第10話 不明な心情
「あら、おかえりなさい...新しい子?若いわねぇ」
宿につくと、いつも通り女将さんがいた。そして、案の定すぐに誤解された。
「いや、違いますよ?そういうやつじゃないです」
「でも、奴隷だろ?」
「まぁそうなんですけど...」
「詮索はしないでおいてやるよ。一緒の部屋にするかい?」
「はい、それでお願いします。俺と同じで全部つけで」
「あらあらまあまあ」
くっ、それをするつもりが無いとはいえ、こいつを1人にすると最悪逃げ出しかねんからな、仕方なく同じ部屋にしたが...。
部屋に着いて俺がまず確認することは、こいつと意思疎通できるかどうかだ。
「これからお前の主となる、カイトだ。よろしくな」
「.......こくっ」
「喋れないのか?そういうわけじゃないなら喋って欲しいんだが...」
「人間と喋るつもりは無い...」
「奴隷になったことと、人間が関係あるのか?」
「お前に話すつもりは無い...」
こりゃダメだ。初めて会った時の目を見てから、暗く沈んだ目をしているので過去に何かがあったのだろうことは想像がつく。
それに今の感じからすると、人間に何かされたようだ。せっかくの安眠がこいつを買ったことで、また遠ざかってしまったのは、少し辛い。
だが、初めて見たときこいつとは上手くやっていけそうな気がしたのだ。いつか、話してくれることを祈ろう。
「そうかい、とりあえず飯を食いに行こう。それで明日服を買いに行くぞ、今のままじゃ薄すぎて心もとないからな」
「.........」
喋らなくなった...。まぁいい、気長にやろう。一応逃げられれば分かるようになっているらしい。便利だな、“奴隷術”。
ご飯を食べるため、食堂に行くといつものようにミリーちゃんがいた。俺はミリーちゃんに挨拶しながら空いている席に座る。すると、サニアは俺の横に立ち出した。
「何してる?サニアも早く座りな?」
「.......?」
「一緒にご飯食べるんだから座らないと」
「.........??」
サニアは頭に?マークを沢山つけながら渋々座った。
「あら、カイトくんの彼女さん?」
「なんでみんなそんな反応するんだ...?違うよ」
「ふふっ、冗談よ。奴隷なのね、この狐の子」
「あ、あぁ。今日買ってきたんだ」
あれ?やっぱり奴隷は割と浸透しているのか?日本じゃ考えられないな。もっと驚かれると思ったんだが...。
「女の子なんだし、大切にしてあげないとダメよ?」
「分かってる。そのつもりだよ」
「あら、結構カッコイイこと言うじゃん。さてお客様?何にします?」
「オススメはある?」
「オススメはねぇ、今日の朝出したローチキンの仲間の、ハイチキンのソテーだよ!」
「美味そうだな、じゃあそれを2つお願いしようかな」
「はいはーい!少々お待ちくださーい!お父さーん!オススメ2つ追加でー!」
「ミリーちゃん!こっちも注文受けてくれよっ!!」
「はーい!すぐ行きますね!それじゃあゆっくりしてね、カイトくん」
食事が出てくるまで場を持たせるために、俺はサニアに話を振った。
「サニアは肉とか好きか?」
「くだらないこと聞かないで...」
「いいじゃないか、これから一緒にいる仲なんだしさ」
「...嫌いじゃない...」
「そっかそっか、それならよかった。今勝手に頼んでしまったからな。もし嫌いだったらどうしようかと思ったよ。他に何か好きなものとかあるのか?」
「別に何が好きでもいいでしょ...」
「確かにそうだけどさ、パーティを組むんだから好き嫌い位は知っておきたいじゃないか」
「...?奴隷じゃないの...?」
「うん?奴隷だけど、それがどうかしたのか?」
「だって今、パーティって...」
「そうだぞ?俺のパーティのメンバーになってもらうために、君を買ったんだから」
「そうなの...、変な人...」
最後のサニアの言葉は小さすぎて聞こえなかった。なんと言ったのか聞こうとしたところに、注文していたハイチキンのソテーが来た。
「お待たせー!ハイチキンのソテーだよー!」
「おおっ!相変わらず美味そうだな!いただきます。ん?ほら、サニアも食べな」
「いいの...?あなたがいなくなった後とかじゃなくて...」
「何言ってるんだ。一緒に食べないとご飯は美味しくないだろ」
「そうだよー。サニアちゃんもどんどん食べて!」
「名前...言ってないのに...」
「あ、ごめん!嫌だった?カイトくんが呼んでたから...」
「ううん、嫌じゃない...」
「よかった!これからもよろしくね!サニアちゃん!」
「......こくっ」
