第5話 サテュラの町へようこそ
あれから野営地を出発して数時間、俺はついに森を抜けた。
「この外壁の中が町か。はぁ、やっと町についた……」
そして、俺はそのまま検問らしきものをしている場所へと向かい、それなりに続いている列に並ぶ。しばらくすると最後尾の俺の番がやってきた。
「次。身分証」
「持ってない。必要だったか?」
「必要だな。ないと町には入れられない。にしてもずいぶんボロボロだな。目も怪我してるし、森に潜ってたのか?」
「そんなところだ。隣町から来たんだが、修行中でもあってな。その森の中で魔物と戦っている時に身分証を無くしてしまったんだ」
「なるほど。冒険者か」
やはりこっちにも冒険者的な存在はいたんだな。失敗した。あの冒険者アンデッドの身分証か何かを取ってくるべきだった。
「だがそうか、身分証を無くしたということは金も持っていないことになるな」
「そうなんだ。だから今回だけ通して貰えると助かる」
身分証がなければ金がないとはどういうことだろうか?だが、今は相手の話に乗っておかなければ嘘がバレてしまう。
「そういわれてもなぁ。まぁお前さんは悪人面でもないし、悪さをしそうにもないから大丈夫だとは思うんだが、まぁ今度会うことがあれば1杯酒でも奢ってくれるなら通してやるよ」
「すまない、助かるよ。喜んでおごらせてもらう。俺はカイトという」
「ガッテンだ!俺はバルスってんだ。いつもだいたいここで衛兵やってっから気が向いた時にでも声をかけてくれよ」
「あぁ、分かったよ」
ここの衛兵が緩いやつで助かった。あぁそうだ、身分証を作る場所を聞かなければ。
「そうだ、新しい身分証を作ろうと思うんだが、どこで作るのか教えてもらえないか?」
「あぁ、確かにそうだ。それなら、ギルドで作るから、入って真っ直ぐ行っている間に見えてくらぁ」
「何から何まで助かるな」
「気にすんな、兄弟!ようこそ!サテュラの町へ!」
そう言い、俺はバルスにお礼を言って言われた通りに行ってみると、確かに一際大きな建物が存在していた。そこには大きな文字で『冒険者ギルド』と書かれている。
「あれ?はじめて見る文字なのに、普通に読めるな」
そう何故か、見たことの無い子供の落書きのような字であるのに、はっきりと読めるのだ。
「まぁ読めるのなら苦労はしないな。さっそく身分証作ってもらうか」
俺はそう言って、ギルドへと足を踏み入れた。
中はいかにも俺が想像するギルドのような感じで、机も壁も全て木製だ。
そして、入って左側にはおそらく冒険者であろう人物達と受付嬢達が素材の買取やクエストシートの受注のようなものを行っている。ナンパもしている。あ、受付嬢に引っぱたかれてる……。
ま、まぁそれは置いといて、真ん中は吹き抜けとなっており、奥は『関係者以外立ち入り禁止』と書いてあり、さらに奥に階段が続いていた。
また、右側は完全に酒場となっている。そこには、まだ昼過ぎだと言うのに結構な人数の冒険者がいた。
俺は身分証を発行してもらうために、受付嬢のところへと向かう。俺にも先輩冒険者から絡まれる新人というテンプレを受けることが出来るのか。
俺はまだ彼らより弱いだろうから怖いが、正直ちょっとワクワクするな!
「すみません。身分証を発行したいんですけど」
「はい!身分証ですね!もしかして無くされましたか?」
「いえ、はじめて発行します」
「あー、えっとはじめて?今まで1度も作ったことがない?」
「えっと、はい」
「そんなわけはないはずなんですが……失礼ですが、お兄さんはお幾つでしょうか?10歳になる頃には皆さん身分証を作るはずなんですよね」
なんだと!そんな制度があるのか。そりゃ受付嬢も戸惑うはずだ。うーん、東の国から来たとでも言えば丸め込めるだろうか?
「今俺は修行中のものでして、東の方の国から武者修行で来ているんですよね。そして東の国にはこういった身分証が無くて……」
「東というとイースタン国でしょうか?あそこも身分証があったはずですけど……」
あぁ!受付嬢が疑いの眼差しでこちらを見ている!
