第61話 【憤怒】の魔王
「町が見えてきた。それにその奥にはあの白のやつが言っていたような城もある。...言っていたことは本当だったか」
あの謎の襲撃から数時間ほど歩いていると、町が視認できた。
ハンマー男の相手をして怪我を負った3人もユキの治療のお陰でほぼ全快している。
あの戦い以降勇者2人とサニアはあからさまに落ち込んでいた。
またアサヒもキノの助けがなければろくに戦えていなかったこともあって全体的に良くない状況だった。
しかし、俺が何か声をかけようにもこういったことに慣れていないため、なんと言えば良いか分からない。
自ずと話す声も少なくなり、負のスパイラルが生まれていた。
そんな変な空気の中、雰囲気以外何事もなくこの場所に着いたもののその様子はこれまた凄惨の一言だった。
「こんなの....許せない...!」
絞り出すように唸るのは、この中で誰よりも正義感の強いアサヒ。
この場所に着くまでも別に荒野だったわけではない。通ってきた道には至る所に家屋や壁だったものがあったし、町らしきものもあった。
だが、その全てが蹂躙されていた。ところどころに陥没した地面があり、家屋もほぼ全てが倒壊していたのだ。
幸い、そこには1つたりとも死体がなかったが、ここに来てその意味がわかった。
彼らは全員逃げられたのではない。かろうじて逃げ延びた人たちはいたのかもしれないが、そのほとんどが先の帝国戦争に強制的に駆り出されたのだ。
そして今俺たちのいるこの場所、いや『元』王都は見せしめのためにおそらく全ての住民が殺されている。
道中と同じように倒壊した家屋。それに加えてあらゆるところが元の建物の色も見えないほど、赤黒く染まっていた。
「ひどい.....」
女性勇者陣は口元を押さえて、アサヒはやるせなさと怒りを抱えて、目の前にそびえ立つ城の頂上にいるであろう【憤怒】を睨みつけた。
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「ラムラス様、勇者がこの城にたどり着いたようです。いかがいたしましょう?」
「あーやっぱり来よったか...。めんどくせぇ、ええわ、ここで待っとけ。どうせ見張りもおらんし、ここまで来るやろ」
「かしこまりました」
そうして1時間もしないうちに勇者たちを含む8名が大広間に入ってきた。
部屋にはかつての国王が座っていたであろう玉座に横柄に座るラムラスとその左側に【炎】が立つ。
「あん?思っとったより多いな。なんや、お前らも勇者なんか?いや...なるほどな、そういうことかいな」
「お前が【憤怒】か。なぜ帝国を攻撃した!?なぜあそこまで蹂躙する必要があった?!」
そうラムラスに向けて咆えたのは、8人の集団の真ん中に立つ、刀という武器を携えた黒髪隻眼そして隻腕の男。【黒隻】と呼ばれる男だった。
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俺はみんなを引き連れて見張りの存在しない城へと歩を進める。
城の中も街の様子と変わらなかった。全身穴だらけにされた執事や、死んでも犯されたであろうメイド。
豪奢な部屋へと続く廊下には王子や王女と思われる人物とそれを守ろうとした国王と王妃が崩折れて死んでいた。
「尊厳すら踏みにじって...!ふざけるなっ!!」
アサヒはすでに憤りを隠すこともなく、今出来る精一杯なのか、1人も欠かさず遺体を燃やして回っていた。
そうして上階に向けて進んでいると一際豪奢な扉がある場所についた。
その扉を開けた先にはスキンヘッドでイカつい顔に額に一本反り返った黄土色の角を持つ、筋肉隆々な大男が苛だたしそうに玉座に踏ん反り返っていた。
俺はそいつの顔を見た瞬間、今まで鳴りを潜めていた、帝国を、ミアを攻撃し、あまつさえ殺して回った【憤怒】と思われる奴への怒りが爆発した。
「お前が【憤怒】か。なぜ帝国を攻撃した!?なぜあそこまで蹂躙する必要があった?!」
「ふん、聞いてた容姿と一致しよるな。お前が【黒隻】か、若いのぉ」
「俺の質問に答えろ!何が目的だった!?」
「ハッ!んなもん馬鹿正直に教えるやつがどこにおんねん!少しは自分で推察してみんかいっ!このクソガキがぁ!!!」
そんな【憤怒】の咆哮とともに奴はいきなり右掌を目一杯広げ、座ったままこちらに向けて扇を仰ぐように振り払う。
するとその掌からひとつひとつが目玉くらいの大きさの石が多数、ものすごいスピードで発射された。
「危ないっ!」
数少ない“直感”持ちであるミユの声と同時に全員がバラバラに散開する。
その際、俺は目の前にいる2人を“鑑定”しながら刀を抜き、“偽装”“同化”などで姿を隠しながら左側から、キノは持ち前のスキルで隠れながら右側から回り込んで向かって行く。
名前:ラムラス・ドングルス
種族:大鬼族
Lv:1237
スキル:彗燼瀑隕Lv.- 部鬼化Lv.- 憤怒Lv.- 天眼Lv.10 弓聖術Lv.10 大地魔法Lv.10 纏矢Lv.10 幻矢Lv.2 狙撃Lv.1 剛射Lv.10 天穿Lv.5
称号:限界突破者 超越者 七罪一者 瀑滅者 鬼の極致 弓の極致 地の極致
名前:ノリトメ・メレミ
種族:人族
Lv:896
スキル:身捨人Lv.- 全鑑定Lv.9 看破Lv.10 豪炎魔法Lv.10 神聖魔法Lv.10 咒力特自動回復Lv.10 予知Lv.8 博識Lv.10
称号:限界突破者 超越者 観看者 犠身者 炎の寵愛 聖の寵愛 咒の寵愛 智の寵愛
「甘いですよ。【嫉妬】の魔王、キノイル・ヒルディアさん?」
「ハッ!お前の能力を知らんわけないやろっ!【黒隻】ぃぃぃ!!!」
キノの攻撃が完璧に防がれただと?!
