第17話 出発の時
「おはようございます。ティサネさん」
「あ!おはようございます!カイトさん!待ってましたよ!では行きましょうか」
「はい、お願いします」
俺たちはティサネさんについていきつつ、いつ町を出るか考えていた。
「ギルドマスター!入りますよ!おまたせしました。カイトさんを連れてきました」
「うむ。わざわざすまんな。この間のことはとても助かった。本当はすぐに礼をするべきじゃったが...。ささやかじゃが、これはその時の報酬じゃ」
「ありがとうございます。ありがたくいただきます」
「うむ。...なぁカイトくん、話というのは他でもない。君はもう低ランクに収まる枠ではない。そこでまずDランクへと上げておいた。そしてCランクからは試験が必要になるのじゃが、受けるか?」
「本当ですか?ぜひ受けたいです。ランクが上がると討伐依頼のレベルも上がるんですよね?」
「そうじゃよ。うむ、了解した。では地下の訓練所へいこう。もう準備しておる」
「用意いいですね...。断るとは思わなかったんですか?」
「断るのならそれはそれじゃ。強制するものではないしの」
そういいつつ、俺たちは訓練所へと着いて、用意をする。
内容はBランク冒険者との決闘を行って、試験官がCランクでも通用すると思えば合格という、なんとも中途半端な合格基準だった。
「ではまた以前と同じように、好きな武器を取って位置につきなさい」
「今回、俺はこのままでやります」
おそらく俺が刀と魔法を使うことは知られているだろう。試験官は槍を持っていた。それにレベルがMAXになった“闘聖術”を試してみたいという気持ちもあった。
名前:リドロス・ハーベイ
Lv:42
スキル:槍聖術Lv.2 自然魔法Lv.2 突破Lv.6
「うん?いいのか?よし、それでは...はじめっ!」
俺はまずキュレイにもやったように、“幻惑”で自分を作り出し突進させる。そしてすぐに自分は“偽装”で隠れて、相手の出方を見る。
リドロスも手始めに“幻惑”に向かって槍を突き出す。それを躱した“幻惑”は横に飛んだ遠心力を使って回し蹴りを放つ。
リドロスはそれを槍で受け止め、上段から振り下ろした。それだけで、俺の“幻惑”は消えてしまった。
しかし、リドロスは驚いた様子がなかった。そう、俺は隠れてずっと隙を伺っていたのだが、一切隙がなかったのだ。おそらくギルドマスター辺りから事前に聞いていたのだろう。
それでも、“看破”や“直感”などの俺の居場所を探すスキルを持っていないため、全方位を警戒している。
俺はあえて自分から“偽装”を解いてリドロスの前に現れた。
「うん?君の戦い方は隠れながら不意打ちするタイプではなかったのか?」
「まぁ、普段ならそうなんだけどな。今回は少し戦い方を変えてみようと思って。どうやら俺のことを随分研究してもらえているようだしな」
そう言ってちらっとギルドマスターの方を見ると、バツが悪そうに視線を逸らした。
手札はまだまだあるからいいんだけどさ、ギルドマスターが1人の冒険者のデータバラしていいのか?
俺はうろ覚えの構えをして、相手の出方を待つ。
「なるほど、じゃあ今度はこっちから行くぞ!」
リドロスはスキル“突破”で猛スピードで突進してくる。
避けることもできたが、俺は穂先を掴みそれを支点に体を浮かせ、槍の上に乗る。
だが、急に槍が重くなったことでリドロスは槍を持てなくなり、なんとか手放さなかったものの体勢を崩してしまった。
俺はその隙を見逃さず、“破掌”で顎を下から打ち上げ、浮き上がってちょうどいい位置に来た鳩尾目掛けて肘打ちを放つ。
地面と接していないため、摩擦で減速することもなく猛スピードで吹っ飛んでいった。
「試合終了!」
そう宣言がなされ、ランクアップ試験が終わった。まぁ、勝ったのでおそらく合格だろう。
そして、すぐに回復魔法使いの人たちが来て、壁に埋まったリドロスを治療している。
どうやら“闘聖術”MAXでステータスもイカれた攻撃は相当ダメージが入ったようだ。骨がいくつか粉々になったらしい。
「やりすぎた...」
俺は敵対するものに対しては容赦するつもりはないが、誰彼構わず殺したいわけではない。
それに殺そうと思っていない相手が死んでしまうのは寝覚めが悪いため、俺は“光魔法”の練習も兼ねて治療に参加することにした。
