第40話 【傲慢】の魔王
布団に被ってから数時間、予想通り眠気が来る気配すらない。その時不意にドアが開かれ誰かが入ってきた。
「...寝なさいってあたし言ったわよね?気持ちは分からなくもないけど、体力がなくてはなにも出来ないわよ?」
「ごめん、布団には入ったんだけどなかなか寝付けなくて」
「まぁいいわ。なら私が一緒にいてあげる」
それから日が昇るまでずっとラミーは俺に寄り添ってくれた。
彼女は眠たいはずなのに一生懸命俺の話を聞き、そして俺は色んな彼女の話を聞いた。
どうやらこの皇女は友達がいなかったようだ。親バカ護衛バカのせいなのか、彼女の性格なのかは分からないが。
なぜ友達がいないのか。それは端的に言うと学校に行っていないからだった。
もちろん帝国にも王国にも学校は存在する。その入学料がとんでもなく高いだけで。
そのため、基本的に学校に入れるのは貴族より上の位の親を持つ子供なのだそうだ。
それで言えばラミーは充分に資格を持っていると言えるが、あろうことか彼氏を作ることはおろか一日娘と会えなくなることを嘆いたゼルギスが反対したのだ。
そしてそれを聞いた護衛隊、親衛隊は雄叫びをあげて大賛成。皇妃ですら反論を許されず、結果家庭教師が雇われることとなった。
そんなアホなと思われるかもしれないが、実例が目の前にいるのだ。そして、その家庭教師もラミーの言うことを全て聞く人間だったこともありわがままがそのまま育ってしまったと。
まぁラミーもついやってしまうそのわがままを憂いてはいるそうなので境遇だけでこんなに違うものなんだなとしか思わなかった。
そんな話をしている間にすでに朝日は結構な位置まで登って来ていた。
「2人でゆっくり話せて楽しかったわ。それじゃみんなを起こして聖塔へ向かいましょ」
「あぁ、俺もラミーのことを知れて良かったよ」
「そう?それならまた明日にでもお話しましょ」
満面の笑顔でそう言う彼女は朝日に照らされていたこともあってとても眩しかった。
それから着替えをし馬車に乗った俺たちの旅路は長いようで短かった。
途中通る町は全て食事と宿以外では素通りにしたことで、5日で着くと言われていた聖都リミスへわずか3日で着いた。
道中もライドは俺に気を遣って狩りに行かせず、ひたすら体を休ませることを言いつけられた。
「着いたわよ、聖都リミス。通称、祝福の街。ここには来ることは出来るけど1日以上はいられない。住むことなんか以ての外。1日以上いれば祝福が逆に身を滅ぼしてしまう、だそうよ」
「住めない?でも人は沢山いるぞ?」
店もあれば、宿もある。向こうにはギルドも存在している。
「えぇ、住めるわよ。普通の人以外わね。この街に住むことができるのは、ベルズ教に殉教することを誓い、全てを捧げることができる者だけが、この街に溢れる祝福を一身に受けることができるのよ」
「でもそんなの誓いますって言えばいいんじゃないのか?」
「それがそうでもないのよ。なんか特殊な魔法具があるらしくて、そこでどれだけベルズを信仰しているか、どれだけ身を捧げているかとかを全部判断できるんだって」
「で、それをクリアしないと住むことは出来ないってわけか。しかもこの宗教を信仰していないとそもそもこの国や街には来ない。今まで通って来た街もあまり観光する場所は無かったもんな」
そう。宿には泊まったが、それもあらかじめ宿のある街を知っていたからだった。知らなければ馬車中泊もあっただろう。
「実際に祝福が身を滅ぼすのかはわからないけどね。多分そんなことはないのでしょうけれど」
俺たちは食事をした後、ひときわ目立つように建てられている聖塔へと向かう。もう一時たりとも無駄にはできない。
リミスの街自体は円状で南北東西の四方向に門がある。そしてそのちょうど真ん中に聖塔が建っているようだ。
それから街の中は馬車で移動できないため、歩いた。すると数時間もしないうちに聖塔が見えてきた。
そこにはこの街を縮図したかのように聖塔を中心に周りに池が存在している。そこから同じく南北東西に橋がかかり、それぞれに門番がいた。
「ここには何人たりとも侵入を許されていない。帰れ」
「我々はここに呼ばれたんです」
「はぁ?ここに呼ばれただぁ?貴様ら風情を?何を意味のわからんことを...」
「彼らの言うことは本当ですよ。ここからは私が対応しますので下がっていてくださいね」
周りの者たちにも奇異の目で見られ始めいよいよまずいかとなった時、顔をフードで隠した1人の男が奥から歩いてきた。
「へ?し、司教様?!...はぁ。わかりました。失礼します」
