第14話 信じられない光景
「あぁー...朝が来てしまった」
「んぅ...主さま...?朝...?」
「やぁ、おはようサニア」
「おはよ...ございます...」
俺は起きてしばらくした後、布団から出て伸びをする。そして、サニアの仕度が出来た後、俺たちは食堂へと降りていった。
「おはよう!カイトくん!サニアちゃん!」
「おはよう!ミリーちゃん!
「おはようございます...ミリーさん」
「今日のね、オススメはレイク・ダックの卵焼きと、鴨肉を使った炊き込みご飯だよ!」
「相変わらず名前を聞くだけで美味しそうだな」
俺たちは早速そのオススメメニューを頼んで、空いている席へと座った。そして、今日の予定をサニアに伝える。
「今日はいよいよ森の調査に行く日だ。もしかしたら、戦闘になる可能性もある。覚悟しておいてくれ、期待しているぞ」
「わかってるわ、主さま...」
そんな話をしていると、ミリーが注文したメニューを持ってきた。
その味は日本で日常的に食べていた卵よりも旨味がとても強いのに、後味はとてもスッキリしていた。
また、鴨肉の炊き込みご飯は、脂も多く香りのパンチが強いため、朝食とするには重いはずなのに、日本にいた頃味わったような和風の出汁とゆずらしきもので一緒に炊きこまれている。
それのおかげでさっぱりとした風味を演出していて口の中に優しく広がり、鴨脂とうまく調和させてあってくどくなっていない。相変わらず天才的な料理だ。
そうして、朝ごはんという至福の時間を過ごした後、今日の予定を聞いていたのかミリーがお弁当を持たせてくれた。
俺たちはミリーにお礼を言い、ギルドへと向かった。
「おはようございます、ティサネさん」
「おはようございます!お待ちしてました、カイトさん!それでは、応接室に案内しますね」
俺はそのままティサネさんの後ろについていき、今回の作戦の最終調整を行うため、応接室に入った。
「おはよう、カイト」
「おはよう、キュレイ」
俺たちが応接室に入るとすでに、キュレイパーティは着いており、ギルドマスターも座っていた。どうやら、俺たちが最後だったようだ。
「うむ。全員揃ったな。まぁ、もうあまり話すことはないが、最後の確認をしておこう。今回、おぬしらに行ってもらうのは、キュケの森の西奥、平地のさらに奥にゴブリン、及びコボルトが集落を作っているか、作っていれば戦力がどの程度現存しているのかを確認してきてもらいたい。それが確認でき次第、順次帰還。では、何か質問はあるかな?」
「「「「いえ、ありません」」」」
「よし、それでは直ちに向かってくれ。吉報を待っておる」
俺たちはギルドによってすでに検問前に用意してもらっていた馬車に乗り込み、キュケの森の西奥へと向かう。
そして平地を抜け、森の奥に入る入り口のところまで運んでもらい、そこからは偵察しつつ奥へと進んでいく手筈だ。
「では、ここから二手に分かれる。僕たちのパーティは左側から、カイトたちは右側から調査していってもらいたい。それでは今から一刻が経った頃にまた集まろう」
「了解した。それじゃあまた後で」
「あぁ、君たちなら大丈夫だと思うがくれぐれも油断しないようにね」
「あぁ、そっちこそ」
そう言い、俺たちは互いに分かれそれぞれ調査していく。
俺の“超嗅覚”では、もうすでにいたるところにゴブリンとコボルトの存在を確認できる。
そして、そのずっと奥、約1キロほど先だろうか。そこには、今俺の周りにいる量とは比べものにならないほどの匂いが存在している。
やはり集落は存在しており、そしてもうすでにだいぶ大きくなっているのだろう。
「サニア、もう集落は出来てるっぽい。それに周りにいるゴブリンたちは偵察役だろうから見つからないようにいくぞ」
「わかったわ、主さま...」
俺たちは慎重に進んでいく。俺1人だと、“偽装”で隠れられるのだが、これは自分にしか発動させられない。その場合、サニアが隠れられないし、サニアも俺を確認できなくなってしまう。
そうして、慎重に進んで行くと、今までのゴブリンとは明らかに大きさが違うゴブリンがいた。
名前:ゴブリンシーフ
種族:小鬼
Lv:42
スキル:剣術Lv.9 隠密Lv.9 直感Lv.7
そして、俺がそいつを“鑑定”した瞬間、ゴブリンシーフと俺は目が合ってしまった。
俺たちは“偽装”を使っていないとはいえ、死角にいたはずだ!なぜだ?!しかし、その答えはすぐにわかった。ゴブリンシーフのスキル“直感”か!
