第274話 ブレイン
「・・・“念話”使えるよ?」
「「え?!」」
「「なに?!」」
サニアの言葉にミユとテミス、コライドとシィクが揃って驚く。しかし、その驚き方は互いに正反対だった。ミユとテミスは嬉し半分、コライドとシィクは不信半分だ。
「バ、バカな?!確かに念話は封じた!現に私には君たちの声が聞こえていない!!“念話”は対象の者すべてに声が届くのではないのか?!彼のその言葉に嘘はなかった!」
「・・・そうよ、だって嘘はついてないもの」
「な、なんだと?」
「・・・でも、対象を選べることまでは話してなかったわ」
「な、なんだそれは?!ふざけるな!!」
「・・・知らないわよ。わたしたちだって、最初からあなたを信用してたわけじゃないわ。それに、あなたが嘘を見抜けることだって分かってたの。対策を打つのは当たり前でしょ」
「クッ……」
「で、でもサニア!ほんとに“念話”は使えなかったよ?!」
「・・・わたしも詳しくは分からないけど、主さま曰く、自分で“念話”を使えないようにしてるって。詳しくは自分で聞いて、話すの疲れた」
「サニア……、あはは」
(カイトさん?聞こえますか?)
(ああ、聞こえるぞ)
テミスがサニアの話を聞いてさっそくカイトに“念話”に繋いでみると、いつも通りに繋がった。
(よかった、繋がりました。今、サニアさんとミユさんと一緒にいるんです。カイトさんは今どちらへ?)
(ああ、サニアから聞いてる。俺は今サイモンを追っている、もうすぐ追いつきそうだ。そっちはコライドとシィクだろ?いけそうか?)
(はい、それは大丈夫です)
(カイトくん!こっちは大丈夫なんだけど、なんで“念話”使えなくなったの?)
(ん?それは簡単だ。ミユに分かるように言うとミユたちが圏外にいたから、俺がいくら電話しても繋がらない状態だったんだよ。こう言えばなんとなく想像つくだろ?たぶん、奴らが使ったのは、ミユたちを強制的に圏外にするような物だ)
(あー、なるほど)
「・・・もう行っていい?」
「行かせねぇよ!まとめておいらが相手してやる!」
「行かせます!あなたはわたくしが相手いたします!」
「チッ!犬ごときがぁ!!」
「・・・じゃ、あとよろしくー」
サニアを狙って投げられたシィクの剣がロベリアの大斧で防がれる。サニアはそれに目もくれず、コロッセオから出ていった。
「私はミユさんとロベリアさんを援護します!」
「おねがい!テミスさん!」
「フッ、まあいい。“念話”が使えたからなんだというのだ!ここで君たちを倒してしまえばそれで終いだ!!ハァァ!!」
「やってみろっての!!」
テミスを援護にミユとコライド、ロベリアとシィクの戦いが幕を開けた。
ーーーーーーーーーーーー
(・・・主さま、今どこ?)
(ちっ。俺たちが最初に泊まった宿だ。奴の狙いは……)
(・・・もしかして、キャメルン?)
