最強の7人
衝撃的な事実が
8,
話し合いが終わり、ハーバルトの書斎から出て来たジークとインスは、共にジークの部屋へ戻るべく、屋敷の廊下を歩く。
必要最低限の明かりに照らされた廊下を、重い足取りで歩くジークは、未だに自身の置かれた境遇に困惑しており、隣を歩くインスの方をチラ見する。隣を歩くインスは、先程の話し合いでの出来事を思い出し、今も肩を震わせ笑っていた。
「いや、すごいなお前の親は、思い切りがいいというか何というか、けどまぁ、学園ね……学園の話を聞いた時、俺はお前が学園にいる間は常時剣の姿でいるつもりだったが、まさか、一緒に入学させるなんてな」
そう、楽しそうに話すインスは、ふとジークの方を向く
「そう言えば、お前は、親が雇っている奴に、剣術や魔法の一般的な戦い方を習っているんだったか?」
「あぁ、そうだけど、ローグさんっていって、凄腕の冒険者なんだ」
ローグは、ジークが十三歳の頃から三日に一度、屋敷に趣き、剣や魔法の教授しているジークにとっての師匠である。
見た目、金色の逆立つ髪に無精ひげを生やした少し怖い人物だが、稼いだお金は孤児院などに寄付していたり、新人冒険者の付き添いなど、見た目と裏腹に、とても優しい人である
「冒険者?」
ただ、インスが気になったのは、地球での創作物に良く出てくる冒険者の部分だった。
「そうだ、国境を超えて大陸中に存在する冒険者ギルド。本部は中立国家エルガにあるんだ。冒険者には階級があり、一番下が木の階級でそこから順に、石、銅、鉄、銀、金、黒曜、ダイヤ、オリハルコン、そしてトップは神鉄となっていてローグさんはダイヤの階級を持っている人だ」
「オリハルコンと神鉄はどの位居るんだ?」
「オリハルコンは、この大陸にある七大国を合計しても役五十人。更に神鉄は各七大国家に、一人ずつ存在しているんだ」
「じゃあこの国の神鉄は、どんな奴なんだ?」
その質問に、ジークは足を止めインスの方を振り向く。そして大きく深呼吸をし、口を開く。
「名前はセイト・ハーバルト俺の父親だ……」
「はぁ? ……はーあーーーーー!!」
その瞬間インスは絶叫しながらジークに詰め寄る
「いや、待てよお前の父親だと!! て、事は何か? 今さっきあったあの書類で疲弊してますって顔に出てたあいつか! 嘘だろ!!」
確かにハーバルトの机には、領地関係の書類やら何やらが沢山山積みになっており、更に部屋の済にも書類の山がいくつも存在していた。だが、それはそれコレはこれだ。
「父さんの現役の頃の二つ名は『影』普段は特に覇気を感じないが、緊急時は現役時代からの衰えを見せつけない程の実力の持ち主だよ」
ジークはそう言うとまた廊下を歩いていく。
十年前、この領地を襲った大災害。空には火の粉が舞い、植物は燃え尽き、水は枯れ、多数の死者を出した災害。その原因は神獣と呼ばれるとてつもなく強大な力を持つ魔物。その魔物により、セイト領は完全な死の大地とかした。誰もが諦めたその時、魔物の住処に単独で乗り込んだハーバルトは、激戦の末、辛くも神獣に勝利した。
その時の戦闘は凄まじく、山二つが完全に消滅。その余波は遠く離れたこの屋敷にも及び、戦闘の様子は人の入る余地の無い、まさに人外同士の戦闘だった。
当時四歳だったジークの目には、その途轍もない幻想的な戦いは、恐怖ではなく憧れとなり、今も尚脳裏に刻まれていた。
「因みに母さんはオリハルコン階級の冒険者。二人共貴族でありながら若い頃に家を飛び出し、ギルドで出会い恋に落ちたそうだ」
まるで物語の様なこの出会いは、後に国を救う英雄章へと変わる。
「じゃあお前は何故親からではなく、そのローグと言う奴に習ってるんだ?」
