第8話 邂逅
「あー、朝か…」
俺は体を起こし、背伸びをする。そして、昨日のうちに置いてもらっていた桶に“水魔法”でお湯を貯め、服を脱いでタオルで体を拭いていく。
一通りの作業が終わらせ、俺は朝ごはんを貰うために昨日の食堂に降りてきた。
「おはようございます!朝は卵とローチキンのサンドイッチです!」
元気な声で挨拶とメニューを教えてくれるこの子はこの宿の給仕さんだ。かわいい。
「ありがとう、楽しみにしてるよ」
「はいっ!少々お待ちください!」
昨日のシチューはとても美味しかったからな。朝のサンドイッチも期待大だ。
ローチキンは聞いたことがないが、チキンと言っているし、鶏の魔物なのだろう。
そうしてまたしばらくぼーっとしながら彼女を見ていると俺のところにもサンドイッチが来た。
「お待たせしました!卵とローチキンのサンドイッチです!」
「ありがとう、いただきます」
早速いただこうかな。...はむっ...あぁ文句など出ようはずがない、美味しすぎる。
このチキンも肉厚で美味しいが、何よりもこの肉にかかっているソースが美味い!
味は決して濃過ぎず、かと言って薄いわけでもない。朝でも食べられるように後味がさっぱりする柑橘系の香りが混ざっている。これは...すだち?みたいなものだろうか。そして、少しパンにソースが染み込んでいるのが尚いい。
4切れもあったが、直ぐに食べ終わってしまった。
「ごちそうさま、このサンドイッチもとても美味しかったよ。そうお父さんに伝えておいてくれ」
「はいっ!きっと父も喜びます!」
「そういえば君は名前はなんて言うんだ?」
「あっ、まだ自己紹介してませんでしたね!私はミリーといいます!よろしくお願いします!」
「ミリーっていうのか。俺はカイトっていうんだ、よろしくな。あとそんなに年も変わらないから敬語じゃなくていいぞ」
「そうなんだ!よろしくおねが...よろしくね!カイトくん!」
そう言って彼女、ミリーは別の客のところに走っていった。
俺も今日はギルドでギルドカードを貰う約束をしている。あった方が便利なのは昨日実感したからな。早く貰いに行こう。
「おはようございます、ティサネさん」
「あっ!おはようございます!カイトさん!ギルドカードですよね!ちょうどギルドマスターにカイトさんが来たら奥に通してくれって言われてたんです!」
「そうなんですか。わかりました、行きましょう」
俺はティサネさんについて行き、ギルドマスターの部屋に入ると、ギルドマスターの他に3人の人物がいた。
(ん?誰だ、この人たち)
「ギルドマスター!カイトさんを連れてきました!」
「ご苦労、ティサネ。下がって良いぞ」
「はい、それでは失礼します」
ん?あれ、ただギルドカードを貰うだけじゃないのか?それに、3人のうちの1人に物凄く睨まれているんだが...
まぁいいや。それより何の3人なのだろう?1人だけ女性が混じっており、ほか2人は男性だ。女性は純魔法使いのようなローブ姿、1人はガタイが良く、分厚い胸板が特徴的。最後のこちらを睨んできている男は細身だが、しっかりと筋肉はついており、高身長のイケメンだ。
名前:リュカ・ミズリース
種族:人間
Lv:45
スキル:極氷魔法Lv.6 光魔法Lv.8 解体Lv.7
名前:ボワルド・ストレイ
種族:人間
Lv:51
スキル:斧聖術Lv.5 頑丈Lv.6 挑発Lv.9
名前:キュレイ・ミトラス
種族:人間
Lv:63
スキル:剣聖術Lv.6 精密Lv.4 気配感知Lv.9 瞬動Lv.5
わーお、みんな強いな。なんでこんな強い人達が集められ.......
「おい!貴様!今何をしていた!」
(びっくりした!!なんですか?急に...)
俺をずっと睨んでいたやつが突然、俺に向かって怒鳴り出した。その様子に仲間の2人も驚いている。
「ちょっと、急に何よ!いきなり横で叫ばないでくれる?!」
「ここはギルドマスターの執務室だぞ、お前の部屋ではない」
「今こいつが俺たちを“鑑定”していたとしてもか?」
あー、そっか、こいつ“気配感知”持ってたわ。忘れてた。だから気づいたのか。
「なんですって?」
「お前...覚悟はいいんだろうな?」
彼らはイケメンの言葉を聞くなり、態度を翻して俺に怒りをぶつけてきた。にしても、たかがステータスを見たくらいで、何をそんなに怒っているのか俺にはさっぱり分からなかった。
「えっと...“鑑定”は使いましたけど、そんなに怒るものなんですか?」
「貴様っ...」
「ホホホ、その辺でやめとけい。キュレイよ」
「ギルドマスター!しかし、こいつは勝手に人のステータスを覗き見る、盗視者ですよ!?」
「おぬしの言いたいことも分かっとる。カイトよ、人のステータスはそやつにとっての生命線じゃ。何のスキルを持っているかで戦術を決めるのじゃからの。だから、無遠慮に覗き見るものでは無い」
あぁ、なるほどな。相手の怒っている事が分かった。確かに相手のステータスを見れれば何が強くて、何が弱いのかが分かる。
それが分かれば、こっちはそれに合わせた戦術を組めばいい。それをみだりに知られては自分の沽券に関わるということか。
「それはすまなかった。短慮だったよ」
「うむ。これで良いか?キュレイよ」
「くっ!ギルドマスターがそういうのであれば...」
「うむ。すまぬな。では、まずはカイトくんにこのギルドカードを渡そう。遅くなってすまなかったな」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます、それでは失礼します」
「待て待て、この先の話には君も関わっとるのだ」
そう言って部屋を出ようとした俺をギルドマスターは引き止めた。それを聞いた先程の3人も俺が残ることは聞かされていなかったのか、唖然としている。
「ギルドマスター!まさかこいつも作戦に参加するのですか?!ギルドカードを受け取ったばかりの新人が?!そもそもなぜギルドカードをギルドマスター自らがお渡ししているのです?!受付嬢にやらせればいいでしょう!」
「少し黙っておれ、キュレイ。わしの決定に不服でもあるのか?」
「いえ...申し訳ありません...」
「うむ。カイトくん、こやつらには既に話しておるのだが、君に参加して欲しい作戦があるのじゃ」
なんのことだろうか。作戦ということは俺が何かをやってしまった訳ではないと思うのだが、なら何か問題でも起こったのか?
