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秘められた紫  作者: みすみいく
11/14

成就

 小説として書いているこの話は、何度か絵コンテとして漫画で描いてみた事がある話です。始めから、挿絵と言う形が良いのか、絵にしてしまうかで悩みましたが、今回が最大の悩みでした。

 心情が変遷していく様がどうしても描ききれずに小説に移行しました。


 恐らくは、極度の興奮状態の為に、正気を失って居るのだと思っていた。

 護送されている時の、殻を通したような感覚とは違うものの、何処か自分の躰が自分のもので無いような、高熱に浮かされて、夢と現を往き来している時のような気がずっとして居たのだった。


 夢の中でアウルを抱くのはそれこそ幾度と無く…だった。今夜も思う様抱き締める幻影は何時になく現を凌ぐ。


 有りもしない従順な恋人を、思う様蹂躙して、現の現実に引き戻され、絶望のまま死へと続く無の感覚の中に落ち続けると想っていた俺を、他の何者でも無い、自分自身の肉体の感覚が呼び覚ました。


 気が付くと、目の前にした白い頬に、涙が伝って落ちて行くところだった。記憶を辿ると、俺を案じて来てくれたのだろうアウルに、自分でもこんなにかと言う程の酷薄なもの言いで、狼狽えさせた。


 あれは、取り引きに持ち込むための、浅ましい布石だったと思いながらも愛想が尽きる。


 だが、俺の態度に立ち去り掛けた彼の後ろ手を引いて、無理矢理抱いたそれまでは、まるで映像を巻き戻す様に、鮮明に思い起こせるものの、その先が出て来ない。


 それが如何して…。


 「…あ…っ…。」


 それが、俺の躰が動いた為に、アウルが上げた艶声だと判るまでに余白が必要だった。


 とんでもない状況だと自覚出来る迄にもうひと呼吸。

 俺の手でだろう、理不尽に引き剥がされた衣服が纏わりついたまま、彼の裸身を組み敷いていた。


 「…アウル?!。」

 

 呼びかけた俺の声に、きつく閉じていた眼を薄く開けて仰ぎ見る。安堵の溜め息を深く付きながら、ぼんやりと見詰めていた瞳が、驚愕に見開かれるのと、見る間に満面に朱を注ぐのとが殆ど間無しだった。


 体を引いて逃れ様とするのを留めながら、この状況が強ち一方的なものでは無いことに気が付いた。


 「どうして…?!。」


 たった1つしか浮かんでこない問いをぶつけた。

 問われる事を予期したように、整わない息の下からながら即答が返った。


 「お前が…糧だと。…明日の為に…わ…たしを欲しいと…言った…。」


 「でも…俺は貴方を犯していない。」


 ぱあっ…と、喉元から耳の後ろまで、1度は赤みが引きかけた肌を、再び血の色に染め上げた、類い稀な一瞬を俺は一生忘れることは無いだろう。


 俺の箍が外れて、取り引きを持ち掛けた、だが、彼の方にも俺と肌を合わせる意思が無ければ…俺を望む意思が無ければ、初めての男に抱かれた躰はこんな風に応えはしない。


 俺の意識が戻ったことに気付いて、初めて夢うつつに乗じた事を理解できたんだ。


 鈍いのもここに極まれりで、俺が気付いた事を、アウルに知らせてしまっていた。


 「どうして俺なんですか?!こんな…貴方を助けることはおろか、護ることも気遣うことも、上手くは出来ない俺を…。」

 「泣き虫アレンを…翠の貴公子とも有ろう貴方が…だから…だから、ずっと…何が有っても錯覚だと想うことにしたんだ。貴方の好意が俺自身に起因しているとは思わずにきた…。」


 話す間、時折唇が微かに震え、しゃくり上げているのが知れた。凍てついた心の奥に、灯火が戻っていた。


 瞬く間に、氷解して暖かい涙になって溢れかえる。

 俺を解放しながら、彼は未だ、蒼い氷原に残るつもりで居るらしい。


 腕を取られて、それでも未だ見詰められる事に耐え得ないのか、顔を背けたままで居る。


 「…私はお前に値しない。」

 「それなら俺は、立場を利用して貴方を犯そうとした。俺こそ、貴方に触れるも値しないとずっと思ってきた。」


 「愛しています、アウル。…どんな事をしても諦めきれなかった。自分の思いだけに捕らわれて、貴方に護られているのに気付きもしなかった。」


 告白に、俺の手に捕らわれているのにも関わらず、溢れる涙を堪えて、これまでして来た通りに、きつい光を装って感情を切りにかかる。


 「愚かな俺を赦してくれるなら、言って下さい。俺を愛していると。」


 濡れた瞳の儘で、アウルが俺を見詰め続ける。

 息が呑まれ、感情が弾けてしまうその、最後の最後迄、俺を護るために、その唇は引き結ばれ、沈黙を維持する。


 こうして何時から俺のためだけに生きていてくれたのだろう?!。何の脈絡も無しにそう思って、起きていることが信じられなかった。


 沈黙も、覆った唇を介しては何も隠しては置けない。

 アウルの踏み込んだカタストロフから引き戻し、たった一人で放って置いた時が取り戻せるものなら。


 「観念して、白状なさい。」

 「愛しています。俺のアウル。」


 ふ…と、諦めの溜息を付くと、堪えきれずに唇を開く。


 「…愛し…ている。」


 言葉にした途端、再び溢れた感情を制御できなくなって、泣きながらしがみつく。


 心を隠して置けないのは、貴方が俺を愛しているからです。俺を愛した心が貴方を裏切って、俺に加担する。


 泣き濡れて、未だ時折しゃくり上げながらも、アウルを支配していた強ばりが、触れる度に溶けていくのだった。







 お読み頂きありがとうございます。

 何だかちょっとホッとしてます。未だ「秘められた紫」も、後が有るんですけど、終盤への山を越えた感じがして…。

 もう少しお付き合い下さいませ!

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