その質問に、ジークはため息を吐き話す。
「二人共強すぎて訓練にならないんだ。あと、父さんも母さんも完全に感覚派だから何言ってるのか全然分からない。そこでこの領地に居るダイヤ階級のローグさんに頼んで稽古を付けてもらっているんだ」
強い者が教えるのが上手いと限らない。インスは唖然としていたがやがて納得したのか脱力する。
「はぁ……お前も苦労してるんだなぁ。まぁ、取り敢えずお前には明日から俺を使いこなせる様に訓練もしてもらう予定だ。強くなればお前は俺を使いこなせるようになるからな」
話が終わる頃にはジークの部屋の前についており、二人はドアを開け部屋に入る。ジークはベットに腰掛けインスは椅子に座る。
「んで、残りの六人は誰なんだ?」
「一人目は隣国セーバルト王国。この国の神鉄は『剣聖』オズワルド、剣をもたせるとまさしく無敵と言われている男だ。そして二人目は、聖王国の神鉄『守護』リリア・シュピーゲル。聖王国の護りを担当するシュピーゲル伯爵の長女で俺と同年代だが、これは聖王国の秘宝『聖盾ハーバ』に選ばれ、その将来性を見込んで神鉄にされてる状態だ。三人目は『獄炎』コレは、詳細は不明だがベルタ共和国の神鉄で、四人目の神鉄、ジルド王国の『氷牙』と仲が悪いと言われている。『氷牙』も同じく詳細が解ってないんだ。残りの二人は教国と帝国に『聖光』と『帝王』がいて、あまり表に出てこないからこちらは二つ名しか知られてない。だが、『帝王』は、アルファトル帝国の王がそう呼ばれているらしいく、調べてみれば、歴代の皇帝はそれぞれが途方もない力を持っていたとされている。まぁ、基本的に神鉄は国の守護や、治安維持の時にしか表に出てこない。これは、大陸の条約で決まっていて、それぞれの国も同意している。破れば残りの神鉄が纏めて襲ってくるようになっている」
国にとって神鉄は、核爆弾に匹敵する戦力であり、一歩間違え他所の国へ出奔されれば、防衛戦力な激減や、強大な外敵に対する切り札を失う事を意味している。
「なるほど……上手く行けばそいつらの力も【模倣】できるかも知れないが所詮【模倣】は【模倣】でしか無い。原初の、それも使いこなしてる奴には勝てないが牽制には使えるだろう」
そんな想像を膨らませながらインスは笑っていた。
「取り敢えずは、明日からの訓練に備えね今日はもう寝ろ。明日は忙しくなるぞ!」
そう言うや否なインスは剣の姿に戻り反応がなくなる。ジークはそれを確認すると、寝間着に着替え、布団を被り眠りにつくのだった。
◆
一方ジークとインスが出て行った書斎では、セリアとハーバルトが話していた。
「どう思う?」
「何がですか?」
ハーバルトの問いかけにセリアは誤魔化しながら答える
「インス、彼の目的だ」
「おそらく本当の事しか話してないと思うわよ?」
「そうか……お前が言うのならそうなのだろう。あの時も魔法を使っていたのだろう?」
「正確には魔術ね。魔法だと、ここまで繊細な命令は出せないのよ」
そう言うとセリアはどこからか杖を取り出し杖で床を三回突く。すると部屋の壁や天井そして床に魔法陣が現れ、それらが薄れ消える。
「ジークもまだまだね、この程度の魔術も感知できないなんて」
「だから彼を一緒に付けたのだろう?」
二人共我が子の未熟に嘆きながらもその目は優しく我が子を思う親の目をしていた。
「さて、模倣剣〈意志ある剣〉か、これは教国と帝国にバレると厄介なことになりかねんな……」
「うちの王にバレても厄介よね……」
そうして二人は如何にジークを守るのかしばし話し合い続けたのだった。
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