第9話 決闘の行方
いよいよ初ヒロインの登場です!!
「準備は良いか?それでは...はじめ!」
そもそも俺よりキュレイさんの方が強い。なので無策に突っ込めば、確実にやられるだろう。俺はシャドウウルフと戦った時のように、目の前にだけ集中する。
『スキル 集中を獲得しました。』
今、何か聞こえたが、すぐに意識から外れる。
俺は、今までの定石通り、“暗黒魔法”で煙幕を作り出し、そして、“偽装”して森の中で会得した“俊敏”によって上がったスピードを使って一気に距離を詰め、キュレイさんの背後に周り込み、袈裟斬りを放つ。
しかし、俺が後ろに来た事は分かっていたのか、軽々と俺の斬撃を受け止め、流された。
予期しない急な力の向きに、俺は慌てて刀を引き戻す。だが、それすらも分かっていたように、俺が刀を引き戻す力を利用して、キュレイさんは逆袈裟斬りを放ってくる。
そこで俺は、避けることを諦め、“土魔法”で当たる場所を予測して鎧を作り、食らった反動を利用して、後ろに飛んで距離を作る。
「そういや“気配感知”あったもんな、そりゃ分かるか。やっぱりスキルレベルを上げないと意味が無いな」
「まさか剣技だけでなく、魔法も使えたのか。それに、あの不意打ちは少々驚いた。侮ってすまなかったな。正直、刀などという扱いにくい武器を使っている時点で、素人だと思っていたのだが」
それはそうだろう。俺がこの町に来て、まだ2日だが、剣を背負っているやつはいても、刀を持っているものは見たことが無かった。
俺はあまり詳しいことは分からないが、剣と刀では切り方が違ったはずだ。
剣は力で叩き斬るのが通常の使い方だが、刀をそんな使い方で使っていてはすぐに折れる。刀はあまり力を使わず、引いて斬る切り方をするのだ。
おそらく町の人達は、刀も剣と同じ使い方をしているのだろう。それでは刀を使えない。しかもおそらく刀の使い方を知っているものが限りなく少ないのではないだろうか。
「お褒めいただきありがとうございます。胸をお借りするつもりで行きます」
俺はまた“暗黒魔法”で煙幕を作る。そして、今度は“幻惑”で幻を先ほどと同じようにキュレイさんの後ろから攻撃させる。
その間に俺は“偽装”で真正面から向かっていき、キュレイさんに近づくが、その時にはすでに後ろから襲ったのは幻だとバレており、本物の俺の方に対応しようとする。
しかし、俺は“偽装”で刀を振り下ろしているように見せかけて、本命は下からで刀はすでに納刀し、“風魔法”で風を圧縮して掌に集めておく。
これなら“気配感知”で本物の俺を見つけていても、本命の攻撃を隠せるし、それにやはり上位スキルである“偽装”と下位スキルである“気配感知”では土壇場で有用性が違う。
俺は“偽装”に合わせようとしているキュレイさんの懐に潜り込み、掌に集めた風の塊を思い切り叩きつけた。
「がはっ!」
キュレイさんはぶつけられた風の塊の勢いで数メートルほど飛んでいき、そのまま気を失った。
俺も俺で魔力をほとんど使い、腕も風の塊の反動でおそらく骨折している。
どうやらキュレイさんのパーティメンバーは、俺がここまで出来るとは思ってなかったのか、固まっている。
そしてギルドマスターも、俺が戦えるとは思っていたものの、まさか勝つとまでは思っていなかったようで、なかなか試合終了の宣言がされない。
「っ...試合終了じゃ!」
その後、俺と目が合ったことで、思い出したかのように試合終了の宣言がされた。
するとすぐに、俺とキュレイさんの元にそれぞれ1人づつ女性が駆け寄る。
そして、俺は腕に力が入らない状態からやがて、持ち上げられる所まで回復してもらえた。
なるほど、“光魔法”は回復がメインなのか。しばらくして俺が完全に回復し終わる頃にはキュレイさんも目を覚まし、少しよろめきながら俺の方へと歩いてくる。
俺がぶつけたのは爆発力だけを意識した風の塊だったので、内蔵までダメージは入ってないはずだが、大丈夫だろうか?
