第29話 Cランクダンジョン
「教祖様、レドックが潰されたそうです」
「.........そうですか。我々の証拠は消していますか?」
「はい。それともう一つ、『要』が奪われました」
「なにっ?!まさかここ最近の我が僕たちの失踪とは?!」
「はい。どうやらそのようです」
私は思わず肘置きを握りつぶしてしまう。別にあの街にいた者たちなどはどうなっても良かった。
だが、もうこの国トイトニスの近辺の亜人たちは取り尽くしたか、消してしまった。なのでイングラスの近くで見繕っていたのだが、最近少し邪魔が入るとの報告を受けていた。
邪魔といっても数回ほどで奴隷解放を謳っているわけではないようだが、拠点を1つ潰されたのは腹が立つ。
だが、そんなことよりも私たちの計画に絶対に欠かせない『要』を奪われたことの方が重大だ。
「『要』は今どこに?」
「今はある者と共にいるようです」
「ふむ、あの者ですか...。そういえばレドックについて、イングラスの王はなんと言っていますか?」
「検挙されたのであれば処罰せざるを得ないと。すでに隠蔽は不可能なレベルようです」
「......ちっ。あそこは1番大きな場所だったので重宝していたのですが...。では今、奴の居場所は分かっていますか?」
「はい、帝国にいるようです。おそらく目的は迷宮街でしょう。ここ最近ダンジョンに潜っていることからもそう推測されます」
「ふふっなるほど、迷宮街ですか。ありがたいですね。確かあそこにはナバスがいたはずです。やつに伝えなさい、黒髪隻眼の男、カイト・ヒュウガから『要』を奪えと」
「はい。かしこまりました」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれからまた1週間ほど時間をかけ、俺たちの目的地である迷宮街バナムに到着した。夕方なこともあり、検問を通って宿を探す。
今回は比較的スムーズに見つかり、[昼の夜更け]亭に泊まることとなった。
「今日はもう遅いから、また明日ギルドへ行って情報をもらってダンジョンに向かおうか」
「はいですっ!」
「わかったわ...。おやすみ...」
さっきもう夕食を食べ終わったからか、サニアはすぐに眠ってしまった。
索敵などで疲れていたのもあるだろう。それに対し、やはりまだ少し俺たちの中では幼いからかミアはとても元気だ。
だが、明日からまたダンジョンに潜るつもりなので早めに寝かせる。
「ミア、明日からダンジョンに行くからもう寝ないと」
「もう少しお話してちゃダメですか?」
「...少しだけだよ?」
「はいですっ!」
ミアの寂しそうな顔に負けてしまった...。
それから1時間ほどで話疲れたのかミアも静かな寝息を立てて眠った。それを確認した俺も2人の頭を撫でて同じように眠りについた。
「おはようございます。ダンジョンの説明ですね。この街には10個のダンジョンがあります。初心者用Fランクダンジョンが2つ、初心者〜中級者用EランクとDランクダンジョンが2つ、中級者〜上級者用Cランクダンジョンが1つ、上級者用Bランクダンジョンが1つ、最後に一流用Aランクダンジョンが2つあります。そして、他の街とは違い、あらかじめこのギルドでどのダンジョンに入るかの申請をしていただきます。そうするとギルドカードに記載されますので、それがダンジョンへの入場証となります。ここまでで何か質問はございますか?」
「うちのミアのギルドカードを作ってもらうことは可能か?」
「はい、大丈夫ですよ。帝国は王国と違って亜人差別はありませんからね。他にはございますか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
「わかりました。それではこちらの水晶に手を当ててください」
いつか俺がギルドカードを作った時と同じように机の下から水晶が出てきた。それが少し光った後、手慣れた様子で受付嬢はギルドカードを作ってくれた。
「はい。これで完成です。ではどのダンジョンに潜られますか?」
「それじゃあCランクダンジョンで」
「Cランクダンジョンですね、わかりました。私たち当ギルドはダンジョン内での怪我、死亡に関して関与しませんので悪しからず」
