第28話 王都からの旅立ち
朝早くから来ていたのもあって、昼前にはすでにダンジョンの最終層に着いていた。
「よし、お疲れ様。これからボスだ、気を引き締めて行くぞ」
「はいですっ!」
「わかってるわ...」
いつものようにボス部屋を開くと、もうお馴染みとなったロウソクが手前から順に付いていく。
そして、ロウソクに照らされ姿を現したのは逆立ちをした猿だった。だが、普通の猿ではない。
その姿は頭を上にも下にも持ち、どちらもこちらを嘲っているような表情をしている。そして片足には槌を、もう一方には杖を持っていた。
名前:ライオットビックワイパー
種族:双頭猿
Lv:60
スキル:器用Lv.7 槌術Lv.6 光魔法Lv.5 思考分割Lv.3 俊敏Lv.6
「フンギャオオオ!!!!」
足で武器を持ってまともに戦えるのかと思ったが、どこにそんな力があるのか、叫びながらとんでもないスピードで迫ってくる。
ワイパーはその勢いのまま足に持っている槌をサニアに向けて振りかぶる。サニアはそれを落ち着いて避け、避けたその勢いのまま回し蹴りでワイパーを蹴りつける。
ワイパーは咄嗟に防御行動を取るもサニアの速さに追いつかず崩れた防御の上から蹴りをくらい、飛ばされる。そこにすかさずミアが上の方の顔を狙って矢を放つ。
ワイパーとミアは実力が拮抗しているせいか、ダメージがあまり入らないものの顔に当たる矢が鬱陶しいらしくミアに標的を定めた。
そして、ミアに突っ込みながら下の方の顔が猿語?で呪文を唱え、自分を回復する。そのままサニアにもしたように槌を振りかぶる。
だが、ミアは俺が守っているためその槌はミアに届かない。
俺は刀でワイパーの槌を弾き、反動で大きく開いた腹目掛けて刀の柄で思い切り殴り飛ばす。
「今だっ!ミア!」
ミアの進化した“雷嵐魔法”で矢に風の螺旋を纏い、俺のかけた“幻惑”でミアの姿を隠しているおかげで放てる“隠射”でワイパーに向けて2本続けて射る。
「ショワァァァアァッッッ!!!」
両方の顔に矢が刺さったワイパーは火事場の馬鹿力で奇怪な声をあげながらその場から飛び上がり、怒りと恨みのこもった目でミアを見据える。
「ふぇぇぇぇっっ!!!」
あまりの形相に縮こまってしまったミアは俺の背中に隠れてしまった。
「仕方ないな。まぁよくやった方か」
俺はこちらに飛んでくるワイパーを迎え撃ち、頭の先から頭の先まで?一刀両断にした。
『経験値を獲得しました。スキル:簒奪により取得経験値が半減します。スキル:簒奪の効果により、スキル:器用 槌術 光魔法 思考分割 俊敏を獲得しました』
名前:日向 海斗
種族:人間
年齢:18
Lv:194
スキル:
《魔》Up豪炎魔法Lv.4 Up光魔法Lv.8
《常》New思考分割Lv.3
称号:簒奪者 強者食い 死霊操者 限界突破者 透破者 武を知るもの 魔を知るもの 嗅知者 槍の寵愛 剣の寵愛 嵐の寵愛 弓の寵愛 速の寵愛 嵐の加護 闘の寵愛 栄える者 力の寵愛 通ずる者 宣実者 域選者
名前:サニア・バードレイ
種族:狐獣人
Lv:129
スキル:変幻碧尾Lv.- 極氷魔法Lv.2 閃爪Lv.4 瞬動Lv.2 闘聖術Lv.1 採掘Lv.2 Up隠射Lv.4 環境適応Lv2
称号:尾格者 限界突破者
名前:レイミア・シルフィード
種族:森長耳
Lv:61
スキル:星詠廻転Lv.- 雷嵐魔法Lv.2 弓術Lv.9 遠視Lv.6 遠射Lv.7 Up強射Lv.5 隠射Lv.4 環境適応Lv.2
称号星を識る者 風精霊の愛し子
それから俺たちは特にあまり使い道の無い杖のドロップアイテムを拾い、ダンジョンの外へと続くポータルへと乗る。
『Dランクダンジョンのクリアを確認しました。それによりランクに応じた経験値が付与されます』
前と同じようなアナウンスがダンジョンを出たタイミングで鳴った。
これによりミアがまた2つレベルが上がり、サニアも久しぶりにレベルが上がったらしい。
「主さま...。わたしもようやくレベルが上がったわ...」
「ミアもです!上がりました!」
「よかったよかった。それじゃ大変だろうけどこのままこの街を出ようか」
「はいですっ!」
「わかったわ...」
昨日のうちに食材などの買い足しは済ませていたのでこのまま出られる。
俺たちはダンジョンを出たその足で検問へと向かい、イングラスの王都を後にした。
1週間後、俺たちは帝国のンヌビタス領の宿にいた。
王都から帝国の土地まであまり離れていなかったからか何事もなく帝国に着くことができた。
まぁ、一応目的地は次の街なのだが、野宿の疲れというのもあり一度ここで体を休めることにしたのだ。なぜこの領かというと、なんといっても温泉!
そう!
