第76話 戦闘の産声
時を同じくして、キノの目の前には以前、キノがお世話になり、そして逃げてきたサキュバスの同族である【強欲】の魔王の家臣、第2戒王イラム・スフィンクスが肩に自慢の鎌を引っ掛け立っていた。
「ようやく会えたなぁぁ!!キノイル・ヒルディアァァァァ!!!!我らが女王を謀り刃を向けた『略奪者』!!自分はずっとお前を追いかけて来た!今こそ自分が女王様に代わって誅伐を下してくれる!」
「...あなたはキノが見えるんだね。そっかぁ、キノはあそこではそんな風に言われてるんだね。ま、あいつのことだから自分に不利なことは言わないか。
それに今はもう別に良い。こんなキノでも受け入れてくれる人がいるから。前ならキノのことが見えるってだけで、あなたとも仲良くなりたかったのかもしれない。でも、今は違う。もうあの頃の他人に頼るばかりで何も出来なかったキノじゃない!あなたを倒してみんなのとこに行く!だから邪魔をしないで!!」
「はっ!略奪者風情がっ!偉そうにご高説垂れてんじゃねぇよ!!貴様はここで自分が殺して女王様への献上品にしてやる!」
そう吼えるや否やイラムは肩に掛けていた鎌を振り上げた状態で突進してくる。キノもそれを受け両手を握りしめ、イラムを迎え撃ついつもの戦闘態勢を取った。
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時を同じくして、テミスは自分の現状確認と仲間の行方を探そうとしていた。突如光に覆われ、一瞬の浮遊感の後、開いた視界の中に仲間たちはおらず空虚な空間のみが広がっていた。
「あの部屋そのものが転移系の罠だったなんて。それに見事に分裂されてしまった...。まずは誰かに合流しないと」
「あまり期待はしていなかったが、それなりのものは釣れたな。貴様ならばそれなりに楽しめるだろう」
「誰っ?!」
誰も何も無かったはずの空間に突然声が響いた。低くお腹の底まで重く広がるような声をした男は一つのみ続く通路の暗闇の中から姿を現した。
(この距離で気づけないなんてっ?!)
テミスもカイトほどの技量は無いものの“隠蔽”や“偽装”を見破る“看破”を持っている。それに長く狩りを行なってきたことで鍛えた、空気の流れを読んでも彼の存在に気付けなかったのだ。
姿を現した男は白に近い灰色の髪を全て後ろ向きに固めており、武器は携行していない。だが、わざとなのか服の上からでも分かるほど浮き出ている肉体が只者ではない雰囲気を醸し出している。
「お褒めに預かり光栄です。お互い初めましてでもありますし、自己紹介でもしませんか?」
「ふむ?確かにその通りだ、失念していた。良かろう、手前の名はゼブル。ゼブル・オンシェロという。【強欲】の臣下の中では新参でな、まだ第5戒王ではあるが、それなりに楽しめる戦いができると保証しよう」
「そんな保証はいりませんが...。私の名前はテミス。テミス・レギドと申します。あなたのお眼鏡に叶うかは分かりませんが、私にも負けられない理由があります。全力で通させていただきますよ」
私は背中に背負っている槍を構え、“自然魔法”もある程度タイミングを見て発動させられるようにイメージしておく。
「あなたは武器を出さないのですか?」
「武器なんぞ使わんよ。あえて言うのだとすれば手前の肉体のみだ!」
「...分かりました。それでは行きますよっ!」
「おうよ!その威勢、その気迫!手前の相手をするに充分だ!楽しく戦おうぞ!!」
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時を同じくして、ミユとサニアは互いを見合わせていた。
「いっつつ...。お尻打っちゃった。サニアちゃん大丈夫?」
「うん......。でも主さま達と離れさせられた.......」
「そうだね..、みんなも何人かで一緒になってるのかな?」
それは誰に問いかけたわけでもなく、あえて言うなら自分に問いかけた物であった。当然、返答を求めてのことではない。
ーーだが、
「運がいいねぇキミカワウィーネー!みんなはバラバラだよん!」
「あなたはっ!」
「お久しぶりーふよろちくびー!みんなのマミージーンちゃんだよー!」
「何それ?」
「あれ?これやるとニッポン人は喜ぶんじゃないの?!ノォー!マミー!」
「はぁ...、あなたアメリカから召喚されたんだよね?それなら勇者ってことだよね、なら魔王を倒すのが仕事でしょ」
盛大なスベリとともに現れたのは以前、うちたちをこのダンジョンに向かうように伝えにきたアメリカ人の勇者(?)だった。
「?何を言ってるんだい?拙者の召喚主はシスの旦那さぁ。それに勇者?ってなんだい?支配者の称号はあるけど勇者は無いなぁ。あと召喚されたから魔王を倒さなきゃいけないって誰が決めたのさ」
「そうだけど...っ」
「拙者を召喚したのはシス。まぁなんで拙者がとも思ったけど、別に祖国に未練があるわけじゃないし、戦争にも飽き飽きしてたから良いんだけどね」
「戦争?」
「そ。まぁ日本は静観貫いて全く関わってこなかったから君たちみたいな若い子は知らないかもしれないけど、今アメリカは世界一広い大陸を持ってしまったことでいろんな国から敵対されちゃってるんだよ。だからみんな戦争してんの。
それにしても日本もよくやるよね、海上に大きな壁作って引きこもっちゃうんだもん。ま、それを助けたアメリカもアメリカなんだろうけど」
「ま、待って待って!アメリカが世界一の大陸?日本に大きな壁?!何のことを言ってるの?!うちの時代には過去にも現在にもそんなのない!世界一広い国はロシアだし、今はほとんどどこも戦争なんかしてない!