「いえ!もっと東です!名前すらついていないような!」
「な、なるほど、それなら無いかもしれませんが……まぁ分かりました。でも銀貨15枚が発行には必要です」
「えっと、身分証を持ってないのでお金もないんですが……」
「なんにも持ってないですね……まぁお金は身分証に振り込まれますので予想してましたし、身分証から後で引き落とすことも出来ますので大丈夫ですよ」
なるほど!身分証はクレジットカード的な役割も果たしていたわけか。そりゃ無くしたら困るな。
これはどこかでアイテムボックス的なスキルを見つけなくてはならないかもしれないな。
「ありがとうございます。このまま待ってれば発行して貰えます?」
「はぁ、そんなわけないでしょう。この水晶に手を当ててください。体力や魔力などを読み取って自動で作ってくれますよ」
そう言って受付嬢はテーブルの下から水晶を取り出した。というか受付嬢さんどんどん対応が適当になってません?なんも知らねーなこいつとか思ってません?ため息つかれたし……。
「あ、分かりました」
俺は言われた通りに水晶に手を当てる。そうすると光が現れ、受付嬢の方に光が流れていく。その光は徐々に形を成していき、1枚のカードのようになった。便利なものだな。
だが、それで『こと』が終わることは無かった。受付嬢の顔がどんどん青く変わっていく。何か不具合でもあったのだろうか?
「えっと……お名前はカイトさんでよろしかったですか...?」
「?えぇ合ってますよ」
「申し訳ありませんでした!!直ぐに作らせていただきます!!」
そういうなり、カードを持ったまま裏に走っていってしまった。あ、カード……。
というか、なんか受付嬢の対応がいきなり変わったな。さっきまでどこか適当だったのに、カードを見た途端こちらを畏怖するような対応に変わった。
しばらく待ちぼうけていると、先ほどの受付嬢と一緒に杖をついたおじいちゃんがやってきた。
「おぬしがカイトくんかな?」
そう話しかけてきたおじいちゃんは、腰が曲がって杖をついている割にははっきりとした声だ。
「はい、そうですが……何か問題点でもあったんでしょうか?」
「いや、そういう訳では無いのう。うちの受付嬢が失礼をした。まぁ少し話したいこともあるので裏に来てもらえるか?」
う、裏……。
俺はこれから黒服のサングラス集団に指を詰められたり、法外な金を要求されたりするのだろうか……。
「わ、分かりました……」
「そう身構えるでない。取って食うわけではないしの、ホホホ」
「あ、はい……」
よかった、裏で絞められるわけではなかったのか。いや、安心させておいてという可能性も……?
そうして無駄に怯えたまま、俺はおじいちゃんと受付嬢の後ろについて行き、応接室のような部屋に案内された。そこで、おじいちゃんに座るように勧められた。
「さて、話というのは他でもない。身分証に書いてあるおぬしについてのことなんじゃが、偽りはないかのう?」
「え?はい。というか偽れるものなんですか?」
「いや、無理じゃ」
「ならなんで……」
無理ならなんでそんなことを聞いてきたんだ?俺はますます話の流れが分からなくなっていた。
「まぁ、順を追って説明しよう。まず、おぬしは18歳という若さであるが、Lvが60というとんでもないレベルとなっておるんじゃ」
「え?そんな高いものなんですか?むしろ低いと思ってたんですけど」
「ホホホ、わしはこれでもギルドマスターであるし、昔はS級冒険者とまで言われたのじゃが、Lvは85じゃ」
「俺より全然高いじゃないですか」
「違う。わしがここまで生きて、やっと85ということじゃ。わしは魔法師でのう。こんな体じゃが、必要があれば前線に出ることもある。そんな人間がようやくたどり着くLvが今の85なんじゃ」
今の話からすると、俺のレベルは年齢に反して高すぎると言うことか。Lv.60なんて低いと思っていたし、何よりあの森には俺より高いレベルのやつなど沢山いた。
それに、“超嗅覚”とこの町まで歩いてきた距離から察するに、どうやらあの森にはまだまだ奥がある。そして、その奥にはおそらく今の俺では手も足も出ない奴らが大量にいるはずだ。よくそれでこの町は滅ばなかったな。
「そして次はスキルじゃな」
まずい。スキルはまずい。そんな所まで見れるようになっていたのか。
スキルは俺でも異常なのは分かっている。あれだけ強かった魔物達でさえ、多くても4つしか持っていなかったのだ。そんな中でスキルを何十個も持っている俺はとても不自然なはずだ。
「この娘はLvに驚き、わしの所に持ってきおったが、スキルに関しては何も言っておらなんだ」
確かに受付嬢はスキルの話はよく分からなそうな顔をしている。ならどういうことだ?