「昨日、君が大量に持ってきたゴブリンとコボルトの耳があるじゃろう?おぬしは知らぬかもしれんが、本来あの場所にはあそこまでの数は居ないはずなんじゃよ」
そう言い出したギルドマスターの言葉に横に立っている3人はまたも唖然としている。表情筋辛くない?
「ええ、持ってきましたが、それはどういうことですか?」
「うむ。それはの、本来あの場所には多くとも20匹から30匹ほどしかおらんのじゃ。じゃが、おぬしはそれ以上を持ってきおった。そこで考えられる可能性は、ゴブリンとコボルトの集落が出来ているという可能性じゃ」
「そうだったんですね。もしかして作戦とはその集落を潰せと言うものですか?」
「最終目標は確かにそうじゃが、どれほどの規模なのかがまだ見当つかん。そこで、おぬしとこの3人でパーティを組んでもらい、調査をお願いしたいのじゃ」
俺が狩ってきたゴブリンたちがそんな大ごとに発展するとは思わなかったな。まぁやれと言われるなら特にすることもないし、やぶさかではない。
「それは構いませんが、俺は討伐こそ出来るものの調査はやり方が分かりませんよ?」
「それはこやつらが分かっておる。いい機会じゃ先輩に教わってくるといい」
確かに相手のことを事前に調べることが出来るなら、アドバンテージは取れる。俺はずっと“超嗅覚”任せだったからな。オーソドックスな調査の仕方を学べるのはありがたい。
「それはありがたいのですが、この人たち、特に1人にすごく敵視されているんですが...」
「キュレイ...そんなに気に食わんか?」
「正直申させていただきますと、納得出来ません。ギルドマスターの口ぶりを察するに、調査で集落が発見された場合、その討伐にも参加させるおつもりではないですか?万が一の場合も...」
「うむ。そのつもりじゃ。それだけの力があると思っておるからの。それに本来、おぬしが認める意味はないのじゃが...。はぁ、仕方ないのう。カイトくんと下の訓練場で決闘でもすると良い。負けずとも力があることは分かるじゃろう」
「ギルドマスターが許可して貰えるなら是非に」
あれ?俺の意思は?なんか俺が関係していないところで決闘の話が出ましたけど?キュレイさんレベル近いし、スキルも強いから多分勝てないと思うんですけど...。
まぁ手札の数が違うので、ある程度勝負にはなるだろう。だが、殺すつもりのない戦いで黒刀を使うのは危険だな。おそらく剣で受けられてもそのまま剣ごと切り落としてしまう。
「カイトくん、とばっちりじゃが受けてくれるかの?」
「ええ、それはいいんですが、多分負けますよ?それで外されるのは、急に話を持ってこられた自分としては癪なんですが...」
「そんなことはせんよ。わしが頼んでいる立場じゃしの。このキュレイの気が収まればいいのじゃ、もしそれで収まらんならランクを下げよう」
「はっ?!何故ですか?!」
「おぬしより強い者、ましてや同レベルの者などいくらでもいる。今の立場に慢心し、相手を見た目で判断するようなやつにA級は任せられんと言うことじゃ。失望させるなよ」
「くっ…わかりました」
つまりどういうことだ?とりあえず決闘はするが、それはこのキュレイさんの鬱憤晴らしなため、別にその結果がどうであろうとパーティに変更はない。
さらに、“鑑定”を持っていないこの3人は俺の本当の実力が分からないため、実力のないど新人だと判断したのかも知れない。片目片腕なのも侮っている1つの理由かもな。
俺はギルドマスターと先程の3人と共に、ギルドの地下にある、大きな訓練場に来ていた。
「おぬしらには、訓練として決闘してもらう為、非殺傷武器を使って貰う」
「「わかりました」」
キュレイ以外の仲間は客席に行き、俺とキュレイさんは武器を選ぶ。俺は数ある武器の中でもやはり木刀を選んだ。そして、キュレイさんは木剣を手に取っていた。そうして、互いに位置につく。
「準備は良いか?それでは...はじめ!」