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模倣剣の担い手  作者: 掃除 
始まり
6/144

能力の説明と融合の理由

 6,




 それからジークは、牛の魔物に飛ばされた剣を回収し、疲労で重い脚を引きずり屋敷へもどった。


 ジークの家、セイト伯爵邸は、街の繁華街から少し離れた場所に居を構えており、ジークは自分しか知らない抜け穴から外壁を通過し、街の中に入る。さらに、この場所は屋敷の丁度裏側に通じており、穴から顔を出し、周囲に誰もいないことを確認すると、こっそりと屋敷の裏口へ向かう。


 が、洗濯物を干すため選択籠を持って裏口から出てきたメイド長のシーラとばったり遭遇してしまう。


 ジークの姿をみてギョッとしたシーラは、直ぐ様声を荒げジークの側付きを呼ぶ。


 シーラに呼ばれ駆け付けた側付きのメイドは、ジークの姿を見ると、一瞬固まったが、無言でジークを部屋まで連行した。


「ジーク様、また勝手にいなくなったと思ったら、今度は血と土にまみれ挙げ句に大怪我をして帰ってくるなんて、今度は何をやったんですか?」


 部屋に付くなり血と土で汚れた服を脱がされ、すぐに応急処置を受ける。


「思ったより目立った怪我はありませんね? ですが、腕に痣があります、万が一のため、冷やして固定させて頂きます」


 呆れ顔で怪我の応急処置をしいるメイドの名はミラといい、腰まである青い髪と、髪と同じ青い瞳を持つ同い年の少女で、五歳からジークの側付きの役割を果たしているメイドだ。


「いや、これには深い訳が──」


「いいえ、深いも浅いも関係なく今回ばかりは旦那様に報告させていただきます」


「はい……」


 訳を話そうにも、何から説明するか言葉を詰まらせるが、ミラに強い口調でピシャリと論され何も言えず、観念する。


「はい! これで終わりです。あとは……」


 処置が終わったのかミラは立ち上がると、今度は壁に立て掛けてある、折れた剣と見覚えの無い真新しい剣へ視線を向ける。


 そして、壁の方に移動すると、折れた剣を手に取りその刀身を観察する。


「見事に折れてますね。確かに長い事使われていましたが、日々の手入れは怠っていませんでしたし……それで、これはどうしたんですか?」


 ミラは折れた剣と見覚えの無い剣を交互に見比べると、折れた剣を布で包み始める。


「あっと、えっとこれは……」


 どう説明すべきかジークが右往左往していると、ミラは布で包んだ折れた剣を一旦床に置き、治療箱をまとめ始める。


「まぁいいです。では、私は旦那様に報告してきます。後少しで治療魔法士の方がいらっしゃるので安静にして部屋から出ないで下さい。分かりましたね?」


 有無を言わせぬ口調で言われ、ジークは大人しくうなずく。


 それを見たミラは布で包んだ折れた剣と治療箱を持つと、ジークを残して部屋から退出した。


 ミラが部屋から出てしばらくすると、ジークは部屋の扉を開け辺りを見渡し、ミラが部屋から離れたのを確認すると今度は壁に立て掛けてあった剣へ声をかける。


「起きてるんだろ?」


 そう声をかけると、牛の魔物との戦闘時と同じく、頭の中に声が響く。


(んぁ……何か用か?)