「ティサネ、この話はここだけにとどめておけ。口外してはならんぞ。すれば減給では済まさん」
なんか目の前で、唐突に受付嬢がおじいちゃん、いやギルドマスターにめっちゃ脅されてる……。受付嬢めっちゃ怯えてんじゃん……。
あ、受付嬢さんティサネさんって言うんですねメモメモ。
「さて、本題じゃが、わしは“偽装”を見破ることが出来る“看破”というスキルを持っておる。それによっておぬしのスキルを見させてもらった」
ギルドマスターはそう言って俺の大量のスキルが書かれた身分証を机の上に置いた。それをみたティサネさんが倒れかけている。忙しいな、あの人……。
なるほど、俺は“偽装”のスキルを持っている。あまり面倒事には関わりたくないという思いが働いたのか、勝手にスキルは偽装してくれていたようだ。
だが、ギルドマスターは“偽装”を見破る“看破”というスキルを持っていた。こういった対称的なスキルは、スキルレベルや熟練度によって抵抗出来るか変わってくるらしい。
そして、俺の“偽装”のLvは低い。それによってこの大量のスキルもバレてしまったようだ。
「落ち着け。身構えんでも敵対しようなどとは考えておらんよ。それにおぬしの“鑑定”ではわしは見えんはずじゃ」
無意識に俺は“鑑定”を発動させてしまったようだ。だが、ギルドマスターの言うようにほとんど何も見えなかった。
名前:マルサス・ラディオート
種族:人間
年齢:78
Lv:85
ステータス:見ることが出来ません
スキル:見ることが出来ません
俺が“鑑定”で分かったことは名前とレベルくらいだった。それ以外はどんなステータスなのか、どんなスキルを持っているのかの一部を見ることすら出来なかった。
「わしも伊達にS級では無かったからのう。まだまだ若造に遅れはとらんぞ?ホホホ」
「いえ、勝手に覗いてしまって申し訳ありません」
「よいよい、じゃが、おぬしだけ自分の手札であるスキルを見せるのはフェアではないのう。ほれ、“鑑定”してみよ」
俺は言われた通り鑑定してみた。
名前:マルサス・ラディオート
種族:人間
年齢:78
Lv:85
ステータス:体力1157
魔力2586
攻撃962
防御953
敏捷736
知力1167
スキル:豪炎魔法Lv.10 看破Lv.9 偽装Lv.8 魔力特自動回復Lv.7
称号:炎の寵愛 魔の申し子 歴戦勇姿 S級冒険者
俺はギルドマスターを“鑑定”した瞬間、息を飲んだ。まさに本当の化け物だった。
ギルドマスターは“火魔法”を進化させた上、最大までレベルを上げている。そして、“自動回復”も進化している。
また、おそらく俺が“鑑定”を使ったことを察知したのも“看破”のスキルだろう。“偽装”を破れることから、“隠密”の対となる“気配感知”が進化したスキルだと思われる。
それにしてもレベルは近いはずなのにもかかわらず魔力が異常に高い。その理由はすぐにわかった。称号『魔の申し子』だ。
称号:魔の申し子 魔に愛されたもの。生まれつき魔の扱いが上手く、技術向上速度が早い。また、魔力の成長速度がとても早くなる。
これは魔法を使うものからすると垂涎物の称号だろう。生まれ持って魔力を扱うレベルが高く、さらに、Lvが上がっていくごとに、常人よりも倍のペースで魔力が上がっていくようだ。
その上、“魔力自動回復”のスキルも持ち、“看破”などで搦手も通じない。整ったスキル構成だった。
「ホホホ、大人も凄いもんじゃろ?まぁここに呼び出した意味はわしのスキルを見せたかったからではないのだが、おぬしのその異常な数のスキルについては詮索はせん。しかし、ワシのようにおぬしの力を見抜けるものもおることを忘れてはならんぞ。おぬしが関わりたくなくとも関わってくるやからもおるじゃろうしのう。じゃから、おぬしのギルドカードはこちらの方でスキル欄を調整しておこう。そして、恐らくこれからも増えるじゃろうからそれについても対応できるようにしておこう。では、何か乗せておきたいスキルはあるかの?」
なるほど、ギルドマスターは俺に警告をしてくれたのか。それは正直にありがたい。まだこの世界の常識をほとんど知らないのだ。
まだ俺は声をかけられれば騙せる赤ん坊でしかない。それをこうして身をもって教えてくれたのだから十全に活かさなければ。
「はい。ありがとうございます。では、“剣術”と、“体力自動回復”、“器用”あたりでお願いします」
「ホホホ、了解じゃよ。ティサネ、彼を送ってあげなさい。カイトくん、また明日ここに来るといい。ティサネのところに行けば受け取れるようにしておくからのう」