「ミリーっ!もう次の飯できてるぞ!早く持って行ってくれー!」
「あ!はーい!それじゃまたゆっくりしてね!」
相変わらず忙しいやつだな。それにあれだけ働いていても笑顔がずっと無くならないのは凄いな。本当にこの仕事が好きなんだな。
ふと横を見ると、サニアはこのハイチキンのソテーがよほど美味しかったのか、無言で頬張っている。それだけ美味しそうに食べられたら厨房のお父さんも喜ぶだろう。俺も早く冷める前に食べないとな。
腹一杯食べ終わって、部屋に戻ってきた俺たちは、寝る支度をしていた。ベッドはひとつしかないため、サニアに使ってもらうとして、俺は床にでも寝よう。
幸い、まだそこまで寒くはないし、森でも草の上で寝たりしていたから慣れている。
「ねぇ、あなたはどこで寝るつもり...?」
「うん?俺は床で寝るよ。ベッドはサニアが使うといい」
「そんな訳には行かないわ...、..........一応あなたが主だもの...」
「でも、女の子を床で寝させる訳には行かないからなぁ」
「そんなこと気にしなくていいわ...。......でもそこまで私を床に寝させたくないなら、一緒に寝ればいい...」
「それは君に悪いよ」
「主が床に寝られる方が悪いわ...逃げるわよ...」
「わかったわかった。一緒に寝るよ。襲わないでくれよ?まだ死にたくないぞ?」
「襲ってもどうせ返り討ちになるだけよ...そんなバカな事しないわ...」
そうして、図らずも同じベッドに寝ることとなった。
別に俺は初めてというわけでもないので(何がだ?ちょっとよく分からないが)なんとも思わないが、いいのだろうか?まぁいいから言ったのか。
それじゃあ寝る前のステータスチェックをしようか。
名前:日向 海斗
種族:人間
年齢:18
Lv:61
ステータス:体力903
魔力976
攻撃593
防御601
敏捷625
知力658
スキル:Up器用Lv.7 Up剣術Lv.7 New集中Lv.1
俺のスキルは今日のキュレイとの決闘で、“剣術”と“器用”が1つずつ上がり、そして新たに“集中”というスキルを獲得した。
自力獲得したスキルは初めてだ。今までは“簒奪”でしかスキルを得ていないし、得るための経験値も半減するため、自力習得は夢だろうと思っていたが、そうでもないようだ。
ただ、他の人より遥かに難易度は高いだけで。
スキル 集中 自分が専念しようとする時、自動で発動し、その物事に対する理解力や対応力が向上する。
簡単に言うと集中力が上がるというだけだ。しかし、その効果は大きく、このスキルが発動している時、さまざまなものに即座に対応することができる。
「良いスキルを取れたな。これは活躍しそうだ」
確認が終わったところで、また明日に向けて今日も寝よう。
ーーーーーーーーーーーーー
私の名前はサニア、狐の獣人。そして、この横に眠っている片目片腕がない人の奴隷で、この人が私の主だ。
私はもともとここから遠く離れた森の中で、私の家族と、同じ狐獣人の人たちがいる集落で暮らしていた。
私は他の人より少し特別だったらしく、レベルが書いていないスキルを持っていた。こういったスキルを持っていた子は周りにはいなかったし、親や大人の人も持っていなかった。
そして、それが関係しているのかは分からなかったが、成長も早く、みんなからも尊敬されて、褒められて育ってきた。
みんな仲が良かったし、大人の人も私たちに優しくしてくれるあの集落が大好きだった。
でも、幸せは突然終わった。いつものように大人たちが狩りに行っていた時に、運悪く人間に見つかり、集落のことがバレてしまった。
だけど、そのことが私たちに知らされた時には、逃げる暇もなく、人間たちの集団が集落を襲っていた。
大人たちは必死に私たち、子供を逃がそうと人間たちと戦っていた。その様子を私は見ているだけで何もできなかった。
いつも周りから強い、カッコいい、将来有望だなんて言われていたけど、いざその時になると、足が震えて立てなかった。
本物の戦いがこんなに怖いなんて知らなかった。でも、それは他の子供たちも一緒だった。誰一人として動けなかったのだ。
大人の男の人は、私たちから気を逸らさせるために、戦いに行き、その間にお母さんたちと子供たちは逃げ続けた。
しかし、悲劇はまだ終わらなかった。私たちが逃げた先には他の人間たちが先回りしていたのだ。
それから、子供以外全て殺された。最初はお母さんたちも殺されはしなかったのだが、1人の子供の母親が人間の1人を殺したことで、人間の怒りをぶつけられ、私のお母さん含め、みんな犯されながら殺されていった。
