第57話 向かうべき場所は
その日、文字通り帝国は堕ちた。
帝城に誰一人生存者は無く、代わりに闊歩するのは大量のリビングデッド。それもしばらく後に居合わせた勇者一行が討滅した。
しかし、帝城にてゼルギスの妃シスネと思われる死体が凄惨な姿で放置、またイラミス皇女など彼女らに付く近衛部隊や筆頭護衛のライドの死体が黒い槍に刺さった状態で発見された。
さらに、激戦区となったズンバド領では大量の兵士の死体と共に帝国の皇帝ゼルギス・リースヴェルトの遺体も発見された。
わずか数夜にて、帝国を治める人間が消え、リビングデッドの巣窟となり、普通の人間が住める土地では無くなってしまった。
その日以降、隣国のイングラスは帝国との国境を引き下げ守りを強化し、以前から逃げていた人々以外の帝国からの難民を入国拒否。
そして後に『帝国焼華作戦』と呼ばれる悪魔の作戦が決行される。それによって、これ以上リビングデッドの被害が出ないようにと帝国以東の広範囲が焼き払われた。
当然、この突然の非人道的な決定には多数の反対意見が出るものと思われたが、誰一人としてその声を上げる者は存在しなかった。
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あの悪夢のような1日からもう1週間が経過した。
帝国の城には王国から来た調査員が詰めかけ、俺たちを含めた勇者たちに対する『取材』という名の尋問があった。
だが、それは基本的にミユたち勇者が受け持ってくれ、俺たち4人は自由行動をさせてもらった。
その間に俺たちはラミーやライドを含めた近衛部隊の方たち、また、周辺調査の最中に運良く発見できたゼルギスらの遺体を城の裏庭に埋めて、小さな葬式を開いていた。
葬式の時には流石に調査員も勇者たちを解放してくれたので、葬式のやり方は完全に俺たち日本人のやり方で行った。
また、1週間の現場調査中、キノとテミスが帝都だけでなく近隣の街まで色々調べてくれた。
そのおかげで、今回攻めてきた小国の後ろ盾となっていたと思われる者の正体が判明したのだ。
それは【憤怒】の魔王。
帝都にはほとんど攻め込まれていないため発見できなかったが、ゼルギスの戦っていた地では無数に地面に穿たれた穴があったそうだ。
それだけでは判別できないだろうと思ったのだが、キノが言うにはほぼ確定だと言う。
まぁキノは俺たちのところに来るまでは、様々なところを転々としていたため、俺たちと会った時のように他の魔王のところにもお邪魔していたらしい。
そういったこともあってキノは【傲慢】以外のほとんどの魔王の顔と能力を知っていた。
キノが言うには、【憤怒】の魔王はとても攻撃的なスキルを有しておきながら、本人は影の支配者を望みたがる。
だが、そもそも本人がでしゃばりなため大抵うまくいかず、結局戦争に出てきてしまうし、何より戦うことがとても好きな戦闘狂。
当然、影で暗躍するなど向いていない。にもかかわらず、影で動くことがとてもカッコいいと思うらしく、そう言う行動をしたがる。
しかし、結局表に出てきてしまってうまくいかないという、ある意味魔王らしい魔王だそうだ。
さらに、ここまで広範囲に攻撃でき、また、大地に大穴を開けるようなスキルを扱える者は【憤怒】しかいないという。
俺はひとまず仮想敵を【憤怒】の魔王とし、作戦を立てることにした。
また、【色欲】の魔王が『任務は終わった』と言っていたことや、これまでの背景の末、帝国を攻められたことから【憤怒】と【色欲】が同盟、もしくはそれに近しい何かを結んでいることは確実だろうと意見が一致した。
「俺たちはそろそろ【憤怒】のところへ行く。俺はこいつを許せない。久しぶりに会えたのは嬉しかったがそれもここまでだな。色々と世話になった」
王国からの事情聴取などが終わったことで勇者たちも解放された。そこで俺たち4人は【憤怒】の魔王の元へ行く旨を勇者たちに話した。