(ああ、そうらしい)
(・・・すぐ行く)
(頼む)
「厄介なことしやがる」
「元はと言えば、君が勝手に連れ出すからだろ?」
「やっぱりキャメルンもてめぇが絡んでやがったか」
「ま、もう隠しても仕方ないし、というか【炎鳥】の件を青髪の獣人に見られているから、隠す必要もないか。そうだよ、君に【炎鳥】を差し向けたのも、【炎猩】を差し向けたのも、この街をファットラビットの大群で押し潰したのも、『メサイア・アルケミスト』参加者殺害事件の犯人に仕立て上げたのも、その遺体の拉致も全て僕さ」
「ところどころ知らなかったことがあったが、元凶は全ててめぇだってことだな。だとしても街を破壊することとキャメルンを監禁することに何の繋がりがある?」
「うん?君は彼女の有用性を理解してあの場から攫ったのではないのか?」
「はあ?知らねぇよ。俺はコライドの指示に従って王宮に行ったんだ。そしたら既に殺された王族とある一室に監禁された彼女がいたんだよ」
「なるほど、コライドのせいか。はぁ、所詮は奴も脳みそが筋肉で出来た虫ケラだったか。余計なことをしやがって」
「はっ。だんだん口調が変わってきてんぞ?そっちが本性かよ、今のお前の姿を見たらお前のファンが発狂するな」
「もはやどうでもいい。そして彼女、【ブレイン】の有用性に気づかん貴様もいらん。なぜ僕がわざわざここまで来たか分かるか?!」
「あん?……おい、何してる?」
互いに屋根の上に立つ俺たち。そしてサイモンが立つ屋根の後ろの建物は俺たちが最初に泊まった宿だ。その半壊した建物の中には眠ったままのキャメルンがいたはず。さらに俺は眠ったままのキャメルンが襲われないように結界を張っていた。
「なんで出てきた?!キャメルン?!」
「ハハハッ!このためにここに来たのだ!!結界なんぞ関係ない!【ブレイン】は僕のものなのだから!!」
しかし、屋根の上に立つサイモンの隣には頭の機械はそのままに、目を閉じたキャメルンが立っていた。
「フン、手間取らせやがって。僕の実験体如きが僕の許可なく行動するな」
「……」
「おい!どうなってる!?結界はどうした?!」
「貴様に教えるわけがないだろう。だが、僕の素晴らしさを知らずに死ぬのはもったいない。だから、【ブレイン】の有効な使い方というものを披露してやろう」
——五連結【超脳演算式】起動。
「なっ?!」
サイモンが何かを呟いた途端、サイモンの首の後ろから細長い糸のようなものがいくつも吐き出された。そしてその無数の系は、次々とキャメルンの頭に嵌められた機械に繋がれていく。
「クッ、ウガアアア!!!」
「何が、起きている……?」
そしてサイモンの脊髄辺りから吐き出された糸が全てキャメルンに繋がった瞬間、サイモンは奇声を上げながら倒れ伏した。その側で虚に揺らめきながら倒れることなく佇むキャメルンは、未だ目を開かない。
「ハァ、ハァ、ハァ。これで貴様は終いだ!」
「っ!!」
頭に走った“予知”に従って、全力で後ろに下がる。その数瞬後、突如どこからか現れた百を超える手のひら大の機械が、俺の立っていた場所を破壊した。
「っぶね!……っ!」
さらに休む暇なく、上下左右から多数の機械が俺を狙ってレーザーを放ってくる。細長い光の槍がどこまでも俺の体を貫かんと狙い続ける。見てからでは避けるのが間に合わなかった。
俺は屋根から飛び降り、少しでも射線を切るため、瓦礫や半壊した家屋を使いながらレーザーを遮り、細い路地の瓦礫の影に隠れる。サニアからこの小型のレーザー砲の話を聞いていなければ、最初の弾幕でやられていた。
「チッ!どこへ消えた?!雷と炎の魔法使い如きが、太陽の光を統べる僕から逃げられると思うなよ?!」
瓦礫の端から声の方角を覗いてみると、気持ち悪いほど大量の機械に囲まれたサイモンが、目を瞑ったキャメルンを運びながら歩いているのが見えた。その間にも手当たり次第に瓦礫や半壊した家屋をレーザー砲で薙ぎ倒している。
「・・・主さま」
「サニア、来たか」
「・・・なにあれ?」
「分からん。キャメルンがサイモンに合流してから奴が首から何かを出したんだ。そしたらあんな気持ち悪い状態になった」
「・・・見たくない、気持ち悪い」
「同感だ。集合体恐怖症ではないが、アレを見ると少し気持ちが分かるな」
「・・・わたしが戦った時は五台しかなかった」