それも私たちに見せつけるように。
そうして、私たちは男の子と女の子でそれぞれ馬車を分けられ、手錠と目隠しをされてどこかへ連れていかれた。
しばらくして、目隠しを外された時にはもう周りに知っている子供はいなかった。私はあの時の私たちを守って家を出ていったお父さんの背中を忘れない。
私は死にに行くことがわかっているのに、私たちを守るために体を張ってくれたお母さんの姿を忘れない。
「絶対に人間を許さない...!」
それから私は奴隷商人の下へ連れていかれ、奴隷となった。だが、私をしつけに来る人間は全て返り討ちにしたし、どれだけ体に激痛が走ろうとも、絶対に人間にすがりつくことはしなかった。
それが私に出来る最後の抵抗だったし、体に走る激痛は、あの時何もできなかった私への罰だと思った。
ずっとそうしていたからか、もう奴隷商人も私を見放したようで、日に一度の食事以外で、私の前に人間が来なくなった。
そんなある日、久しぶりに食事以外で私たちの前に人間がきた。若い男だった。片目が潰れていて、腕も片方ない人間だった。
でも、黒髪黒目という今まで見たことがない人間だったので、少し興味を持って見てしまった。それがいけなかった。
その男はあろうことか、私を買うと言いだした。何を言っているのか、この前も私を買おうとしたやつはいたが、返り討ちにしてやった。
その男の話を聞いた奴隷商人は、私が返り討ちにした話をしていたらしいが、その話を聞いても私を買うといっていた。
なるほど、私は舐められているのか、女だからと、少女だからと。ならば檻を開けた瞬間、殺してやろう。そうすればあの世で私を舐めたことを後悔するだろう。
そうして檻が開けられた瞬間、私はその男に襲いかかった。でも、気づいたら私の視界には天井が映っており、そのあと背中に痛みが走った。
そこで初めて私が投げられたことがわかった。一瞬何をされたのかも分からなかった。私はすぐに真正面からやっても無理だということを知った。
なら、不意打ちをすれば良いと、その男についていった。だが、不意打ちを出来る隙がなかった。そうして、その男についていっているうちに宿に着いた。
これで私はとりあえず、明日の朝まで自由になれる。このまま私を1人にしてくれるなら仕返しはできずとも、逃げることくらいは出来る。
そう思っていた。しかし、彼はあろうことか私の分の宿を取ってしまった。それも逃げないようにするためなのか同じ部屋にまでして。
さらに、男はしきりに話しかけてくる。鬱陶しいことこの上ない。
また、ご飯を一緒に食べるとまでいうのだ。普通、奴隷は主が食べ終わるまで横で待ち、いなくなった後に食べるのが一般的だ。なんなら、食事の時に顔を出すのを嫌う人間までいるという。
しかし、男はその奴隷に対する扱いを全てやらず、普通の一般人に接するようにしてきた。わけがわからない。
そして、私が一番驚いたのが、私をパーティメンバーに入れるということだった。てっきり私は夜の相手をさせられるのだと思っていた。だから、その時になったら男のモノを噛みちぎってやろうと思っていた。
だが、そうではなく、その力を買ってのことで購入したようだ。最後には、私を普通の女の子扱いしてベッドを譲ろうとしてくる始末。頭がどうにかなりそうだった。
私は人間相手に初めて敵対心以外の感情を抱いたかもしれない。そして、何もわからないのと同時に、この人は何をしようとしているのだろうと興味を持ってしまったのだった。
名前:日向 海斗
種族:人間
年齢:18
Lv:61
ステータス:体力903
魔力976
攻撃593
防御601
敏捷625
知力658
スキル:簒奪Lv.- 鑑定Lv.4 超嗅覚Lv.2 偽装Lv.1 暗黒魔法Lv.1 噛み砕くLv.3 気配感知Lv.7 身代わりLv.3 統率Lv.4 Up器用Lv.7 集団行動Lv.5 槍術Lv.4 Up剣術Lv.7 体臭遮断Lv.9 火魔法Lv.3 水魔法Lv.5 風魔法Lv.8 土魔法Lv.3 樹魔法Lv.4 弓術Lv.4 幻惑Lv.4 融体Lv.3 遠視Lv.4 鋼化Lv.5 俊敏Lv.3火耐性Lv.2 水耐性Lv.2 風耐性Lv.1 土耐性Lv.3 樹耐性Lv.3 光耐性Lv.2 闇耐性Lv.2 毒耐性Lv.3 麻痺耐性Lv.5 夜目Lv.3 体力自動回復Lv.7 自己再生Lv.6 斧術Lv.2 魔力自動回復Lv.5 物理透過Lv.6 死霊作製Lv.8 闘術Lv.1 繁栄Lv.1 New集中Lv.1
称号:簒奪者 強者食い