そう受付嬢はミアを見ながら忠告してきた。まぁギルドカード作るときにレベルを見たって言っても見た目は完全に小さな女の子だもんな。
「わかってますよ。忠告ありがとうございます」
「いえいえ。あ、忘れてた。これだけはみなさんに伝えているんですが、最近稀にダンジョンレベルにそぐわない魔物が発見されています。とはいっても桁外れなものは報告されていないんですが、出ていないだけという可能性もありますのでその点は十分注意して下さい」
「わかりました。気をつけます」
そして俺たちはギルドを出て、屋台で買い食いをしつつダンジョンへの入り口を目指す。
「新しいスキルをまた取れるといいな」
「集めてるの...?モグモグ」
「あぁ、できれば全種類集めてみたい。気が遠くなるかも知れないけどさ」
「はむはむっ」
サニアは俺に聞いてきたものの両手いっぱいに持っている肉串に夢中だった。ミアもハムスターのように頬張っている。
「お肉に夢中だな...」
そんなことを話しているとダンジョンへの入り口が見えてきた。もうギルドで入場証は持っているからか、門番にチェックされることもなかった。
そして、入り口をくぐるとそこは膝あたりまでの水位がある一面海の場所だった。
水は地面が見えるほど透き通っていて、水中にいる生物もはっきりとわかる。だが、ここはダンジョンだ。ただの生物がいるはずもない。
しかし、周りを見渡しても陸地はなく、ひたすら水平線が広がっていた。
「これは...まずいな」
まず最初に俺が危険だと感じたのは、このままでは水位自体は低いといえど体温は奪われるし、水中からの攻撃をうまくかわすことが難しい。
かといって無理に進もうとしたら水圧によって体力を消耗してしまう。
「水中の魔物に気をつけて。でもあまりゆっくりしていると体温が奪われるから移動しよう」
「わかったわ...」
それからしばらく進んだが、やはり地面は膝下から変わらないようだ。
だが、ピラニアのような魚の魔物が時折襲ってくる。それを俺は“予知”で、サニアは持ち前の動体視力で、ミアは俺と同じ“予知”を世界から読み取り発動させていた。
「これは疲れ...っ!」
俺は突然“予知”に出てきた上空からの攻撃に対して刀で応戦する。
それはカモメのような姿をしながら羽は刃のように鋭く、口もカモメにはついていないノコギリのような牙を持った魔物が羽の刃を剣のように俺に叩きつけていた。
「そうだよな!海の魚がいればそれを狙う鳥もいるよな!」
失念していた。
下の魚ばかりに気を取られ、上の注意を怠っていた。俺は空に逃げようとする魔物を“雷嵐魔法”で気流を生み出すことで狂わせ落とす。
そして、落ちてきたそのカモメもどきを刀で斬り、さらに俺を背後から襲おうとしていた魚と仲間の鳥はサニアとミアが相手をしてくれていた。
そうして俺は空を、サニアとミアは海を警戒するという形に自然となっていた。
そうして1時間近く歩いていると、次の層へと降りる階段を発見した。
「下向きの階段なのに水は流れないんだな。不思議だ」
その階段を降りた俺たちの前には、また同じような水面があった。そして空には先ほどの層にもいたカモメの他にトンビのようなものもいた。
「また海か...。ここも5層毎のエリア変化か?」
「そうなんでしょうね...」
「寒いですぅ」
俺たちはげんなりしながらも2層目の海へ降りていく。
「やっと終わったぁ!」
「疲れたわ...」
「はひゅぅ」
俺たちはあれから3時間しないうちに海エリアを全て抜けた。
途中から海で足が濡れることを嫌ったサニアが氷で足場を作ったところとても楽なことに気づき、俺とサニアの2人がかりで氷を作りつつ、走り抜けた。
魔物は襲ってくるものや初めて見るものは全て俺が“雷嵐魔法”で雷を放って片付けた。魚は氷漬けの過程で勝手に死んでいった。
本来ならここはボス部屋へと続く扉があるはずなのだが、続いているのは下へと降りる階段だった。
「ボス部屋がないのか?もしかしてCランクダンジョンから仕様が変わるとかか?」
まぁ階段しかないのなら降りるしかない。
少し休んで行きたかったが、海エリアの時に階段で休んでいると、後からきた冒険者に邪魔だと怒られてからは、階段を極めてゆっくり降りるという情けない形で体力を回復していた。