「完敗だったよ。最初から全て計算通りだったんだね。改めて侮ってすまなかった。よければ、名前だけでも教えてくれないかい?僕は知っていると思うが、キュレイ・ミトラスという」
「いえ、上手くいくかは五分五分だったので、刀を流された時は焦りました。俺の名前はカイト ヒュウガです」
「カイト・ヒュウガくんだね。こんなに強いんだ、ギルドマスターも見た目で判断するなと言うわけだ」
「実際まだ18ですし、今回勝てたのもほぼ全て不意打ちでしたしね。剣の打ち合いだけだと確実に負けますよ」
「それも立派な戦いだよ」
第一印象はあまりよくなかったが、ちゃんと接してみると、相手を認められるいい人だと思った。
「いい経験になったじゃろう、お互いに。キュレイは人は見かけによらないということを。カイトくんは技術を」
「はい。申し訳ありませんでした」
「はい、スキルだけでは出来ない技術を知りました」
「うむ、ではまた明日、調査の詳細を説明しよう。今日はもう疲れたじゃろう」
そうして、俺たちはギルドマスターに休めといわれ、ギルドを出た。そこで、俺はやることがなくなったので、また魔物狩りにでも行こうかと思っていたら、キュレイが話しかけてきた。
「お疲れ様、カイト。見たところ君は鎧をつけていないみたいだけど、着ないのかい?」
「あー、うん。俺はまだスキルが育っていないし、不意打ちする方がやりやすいから。それに鎧を着ると重くなって動きにくそうだからね」
あの後、決闘した仲なんだしと、キュレイは呼び捨てするよう俺に言ってきた。
「なるほどね。それなら黒色のローブとかいいんじゃない?」
「それは俺も考えていた。ローブなら動きもあまり阻害されないしな。でも防御力がないんじゃないか?」
「ローブに使っている魔物の素材によってはちゃんとしたものもあるよ!一緒に見に行くかい?」
「そうだな、やることも無いし、色々目利きを教えてもらいたいな」
「いいよ!それじゃあ行こうか」
そんなこんなで、俺とキュレイは市場へと向かっていった。そこには、装備や服、日用品などが沢山並んでおり、人がごった返していた。
他には屋台などが並び、とても美味しそうな匂いが漂ってくる。
「こんなに人がいるんだな、それに色々売ってる」
「そうだよ。そういやこの町に来てまだ日が浅かったよね?せっかくだし、色々案内してあげるよ」
そう言ってキュレイは、本当に色々な店を教えてくれた。どの店の料理が美味しいだとか、ここの鍛冶屋が1番腕がいいだとか、挙句の果てには向こうの娼館に一番いい女がいるなどだ。そんな時、道の奥から、ひときわ大きな歓声が聞こえた。
「あそこは特に盛り上がっているが、何があるんだ?」
「あそこは奴隷を売ってるんだよ。奴隷と言っても犯罪奴隷などは一般人の前には出てこない。いるのは獣人系の奴隷だね」
「奴隷もいるのか」
「カイトの国にはいなかったのかい?」
「あ、あぁいなかったな。少し見に行っていいか?」
「いーよ。僕はあんまり好きじゃないんだけどね、奴隷は」
そうして、近づくとさらに熱気が伝わってきた。どうやらオークションのようなものを行っているようだが、売られている奴隷の顔を見るに、想像していたような酷い扱いを受けているわけではないようだ。
みな、首輪が繋がれているものの、普通に生活していた。
「一応、僕はここの奴隷商人と知り合いだから、頼めば見せてもらうことは出来るよ?」
「本当か?是非お願いしたい」
俺は正直奴隷に興味はあったのだ。決してそういう趣味がある訳では無いが、いつまでも1人で戦いを続けることは不可能だからだ。
かといって自分の事情が特殊なため、そこらで仲良くなった人とパーティを組むことは出来ない。
ならば、決して口外せず、自分と組めるパーティメンバーを見繕うとすれば裏切らない奴隷が1番いいと思ったのだ。
俺はキュレイにそのままついて行くと、いろんな人にモミ手をしながら挨拶している商人がいた。
その商人はキュレイに気づくと、これまで対応していたどの人よりも激しいモミ手で挨拶してきた。
「おやっ!おやおやっ!!これはこれはキュレイ様じゃありませんか!ようやく奴隷を買っていただける気になって下さいましたかな?」
「やぁ久しぶり、ゲドスくん。いや、僕は奴隷は買わない。だが、僕の友人が興味があるそうでね。連れてきたんだ」
「そうだったのですね!それが...こちらの方ですか?まだお若いようですが...」
やはり見た目が幼いのは侮られる原因だな。変えようがないから仕方ないし、不意をつく俺にとって、それに油断してもらえるというの案外ありがたい。
「侮らない方がいいよ?僕もそれで彼に負けたしね」
「なんとっ?!あのキュレイ様がですか?!それはそれは...お名前はなんとおっしゃいますか?私はゲドスと申します」
「よろしく、カイトというんだ」
さらにキュレイにはあまり敬語で喋らない方がいいと言われた。
位が上の人間に大してはさすがにダメだが、同じ冒険者や店の店員相手などに対しては、騙されたり、ふっかけられる対象になりやすいとの事だった。