俺はキノの攻撃が、かろうじて防がれるならまだしも、完全に見切られたことなど見たことがなかった。
それにあのキノと格闘戦で互角に渡り合えているフードを被った女は、キノのことを知った上で反応していた。
「あなたのその究極系とも言える認識阻害能力は脅威ですが、対応できないわけではありません。私でも見切れるのですから我が主や、それに届かずとも近しいであろう他の魔王どもがあなたに気づいていないはずもない。時折、あなたが我が主の城に無断で立ち入っていたのを知っていますよ?主からは無害であるため放っておけと言われていましたが、私は主ほど寛大ではないっ!今こそ誅伐の時です!覚悟なさいっ!」
女は言い終わるとともに青白い炎を纏わせた拳でキノに殴りかかる。
キノはギリギリのところで躱したが、自分の存在が今まで知られていたことに多少の衝撃があったらしい。
そして、こちらもこちらで衝撃だ。
なんと俺の刀がただの腕で防がれているのだ。防がれていると言っても、俺の刀はラムラスの右腕の中程まで入っているのだが、切り落とせずにいた。
「なっ...!なんで...!?」
「チッ!!痛いのぉっ!!クソガキィィィ!!!」
ラムラスは空いている左手で俺の腹を殴り飛ばす。
「ぐはっ!?」
その衝撃でラムラスの右腕から刀が抜け、血が噴き出す。
「チッ!まさか“部鬼化”しとんのに、斬られると思わへんかったわ」
「ぐっ...、“ぶきか”?だと...?なんだそれ...」
「あぁ?ガキィ、耳ええのう。ま、やとしても教えへんけどな」
俺はラムラスのスキルの中から、字面に当てはまるスキルを“鑑定”する。
スキル:部鬼化 鬼族の力を極めた者の終着点。自分と契約した鬼神の肉体の一部を借り受ける。借り受けられる部位はそれぞれ違う。
「鬼神の肉体の一部を借り受ける...?一体、どういう...?」
「.........ハァ?.....なんやと?『これ』は“鑑定”でも見えへんはずやねんけどなぁ.......」
俺がラムラスのスキルを“鑑定”した途端、ラムラスの雰囲気が変わった。
今まではどこか俺を侮るような雰囲気だったのが、こちらの存在の何一つも許さないような雰囲気へと変化した。
それにその間にも、俺が切りつけた傷は徐々に再生している。
「貴様はとっとと消さなあかんの」
今までとは打って変わって、とても静かな声で呟くラムラス。しかし、その声は決して穏やかなものではなく、ドロドロに煮詰めた怒りを思わせる声だった。
「消えぇや」
「くそっ!!」
軽く振った腕から突然飛んできた散弾のような細かい岩に、俺の“予知”が働いたものの体が動かなかった。
「やらせない!」
俺はあと少しで自分の体が穴だらけになると覚悟したが、直前でミユが俺の前に立ち、ものすごい速さで刀を振るって岩を落としていく。
だが、あまりにも数が多い上に細かいため、全てを受けきることは出来ず、ミユも無視し得ない傷を負っていく。
弾幕が止んだ頃には全身から血を流したミユとほぼ傷のない俺がいた。
「だ、大丈夫...?カイトくん...」
「あ、あぁ俺は大丈夫....てか、それよりミユお前が大丈夫じゃないだろ?!」
俺はすぐにミユへ駆けつけ、神聖魔法で回復する。そこへしばらく惚けていたユキも駆けつけ、回復に参加してくれた。
「ありがと、2人とも。もう大丈夫だよ!」
「...すまない、無理をさせてしまった」
「...ほんと、無理しすぎ。私も動けなかったけど...」
申し訳なさそうにしながらもユキに悪態を吐かれ、困った顔であはは、と笑うミユ。
「俺ももう大丈夫だ。できれば協力して欲しいんだが、どうかな?」
「当たり前でしょ!」
「そのために来てる」
その力強い言葉に俺は勇気をもらう。
確かに奴は強いが、まだ絶望するほどではない。
しかし、予想外なのは【炎】と呼ばれていた女の方だ。あっちはキノ、サニア、テミス、アサヒ、サアラの5人で戦っているにもかかわらず、その全てを捌いているのだ。
レベルやスキルも高レベルで揃えられている以外、特に特筆すべきものはないが、唯一気になるのは“身捨人”というスキル。
スキル 身捨人 己を捧げた相手に尽くすため、最大限の力を発揮する。そのためだけに生きている者に発現するスキル。
おそらくここで言う『己を捧げた相手』というのは【憤怒】のことを指しているのだろう。【炎】と呼ばれるノリトメが人族であることもそれを窺わせる。
彼女たちは戦場を移し、すでに城外にいた。だが、今は俺たちだ。俺たちは俺たちの敵に集中しなければならない。
「ありがとう、それじゃ再戦だっ....!」
いつも読んでくださりありがとうございます!良かったらブクマと感想、チャンネル登録よろしくね!
さて、『黒隻の簒奪者』を読んでくださっている皆様に1つ質問なんですが、皆さんはどちらが多い方がいいですか?良ければ感想にてコメント下さいっ!
①ストーリー(キャラの心情他)
②戦闘シーン
③どっちも書けや!
よろしくお願いします!
アンケート機能とかあればいいのにね...。




