第11話 盗賊掃討開始
「ふわぁぁ...朝か...」
「おはよう、主さま...」
「.......おう、おはよう。挨拶してくれたのか、ありがとな」
「気まぐれよ...」
「気まぐれでも嬉しいよ。ちょっと待っててくれ、すぐ準備するから。そしたら朝飯を食べに行こう」
「わかったわ...」
俺たちは仕度をし、食堂に降りてきた。そして、空いている席を見つけ、そこに座る。
「お、なにも言わなくても座ってくれるんだな」
「どうせ立ってても座れと言われるだけだもの...」
「確かに。せっかくなら一緒に食べたいからな」
「おっはよ〜!カイトくん、サニアちゃん!」
「おはよう、ミリー」
「おはようございます、ミリーさん...」
「うんうん、挨拶はいいねー!さて、朝ごはんですが、コンソメスープとローチキンのサラダです!」
サニアはミリーには敬語なのか...?ま、まぁ別に気にしないからいいんだが...。
「じゃあそれを2つお願いしようかな」
「りょーかい!お父さーん!おススメ2つでーす!」
「気になってたんだが、ローとハイじゃどう違うんだ?」
まだこれを食べるのは2回目だが、朝にはローチキン、夜にハイチキンとなっている。何か意味があるのだろうか。
「なんかね、お父さんが言うには、ローチキンは脂が少なくてさっぱりしてるから朝に食べやすくて、逆にハイチキンは脂が多くて旨味もあるから夜にがっつり食べるとき、出した方が人気があるんだって」
「へぇー。確かにローチキンはさっぱりして食べやすかったな。それに比べてハイチキンは腹にたまる感じがした。そうやって作り分けているのか」
「でも、最近あんまりお肉が入ってきてないみたいで、同じのばかりになっちゃうんだよね。仕入れても届かなくなっちゃうんだよ」
「へぇ、それは大変だな」
「ミリー、できたぞ、まずはあちらに持っていってくれ」
「はーい」
「ボウズ、うちのミリーと仲良くしてくれてありがとな。あいつはずっとうちで働いているから同じくらいの友達がいねーんだよ。それに、どうやら最近、盗賊がこの辺りで出たらしくてな、それが原因でいろんな種類の肉や野菜が届かなくなっちまったんだよ」
「なるほど、盗賊ですか。もうギルドとかに依頼はいってるんですかね?」
「さぁ、そこまで詳しいことは知らねーなぁ。ま、だれか依頼を出してくれてることを願うさ。ほら、ボウズたちの分だ。たらふく食えよ」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます...」
昨日と同じメニューでも美味いものは美味い!
そうして食べ終わった俺たちは、昨日ギルドマスターに言われたように、また、執務室へと集合していた。
「おはようございます、ギルドマスター。それにキュレイたちも」
「おはようさん、カイトくん」
「おはよう、カイト」
「ところでおぬし、その子も連れて行くつもりかな?」
「えぇ、俺のパーティメンバーになったので、いい経験にもなるだろうと。...ダメでしたかね?」
「いや、おぬしがいいと言うなら文句はない。じゃが、その子にも今回の任務は他言無用であることを命ずるぞ。では早速、今回行ってもらいたい任務の内容を伝える」
任務の内容はキュレイたちも伝えられていなかったようで、真剣な顔つきになった。
「現在、キュケの森の西部に異常発生している、ゴブリンとコボルトの発生源の捜索。そして、奴らの集落があった場合、迅速な敵戦力の把握となる」
「「「「わかりました」」」」
「それでは明日、朝の左四半の時刻に検問前に集合してくれ、よいな?」
「「「「了解です!」」」」
「以上じゃ。健闘を祈る」
この世界の時計は12しか表示されていないため、時間を基本的に4つに分ける。この場合、朝の左四半ってことは、朝の9時ってことだな。
「それじゃ今日は僕たち予定があるんだ、また明日ね」
「あぁ、また明日」
ギルドマスターの部屋から出ると、キュレイはそう言って仲間たちと出て行った。
そして俺たちはというと、キュレイたちと別れた後、盗賊のことを聞くためティサネさんのところへ向かった。
「ティサネさん、おはようございます。朝聞いたんですけど、最近この辺りで盗賊が出たって本当ですか?」
「あっ!カイトさん!おはようございます!はい、本当です。それも結構大人数な盗賊団でして、調査により居場所は判明してるんですが、なかなか捕縛がうまく行かなくて。それで、もう生死不問で討伐してしまおうということで、高ランク冒険者の方々にも出動してもらう手筈になっています」
ん?もしかしてキュレイの用事ってこれか?
