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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第9章
353/367

第329話 玉寓

遅れました!すみません!

 スキル、“炯眼けいがん” 。


 俺が新しく手にしたスキル。その能力はいくつかあるが、もっとも大きいのは即死回避の効果だろう。致命傷回避のスキルは、“身代わり”などいくつか持っていたが、即死だけはどうしようもなかった。今回はそれがどうにかなるスキルだそうだ。


 その代わり、複数のスキルが“炯眼コイツ”に統合された。


 一つ目は、“全鑑定”。

 鑑定スキルは結構戦術を組み立てるのにも役立っていたため一番喪失感が大きかったのだが、統合されただけあって“炯眼”スキルでも鑑定の発動が確認できた。


 二つ目は、“予知”。

 こちらも結構多用していたスキルだが、“炯眼”がそもそも“予知”の上位互換のような性能をしているため、そこまで驚きはなかった。


 三つ目は、“身代わり”

 あの懐かしき狼のうちの一体から奪って以降、なかなかこのスキルを持つ者に出会うことはないまま、統合された。


 他にも細かなスキルが統合され、能力としては、弱点看破を行う“天眼”や“千里眼”、“夜目”のスキルと似たことも可能となったが、俺がメインで使用していたこれらのスキルが主に統合されていた。


 そして、このスキルによる一番の変化は——


「ねぇ、もう一回見せて!!」

「何度も見ただろう?そんなに見たって変わらないぞ?」

「だってすっごく綺麗なんだもん!うちが見たいの!」


 そう言いながら、ミユとテミス、果てはサニアやセスまで俺の左目を覗きにくる。

 そんな、ミユたちが何度も覗きにくるこの左の瞳は、今やターコイズブルーと言うべき色をしていた。


 しかも、暗闇で見るとうっすらの瞳が光っているのだそうだ。右の瞳は変わらず黒色である。そのため、とても不自然なオッドアイの様相をしているのだ。


「ほんとに宝石みたい……。しかもすっごく強い能力になったんでしょ?」

「まぁな。でも、そのせいか常に魔力は削られてる。スキルの魔力自動回復でギリギリ普段は賄えているが、いざ全力の戦闘となると、戦いの最中にわずかに回復した魔力を使って、っていう戦い方は出来なさそうだな……」


 俺は自分のステータスをちらと見る。魔力は通常、魔法や武技などの魔力を使う行動をしなければ減ることはないが、数分に一度ゴリッと魔力が減るタイミングがある。


 そして、魔力が減るまでの間に自動回復で満タンまで溜まり、また減る、を繰り返していた。まぁ、ゴリッと減ると言っても魔力全体の数%なので、通常はそこまで気にはならないが、常に魔力に変動があるのは、最初のうちは慣れるのが大変そうだ。


「ほら、とりあえず2人とも起きてひと段落したし、彼女らも想像以上にスタミナを使っているかもしれない。今日は早めに休もう」


 時間は夕方。いつの間にか空は茜色に染まり、虫の鳴き声も聞こえてくる。俺自身、思った以上にスタミナを使っていたようで、簡易テントの椅子に座るとどっと疲れが襲ってきた。


「カイトくんも疲れてるみたいだね……。さすがにそうか。そしたら今日はうちがご飯作ってあげる!いっつもカイトくんが作っちゃうけど、うちだって料理できるしね!」

「本当か?それは楽しみだな」

「では、私も手伝いますよ」

「だーめ。テミスさんは当事者なんだからゆっくり体を休めること!」

「ありがとうございます。分かりました」


 今回ばかりはさすがのテミスもミユのお休み命令を受け入れ、自席に腰を下ろす。それから、ミユの言葉に甘えて彼女の料理を待つこと数十分。ミユが作る料理の包丁の音などをBGMに歓談していたところに、大皿に盛り付けられた料理が運ばれてきた。


 大皿の上には大量のから揚げが盛り付けられていた。


「お待たせ〜!いっぱい作ったけどサニアいるから食べれるよね!」

「から揚げか。そういや揚げ物はあんまりやらなかったな」

「カイトくんの場合、焼いたり煮たりがほとんどだもんね〜。揚げ物は日持ちしないし」

「そうなんだよな。でも、たまにはこういうのもいいな」


 使った肉は、鶏のものもあれば、鳥系魔物、狼のような筋張ったものや油の多いものまで、今まで取って置いておいた数種類の肉のから揚げらしい。


 どれがから揚げに合うか分からなかったため、いっそのこといろいろな種類を試してみたそうだ。


「さぁ、あったかいうちに食べよ!」

「いただきます」

「初めて食べる!いっただきまーす!」

「・・・いふぁふぁひふぁふ」

「ふふ、サニアさんもう食べてる。私もいただきます」


 全員で大皿に盛られたから揚げに手をつける。大皿のものを各自で取る行為を見咎める者はここにはいない。全員が、端に盛り付けられた野菜など目もくれず、いろいろな肉で作られたから揚げを頬張っていた。


「うん、うまいな!」

「おいしー!!」

「・・・はふはふはふはふ」

「おいしいです!」

「よかったー!うち、から揚げは得意なんだよね。なぜかほかの揚げ物はできないケド……」

「いや、充分だよ。これは美味しい。味も染みてるし衣もサクサクでうまい。これ以上のから揚げはなかなかないぞ」

「ほんと?そう言ってもらえると嬉しいなぁ!」


 一口噛むごとに、薄めに纏わせた衣がサクッと口の中で軽く解ける。それと同時に薄い衣に包まれていた肉から溢れんばかりの肉汁が現れるのだ。口の中を火傷しながら食べたい一品。さらにその肉汁に負けない、ただし喧嘩もしない味付けがまた、米を口に運ぶ手を進めさせる。