「カイト様ですね!本日はどのような奴隷をお求めでしょう?」
「これといって決まっている訳では無いんだが、色々見させてもらってもいいだろうか?」
「えぇいいですよ!ご自由にどうぞ!ただ、柵の間から手を入れて触ったりなどは厳禁でお願い致します。購入の際に気になさるお方もいらっしゃるので」
「了解した」
そういうと、俺は並べられている奴隷達を片っ端から“鑑定”していく。出来ればパーティを組みたいので、戦えるやつがいい。
だが、みんなそれぞれある程度のスキルは持っているものの、目を引くスキルを持っているものはいなかった。
「ゲドスさん、奴隷はここにいるので全てなのか?」
「......いえ、奥にいるにいるんですが、予約が入っているものと、...正直、売り物にはしていないものしか居ないんですよ」
「予約が入っているものは無理だろうが、売れないやつでいいから見せてもらえないか?」
「ですが、どれだけ躾ても反抗する奴がいるので危険ですよ?以前もそういったお客様がそいつに傷を付けられましてね...」
「大丈夫だ、傷をつけられてもそちらに責任をおわせるつもりは無い」
「かしこまりました!こちらです!」
......商人らしいといえば、らしいのか俺が、責任を取る必要がないと言った瞬間、こちらを気遣うようだった顔が一瞬にして喜色に染まった。
そうして連れていかれた場所には、3人の奴隷が繋がれていた。どれも少女の奴隷で、種類は違うが、全て獣人だった。
そしてその中でも一番奥にいた、狐の獣人に俺は目を引かれた。
名前:サニア・バードレイ
種族:狐獣人
Lv:23
ステータス:体力251
魔力213
攻撃209
防御197
敏捷204
知力187
スキル:変幻碧尾Lv.- 水魔法Lv.4 迅爪Lv.3
称号:尾格者
スキル 変幻碧尾 碧色の尻尾。世にも珍しい色の尻尾で、持ち主のすべての成長を促進する。レベルやスキルを取得しやすくなる。
称号 尾格者 尾を持つものの中でも、資格を持ったものに与えられるもの。成長に合わせて尾が進化し、より高次の存在へと近づく。
「ゲドスさん、一番奥の狐の子。いくらですか?」
「えっ?!彼女が1番危険ですよ?!いいんですか?!」
「はい、あの子が欲しいです」
「そうですか、....んー、そうですね。引き取ってい 頂けるのであれば、カイト様の要望額で引き渡しましょう。本来ならこんな条件を出していては、商人失格なんですがね....」
「それはまたどうして?」
「普通は最低でも銀貨50枚ほどはいただきます。しかし、彼女は如何せん躾られません。彼女のせいで、調教師だって何人も辞めましたし、食事代だってかかります。かといって捨てるのは誇りにかけて出来ません。そんな折にカイト様が現れたのですから」
「それならありがたくいただきます」
その後、値段交渉をし、最終的にギルドマスターからもらっていた調査の前金、銀貨20枚で手を打つことにした。
「それでは“奴隷術”を行使しますので、隣の部屋へどうぞ。そちらで購入の際の説明もさせていただきます」
「では、説明いたしますね。まぁもう料金は頂いているので省きますが、これから私が、“奴隷術”を行使し、カイトさんが奴隷に対して、何かしら命令すれば主従が確定します。そうすれば奴隷は基本的には主に逆らえません。しかし、彼女のように例外もいます。本来、主に逆らおうとすると、とてつもない激痛が走るはずなのですが、それを無視して彼女は攻撃してきます。その点を気をつけてください」
「分かった、気をつけよう」
「それでは“奴隷術”を行使しますね」
そう言ってゲドスは俺に魔法陣の上に乗るように指示してきた。ゲドスが何かを唱え始めると魔法陣が光りだし、俺の右の手の甲も同じように光りだした。
その時、俺の手の光りだした部分が、徐々に熱を持ち痛みを発する。その痛みに耐えること数分、光が収まり、赤く魔法陣が手の甲に刻まれた。そして、その魔法陣は消えて無くなる。
「これで“奴隷術”は完了です。あとは奴隷に手を翳して命令すれば全て完了となります」
「了解した」
俺はまた先程の獣人少女であるサニアがいる場所へと戻り、サニアに手を翳す。
「今日から俺がお前の主だ。よろしくな」
「ありがとうございました!カイト様またお待ちしております!」
俺はサニアを連れ、奴隷商を後にした。
あの後、檻の鍵が外されたが、その瞬間サニアは俺に襲いかかってきた。ゲドスからそうする可能性があると聞かされていたので、俺はサニアを受け止め、床に叩きつけることでその場をしのいだ。
まぁ野蛮だったとは思うが、あれが1番手っ取り早かったのだ。それからサニアは喋りはしないものの、俺の言うことに逆らうつもりは無くなったようだ。
もう空も赤みがかっていて、キュレイとも別れたし宿に行ってもいいんだが、急に女の子を連れてきたら、俺のことを変な目で見たりしないだろうか?
おまけに首輪が付いているから、奴隷だとすぐにバレるしなぁ...。
あぁ、ミリーちゃんに嫌われたらショックだな...。