俺が海エリアで取れたスキルは“水泳”、“水砲”、“水刃”、“融体”、“水魔法”で鳥は“飛行”、“羽刃”、“噛み砕く”、“風魔法”だった。
6層目に降りた俺たちに待ち受けていたエリアは以前Eランクダンジョンにもあった森だった。
だが、違うところは森というにはおどろおどろしく、以前は昼の日差しが差し込んでいたのに反して、今回は夜で数歩先も見えないようなエリアだった。
「これは...怖いな」
「私もこれは無理...」
「ぅぅぅぅぅ」
俺はまだしもサニアでさえ躊躇し、ミアに至ってはもうサニアの背中に顔を隠して前すら見ていない。
だが、そうもいっていられない。俺は“豪炎魔法”とそこらに落ちていた太めの棒を使って松明を作ると彼女たちの手を引いて奥へと進んでいく。
やはり夜の森だからか、猿や猪などの魔物よりも梟やグールなど夜に多く生息する魔物がいた。
そいつらを俺は“光魔法”で、サニアは“極氷魔法”を使った隠射で倒していく。
ミアもだいぶ慣れてきたのかいつも通り“雷嵐魔法”と弓の合わせ技で敵を倒していく。
「夜の暗さにも怖さにもだいぶ慣れたけど、階段の場所がわかりづらいのはきついな」
そうなのだ。
今は8層目にいるのだが、すでに海エリアにいた時よりも時間が経っている。
なにしろ松明で明かりをつけているため敵に襲われやすく、だが、明かりの範囲が狭いため階段が見つけにくいのだ。
俺には“夜目”があるのだが、他2人は持っていないため、行進速度が上がらない。その上木々に視界が遮られるのであまり意味をなさないのだ。
また、階段も普通の地面にあったり、エリアの端にあったりと決まった位置ではない。それもあって余計時間と体力が奪われていた。
「今日はこの辺りで一度休むか」
「大丈夫かな...?」
「襲われませんか?」
「それに関してはいつもの野宿と一緒だ。でもおそらく起きた時も真っ暗だろう。できれば明日にはこのエリアを突破したい。でないと感覚がおかしくなってしまう」
聞いた話だが、人間は真っ暗な場所に長時間いると気が狂うと言われている。
まだ魔物などのランダム要素があるためマシだが、それが一種の作業になってしまうと危うい。その前に出なければならないのだ。
「Cランクダンジョンになってから急に難易度が上がったな。いや、Dランクダンジョンを行っていないからそう思うだけか?」
ミアのレベル的にもちょうどいいと思ったのだが、こういったギミック的な面の難易度は全く考えていなかった。
海エリアもこのエリアも単純なエリアではない。考えて動かなければ死につながる場所だった。
もう3人ともテントを張るのは慣れたものでそう時間はかからずに終わった。
それに俺のスキルが“無限倉庫”に変わってから、倉庫の中では時間が止まるようになったのでその倉庫にあらかじめ料理を作っておいた。
それを食べ、早いうちに眠って体力が回復し次第出発することにした。
起きた俺はテントから外を見てやはり夜しかないことを確認した。
そこからしばらく外の見回りをした後、帰ってきた俺は2人を起こし用意をさせる。準備ができるとともに外に出て先ほどの見回りの時に俺の“夜目”で見つけた階段をすぐに降りた。
そして起きてから体内時計でおよそ3時間ほど経ったあたりで、ようやくボス部屋の扉に辿り着くことができた。
「やっぱり10層毎になったのか。少し休むか?」
「ごめんなさい主さま...。休みたい...」
「ごめんなさいです。ミアもですぅ」
正直俺も休みたかった。
なにしろここには今までのエリアにはなかった明かりがあるのだ。やはりボス部屋は特別な扱いなのだろう。
俺は夜の森エリアで取れたスキルを確認していた。スキルは“夜目”、“闇魔法”、“暗黒耐性”、“遠視”、“迅爪”と俺の持っているものばかりだった。
周りを見渡すと俺たちと同じように明かりに安堵を抱いているのか、休んでいる冒険者が多かった。
そのうちの1チームが俺たちの方に近寄ってきた。
「お疲れ様。君たちも一休み?...あぁ、ボクはクスネって言うんだ。左の彼女はミネルヴァ、右の大男はダンテ。よろしくね!」
ブクマとチャンネル登録よろしくね!




