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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第7章
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第205話 神への挑戦

「さて、ヴェナル。答えを聞かせてくれ」

「……あぁ。だが、最後にもう一度教えてくれ。お前さんはあの鉱石をドワーフの国から手に入れたのではなく、この国に根差すダンジョンで獲得したというのは本当か?」

「まだ言ってんのか……」

「大事なことなんじゃ」

「……あぁ、本当のことだ」

「そうか。【鮮血姫】と戦うというのも本当のことなのか?」

「ああそうだよ」

「そうか……。それから——」

「じじい、もう諦めなよ。そいつは嘘を言ってない。認めな。それにこれ以上やるとあんた死ぬぞ?」


 しつこく尋ねるヴェナルに俺は少し苛ついていた。それを制するような形でこの部屋の横の扉から一人の線の細い男が入ってきた。


 そいつは目を黒い布で覆っており、体も黒い服で統一されていた。しかし、体にぴったりと張り付くような服のため、彼が男であり危ういくらい細身であることも分かった。


「ヨルド……。クソッ、分かった。お前さんが嘘を言ってないことは認めよう。……それとヨルド!!わしのことはお父さんと呼べ、と言うとるじゃろうが!」

「はぁ?!その歳でお父さんなんてガラじゃないだろ!それにぼくのことはフワルドアって呼べって言ってるじゃん!!」


 そしてそのままヴェナルとヨルドだかなんだかと呼ばれた男は口喧嘩を始めてしまった。


「……おい、ムキン。誰だよこのガキは」

「……彼はヨルド・サミシェフと言ってね。ヴェナルがどうしても連れてきたいと言うので、他言無用にすることを条件で連れてきたんだよ」

「なぜ俺に一言も無かった?この話は余人に語り継がせて問題ない話なのか?」


 俺は状況を理解すればするほど、ヴェナルの勝手な行動に怒りが増してきた。俺はダンジョンに潜った話や神の鉱石の話はこの3人のみだけだと思っていた。


 実際、ムキンの側近であるレイスは重要な話のところではいなかった。確かにその旨を明らかにしていたわけではないが、彼らにとっても広く知られるのは避けたい話のはずだったのだ。


「いや、そんなことはない。ワシも最初は反対したさ。だが、ヴェナルの提示する方法のみが君の話の信憑性を裏付ける唯一の方法であることも確かだったのだ」

「ならば、余計に事前に話しておくべきことだろうが!……おい、ヴェナル。お前たちを見るにこのガキはお前の息子らしいな。なぜこの場に連れてきた?」

「おまえ、このぼくに対してガキだと——」

「勝手に連れてきたことに対してはすまないと思っておる。だが、こやつは耳がいい。その耳の良さで相手が本当のことを話しているかが分かるのだ。わしは確証を得たかっただけなのじゃ。

 こやつは悪くない、そしてお前さんに話しておかなかったのもわしが悪い。その代わりと言ってはなんじゃが、お前さんの言う通りあの娘の武器の強化に手を貸そう」

「ふざけるなよ。そんなことは当たり前だ。そもそも、そんなことのために連れてきたのなら事前に話しても問題ないだろうが。俺はすでにお前らに経緯を語って聞かせた。後から修正する方がおかしくなるだろうが。

 ……呆れたな。お前の勝手な行動で俺はお前たちへの信頼を失った。『テミスの武器の強化に手を貸そう』だと?驕るのもいい加減にしろよジジィ。今回のことの対価はきっちり払ってもらう。国を滅ぼされたくせにその驕りは治らなかったんだな」


 俺はそれだけ伝えて部屋を出る準備をする。俺の言葉に返すこともなく、立ちすくんだままのヴェナルとムキンは俺が部屋から完全に姿を消すまで声を発することはなかった。


「あームカつく……」


 俺は久しぶりにここまで胸糞が悪くなった。確かにあらかじめ、俺たち以外には話してはならないなどと決め事をしていたわけではない。


 だから、それについては最悪目を瞑らざるを得ないとも考えていた。けれど、その後のヴェナルの態度が鼻についた。


 あのジジィは言葉では謝っていたが、頭を下げることはなく、むしろ腕を組みながら言ってきたのだ。とてもじゃないが謝罪をしているようには感じなかった。


 ちなみに俺が部屋を出る時、毎回レイスが俺に対して頭を下げるところを見ていたため、こちらの礼儀作法は日本の時と大きく差はないと思われる。


 その上、あたかも譲歩してやったかのようにテミスの槍を修繕すると言い出したのだ。それは元々俺が提示していたものだ。謝罪をするならばそれ以上のものを対価として提示するのが筋ではないのか。