この領は昔召喚された勇者が作った街だそうで、その人物により温泉が掘られたのだという。
長らく俺は風呂に入れておらず、体を拭いてばかりだったので久しぶりの温泉に心が踊っていた。
「温泉はいいぞ?体中の疲れが取れて行くからな」
「そんなにいいの...?それなら早く入りたいわ...」
「温泉ですか?ミアも興味あります〜」
「この宿は温泉がついてるから入れるよ。それが目当てでこの宿にしたしね」
そうして俺たちは部屋を取るなり、温泉に入りにいった。
「あぁ〜、やっぱり気持ちいい。風呂はやっぱいいよなぁ。あ、そうだ。魔法使えばいいんだよ!」
俺はなぜ今まで思いつかなかったのかと後悔した。俺は魔法を全て使える。進化していないものもあるが、風呂を作るくらいの魔法なら全然使える。
「よし、今度から毎回風呂を作ろう。温泉よりかは劣るだろうけど体拭くだけよりマシだ」
そう俺は決意を固めた。
それから1時間ほど入り、俺は風呂上がりに飲む牛乳のようなものを飲みながら彼女たちを待っていた。
...こんなところまで律儀に再現しやがって。ナイス!昔の勇者!
「おまたせ、主さま...」
「気持ちよかったですぅ!」
「おかえり、気に入ってもらえてよかったよ」
風呂から出た後、俺たちは着替えてこの街を観光しながら屋台でご飯を買い歩いていた。
やはり勇者が興した街だからか見覚えのある商品が多い。街並み的には歴史に出てくるような城下町だ。
長屋のような建物に黒い屋根、住人が着ているものは帝国の服で江戸時代に着られていたようなものではないが、それでも決して浮いているような感じはしない。
当然、日本から来た俺はこの街がとても過ごしやすかった。
それから俺たちはここが気に入ったこともあって3日ほど過ごした後、この街を出て本命の目的地、迷宮街へ赴くことにした。
「またこの街に来られますか?ご主人様」
「あぁ、俺もまた来たいしね。家買おうか迷ったくらいだし」
「買っても良かったのに...」
「まぁそうなんだけど、旅もしたいからね。それに俺の魔法を使えば旅の途中でも風呂に入れることがわかったから」
「ほんと...!?やった...!」
「ほんとですかっ?!やったですっ!」
「うん、早速今日の夜作るよ。1度作ってしまえば、あとは“限倉庫”に仕舞えるしね」
昼過ぎに街を出たこともあって、そろそろ日が沈んでくるので俺たちは早めに匂いを辿って水場を探し、テントを立てた。
そうして2人と、もちろん俺も楽しみにしていた風呂づくりだ。
まず、“大地魔法”で大きめの浴槽を作る。これは見本だ。次は土の材料を宿にあった風呂を真似して大理石に近いものに“大地魔法”で変化させる。
後は川の水を汲むか、“極氷魔法”で作った水を浴槽に注ぎ、それを下から“豪炎魔法”で温めて行く。
やっててわかったが、かなり難しかった。
“深化”が発動してしまうほど集中していても、火が弱すぎてお湯にならなかったり強すぎて熱湯になったり、最悪だったのは火が強すぎて、大理石が割れてしまったのだ。
そもそも大理石に作ると言ったものの、これにもすごく時間がかかったのだ。
まずどんな材質で大理石のできているのかや配分などがわからないからな。
そうして約2時間ほど作り続けた結果ようやく満足のいく風呂が出来上がった。あたりを見回すと真っ暗となっており、風呂の火に気づいて近寄ってきた魔物の死体がそこら中に転がっている。
魔物は全て飯の材料となるので全て取っているのだが、もうすでに食べきれない量が“限倉庫”に入っている。
だが、放っておくとまた別の魔物がやってくるので処理しなければならないのだが。
風呂ができたことを2人に伝えると彼女たちは無邪気にはしゃぎながら風呂へと向かっていった。
俺は彼女たちが風呂ではしゃいでいる声を聞きながら、ご飯の準備する。
あと少しでできるというところで2人とも風呂から上がってきた。
「いい匂いがしたから上がったわ...」
「お風呂気持ちよかったです!」
「よかったよ。俺も後で入るから楽しみにしておくよ」
今日の献立は猪の骨から取った出汁と肉のスープだ。というかほぼ毎日魔物の肉が違うだけのスープだ。
炒め物とかでもいいのだが、この世界は日本のような四季がなく、日が出ている間は温かく、日が沈むと寒くなるというわかりやすい世界だ。
なので夜に食べるのはスープの方が体が温まりやすく、寝るときに風邪をひかないのだ。まぁ俺は耐性があるので大丈夫なのだが、彼女たちはどうかわからんしな。
そうしてスープを食べ、余ったものをまた“限倉庫”にしまうとようやく“限倉庫”のレベルが上がり、上位の“無限倉庫”へと変わった。
スキル 無限倉庫 亜空間に容量のない倉庫を持てる。レベルが上がるごとに効果が増えていく。
どうやら“無限倉庫”にもまだレベルがあるらしい。無限なのに後は何を足すのか不思議だが、容量の制限がなくなったのは純粋に嬉しい。
「よし、これで荷物の量を気にしなくて済むぞ」
それから俺は待ち望んでいた風呂に入り、存分に堪能した。
サニアたちはまだ寝ずに外にいるというので、俺はテントに入り眠気に逆らわず布団へと入った。
「なんで何もしないのかしら...」
「サニア姉様は何かされたいのですか?」
「よくわからないわ...。でもこの人は私にとって大事な人よ...。ミアはどう...?」
「...はい。最初はこの人も人間なので、いずれミアは酷い扱いを受けると思っていました。でも、この人はずっと優しくしてくれて、サニア姉様の話を聞いてもいい人なんだと知って...この人について行くのならいいかなって...そう思ったんです」
「そう...今はそれでいいと思うわよ...」
「はいです!」
聞こえてんだけどな、と内心恥ずかしく思いながらも俺はやはり2人がそう思ってくれていることに喜びを隠せなかった。
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