「その討伐って俺たちも参加することできます?」
「...本当ですか?!助かります!私たちも集めてはいるんですが、ランク制限があったりもするので、なかなか受けてくれる人がいなくて困ってたんですよ!ただ、本来ならカイトさんのランクだと、難しいと思うので一度ギルドマスターに聞いてみますね!」
タッタッと軽快に足音を鳴らしながら階段を登っていくティサネさんの後ろ姿を眺めながら、ボケーっと待っていると数分もしないうちに帰ってきた。
「おまたせしました!無事許可が降りましたよ!もうおそらく検問所前にみなさん集まられていると思うのでそちらに向かってください!手続きはこちらでしておきますので!」
おお!良かった良かった。盗賊ならもしかしたら珍しいスキルとかがあるかもしれない。もともと人間しか持てないスキルとかもありそうなので、盗賊の討伐クエストがあるなら、受けたいと思っていたのだ。
俺たちはティサネさんにお礼を言い、すぐに検問所前に向かった。
検問前に着くと、やはりキュレイの用事とは盗賊の討伐だったようで、キュレイたちのパーティがいる。そして、やはり初めて見るパーティもいるようだ。
「キュレイ、また会ったな」
「カイト!もしかして君も参加するのか?」
「あぁ、今ティサネさんに言って、参加させてもらえることになった。よろしくな」
「....あぁ!カイトがいれば大丈夫だな!」
今ティサネさんの名前が出た瞬間、キュレイから殺気が漏れ、隣にいたサニアが反応したが、それも見間違いかと思うほど一瞬だった。やっぱり好きなんだな、ティサネさんのこと。
「持ち上げるなよ、俺はまだまだだよ」
「その姿勢が大事だと思うぞ。まぁカイトは今来たから改めて作戦を伝える。みんな!聞いてくれ!ここにいるカイトという人物は若いが、僕と同じくらい強い!なので僕と同じように後発隊のメンバーに追加する!その他のメンバーは先発をお願いしたいと思う!もちろん異論反論は道中で聞こう!だが、カイトの力が見たいから戦わせろなんていうのはダメだぞ!結果がわかっているし、時間の無駄だからな!」
めちゃくちゃだな。それでよくまとまるものだ。まぁ何人か、というかほぼ全員が俺のことを半信半疑で見ているが。
「それでは出発だ!」
「キュレイさん、本当にこいつがキュレイさんと同じくらい強いんですかい?そうは見えないんですが...」
「あぁ本当だよ。さっきも言ったように戦わせろはダメだよ、君たちが負けることはわかっているし。何よりあまり詳しくは話せないけど、彼は僕に勝ってるからね。僕に勝てない君たちじゃ勝負にならないよ」
「キュレイさんに勝った?!またまたご冗談を...」
「僕が人に負けたなんてことを冗談でいうと思うかい?」
「........いえ、すんません...」
その一言で、他の人たちの異論も消えたようで、そうこうしているうちに盗賊団のアジトらしき場所が見えてきた。
「サニア、今日は君の力も見たいと思ってるんだ。多分盗賊団の手下くらいなら君でも余裕で勝てると思う。だから先発隊の方でお願いできるかな」
「....はぁ、わかったわ。主さまの命令だものね...」
「よろしく頼むよ」
まず作戦として、アジトに着いたらキュレイによる降伏勧告を行い、それが通らなかった場合、押し入る形となる。だが、降伏勧告は実質、処刑とあまり変わらないため、受け入れられることはない。
さぁ、アジトらしき場所へとやってきた。場所は断崖に建てられ、さらに木で囲まれて攻められにくい立地をしている。
基本的に入れる場所は地続きの一本道の先にある扉だけだ。その扉の前に討伐隊のほぼ全員が集まり、キュレイが一歩前に出る。
「盗賊団よ!我々はギルドから正式に依頼された、討伐隊である!貴様らが降伏するというのなら手荒な真似はしないと誓おう!降伏する気はあるか?!」