日本だってそんな大きな壁なんか作ってないよ?!」
「は?何言っちゃってんのてんちゃんの?それ何十年前だって話だってんですよ。拙者のおばあちゃんか!」
うちは訳が分からなかった。自分の知っている国を知らない国のように話される。それも当たり前のように。
だが、一方でどこか納得できる部分もあった。
(世界が違うところに召喚するなら、召喚される側の時代は関係ない。いろんな時代から召喚される可能性があるんだ...)
「まぁそんなどうでもいい話はいいじゃないか。どうせもう元の世界には帰れないんだしさ。それより今はこの世界で楽しもうや。あっちよりこっちの方が断然楽しいわ。てことで拙者も仕事があるんだわ、あんたら排除しろっていうな。
同郷だし拙者の好きな日本人だからあんまり戦いたくは無かったが、出会ったもんは仕方ねぇ。別に殺す気はねぇからさ、これで開戦と行こうや」
最後の言葉は聞こえなかった。なぜならバンッという発砲音と風切り音に掻き消されたからだ。
「なん...で、そんなの」
うちはそれを前に茫然としてしまった。世界で一番茫然としてはいけないものの前で。
それはうちの眉間に狙いを澄ましている。次は無いとでも言うかのように。
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「セキアル...」
「やはり君は来ましたか。私の直感は間違っていなかったのですね」
「あぁ、すまんな。こっちにも事情があるんだよ」
「そうでしょうね。別に今更説得をしようなどとは考えておりませんよ。現状、敵対している。私たちが戦う理由などこれ以外に必要ないでしょう」
「そうだな、正直俺はお前とやり合いたくなんて無いけどな」
「そういうわけにもいきません。私はボスへの道を阻む最後の砦とならなければならないのですから」
「嫌な最後の砦だな、もしかして俺の仲間のところにも他のやつが行ってるのか?」
「そうですね、ある程度はランダムにしましたが、因縁がある者同士で合わせるようには致しました。私ではご不満でしたか?」
「不満っちゃ不満だな。お前より弱いやつが良かったよ」
「それは残念。では、長話もこのくらいにして始めましょうか。あまりボスを待たせるわけにもいきませんからね」
そう言ってセキアルは床から槍を引き抜き、いっそ点に見えるほど垂直に俺へと向けてきた。
「ちっ、なんかの間違いで弱っててくれねぇかな」
俺もそれに答えて徐に刀を抜き刀身を下げ、半身にする。
2人の間を一瞬の静寂が訪れた。
次の瞬間、示し合わせたかのように互いが地を蹴り、薄暗いレンガの部屋では槍と刀を打ち付ける火花が散っていた。
名前:セキアル・ノイトナム
種族:銀抄族
Lv:1246
スキル:第六感Lv.- 二天槍Lv.- 完全偽装Lv.- 完全看破Lv.- 槍聖術Lv.10 斧聖術Lv.8 猛進Lv.10 重突Lv.10 閃雷Lv.10 磊落Lv.10 流転Lv.10 崩震破Lv.10 剛断Lv.9 絶破Lv.7 剛力Lv.10 瞬動Lv.10 転移Lv.7
称号:銀族之天感 二槍流 偽欺者 観看者 槍の寵愛 槍技覚者 力の寵愛 速の寵愛
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