 確かにこの衣ならなおさら日持ちしないだろうとは思ったが、そんなことは何の問題にもならず、あっという間に大皿に何十個もあったから揚げは平らげられた。


「ふぅ、お腹いっぱいだ」

「いっぱい食べたー。でも口の中ちょっとヒリヒリするや」

「回復しますか?」

「ううん。これはこれでちょっと楽しいからいい!」

「口の中がヒリヒリする感覚が楽しいってどう言うことだよ」

「なんか、初めての感覚なんだもん!なんて言うか、触ってるのに触られてない、感じ?」

「確かに火傷した口の中って変な感じするよな」

「サニアさん、食べ終わったからって横になっちゃダメですよ。ほら、体起こして」

「・・・ねむい……」

「あんなに一気に食べるから」


 いつも通り、けれど少しいつもとは違う雰囲気の中、食事の時間は終了した。謎の存在に襲われた2人は病み上がりにも関わらず、そうと感じさせないほど健啖だった。


 食後はいつも通り、少しの歓談ののち、軽い腹ごなしのスパーリング。体の動きに違和感があるかなども含め、主にテミスとセスの様子を観察した。あれから特に問題はなさそうだ。


「それじゃ、ようやくというところだが、俺の報告をしよう」


 寝る前に忘れかけていた俺とオリジンサイドの報告を行う。巨人族のことやローブの女のこと。そして、奴隷として虐げられていた村の人々のこと。似たような光景は今までも見てきたが、相変わらず気分が良くなるものではない。


「『夕餉』とやらは、単純に考えると何かの儀式のための生贄のような形で使われているのでしょうか……。それともあの『獣』の真似をして……?」

「まぁどっちとも取れるよな。ただ、それよりはその儀式とやらを行うことによって、巨人族が何を成したいか、の方が気になる。だからそのローブの女には巨人族の目的を少し探ってもらうことにした。一応、打てるだけの事前策は打ったつもりだ。けど、俺たちには他の目的もある。『獣』の件もある。だから引き続き、手分けして進めたい」

「——え、いいの?」

「ん?そりゃもちろんだ。こうも情報が広がっていては、全員で一緒になって探すのに手間がかかって仕方ないからな。……まぁでもついさっきのこともあるからな。無理にとは言わないさ」

「ううん!手分けしよう!もう同じ目には遭わないよ!」

「そうか?なら頼んだよ」


 ミユたちが目をキラキラさせる。その理由はさすがの俺でも察せられた。


(この、どこまでも沈み込むような昏い感情は、()()()()()()()()()()()だ。なら——)


 ちらと、隣に座り込むオリジンを視界に収める。上から目線の少し腹の立つしたり顔でオリジンと目があった。


(こっち見てんじゃねぇ)

(フフフ。そうだその調子だ)

(うるせぇ)


 いつぞや船の上で言われた言葉を思い出す。ミユからテミスたちのことを聞いてから今現在含めて、俺の体を内側から飲み込もうとする昏い感情はドロドロと粘着してくる。あまり考えないようにしないと、いつ呑まれてもおかしくない、とまで思えてくる。


 けれど、この感情は、俺の真性の感情ものではない。そう頭で理解したからこそ、今までの軟弱な自分と決別できるいい機会だと思えた。


「引き続き、ミユたちには地下の大穴につながりそうな場所を探して欲しい。ただ、あの木に関しては明日俺も見てみよう。また何かあったらいけないからな」

「うん!」

「お願いします」

「よし。じゃあ今日はもう寝よう」

「おやすみー!」

「おやすみなさーい!」

「おやすみなさい」

「・・・うにゅ」


 サニアの起きているかどうか分からない返事を最後に各々がそれぞれの寝袋に入る。今まではみんなで同じベッドで寝ていたが、セスがいる間はさすがに難しい。1人だけ寝袋にするわけには行かないし、かと言って俺たちと一緒のベッドで寝るのは俺が許さない。


 しばらくするとみんなの規則正しい寝息が聞こえてきていた。








 ーーーーーーーーーーーーーーーー








「ほ、ほんとに出来るんですか?あの人、結構強かったです、よ?」

「キハッ!それは、オラっちの言ってることが信用できねぇってことかい?」

「いえ!滅相もないです!」

「キハハ、ならいいさ。オラっちの言う通りにすればいい」

「わ、分かりました……、『玉寓』さま」


 ローブの女、名をフィンという女は夜の暗闇の中、自室の神棚のさらに奥、普段はただの壁でしかないその場所から繋がる、ろうそく数本しかない薄暗い部屋で誰か、いやナニカと話していた。


 ナニカは、フィンに両手で抱え上げられており、人間の頭程度の大きさをしている球体だった。口は一つ、目は球体の至る所にあり、それぞれがさまざまな方向を向いて視線も定まっていない。そして、その球体には不釣り合いな、細い腕と足が左右に一本ずつ生えているが、どちらも左右で長さが異なりアンバランスで自力では立てなさそうな様相をしている。


 ソレが、数少ない光源であるろうそくに照らされ一層不気味に映る。


「キハハ。よし、お前は素直で敬虔なシモベだ。だからオラっちを失望させるなよ?」

「はい!」

「キハハ。えらいえらい。お前はとりわけ可愛がってやるぞ」

「ありがとうございます!何でもします!あなたのおかげであたしはアイツらを()()()()()()ことが出来たんですから……!」

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