とんでもなくデカイ声だ。“風魔法”で声を飛ばしているのだ。しかし、キュレイが宣言をしても、盗賊たちからの返事はない。待っても返事が来ない場合、突入してもいいこととなっている。
「反応はない。いくぞ」
全員が頷く。ここであまり大声を出す意味はない。そして、予め決めていた通り、サニアと一般冒険者が扉から突入していく。
扉を開けた途端、大量の盗賊たちが出てきた。待ち伏せされていたようだ。だが、キュレイもそれは読んでいたらしく、冒険者たちに焦りはない。
サニアも焦らず、爪を使って盗賊たちを引き裂いている。さらに、“水魔法”で作った水球をぶつけて倒していた。
「カイト、俺たちは裏から回っていくぞ」
「わかりました」
まぁ、サニアなら大丈夫だろう。今の少しの攻防でサニアの戦い方もわかったし、問題点も見つかった。
裏からと言っても裏口などはない。おそらく逃げるための地下通路などはあるのだろうが、そこを使われる前に決着をつけなければならない。
裏メンバーは俺とキュレイパーティの4人だ。
俺は馬車の中でキュレイに“樹魔法”を使えることを話している。決闘した時にある程度、手は見せていたので、いくつ手札を持っているのかと呆れられたが、今回はその“樹魔法”を使い、木の足場を作って、二階の窓から侵入する。
「なっ!てめーら、どこから...ギャッ!」
俺とキュレイのパーティは窓から入り、目の前にいた下っ端を蹴り飛ばす。二階から侵入したことは運悪くバレてしまったが、問題ない。入ってしまえばこちらのものだ。
すると、下っ端の声が聞こえたのか隣の部屋から、明らかにオーラの違う人間が出てきた。
「おやおや、これはずいぶんなお客様ですネェ。きちんと玄関から入っていただけませんとネェ」
こいつはボスではない。聞かされていた顔が違う。というと、こいつは4人いるうちの幹部の1人だろう。
「カイト、ここはボワルドがやってくれ...る...あれ?」
「邪魔だ」
俺は前口上?なのか、長々と喋っているオネエ口調野郎の後ろから首を落とす。
もともとこいつが出てくる前から“超嗅覚”により、いることは気づいていた。だが、“超嗅覚”だといることはわかっても、体型や顔まではわからない。
なので俺は出てくる直前に“偽装”で隠れ、キュレイたちからは見えても、オネエからは見えないようにしていた。そして、話始めたのを見て、後ろに回り首を切ったということだ。
「ほらいくぞ」
「あ、あぁ」
若干、キュレイの目に懐疑心のようなものが生まれたような気がするが、無視だ。そもそも盗賊の生死は問われていない。ならスキルが取れるように殺した方が手っ取り早い。
そして、殺したことでスキルを獲得したアナウンスが流れるが、今は後だ。他のことなど後回しでいい。
その後、なぜか順番に1人ずつ出てくる幹部たちを全て倒しながら進んだ先には、他の部屋とは一際違う部屋の扉を見つけた。
俺は、扉に罠などがないかを確認する。“気配感知”と“超嗅覚”を併用して探すが、それらしいものはない気がする。
俺が今持っているスキルでは、罠に対する感知が甘いことを幹部戦で知った。“気配感知”は受動的なもので、働く前の罠は感知しないし、“超嗅覚”は無機物に反応しない。
幹部戦では、ギリギリ“気配感知”が発動し、間一髪で避けられたが、正直危うかった。もう少しズレて発動していたら、死んでいたかもしれない。
俺は充分注意しつつ、扉を開けた。すると罠はなく、執務席にしては広いが、そういう部屋にあるような、ゆったりとした椅子に座った男と、その隣に立っている気弱そうな男だけがいた。
しかし、“超嗅覚”はまだ他にも匂いがあることを伝えている。それは天井裏に3人、右側の壁に2人いた。さらに、左側の壁の奥には、女性の匂いが複数ある。おそらく捕らえられているのだろう。
「ようこそ、俺のアジトへ。大したもてなしはできないが、歓迎しよう」