第68話 次の町には
僕たちはカイト達と別れてから特に寄り道もせず、一週間ほどかけてイングラス王国の王都に昨日到着した。だが、休む暇はなくすぐに報告しろと言われたため、今イングラス王の座す謁見の間にいた。
「よくぞ帰った、勇者たちよ。しかし、1人欠けているようだが、もしや...」
王は疑うような悲しむようなどちらとも取れる不思議な表情をして、アサヒたちへ問いかける。
「いえ、問題ありません!ミユは現在も息災です!ただ、彼女の強い要望により僕たち勇者のパーティから抜けることとなりました。勝手な判断をしてすみません。ですが、彼女の空いた穴も僕たちで埋められるように誠心誠意取り組むので僕たちの活躍をぜひ見ていてください!」
「ふむ。抜ける前に報告を欲しかったが、終わった今それを言っても仕方があるまい。勇者ミユがどこへ行ったかは把握しておるのか?」
「はい!以前、この国の王都でも僕たちが出会った同郷の者である、カイト・ヒュウガという者と同じパーティに属してーーっ?!?!」
アサヒが報告を全て言い終わる前に王を含む全ての近衛兵や宰相たちの空気が凍りついた。
「ぐっ...くっ...!」
さらに片膝をついている勇者たちが、立てているもう一方の足も床にめり込ませてしまうかというほどの重圧がイングラス王から放たれた。
「.....カイト・ヒュウガだと?」
「...う、うぁ」
「王よ、あのままでは勇者といえど喋ることすら叶わぬようです。罰を与えるのは報告を聞き終えてからでも良いかと」
「ふむ。この城へと帰ってきたからにはそれなりに成長しているかと思えばこの程度か。まぁ良い、続けよ」
「...っはぁ!!な、何が...」
「いいから話せ」
「ぐっ!」
アサヒが王へ何をしたのかと問う前に再度、息の詰まる重圧が一瞬放たれる。
「...っくぁ!は、はい!カイト・ヒュウガという者のいるパーティに同行して、今は魔族領にいるはずです。...あの、王はカイトを知っているのですか?」
「お前からの質問は受け付けていない。勝手な口を開くな」
「ぐっ!は、はい!分かりました!」
それから王は顎に手をつき何かを考えるようにして黙り込んでしまった。
何が起きているのか理解できない僕たちはただ、王の裁定を待つしかない。
そのまま王はしばらく宰相と何やら小言で言い合ったり悩んだりしていたが、やがて結論が出たのか、王はその口を開いた。
「...ふむ。これなら良いだろう。勇者アサヒよ、カイト・ヒュウガなる者の具体的な居場所は聞いているか?その口ぶりだとお主らは少なくない時間一緒にいたのであろう?」
「...は、はい!申し訳ありません!次の目的地まで詳しくは...。た、ただ、【怠惰】の魔王という者に一時期お世話になっていたらしく、いずれはかの者の所へ戻るかと...」
「...ふむ。【怠惰】...か。アサヒよ、どことは知れずともどの方角かも知らぬのか?」
「す、すいません。僕たちがいた世界ではあまり一方角に向けて移動するということが少なく...。聞いておりません、すみません...」
「ちっ...。相分かった、後はこちらで調べておく。ではお前たちは今後、『超越』した力を精錬させた後、【黒隻】カイト・ヒュウガの討伐へと向かえ!その際、障害物は全て除去しろ!...全て、な」
そうして、王から下された新たな勅命は今までと一線を画すほど苛烈なものであった。また、同郷の者を討伐しろという命令、そして『障害物の排除』。この意味がわからぬほど彼らは馬鹿ではない。
しかしーー
「はい、かしこまりました。必ずや【黒隻】の討伐、果たして見せます」
顔を上げたアサヒたちの目からは光が消え、一切の感情を写していなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「何あいつ!自分の仲間のせいでカイトの知ってる人たちが危なかったのになんて態度よ!」
俺たちはセキアルに別れを告げイントの町を出発し、次なる街への道を進んでいた。
「確かにそうなんだけどな...。あの町の人々は最終的に守ることが出来たからまぁいいんだ。ただ...」
「?ただ?」
「...いや、なんでもない」
キノが不思議そうな顔をする。昨日の俺の昔話の時に話すべきだったんだろうけど...。
俺がわけも分からないのに話しても要領を得ないだろうと思ったのが1番の理由だった。
