幕間〜懊悩する受付嬢〜
「ギルドマスター、こんなことってよく起こることなのですか?」
「いや、わしも初めてじゃな。この町でここまでの量のゴブリンやコボルトがいることなど無かった。多いものでも20匹や30匹が限度のはずじゃ。それに、どんなに早く移動したとしてもあやつらの生活範囲はそこまで広くはない」
ギルドマスターはそこで一旦言葉を止め、湯気のたったカップを手に取り一服する。
そして緊張感漂う面持ちで最悪の可能性を唱えた。
「これはゴブリンの集落ができている可能性がある。それも、コボルトと一緒にとてつもない規模で」
私は今日まで受付嬢をやっていて、生まれて初めて身分証を発行するという方を受付した。この国では、10歳になるとギルドで身分証を発行する決まりとなっている。
冒険者の職業は自由と名声を目指す職業であるため人気が高く、そのためギルドカードを発行することができる各ギルドで身分証を作るのだが、その人物は明らかに10歳を遥かに超えており、なんなら身分証を作ったことがないとまで言っていた。
最初はとても怪しかったし、さらに身分証を失くした人が初めて作る、という嘘を言う人達が一定数いることは分かっているが、あまりにも直ぐにバレる嘘なため本気でつく人はいない。
それに身分証とギルドカードは兼用で作られているため、失くすと1度までなら初回とおなじ銀貨15枚で作れるが、それ以降になると倍の銀貨30枚が請求される。この銀貨30枚は、一般冒険者のほぼ半年の稼ぎだ。それも一切使わないで貯めた場合の。
なので現実的には1年間分程の稼ぎを身分証に使われることとなる。それは誰もが知っているはずなのに、彼、カイトさんはその嘘で身分証を作ろうとした。
そして、さらに驚くことに1度発行すれば水晶に登録されるため、その時点でも作ったことがあるかどうかは分かるのだが、カイトさんは本当に作ったことがなかったのだ。なので、彼の言い分を聞いて作ったのだが……。
「18歳なのにLv.60だなんて、初めて見たわ。それもこんなに辺境の町で」
そうなのだ。彼は普通なら王都のA級冒険者でもおかしくないほどの実力を持っていたのだ。確かに若い人にしては傷が多く、片目や片腕が無かったため、無理をしている人なのかと思った。
しかし、色々な冒険者を見てきたからわかるのだが、カイトさんの体はしっかりと戦いをしている人の体だったのだ。
私は慌ててギルドマスターにギルドカードを見せに行った。
「ギ、ギルドマスター!緊急事態です!とんでもない子が来ました!」
「はぁ、とんでもない子じゃと?それより、まずはノックしてから入ってこんか、一応ギルドマスターの執務室じゃぞ?」
「も、申し訳ありません!ですが、18歳なのに、Lv.60だなんて……」
「ほう?その人物のギルドカードを見せてみい。……これは。ティサネ、その少年はまだおるか?」
「あ、はい!います!呼んできますか?」
「うむ、頼む。……いや、わしも行こう」
「ギルドマスター自らですか?!分かりました、こちらです」
そうしてギルドマスターを連れて少年に会い、少年を奥の応接室へと連れていった。
彼はもはや私にとって、レベルが異常に高いと言うだけで衝撃だったのだが、そんなことはない。なんと彼にはまだ隠されたことがあったのだ。
「そして、次はスキルじゃな」
スキル?私にはスキルは普通に見えていた。私は今スキルになんの関係があるのだろう?と思い話を聞いていると、
「この娘はLvに驚きわしの所に持ってきおったが、スキルに関しては何も言っておらなんだ。ティサネ、この話はここだけにとどめておけ。口外してはならんぞ。すれば減給では済まさん」
ギルドマスターからの急な脅しに頭がついていかず、そのまま話を聞いていると、彼は何とスキルを何10個も持っていたのだった!
