魔導連合のお話し
「やあやあ」
暗闇のなか、まるで大型スクリーンのようなものに映し出された男は大げさな動きで挨拶をする。
魔力で作り出されたそのスクリーンは水面のようにゆらゆらと揺れている。
「何者だ!」
そこに集まっていた22人の所有者達は一斉に立ち上がり一箇所に集まると武器を構えた。
「おいおい君たち、忘れちゃったのかい?」
男は、着ている服に刻まれた紋章をぐいっと画面に映し出し、そういった。
「魔導・・・連合・・・」
「ふざけるな!あの組織は解散したはずだ!」
誰ともなくそんなことを言う。
魔導士の中で魔導連合を知らない人はいないだろう。
その歴史は古くアンダーアビスが生まれる少し前のことだ。
魔導士や亜人を無差別に殺す人間に武力で対抗しようとするものたちがいた。
愛するものを守るため、復讐のため、平和のため・・・理由は様々ではあったがその組織は瞬く間に規模を広げ、まさに戦争を始めようとしていた。
だが、ある一人の魔導士は気付いたのだ。
それだけの規模の魔導士が戦争など起こせば世界が持たないと。
純粋に衝撃によって地震や火山の噴火など何らかの自然災害を引き起こす可能性もあったし、それどころか魔法という凄まじいエネルギーを帯びたものが一つの戦場で何度も連続して使用されると次元が耐え切れず歪みが生じ、そこが綻びとなって世界ごと崩れてしまう可能性も十分に考えられた。
その主張をもとに魔導連合に所属していたほとんどの魔導士は脱退。
だが、解散するまでには至らず残ったわずかな魔導士たちは戦争を起こした。
結果は惨敗。
魔導士というのは確かに強大な力を持っているが人間に数で圧倒されてしまえば脆い。
その戦争のあと、すぐにアンダーアビスという世界が作られ戦争をする意味も人員も失った魔導連合は解散するに至った。
「そう、皆知っている歴史さ・・・だが一つだけ間違えていることがある」
男はスクリーンいっぱいに自分の顔を映し出すと続けて言う。
「魔導連合は解散していない」
「なに?」
「我らはこの暗い穴倉で復活のときを待っていたのさ、十分に力は蓄えた・・・我ら魔導連合は人間を根絶やしにするため人界に進軍する」
「ふざけるな!」
「ふざけるな?・・・ふざけているのは君達だろう!!!なぜ我らが退かねばならなかった!魔法も使えぬ劣等種を前に、なぜ我らが!!・・・愛するものを奪われた我らの雪辱・・・退いた臆病者どもにわかるか!!!」
男は息を荒げて怒鳴ると、3度大きく呼吸して我に返る。
「失礼した・・・無魔狩りを邪魔するなら君達も殺す」
男は取り乱したことに侘びを入れるとそういってスクリーンを閉じた。
無魔とは魔導士の中で魔法を持たない人を見下すときに用いられる差別用語だ。
「やれやれ、こりゃいつものチンピラとはわけが違うな」
たまに所有者達に不満を持ったチンピラがこういったことをして殴りこみに来ることがあるが、そんなレベルではない事態に所有者達も頭を抱える。
「0に頼んで出てもらうか?」
「黒の騎士団か?」
「ああ」
「冗談じゃねぇ・・・」
誰ともなく出た提案をそんな言葉で遮ったのは15の悪魔だった。
その顔は醜悪に歪んでいる。
「だな」
その顔を見た所有者達も同じような顔で狂気に満ちた笑みを浮かべる。
「「「こんなおもしろそうなこと・・・独り占めはよくないもんな」」」