「グギャアアアアァァァァ!!!」
ゴブリンシーフはすぐに俺たちに襲いかかることなく、顔を空へと向け大きく咆哮を上げた。
まずい!仲間を呼ばれた!
俺たちはすぐに撤退しようとした。だが、時すでに遅く、周りで偵察していたはずのゴブリンたちが俺たちを囲んでいた。
「しまったな。戦闘は避けられないか」
俺とサニアはすぐに戦闘態勢をとり、サニアが前衛、俺がその後ろに立つ形になった。
この態勢は宿で決めており、サニアが持ち前の速さと爪や魔法で相手を引きつけ、その間に俺は“偽装”で隠れて敵を始末できるようにした。
それに、サニアとはギルドカードを使うことによってパーティを組んでいるので経験値は等分される。しかし、スキルは俺がトドメを刺さなければ奪えないので、こう行った形となった。
作戦通りサニアはすぐ、敵の懐へと潜る。そしてゴブリンの顔や足元に水刃をぶつけたり、自分の爪に水を纏ったりしながらゴブリンたちを切り裂いていく。
そのいきなりの出来事にゴブリンたちは驚き、サニアに意識が向いた。その一瞬に俺は“偽装”を発動させ、ゴブリンをサニアに任せてゴブリンシーフの下へと走る。
しかし、やはり“直感”が働いているのか位置がバレてしまう。
移動しながらであるし、“看破”されているわけでもないので、ゴブリンシーフの攻撃は俺には当たらないのだが、俺の攻撃も直感で避けられてしまうので当たらない。
それに互いに技術などによる回避ではないので、奇妙な踊りのような戦いになっている。
「グギャアアアア!!」
そんな状況に焦れたのか、また叫び声をあげ仲間を呼んだ。だが、一向にゴブリンは増えない。それは想定していなかったようで、あたりをキョロキョロと見回している。
俺はその隙に近寄り、袈裟斬りを放った。それもまた“直感”で躱されてしまうが、その直後ゴブリンシーフは、突然地面から突き出した土の槍に貫かれてしまった。
そして、しばらくうめき声をあげていたが、やがて力尽きたのか腕が垂れ下がってしまった。それと同時に俺の頭の中でアナウンスが鳴った。
『経験値を獲得しました。スキル:簒奪により取得経験値が半減します。スキル:簒奪の効果により、スキル:剣術 隠密 直感を獲得しました』
名前:日向 海斗
種族:人間
年齢:18
Lv:64
ステータス:体力924
魔力1006
攻撃634
防御637
敏捷651
知力673
スキル:Up偽装Lv.2 New直感Lv.7
「これは、いい拾い物をしたな」
俺は“直感”がとても使えるスキルだというのが改めてわかった。
スキル 直感 自分に対する敵意や害意等がなんとなくわかる。また、選択などの際どちらがより良い選択かがなんとなくわかる。
ゴブリンシーフと戦っているときにも薄々感じていたが、“直感”持ちはとても相手にしづらい。
直近の敵意などに反応するようで、ゴブリンシーフを倒した時に俺が使ったような罠と魔法を組み合わせたものには反応しないようだが、それでも破格のスキルである。軽い未来予知だ。
自分のスキルを確認していると、サニアが帰ってきた。
名前:サニア・バードレイ
種族:狐獣人
Lv:40
スキル:変幻碧尾Lv.- 水魔法Lv.7 Up迅爪Lv.9 Up俊敏Lv.5
称号:尾格者
「終わった。主さま...」
「お疲れ様、サニア、またレベルが上がったね」
「うん、もう少し強い相手でも戦えるようになった...」
「うん、いいことだ。じゃあ少し予定が狂ったけどいい時間だしお弁当を食べようか」
「やった...お肉...」
俺は“限倉庫”からミリーにもらったお弁当を取り出し、広げる。
中には今朝食べた鴨肉を使った時雨煮らしきものと、おにぎりが入っていた。時雨煮は醤油と生姜がうまくマッチしており、肉の甘みが凝縮され少し濃い味となっている。
なのであえて味のついていないおにぎりととても相性が良かった。
「よし、それじゃあもう少し奥まで行くか」
「わかった...」
そうして、今度は不用意に“鑑定”しないようにゴブリンの目を避けながら奥へと進んで行くと、少し拓けた場所が見えてきた。
