第86話 待ち望んだ再会
「ハッ?!...ぐっ」
俺は不意に走る腹の痛みによって目を覚ました。どれほど眠っていただろうか。ここには時計がないため正確な時間など分かりようもないが、それでも腹の痛みからして何時間も経ったとは思えない。経っていたとしてもいいところ数十分だろう。
「それにしても我ながらしぶといな...」
初めてこの世界に来て、体を欠損させた時から薄々感じてはいたが、良く生きているものである。そして“自己再生”には本当にお世話になっている。
まだ少し腹から血は流れているが、それまでに比べればどうということはない。生きるための本能からか、気絶した状態でも都度、“自己再生”を使っていたようだ。
おかげで魔力は10もない。回復しては使ってを繰り返しているから当たり前なのだけれどな。
「少し眠ったおかげで体力も少しは回復できた。それにしてもこんな場所で眠るとは、危機感無さすぎだろ...」
気絶してしまったとはいえ、自分の危機感の無さと方向音痴な運の良さに俺は苦笑いを浮かべる。そして俺は最後のセキアルの攻撃とそれまでのやつの言葉について考えた。
「まず、奴が銃弾の存在を知っていたこと。これはおそらくジーンの影響だろう。安直かも知れないが、アメリカ人は銃に馴染み深いようだしな。あながち間違ってはいないだろう」
それより気がかりなのは、セキアルの今際の攻撃。ギリギリでなんとか生き延びることはできたが、奴は最後、俺を道連れにしようと槍をぶっ刺した。
それ自体は手段としてなんらおかしくは無いだろう。あれだけ忠誠心が高いやつなら自分のボスのところへ死んでも敵を行かせないというのは良くある話だ。
だが、分からないのはどうやって俺に向けて槍を飛ばしたか、だ。というか遠隔操作したことくらいは分かるのだが、そんなスキルは持っていなかったはずなのだ。
(まさか銀抄族専用の武器だからセキアルに帰属性があるとか?)
そんなアホらしいファンタジーみたいな展開がありうるのか?...いや、けれどこの世界そのものが俺にとってはファンタジーのようなものだから可能性が無いとは言えないか...。
「ごほ、ごほ。やっぱまだ、体のそこら中に血が散らばってるんだな..」
喉に詰まった小さな血塊を吐き出す。こうして落ち着いて自分の体に意識を向けると、結構重症である。内臓はいくつか破れているし、肋骨も何本か折れているだろう。
改めて“自己再生”のスキルを持っていたことに感謝せざるを得ないな。これのおかげで自分の体の状態も合わせてある程度把握することも可能なのだから。
俺は“無限倉庫”から予備の服を取り出して着る。まだ多少血が滲んだが、今は仕方ない。そして刀を拾ってセキアルが守っていた通路の先へと進んだ。
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「あ、カイトだ!おーい、っつう...」
「キノさん、はしゃがないで!まだ傷治ってないんだから!」
「キノ!テミス!良かった、無事だったか!」
サニアとミユが眠ってから少しするとテミスに支えられながらキノたちが、先ほど俺がやってきた通路の奥から顔を出した。
「カイトこそ無事だったんだ...ね、って怪我してるじゃん?!大丈夫なの?!」
「大丈夫だ、というか傷の具合で言ったら俺よりキノの方がやばいじゃないか?!すぐに回復させる。ここに寝ろ」
「や、やだなぁ。そんなことないよ..?大丈夫大丈夫!」
キノはパッとテミスの肩から腕を外し、心配しないでと両手を振る。
「「だめだ(です)!」
だが、俺とテミスは示し合わせたかのようにキノの提案を却下し、無理やりにでも地面に寝かせた。当然、予備の毛布を敷き、その上に寝かせる。
「今は体力の回復に勤しめ。傷は出来るだけ回復させてやるから、それからテミスも。きっとみんな大変だったろう。今は休め」
何度もいうがここは敵の本拠地。皆がここにいるということは、全員【強欲】の臣下を打ち倒してきたのだろう。だからといってはなんだが、完全に安心するのは早いが少しくらい気を抜いてもいいだろう。
今はみんなが生きてまた揃ったことを感謝するべきだ。
「それじゃカイトさんが...」
「俺はさっき休んだから大丈夫だ。この中で“神聖魔法”を使えるのは俺とテミスだけ。てことはキノの傷の手当てをしてくれたのもテミスなんだろ?」
キノの傷は割と塞がっているようだが、それでも赤く染まった脇腹の布がキノの傷の深さを示していた。きっとここまでずっとテミスがつきっきりで見ていてくれたのだろう。
「俺も魔力がそこそこ回復してきたし、余裕があるからさ。今は少しでも休んでいてくれ」
「...分かりました。では、お言葉に甘えて」
「テミス!一緒に寝よー!」
「何言ってるの、ここは敵の基地なのよ。そんなに寝られないでしょ」
「えー?!」
「大丈夫だよ、俺が見てるから。しばらくしたら起こすからそれまではゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます、カイトさん」
そう言ってテミスはキノと一緒に毛布に入り、数分もしないうちに寝息が聞こえてきた。きっと神経を張り詰めさせていたんだろう。
「それにしてもキノとテミスだいぶ仲良くなったな。テミスが敬語じゃないのなんか初めて見たぞ」
おそらくここまでの戦いで何かがあったのだろう。仲良くなるのはいいことだと思う。サニアとミユもそんな風になってくれるといいけどな。
「しばらくは見ていてあげないとな」
呟きながら俺はキノの脇腹へ向けて“神聖魔法”をかける。骨は少し損傷しているが致命的なほどではない。しかし、思った以上に肉が抉られている。
「ほんと、良く生きててくれたよ」
テミスのおかげでほぼ血は止まっていた。というよりか外に流れそうな血を無理やり押しとどめ元の血管に流している感じ。
通す血管を間違えれば大惨事になる魔法を当然のようにやっているのだ。テミスは回復において圧倒的だったんだな。普段からマメで繊細なことが得意なんだろうとは思っていたが、ここまでとは。
これまで俺たちがここまでの重症を負うような戦いはそこまでなかった。強いて言うなら【憤怒】の時だろうが、あの時は俺たちよりもずっと回復においての専門家であったユキがいた。
...まぁ、その彼女も重症を負ってしまったが。
ここに来て自分の仲間の能力を詳しく知れたことは大きいな。
「これは下手にいじると逆効果だな。なら...」
俺は魔力の血管を覆うように肉の代わりとなるようなイメージで血管の周りを覆っていく。だがこれも、ほとんどテミスがやっていたので、俺はそこまで手を加える必要は無かった。
「じゃあ次はテミスだな」
テミスもなんだかんだ色々なところに傷を負っていた。だが、キノよりは治しやすい傷でもあるため、あまり時間もかからずに見えるところの傷を癒す。残念なことに直接見えない内臓に関しては細かく癒すことが出来ず、大雑把に自然回復力を上げることしかできなかった。
「よし、とりあえずはこんなところだろう」
俺の出来るだけみんなの自然回復力を向上させ、俺は部屋の天井、いやその奥にいるであろう【強欲】の魔王、シスを睨みつける。
「今、俺の声が届くかは知らないが、お前のアジトなんだ。俺たちを監視するくらいはしてるんだろうよ。満身創痍の俺たちをこうして野放しにしてるってことは回復しても余裕です、って言いたいんだろう?...その慢心、後悔するなよ」
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