第78話 イラムVSキノ『中編』
誤字報告下さった方、ありがとうございます!
早速適用させていただきました!
「きゃあああ!」
背中側の肩から左の脇腹に向けて斜めに血線が走る。その切られた衝撃でキノは前につんのめった。
それはさながら前から走ってくるトラックの前に自ら躍り出るよう。
なぜなら超回転している鎌がキノに向けて飛んできているからだ。
(あ、このままじゃ...死んじゃう...)
白く濁る視界の中、目前に迫った鎌からなんとか直撃は避けようと身を横に倒す。しかし、それも間に合わず、大きく右腹を裂かれ持っていかれた。
「ぐぶ.....」
キノは大きな血の塊を吐き出し、膝から崩れ落ちた。背中の傷も消して浅くはなく、腹の傷は言わずもがな。なんとか近くの壁に倒れ込み完全に地面へ這いつくばることだけは避ける。
だが体に力が入らず、まともに立つことさえままならない。脇腹からは血が滝のように流れ始め、体は猛烈な寒気を訴えてきた。
(あ、これほんとにやばいかも...)
それでもなんとかイラムから逃げようと脇腹を押さえながら、鉛のように重たくなった足を前に出す。その方向はイラムが守る道とは逆の場所。まるで天国へと誘う後悔の門のように。
「やぁぁっとくたばったか!おら、さっさと諦めろよ!貴様はここで終わりなんだからなぁ!」
イラムは超回転する鎌を何でもないように掴み最初にやっていたように肩に掛けてこちらへゆっくりと距離を縮める。
「ぐ..ぐるな...っ!ごほっ!」
追い払うこともましてや憎まれ口を叩く体力さえ吐き出す血塊に持っていかれる。
「はっはぁ!!無様だなぁ!【嫉妬】ともあろうお方がぁぁ!!得意の隠密は我が種族スキルに破られ、高いステータスも自分如きに覆された!今の気分はどうだい?!魔王さんよぉ!!」
イラムはここぞとばかりにキノへと口撃を嗾ける。それは積もり積もった恨み辛みなどではなく、自分の気のいらないことへ八つ当たりする子供のようであった。
「ほらほら、逃げろ逃げろよ!逃げられるもんならなぁ!頑張って逃げれば貴様のだいちゅきなあのクソ虫男にたちゅけてもらえるかもなぁ!ま、それが出来ればの話だが!!アッハハハハ!!!」
もはや四つん這いで通路へと向かうキノの後ろからゆっくりと嘲り謗りながら獲物を追い立てるように鎌で地面を引っ掻き、耳障りな音を立てながら付いてくる。もはやその音だけでも傷に触る。
「あ、でもあんなクソ虫男なら貴様ごとき見捨ててもおかしくないかもなぁ?そうだよ、貴様を見捨ててもはやこのダンジョンにすらいねぇわ!!アッハハ!残念でちゅねぇ!キノイル・ヒルディアは見捨てられちゃったかもなぁ!!??」
「ゔる...さい...っ!」
「あばっ!??」
(そんなことあるわけない!カイトはキノたちを見捨てるような人じゃない!)
キノはヤケクソ気味に、そして耳障りなコトバを遮るために脇腹を抑えている右手をイラムに向けて振り血をぶつける。それがたまたまイラムの目に当たった。
(今なら...!)
キノは生まれて初めて“隠陰殲忘”に強く力を入れた。キノの人生を狂わせたスキル。だか、キノが全てを捧げて支えたい人と出会わせてくれたスキル。
今、初めてキノの意志で目の前の人物から全身全霊を持って隠れた。
「クソがぁぁ!!今更そんなことで反抗したって意味ねぇん....だ、よ...?あれ、自分は何しようとして...いてててっ!な、なんだよ?!は?!体傷だらけじゃねぇか!」
キノが本気で隠れ、視界から消えたことでイラムからキノに関する記憶が消えた。でも、今はそれで安心は出来ない。また見つかる前になんとかこの部屋から脱出しなければ。
「てか、自分なんでこんなとこにいるんだ?さっきまでボスのところにいたはずなのに...。はぁ、ボスのとこ戻る....か.....?お、思い出した。そうだここに略奪者たちが来るから罠張って各個撃破しろって言われたんだった!」
(まずい..早過ぎる...。もう思い出してきてるじゃん...。やっぱりキノが見えるってことは“第3の目”を持ってるんだ)
このスキルはセレスティアルも持っていた。そしてこれがあるからキノのことが見えるし、忘れることも無いと。だが、このスキルは吸血鬼にしか発現しないが、全員ではなく100人に1人くらいの確率だと聞いていた。
それでも多いことは多いが、特徴としては本来見えないものが見える程度。それも魔力しか感知しないため、応用はあまり効かせられないと言っていた。そうは言うが、“第3の目”は額にある一つ目なのに視界は両目よりも広いし魔力を持っていない生物はいないため、ほぼ刺客などは通じない。
「そうだ!そうだよ!あの略奪者はどこ行ったぁ!!出てこいよ!殺してやるからさぁ!!!」
イラムは周りに当たり散らすように鎌をでたらめに振り回す。それは先の戦闘で上半身の服が破れ去っており未だ両目に染み込んだ血が拭いきれず、また運がいいことに額にも血が掛かっていたからであろう。
対してキノは四つん這いで少しずつ通路へと近づいていた。だが、それに比例するように血は流れ続け体温は着々と下がっていく。もはや手足の指先に感覚はない。それでもただカイトの下へ、という思いだけで腕を動かす。
(こんな、とこで死ぬの...?やだよ、怖いよ...。寒い...助けて.....カイト...)
ただ、それは根性だけでどうにかなるものでもなかった。キノはようやく通路へと差し掛かったところで体に力が入らなくなり完全に倒れ込んでしまった。
「そこかっ?!アッハハ!音がしたぞ!!??もう逃がさん、お情けで生かしておいてやったのに恩を仇で返しやがって!!死ねぇぇぇあああ!!」
(カイト、ごめんね...。何も、してあげられなかった....)
目蓋すらも重く、暗く染まっていく視界の中で見えたものは、平均より少し高い身長で脇に槍を携えた1人の女性の姿だった。
ごめんなさい!中編にするつもりなかったのに切りのいいところで切ろうと思って書いてたらこうなってしまった!
水曜日までの間にどっかで後編挟もうか迷い中です...。今回ちょい短いし挟むか?