「お待ちしておりました。黒髪隻眼の少年よ。どうぞこちらへ」
俺たちは言うだけ言って背を向け歩いて行った司教についていく。
聖塔の中は見た目よりもだいぶ広く、色は壁やら置物やら何から何まで全てが白い。
そして大広間のような場所の中心には、帝国のホテルで見た昇降機があった。それに乗ると司教が魔力を流し上へと登っていく。
「お待たせいたしました。この次のお部屋に我らが教祖様がいらっしゃいますので。...あぁ、ここからは少年とその奴隷のみ進んでください。あなたたちはこちらで」
「どういうこと?どうしてあたしたちが?」
「それが我らが教祖様からの言伝ですので」
「許可できないわ。あたしたちも行くわよ」
「それは困りますね...。どうしても行かれるのでしょうか?」
「えぇ、そういってるでしょ。ほら行くわよ、...やっぱりダメ!!ライド下がって!!」
「ハッ!!」
さすがというべきかライドはラミーの突然の命令にも即座に従い、ラミーを抱えて後ろへ飛び下がる。
その瞬間、ライドとラミーが立っていた場所が爆発し、その煙幕が晴れないうちに地面から壁と同じ色の障壁がせり上がり俺たちとラミーたちを分断してしまった。
「なっ?!」
「あれ〜?!外れちゃいましましたね!!。どうも!!いらっしゃいませですです!!」
すると煙幕の中から甲高い声で変な喋り方をする白衣を来た男が壁の中から歩いて来た。
「お嬢様、お下がりください。やはりというべきか、やつも『超越者』です」
「......そういうこと」
「えっ?!後ろから?!」
唐突に聞こえた声に振り返ると、さっきまで司教が立っていた場所には司教とは全く違う女性が立っていた。
「......別にあんたたちが何もしなければ、こっちも何もしないよ」
「我らは監視役ということですね?!うおおお捗りますですぅぅ!!」
「くっ!...ライド、この2人を前にして勝てる?」
「...申し訳ありません。決死で戦えと命令してくだされば今すぐにでも」
「...それはダメよ。...悔しいけれど、こいつらのいう通りに何もしないほうがいい訳ね。...それにいつのまにかカイトたち消えてるし」
「......それが正しい」
「なっ?!壁が閉まった!?」
「主さま!前!」
そう言われ、前を向くとそこには白を基調とし、縁に黒い線が入った外套を着た男が中心に立ち、左右に女性とナバス、そしてナバスの後ろにダンテとミネルヴァがいた。
「ナバス...。そして、お前が【傲慢】の魔王か。やっと会えたな」
「お待ちしておりましたよ、黒髪隻眼。ええ、ようやく会えましたね。その節はうちのナバスがお世話になったとか」
「そんなことを話しに来たんじゃない。ミアを、レイミアを返してもらいに来たんだ!」
「えぇ、構いませんよ。我々もそのつもりでここに丁重にお連れしたのですから」
「覚悟し...なんだと?本気で行っているのか?」
「えぇ、本気も本気。もしかして嬉しくなかったとか?あぁ、それは彼女が可哀想だ!あんなに君の名前を叫んで、君が助けに来てくれることを信じていたというのに!!」
「い、いや嬉しい。当たり前だ。ここにこうして助けに来たんだから。...ならミアはどこにいる!?」
「今連れてきてあげましょう。アイヤ、彼女をここへ」
「はい」
そうして奥の部屋からミアが連れられて来た。
「ご主人様!!助けに来てくれるって信じてました!!」
ミアが俺に向かって走り寄ってくる。その姿は俺が焦がれたミアそのままだった。俺はリトレアのことも忘れてミアを抱きしめる。
「ミア!よかった、無事で!どこも怪我はないか?!」
「はい!大丈夫です!会いたかったですぅ!」
もう決して離さないとしっかりミアを抱きしめる。ミアを素直に返したリトレアに違和感はあったが、そんなことよりミアが無事だったことの方が何よりも嬉しい。
「感動の再開は味わえましたか?よかったですねぇ。...それでは、会えたばかりで申し訳ないですが、もう一度別れていただきましょうか!!!」
俺たちは再会を果たすことができたことに感涙していた。たくさんの言葉を交わすよりも無言で抱きしめた方が何倍も気持ちが伝わると信じていた。
...いや、信じていたかった。
突如、ミアの背中の一部が光り始める。俺は突然の事に困惑しつつも、なんとか出来ないかと“罠解除”などを使って解除を試みた。
だが次の瞬間、俺は激しい衝撃に襲われ体が吹き飛ぶ。目の前の少女が弾け飛び散る姿で視界が埋まるとともに。
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