「...僕たちも行くよ。約一年とは言え僕たちも帝国に居たんだ。今回のことは他人事では済ませられない。何よりあんなところを見たんだ。許せるものかっ!」
「これはアサヒの独断じゃないわ。きっとカイト君はそう言うと思ってあらかじめ私たちの方でも話していたの。それに戦力は多い方がいいでしょ?」
アサヒとミユがそういい、サアラやユキも同じようにうなづき、俺たちに協力してくれるという。俺たちは...いや、俺は【憤怒】に因縁が出来たが、彼らには何もない。それでもついてきてくれると言うのは正直とてもありがたかった。
「気にしなくていいと言いたいんだが、協力してくれるのは正直ありがたい。...よろしく頼む」
俺がそういうと勇者たちは4人ともとても嬉しそうな顔をした。
「お人好しどもめ」
俺はそう悪態をつきながらも顔が綻んでいた。
今のところ【憤怒】についての情報がゼルギスが最後に戦った場所の惨状しかないため、俺を含む現場を見ていない者のために、まずはそこに行くことにした。
8人で探せばもしかしたら何か見つかるかもしれないしな。
それからキノとテミスの案内で数時間ほどかけて件の場所についた。
そこはもともと街があったとは思えないほど建物は粉々に倒壊しており、顔の判別がつかない死体や時間が経って真っ黒にこびりついた血痕が多数散乱していた。
そんな場所に不釣り合いな...いやある意味とても映えている人物がいた。
そいつは髪や体など総てが白く染まっているやつだった。
「やぁ、カイトくん。元気にしてたかな?」
その総てが白いやつは突然俺に話しかけてきた。
当然俺は奴のことを何1つ知らないし、初めて出会う。それなのに奴は俺の名前を知っていた。
言い知れぬ危機感を覚えた俺は奴の言葉には何も返さず、“鑑定”をした。
名前:レティクル¥@/“&)
種族:鑑定できません
Lv:鑑定できません
スキル:鑑定できません
称号:鑑定できません
はぁっ?なんだこいつは!
久しぶりにほとんど“鑑定”できないやつと出会った。
もう今の俺のステータスなら魔王のステータスも完全に把握できる。しかし、こいつは名前以外何も分からなかった。しかもその名前すら一部が文字化けしている。
俺は“異種伝心”で全員にこいつの危険性を伝え、俺自身も警戒レベルを最大まで引き上げる。
「そんなに警戒しないでよ、何もしないからさ。それにしても...そうなっちゃったか...。てことはあいつも...。まぁまずあの娘に気に入られちゃったならそうなるのも仕方ないか」
「何を...何を言っている?!お前はなんだ?!」
俺は目の前のやつの不気味さに耐えきれなくなり、ついに声を出してしまう。
「やっと喋ってくれたね。今はまだ言えないけど、いずれわかるよ。それより【憤怒】くんを探してるんでしょ?彼ならこの先の山を越えたところの城にいるよ」
「なぜそんなことを俺たちに教える?いや、そもそもなぜ俺たちが【憤怒】を探していることを知っている?!お前は何者だ?!」
「伝えることは全部伝えたからねっ!それじゃ頑張って!ボクは応援してるよ!あ、1つ言い忘れてた。...あんまり堕ちないでね?」
そう言い残して目の前が真っ白に染まった。すぐに元に戻ったが、そこには白い奴、レティクル何某はすでにいなかった。
「くそっ!何も分からなかった!なんだったんだあいつは!」
「ほんとに...一方的に言われて消えちゃったわね。でも、居場所を教えてくれただけでも運が良かったと思いましょ?」
「でも、それが正しいとは限らない。何かの罠かもしれない」
「たしかにそうね。でも、今それ以外に情報がないのも確かよ」
「........そうだな、ミユの言う通りだ。あいつはこの山の先って言ってたな。それじゃあそこに向かうしかないか」
俺は何か手のひらで踊らされているような感覚があり気持ち悪かったが、何も分からない中得られた情報なので今はそれを頼るしかなかった。
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