よく会議の最中に眠らないもんだな…」
言うと眉が微かに寄せられる。聞こえているらしい。
「…の、リヒターの…定時連絡か?!」
まだ、仕事してる。
「そうですよ」
「リヒター…悪い癖…出すなよ…アレン」
「悪い癖って何です?!」
覗き込んで聞いても、今度は応えが無かった。
睫毛の陰を頬に落として、微かな寝息を立てて居る。
このまま、ずっと寝顔を見ていたいな…。
着ていた上着を脱いでかけてやる。
思い出して思わず言った。
「悪い癖って…どれだろう?!。」
眠ってしまったと思っていたんだが…笑った様に見えた。
ドアを閉じかけて、視線を彼に戻したが、今度は起きる気配は無いようだった。
お読み頂きありがとうございます。
本日2本目、やっと上がった~。
タイトルに悩みまくってしまいました。
次は、遂に最大の事件が起こります。如何なる事に成りますことやら…。