そこには簡易的ながら柵や雨風が凌げる家屋が建てられていた。そして、その広さももはや町と呼べるほどの広さとなっており、ここからでは奥まで見えないが、これほどの大きさはすでに想像以上の脅威だ。
しかし、まだ悪夢は終わらない。
まず、この町にはゴブリンだけでなく、コボルトもおり、ほぼ全てのゴブリンがコボルトとともにツーマンセルのように行動している。
俺は何が起きても対応できるようにしつつ、一番近くにいたゴブリンとコボルトを“鑑定”してみると、
名前:ホブゴブリン
Lv.32
スキル:繁栄Lv.1 槍術Lv.8 異種疎通Lv.6
名前:ホブコボルト
Lv:30
スキル:超嗅覚Lv.1 風魔法Lv.7 異種疎通Lv.5
となっていた。俺は“遠視”を持っていたし、コボルトが“嗅覚”を持っていることも知っていたので、サニアが見つからないように遠くから見ていた。
なので見つかってはいないが、俺は足から力が抜けそうになった。
「進化している...ここはただのゴブリン達の集落じゃない。全員が進化して知恵をつけたホブゴブリン達の町だ...」
「そんな...」
俺はこの事実を信じられず、他の集落にいる見える範囲のゴブリン達を“鑑定”したが、その結果は散々だった。
そして、俺の言葉を聞いたサニアもどれだけありえないことが起こっているのか理解したのか顔が青ざめていた。
ただ、厳密に言うとありえないわけではない。だが、起こるとしたら天文学的確率なんていう言葉では説明がつかないほどの確率が必要となる。
まず前提として、全ての生物は進化する。それは人間や魔物もだ。
だが、その進化の条件は何一つ研究が進んでおらず、そもそも進化自体が珍しいため研究も進まない。
しかし、過去に進化した個体がいることは本に書かれており、俺が読んだ本には、進化前がどれだけ弱くとも、進化後は比べものにならないほど変わるとのことだった。
なので、進化は人によって条件が違い、さらに限界を超えなければ不可能だというのが現在の結論だそうだ。
そうした謎に満ちた存在である進化個体。そして、この町に住んでいるのがそんなホブゴブリンとホブコボルトなのだ。
今のところ奥の方は見えないのだが、町の外側にいて、内側にいないと考えるのは浅慮だろう。むしろ内側に行くたび強くなっていくと考えた方が良い。
俺たちはこの調査結果をギルドに提出するため撤退することにした。
そうして帰ろうとしたところ、“直感”と“看破”がほぼ同時に反応した。
周りを観察すると、先ほどまで穏やかだったホブゴブリンたちが一つの方向を向いて険しい表情をしている。
そして、その方向はまさに俺のスキルが反応した方向だった。何があるのかと“遠視”すると、ボロボロになったキュレイたちが一際大きな体を持つゴブリンたちに運ばれていた。
名前:ホブゴブリンロード
Lv.69
スキル:繁栄Lv.4 剛力Lv.5 闘聖術Lv.5
名前:ホブゴブリンシーフ
Lv:66
スキル:繁栄Lv.4 精密Lv.7 弓聖術Lv.4
名前:ホブゴブリンソーサラー
Lv:64
スキル:繁栄Lv.3 魔力増幅Lv.6 神聖魔法Lv.4
「ふざけてる...」
つい癖でまた“鑑定”してしまったが、今度は見つからなかったようだ。だが、こいつらは強すぎる。
本来、冒険者のレベルは魔物のレベルより10以上、上を安全マージンとするようだ。にもかかわらずこいつら全員がリーダーのキュレイよりも強かった。
スキル 魔力増幅 魔力を体内で循環させることでエネルギーを蓄え、本来持っている魔力以上の力を発揮することができる。だが、一度発動するとまた貯め直さなければならない。
なるほど、ブースター的なスキルなのか。だが、キュレイたちが連れていかれたせいでこのまま戻るわけにはいかなくなった。
捨て置いてもいいのだが、連れていかれるところを見てしまったので流石に後味が悪すぎる。
だが、無策に突っ込むわけにもいかない。俺はサニアにすぐにギルドへと帰ってこのことを報告するように伝え、俺はホブゴブリンのパーティの後ろをついていった。