「国が違おうと、文化が違おうと関係あるか」


 俺はブツブツと恨み節を吐きながら、ホテルの帰路についた。





 それから数時間後、ホテルの店員から俺を呼ぶ人間がいると連絡を受けた。どうやらその人物はムキン本人のようだったため、俺は彼を出迎えた。


「一体何の用だ?テミスの槍の件なら後日あいつのところに行く。その他についてはその時にあいつに伝える」

「……すまなかった」


 それだけ言ってムキンは俺に対して頭を深く下げた。部屋にも入らず、ほかの客も通る廊下で膝を付き、床に当たりそうなほど深く頭を下げていた。


 土下座とは少し違うが、それでもそれと同じくらい深く謝罪の念がある態度なのだろう。だが、謝って欲しいのはムキンではない。


 確かに彼も加担したのは同じだが、俺が一番腹を立てたのはそこじゃないからだ。


「……頭を上げてくれ、ムキン。俺はそれに対して腹を立てたんじゃない。あいつの態度に腹を立てたんだ」

「それも含めての謝罪だ。確かに彼の行動は軽率過ぎた。その後の態度も決して謝る者の態度ではなかった。だが、それらも含めて場を設けた者の責任だ。だからこの通り、すまなかった」


 ムキンは顔を上げることなく、一息で言い切った。


「分かったよ、お前の謝罪は受け取ろう。だから顔を上げてくれ。そして、あいつに伝言を届けてくれ。『明日の中天の刻に行くから準備しておけ』と。そして『お前の謝罪があったとしても俺は許すことはない』ってな。

 勘違いするな、ムキン。確かに総責任者としてトップのお前が責任を取るのはおかしなことじゃない。でもな、世の中それじゃ納得しない者もいるんだよ。お前からの謝罪は受け取った上でのこの言葉であることを伝えろ」

「……あぁ、分かった」

「安心しろ、あの話を白紙に戻す気はない。別に俺もお前たちと事を起こしたいわけではないしな。だが、俺は気が短いんだ。一度目は許しても二度目はない。すれ違いが原因とはいえ、身に覚えのないことであそこまで疑念を振りかけられ、晴れたと思えばコレだからな」

「分かった。伝えよう」


 そう言ってムキンはその場を離れて行った。この顛末を他人が聞けば、大人気ないと誹る者もいる事だろう。


 だが、不思議と俺のこの意志を曲げる気は毛頭起きなかった。






 ーーーーーーーーーーーーーー






 次の日、俺たちは全員でヴェナルの店に来ていた。テミスの槍を修繕してもらうためだ。


「お前さん、昨日は——」

「お前と世間話をする気はない。必要な事だけ話そうじゃないか」

「あ、あぁ……」


 俺はヴェナルの目の前に『アーリアメント煌神鋼』を置く。やはり時折、紫色に煌めくこの鉱石はまるで生きているようにも感じた。


 ちなみに昨日のことはすでにみんなに話してある。


「じゃあ早速だが、コレとこの槍の修繕を頼む。炎に関してはお前が指示を出せ」

「わ、分かった。なら、お前さんはこちらに来てくれ。それから——」


 そこからは早かった。やはり仕事となると意識が変わるのか、最初の気まずい雰囲気は無くなった。それにどうやらテミスとミユはヨルドと呼ばれる息子と知り合いだったようで仲睦まじく(?)店を出て行った。隣には鍛治仕事に興味を持っていたサニアがずっとヴェナルの動きを見ていた。



 槍の修繕を一言で言い表すなら、まさに地獄だ。かっこよくいうなら神への挑戦と言い換えてもいい。実際、『神の炎』でしか鍛えられない鉱石との決闘なのだ。言い得て妙だろう。


 部屋の中は炉の火でどこまでも暑くなり、にも関わらず、火力はもっと上げなくてはならない。俺の考えがうまく行ったのは僥倖だったが、今日一日でオリジンとの戦闘と同じくらいの魔力を使わされるとは思わなかった。


 最大火力で炉が融けかけるほどの高温を出さなくてはならないと思えば、今度は火力を下げ、また場合によっては一方で裏から弱く火を当てながら逆側からは燃やし尽くす勢いで火を当てたり。


 いくら『神の炎』がいわゆる魔力で創り出された炎だと言っても限度がある。それに一概に魔力で創り出した炎と言ってもただの火魔法では到底不可能。


 “獄炎魔法”か“魄炎魔法”を有しており、さらにそれを極限まで極めていないとカケラすら融かすことは出来なかった。


 俺の“炎雷之御手”は広義で見れば、“混沌魔法”も“熾天魔法”も組み込んだ火と雷の魔法であり、さらに火の力で足りないところを雷の力で後押しすることもできた。


「……完成、した」


 そして、薄く紫色に輝く一本の槍が新たに生まれた。

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