「それよりも次はどこを目指すんだ?」
「うーん、もうすぐアンバスには着くんだけど、その前に1つ町を跨ぐんだよねー...」
「そうなのか、それは別に良いがなんでそんな嫌そうなんだ?」
「そこがまた【強欲】の部下の町なんだよ」
「...なるほどな。で、ちなみにそこは誰が治めてるんだ?」
「........ガイロ、だったと思う...」
「...そういうことか」
まぁキノが躊躇うのも無理はないだろう。セキアルの話だと、俺と【強欲】との間にはそいつが深く関係しているそうだからな。
親切なのかはたまた俺たちなど警戒するに値しないという傲慢の現れなのか、セキアルは俺たちが部屋を出る時にサテュラを襲った同僚の名を教えてくれていた。
「にしても、えらく近い場所を治めてるんだな。普通もう少し離れたところ同士を治めないか?」
「キノもそう思うんだけど【強欲】は結構嫌われてるんだよねー。セキアルも言ってたけど【強欲】って性格キツイからさー」
「だからあんまり領土を持ってないとかそういうことか?」
「うん。最初にある程度平等に振り分けたらしいんだけど、セキアルも言ってたように一時期は魔王同士も卑怯な戦いをしてて、その時にいろんな奴にあの手この手で領土持ってかれたみたいでさ。ま!キノは今の状態になった時にはすでに領地なんて無かったけどね!」
えへ!と笑いながら言うが、あんまり笑い話ではない。だが、キノが【嫉妬】に目覚めたのは領地の振り分け後だったらしいからな。無いのは当たり前か。
それに、因果応報とやらかな。
方々から恨みを買っていた【強欲】は水面下戦争の時には真っ先に狙われたわけか。それで少ない領土をやりくりして臣下に渡そうとした結果、治める土地同士が近くなった訳か。
「キノの心配は嬉しいけど、一旦その町へと向かおう。あの町で起こったことの主犯が分かったんだ。今のところこちらから仕掛けるつもりは無いとはいえ、避けて通るほど許した覚えはないからな」
「...ほんと、許さない」
珍しくサニアもやる気になっている。さらにそんなサニアに触発されたのか、他のみんなも気合いが入ってそうだ。
さっきまで申し訳なさそうな顔をしていたキノも今は気持ちが高ぶっているのか、シャドーボクシングまでし始めた。
彼女たちのその気持ちは俺にとって何物にも代え難く、心の底からとても嬉しかった。
「よしっ!それじゃガイロ野郎がいやがるナヤバの町に行ってやんよっ!!」
「ちょっ!キノ!変な言葉使わないでよ!!もう!カイトくんがイカつい言葉使うからキノが真似しちゃったじゃん!」
「えっ?俺のせいなの?」
そんな風にぎゃあぎゃあと姦しくしながら、それでもゆっくりと俺たちは次の町、ナヤバと呼ばれる町へ歩を進めた。
あれから3日が経過していた。今は月の上り方からしておそらく夜中の2時だな。
ん?何してるのかって?そりゃあ見張りだ。
俺は今キノと2人で焚き火に薪を焼べながら駄弁っていた。
「そういやカイトはセキアルを視なかったの?」
「...あぁ、今思えば視とけばよかったと思うけど、あの時は視ない方が公平だと思ったんだよ。というか、多分あいつのあの感じだとセキアルを視たとしても視えなかったと思うけどね」
あいつのあの時の言葉、あの自信は相当のものだろう。おそらくは俺が“全鑑定”を使えることも知っている可能性がある。
それでもあの余裕ということはもしかするとあいつも“完全偽装”を持っているのかもしれない。
というかこの先の敵はみんなこのレベルかそれ以上なのか?とすればまだこれらのスキルには上があるのか?
でも『完全』の上ってもうなんなんだよ。思いつくものだともう“鬼偽装”とか“神偽装”とかその辺の古いjkが使ってそうなスキルになるんじゃないか?
「...ダサいな」
「ん?どしたの?」
「あ、あぁいやなんでもないよ。で、なんだっけ?」
「えぇー!聞いてなかったの?!レツァーの素晴らしさをこんなに教えてあげてたのに!もー!じゃあ最初からね!まず、あの粉はねーー」
キノは一生懸命俺にレツァーの良いところ素晴らしいところを伝えてくれていた。
でも、その時俺の頭に浮かんだのはーー
(“完全偽装”とか“完全看破”もわりかしイタイよなぁ...)
だった。
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