それからリドロスの治療が終わり、一命はとりとめたが意識が戻らないため、治療室へと運ばれた。
それを見送った俺とギルドマスターは執務室へと戻り、ランクアップしたことを伝えられた。
「勝つとは思っておったが、圧倒じゃったな。死なんかったからよかったものの...。まぁ、これでCランクじゃ。そしてサニアくんはDランクじゃな。まだまだ上へと向かえると思うが頑張ってくれ」
「はい。頑張ります。それでは失礼します」
「早速だけどサニア、そろそろこの町を出ようと思う。少し居心地が悪くなってしまったしね。宿のご飯は美味しかったんだけど...。だからついてきてくれるかな?」
「うん、私は主さまに従うだけよ...でも次はどこに行くの?」
「特には決めていない。ただこのまま南の方に行って、寄り道しながら旅でもしようと思ってさ」
「森のことなら任せて。わたし森に住んでたから...」
「それじゃあ案内お願いしようかな」
俺たちはチェックアウトをするために1度宿へと戻ってきた。そして、この町を出る旨と南の方へ向かうことを伝えた。
「そうかい、あんたたちのことは気に入ってたし、ミリーも楽しそうにしてたから寂しくなるねぇ。あぁ、そうだ。南の方に行くのなら、1度鍛治師の町に行ってみな。2人とも鎧を着てないならそこを見てみるといいかもしれないね」
「ほんとに行っちゃうんだね...また会えるといいな。カイトくん、サニアちゃん」
「きっとまたいつか会えるよ」
ミリーはサニアを抱きしめて、寂しそうな顔を隠して見送ってくれたし、また検問所のバルスも快く見送ってくれた。そうしてここは俺のとても好きな町となった。
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「モウシワケアリマセン、ガイロ様。アノ人間ノチカラをミアヤマッテオリマシタ。ツギはカナラ...グッッ!」
「ウルセェッッ!!あんな小さな町簡単に蹂躙できるっつったのはテメェだよなァ!!〈進化の宝玉〉もくれてやったのに全て無駄にしやがって!!あれがどれだけ貴重なもんかテメェも分かってたはずだよなァ!アァ?!」
「モウシワケアリマセン」
「チッ!アアアアァァァァッッ!!腹がたつ!!当然あいつの情報は持って帰って来たんだろうな!」
「ハイ。ソレハ確実デス」
オレは玉座に座りながら、床で跪いて頭を垂れているホブゴブリンキングとその部下たちの報告を聞いていた。
オレはこいつに、我らがボス【強欲】の魔王から下賜された〈進化の宝玉〉と〈蓄魔の首飾り〉を使って、欲と魔を集めてこいとの司令を受けていた。
〈進化の宝玉〉で強制的に進化させ、そいつらを使って人間の町を滅ぼし、魔に還った人間たちを〈蓄魔の首飾り〉で回収してボスに捧げる。
そうすればボスはさらに強くなり、オレたち配下も恩恵を受けられるのだ。
名前:ガイロ・ジャスティス
種族:鬼王魔人
Lv.692
ステータス:軀力65034
咒力68425
剛撃70063
堅禦61286
閃煌64738
賢智68352
スキル:貸与増借Lv.- 完全感知(貸)Lv.- 闘聖術Lv.8 狂乱Lv.10 剛力Lv.10 転移Lv.10 適応Lv.10 鼓舞Lv.8 崩天Lv.6 断脚Lv.5
称号 増利子者 見破る者 強欲の臣下 限界突破者 超越者 錯乱者 力の寵愛 移なる者 適応者
オレは苛立っていた。5人いる配下全員に1つずつ配られた宝玉と首飾りのうちの宝玉が無駄になってしまったのだ。これではボスの期待に応えることができない。
「クソがァァァァ!!!」
「グッッ...ガァァァア!!!」
オレは怒りのままに目の前にいたホブゴブリンキングとその部下たちを皆殺しにした。
そのままオレの計画をぶち壊しにした人間を殺しに行きたかったが、魔王同士の条約で直接人間に危害を加えることが禁止されている。
だから、搦め手を使い人間を少しずつ滅ぼそうと思ったのに、その最初の計画でつまずいた。オレは部下にヤツの監視を指示すると立ち上がる。
「覚えていろ!!カイト・ヒュウガァァァァ!!!ハァハァ...」
ボスへの報告を考えると憂鬱になるが、しないわけにはいかない。チンケなキングと数体の進化個体では食前酒にもなりはしないが【回帰の魔】であることには変わりない。それを捧げにオレは城を後にした。




