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秘められた紫  作者: みすみいく
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口火

 切羽詰まって、結果を出すべく口火を切ると言う意味のタイトルです。

 自分に価値を見いだせないアウルにとって、愛する者を護る方法を他に持たないことが、彼の行動の根本です。

 引いた一線が功を奏して居る間に、事を急がなければ早晩破綻を来すだろう。

 この際、邪魔をする未練がましい精神の方を切り捨てて、目的を果たすべく、定期的に開かれる方針懇談会の会場で、暫く控えざるを得なかったリントへの挑発を始めなくてはならない。


 私同様会議のメンバーに入っているアレンも出席していて、私の隣に席を占めることになっている。

 私達が到着した時には、大方のメンバーは既に会場入りしていて、控え室に揃っていた。


 「遅くなりました」

 「おお。公爵閣下、カーライツ伯爵。御無事で何よりでございました。もう…お体の方は宜しいのですか?!」

 「検査の為に数日入って居ただけで、治療と言う事では無かったのですよ。ですが、ご心配頂いて…」


 その時、控え室の奥から神経質そうな咳払いと共に、リント伯爵がその老いた鷲のような姿を現した。


 其れまで私達を取り巻いていた人垣が、すうっと開いてリントと正面から向き合う形になった。

 どちらがより力を維持してゆく事が出来るか、即ち、覇権が誰の手に委ねられるのかを見定めようと、穏やかな面持ちの内に、日和見の視線を忍ばせて居るのだ。


 「いやいやいや、聞けば、カーライツ伯爵には、お顔に傷を負われたとか。大事なかったかな?!売り物のお顔じゃ、傷が残っては一大事じゃからな」


 カラカラと声高に笑うのを見ると、挑発と判っていても面と向かえば腹が立つ。

 実力では無くて、見てくれで受けていると、言いたい様だが、あからさまなもの言いが、かえって驚異を感じていると言っている様で、つい、失笑を漏らした。


 では次は、こちらが揺さぶってくれよう。


 「そう言えばあの日、リント伯爵には私を尋ねて香料苑までお出向きだったそうな。自らとは…火急な御用向きでもございましたか?!」

 「お会いしたついでと言っては何だが、承ります。私にご用とは?!」


 ぎょっとしたようにリントが私を見た。

 アレンの眼差しが止せと言う様に視線を振り、大丈夫だと頷いてやると、溜め息を付く。

 リントは私達を観察する余裕など無く、目を剥いて、自分が私の、いわゆる暗殺未遂現場に臨場していたかを、認めるか否かで逡巡していた。

 と、言う事は、あの日あの場に、暗殺者と共に居たと言うことだ。驚いた。


 「先の閣議で、我が弟が職を失いましてな」


 認めるのか。

 口を切った奴の語尾が、微かに震えを帯びているのが判った。暗殺者に余程の信頼を置いて居るか、全く信じられないのかのどちらかだったが、私の自信ありげな演技に事実を認める事を選んだ。


 情報網の意外な広さに驚異を感じて居ると言うことだろうが、私は自分の香料苑にまで諜報部門の部下を配置しては居ない。

 職員に状況報告させてみれば、何か上がってくるかも知れないが。事実、職員では無いが、見慣れぬ車両と人物の、車種と背格好の目撃報告は上がってきている。


 「弟御には後進に道をお譲り頂いた。病を得られて、お体が案じられたので」


 キリキリと歯がみをしつつ、リントは仕掛けて来ざるを得なくなった。自分を脅かす若造を始末するために。


 「甥に後を任せて下されば、この様なことを申し上げずとも良いのじゃ!!」


 切るときは弱い所から切る。盤石に後継者を育て、家を堅持している者は切り崩しにくい。リントの実弟は長男を病で亡くし、次男はいまだ幼い。


 「未だ学籍に有る者に任せられるポストでは無いな」


 面白がってはいけないが、奴が未だかつて見た事も無い程苛立って見える。刻まれた皺の間から、炯々と怒りを湛えた瞳がにらみ付けていたが、ふいと表情を消して作り笑いを浮かべて見せた。


「いやはや、お若いのぉ。我が国は、2つの力が均衡して成り立って居る。偏った人事は国を揺るがす元になるもの。聞けば、後進とは、カーライツの御一族とか、またもや…な!」


 アレンの方をチラリと見遣りながら、言い募る。


 「お若い方が、寵臣に目をかけがちに成るのは、仕方の無い事ではあるが…の。如何せん、国政を左右する人事に許されるものでは無いのじゃ!!」


 してやったりと言いたげな眼差しと共に、アレンを蔑むように睨んだ。


 「齢を重ねると幸い、流される情も無くなりますでな。どうであろう?!この事は、この年寄りにお任せ下さりませぬか?!」


 自分には常識も、過ちを赦す容赦も有るのだと、猫なで声を出してみせる。引き返せない罠の中に、自分から飛び込んだともしらずに。


 病室でのいきさつが無ければ、リントの嘲笑に、アレンの動揺はもっとずっと酷いものに成っていただろう。

 彼の反応が何時になく穏やかなのにリントも気付いていて、怪訝に思って居るようだった。


 「お任せするのは構わない。私としては人事は適材を適所へ配置すれば良いものとしか頭に無くて、ご老体のような深い思慮に欠けていたかも知れませんしね」

 「しかしながら、その深い思慮が、何を基準にするかによって、結果は違ってくるというものだ。後任が、東の恩恵を得る者でも、忘れ得ぬ者でも、役には立たないのですよ。」

 「長い間の東への隷属を己が手で断ち切り、国が独り立ちしようとしている、この時には。国としての誇りを取り戻し、名実共に、健全な国家で無ければ存在する意味すら無くなってしまうのだ。」

 

 余りの程度の低さに吐き気がしそうだった。

 お読み頂きありがとうございます。

 本日は、もう一本、載せます。よろしくお願い致します!

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