本来、スキルなんて1人数個も持っていれば、二流。スキルの内容によっては一流にさえなれる。私は衝撃の連続で目の前が真っ白になりそうだった。
「さて、本題じゃが、わしは“偽装”を見破ることが出来る“看破”というスキルを持っておる。それによっておぬしのスキルを見させてもらった」
その後、カイトさんとの話が終わってギルドの方で一時的にギルドカードを預かり、ギルドマスター自らカードに細工を施すこととなった。
カイトさんが出て行って、それについていくように複数の男の人が出ていってしばらくした後、またカイトさんがやって来て、クエストを受けたいと申し出られた。あぁ、そういえばお金ないって言ってたもんね。
すごく強そうなのに、というか強いのにこういった所で物腰が低いのは女性的には高得点だ。冒険者は居丈高なのがカッコイイと思っている人が多すぎて、毎日ご飯の誘いを断るのに辟易している。みんなカイトさんみたいな人だったらいいのに。
そうこうしているうちに、カイトさんはクエストに行かれ、私も通常業務をしていた。
そしてそろそろ営業時間も終わりそうな頃に、カイトさんは帰ってきた。貸し出した魔法袋をいっぱいにして。
あの魔法袋は本来の大きさの10倍まで入る。肩からかけられる小さなリュックサイズの見た目をしているがその容量はとても大きいのだ。
なのでよっぽど大きいものか、量を入れなければあの袋は膨らまない。にもかかわらずパンパンになっていた。
そして、案の定カイトさんは常識外れのことをしてくれた。なんなのよ、ゴブリンとコボルトそれぞれ100匹って。そんな数今まで生きてきた20年間聞いたことないわよ……。
カイトさんに換金したあと、私は直ぐにこのことをギルドマスターに報告した。この報告を受けてギルドマスターは、この町にいるB級やA級冒険者に声をかけると言っていた。
なぜ、これほどまでにゴブリン達の数が多いからと強い冒険者を集めるのかと言うと、普段ゴブリンは3〜4匹で行動する。
そして、本来であれば全てを倒しても20匹程しかいないはずなのだ。ここから距離が離れた隣町付近にまで行けばまた別のゴブリンもいるかもしれないが、カイトさんの受けたクエストは初心者向けなため、その集団を相手にするだけでも1日かかってしまうことが多い。
しかし、ここまでの量となると、このゴブリン達を統率しているものがいる可能性が高いのだ。それはゴブリンロード、コボルトロードと呼ばれ、単体でBランクの難易度となってしまう上に、幹部としてゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャー、ゴブリンソーサラーなどゴブリンの強化個体が多数存在している可能性があるのだ。
ただ、それだけならまだ常駐してもらっているA級冒険者の方を筆頭に編成を組めば危なげなく勝てるのだが、今回、コボルトロードも一緒にいる可能性が出てきてしまっている。
この2種はたまに協力することがあるのだが、一般個体だと連携も取れておらず、そこまでの脅威ではない。
しかし、統率するものが現れるだけで難易度は跳ね上がってしまう。最悪S級冒険者であるギルドマスターか、町を放棄しなければならない事態になりかねないのだ。
「どうしよう。結構気に入ってるんだけどなぁ、この町」
今のところギルドマスターが主導で調査してくれることになっているが、ギルドマスターが言うにはほぼ確実に統率個体はいるだろうとの事だ。
なので、今から高ランク冒険者達に話をしておかなければならないということだ。
「でも、1人めんどくさいやつがいるんだよなぁ」
そう、この町にいる高ランク冒険者の中に1人、熱心に私に求婚してくる人がいるのだ。なまじ正攻法でしか攻めてこないため、断る理由付けがめんどくさく、断ってもめげずにずっと誘ってくるのだ。
「いっそのこと、カイトさんが貰ってくんないかなぁ、まぁ無理か」
私は、これから確実に厄介なことが起きそうな予感にため息をついた。