「じゃあやっぱりキャメルンにつなげた何かがアレになったんだな。奴のスキルにもそれらしきものはない」
名前: サイモン・アグリエイズ
種族:人間
Lv:391
スキル: 闘弓Lv.- 武装地顕Lv.- 速算Lv.10 研究Lv.10 深化Lv.10 闘聖術Lv.10 弓聖術Lv.10 大地魔法Lv.10 錬金術Lv.10 剛力Lv.10 頑丈Lv.10 瞬動Lv.10 博識Lv.10 精密Lv.10 咒力特自動回復Lv.10 崩天Lv.10 崩撃Lv.10 天穿Lv.10 剛射Lv.10
称号:限界突破者 超越者 闘弓者 装地者 力の寵愛 防の寵愛 速の寵愛 識の寵愛 智の寵愛 咒の寵愛
スキル:武装地顕 術者の想像する武装を大地から生み出す。ただし、魔力で精製するため、最大24時間で崩壊する。または、魔力が尽きても崩壊する。同時に精製可能な武装は5つ。
サイモンのスキルは全体を通して攻撃に寄っている。中には錬金術師らしいスキルも有してはいるが、Sランク冒険者を兼任しているだけあってしっかりとスキルは揃っている。
「サニア、とりあえずキャメルンをまず救うぞ。少なくとも今のサイモンを強化しているのは、キャメルンだ。アレさえ外せばまだマシになるだろ」
「・・・分かったわ。どうすればいい?」
「よし。じゃあまずは——」
作戦を理解したサニアは、音を消して俺の前から動き出した。そして俺はそれに合わせてサイモンの前に躍り出る。
「やあっと見つけた。隠れるのが得意なんだね?でももう逃がさない。さっきは君を侮って起動させなかったけれど、今僕は感知レーザーを起動した。そして、君の体格、匂い、心拍数、体温、あらゆる君の情報をインプットした。これで、君はもう隠れられない!」
「安心しな。もう隠れる必要なんてないからな」
「貴様アアア!!どこまでも僕を愚弄してくれる!!僕の力作!【真・光灼砲】!!夷狄を消し滅ぼせええ!!」
「っ!!」
俺の眼前に、さらに左右後ろ、そして上から、数えきれないほどの砲塔が俺を狙う。先程と違い、後ろに逃げる事はできない。それどころかどこにも逃げ場はない。
「なら、前だ!!」
俺は前身しながら久裟薙剣を抜き、前方に密集する機械群をまとめて薙ぎ払う。それと同時に俺の魔力、『雷炎』で強化したテロルの棘が、真後ろの機械群をまとめて貫く。
そして、俺がレーザー砲の包囲網から抜けて、サイモンの眼前にたどり着いた瞬間、轟音を上げてレーザーが俺のいた場所を消しえぐる。
「なッ?!なんだそのスピードは?!」
「残念だったな。放つ瞬間を敵に教えてるようじゃまだまだなんだよ!サニア!!」
「・・・こくっ」
「クッ!!貴様らアアア!!」
俺の声に合わせて、サイモンの後ろに浮かぶ機械に背負われたキャメルンの元へサニアが降りてくる。ふわりと物音立てずに着地したサニアは、優しくキャメルンを抱きしめてサイモンから引き離した。
——引き離そうとした。
「ギャアアアアアアア!!!!!」
「・・・っ?!」
「なんだ?!」
サニアに抱えられたキャメルンが突如、悲鳴を上げて暴れ始めた。まるで彼女の体の中で怪物が暴れ回っているかのようにのたうち回り、その勢いで自ら背骨を折ってしまいそうなほどえび反りになってしまっている。
「サ、サニア!」
「・・・わ、わかんない!外せない!……くっ!」
「アッハハハハ!!!!そらどけえ!!僕の【ブレイン】に気安く触るなあ!!」
キャメルンを抱えていたサニアだったが、暴れ回るキャメルンを抑えていられなくなり、さらにレーザーまでもを放たれたせいで、その場にいられなくなった。
「どうなってる?」
「アハハハ、アハハハハ、アッハハハハ!!その顔、いいねえ。もっと見たいから教えてあげるよ。君の周りに浮かんでいる僕の愛し子たち。彼らはこの【ブレイン】で動かしている。ただの“演算”で動かしてるんじゃないぞぅ?【ブレイン】との生体リンクで動かしているんだ。だから、一つ壊せばその分【ブレイン】にフィードバックが来る。そしてその愛し子たちは!!この国の住民の!!『脳』を使って動かしている!!一人一つずつ、例外はない。だから、一機壊せば、一人が死んだ痛みが彼女にフィードバックする。
——さて君は今、何人殺したんだい?アハ、アハ、アハハ?」