「はい、何から何までありがとうございました!」
「ホホホ、元気な若者はいいのう」
「では、また明日お越しください!カイトさん」
「わかりました!お願いします!」
俺はティサネさんに見送られながらギルドを後にした。そういえば、テンプレ起きなかったなぁ...。
と、少し残念気味に思っていると、なんかギルドからついてくる人達がいるんですけど……。
まぁ定番だよねー。ということで、俺はあえて人通りの少ないところへ向かう。そして、周りに人気がなくなったあたりで、前から1人、後ろから3人が姿を現した。
「おい、兄ちゃん。こんな所に1人で来てたら襲われちまうぜぇ?」
「ギャハハハ!俺たちみたいなやつにな!」
「ギルドカード無くすような新人君がティサネちゃんに色目使ってんじゃねぇよ!」
なんだー女絡みの因縁ですやん。まぁ絡まれたことには変わりないが。
「誰?あんたたち」
「俺たちを知らねぇってことはよそもんだなてめぇ!」
「俺たち『ワイルドブラザーズ』を知らねぇなんざ時代遅れてんなぁ!」
「お前らみたいな三下が時代に取り残されてんじゃねぇのか?」
「はぁっ?!てめぇ!言うにことかいて、んな事言ってたらぶち殺すぞっ!」
んーこれ以上関わってもいい事なさそうだな。こういうやつからは別にスキルを奪ってもいい気がする。これからはもっと人目につかない位置にしよう。処理が大変そうだ。
「何黙ってんだよっ!」
前にいた三下Aが俺に殴りかかってくる。
名前:モブオ・エー
種族:人間
Lv:14
スキル:闘術Lv.1
名前:モブオ・ビー
種族:人間
Lv:11
スキル:剣術Lv.1
名前:モブオ・シー
種族:人間
Lv:11
スキル:槍術Lv.1
名前:モブオ・デー
種族:人間
Lv:10
スキル:闘術Lv.1
いや、弱すぎて話にならん。だが、“闘術”という新しいスキルも見つけた。他はまぁ定番というか恐喝系のスキルを持っていた訳でもないんだな。
俺は殴りかかってくる手を払い、バランスを崩した所に、刀を抜きざまに振り切る。それだけで三下Aの体は上下に別れた。それを見た三下B.C.Dは殺すとは思っていなかったのか、唖然としている。
はぁ、戦いの最中に惚けていては生き残れないだろうに。そして、敏捷に補正がかかっている俺は、3人の元にすぐさま潜り込み、固まっている3人の体を横一文字で、全て上下に分断する。
『経験値を獲得しました。スキル:簒奪により取得経験値が半減します。スキル:簒奪の効果により、スキル:闘術 剣術 槍術を獲得しました』
名前:日向 海斗
種族:人間
年齢:18
Lv:60
ステータス:体力872
魔力956
攻撃581
防御594
敏捷612
知力643
スキル:簒奪Lv.- 鑑定Lv.4 超嗅覚Lv.1 偽装Lv.1 暗黒魔法Lv.1 噛み砕くLv.2 気配感知Lv.7 身代わりLv.3 統率Lv.4 器用Lv.6 集団行動Lv.5 槍術Lv.3 剣術Lv.5 体臭遮断Lv.9 火魔法Lv.3 水魔法Lv.5 風魔法Lv.5 土魔法Lv.3 樹魔法Lv.4 弓術Lv.4 幻惑Lv.4 融体Lv.3 遠視Lv.4 鋼化Lv.5 俊敏Lv.3火耐性Lv.2 水耐性Lv.2 風耐性Lv.1 土耐性Lv.3 樹耐性Lv.3 光耐性Lv.2 闇耐性Lv.2 毒耐性Lv.3 麻痺耐性Lv.5 夜目Lv.3 体力自動回復Lv.7 自己再生Lv.6 斧術Lv.2 魔力自動回復Lv.5 物理透過Lv.6 死霊作製Lv.8 New闘術Lv.1
称号:簒奪者 強者食い
よし、これでまた1つ武術系のスキルを獲得することが出来た。いくつあるのだろうか?
そして、スキルを獲得した恩恵なのか、意識せずとも格闘の感覚がわかるような感じがする。なるほど、“闘術”とは格闘術のことか。
あとは、この死体をどうするかだな。死霊にしてもいいかと思ったが、ここは町中だ。ギルドマスターには助けてもらったし、もとより徒に騒ぎを起こすつもりもない。
そう考えた俺は、使ったことのない“土魔法”を練習するついでに、死体を埋めることにした。そして、俺は魔法で穴を掘り、そこに死体を放り込んで、また土をかぶせ、さらに人が通っても違和感を覚えないように土を固くしておく。
そういえば人を殺したのは初めてだったが、あまり忌避感はなかったな。やはりあの森での割と衝撃的な出来事で、俺も色々変わってしまったのかもしれない。