「もう一度あの時の説明を頼めるか?」


 そう尋ねると、立て掛けてあった剣が光る。やがて光は収束しインスが現れる。


「ふぁ〜……よく寝た。いや、寝たというよりは、夢という名の映像を見せられていた気分だ。ふぅ……まぁ、良いか。んじゃあ、もう一度説明するぞ」


 大きくアクビをしながら現れたインスは、身体をひねったり伸ばしたりして身体の調子を確かめる。


「ああ、ちょっと待ってくれメモを取りたい」


 インスが説明を始める前に、慌てて机の引き出しを開けると、紙とペンを取り出す。


「頼む」


「一から説明し直そう。俺の前世は葉山 司と言う一人の元人間だ。今は模倣剣〈意思ある(インテリジェンス)剣〉(ソード)のインスだ。ここまでは良いか?」


 インスはベットに座りこむと話を続ける。


「次にお前だ。お前は俺の今世、つまり俺の生まれ変わりだ」


「生まれ変わり……もし、お前の言うことが事実なら、何故お前がそこにいるのに、俺はここにいるんだ?」


 ジークが尋ねると、インスはベットから立ち上がり、机まで来ると、ジークからペンを受け取り、紙に何かを書き始める。


「これを見ろ」


 そして、書き終えた紙をジークの目の前に付き出す。


 そこには、二つの「○」が書いてあり、片方の「○」は黒く塗りつぶされていた。


「いいか、今の俺の状態を詳しく、そして解りやすく教えよう。まずこの「●」。これを前世の俺とする」


 インスが「●」にインスと書く。


「早速だが、この「●」と「○」の違いは何かわかるか?」


 ジークはしばらく考えるが分からず首を降る。


「この2つの違いは記憶の有無だ「●」には記憶があり「○」には何も無い新しい魂を表している。さらに分かりやすくするなら、コップと水に例えても良い」


 インスはそう言うと、次に「○」の方に無地と書き込む。


「俺は神に頼み、この「○」の方に俺の記憶を移植した。コップに例えるなら、水の入ったコップの水を空のコップに移したと考えて良い」


 そう言うと無地を黒く塗りつぶしていく。


「移植したあとの俺の魂、つまり水を移したコップは空となる。これを使っているのがジークお前だ」


 すると次は「●」の方に、インスの文字を潰しジークと書く。


「そしてお前が誕生した瞬間、俺はお前の前に現れ魂と一時的に融合していた訳だが、融合した訳はお前の魂に残っている俺の残留物を回収することにある」


「残留物?」


「そうだ、いわばコップに残った水滴のようなものだ。これは後で話すとして次だ」


 そうすると次は何処からか見た事ある剣を取り出す。


「これは俺の本体、模倣剣」


「模倣剣?」


「そうだ、模倣剣の【模倣】は、世界の神話や伝承の武具とアイテム。そして、歴史的人物、更に神話や伝承の『人物』の特性を俺又は担い手、つまりお前に模倣する力がある。これはこちらの世界の神話なんかも【模倣】出来る能力だが、いくつかのルールが有る」


「ルール?」


 頭に疑問符を浮かべていると、インスは紙とペンをジークへと返す。

 

「一つは模倣する物または人物を有る程度知らないと使えないことだ。これは、模倣する際に俺とお前のイメージを合わせないといけないからだ」


 その時ジークは、魔物との戦いで頭に流れたイメージを思い出す。


「あのときの口上はそう言った事だったのか?」


「そうだ、きちんと武器のイメージをお前の頭に送れただろ」


 頷くと、インスに話を続けさせる。


「だが、こちらの世界の神話や伝承や歴史的人物を俺は知らないしお前は俺にイメージを送れない。だから【模倣】する事は難しい。もちろん、やろうと思えば出来るが威力は半減する。これは覚えておけ」


 ふと、気がつくと、インスの持っていた剣が消えていた。。


「次だ、【模倣】には制限がある、それはお前のレベルだ、【模倣】には、それぞれにレベルが設定されている。このレベルはお前の担い手としてのレベルが上がれば解放されていくと共に、お前の体が壊れないためにある制限でもある。だが万が一レベル以上の【模倣】をしようとすれば【模倣】が完成できてもお前の体はしばらく無理の代償として動かなくなる。それにいくつかのデメリットも有る。これはどんな物かは俺も知らない」


(戦闘中にすれば命を落とし、日常でも緊急時には役に立てないと…下手をするとデメリットでさらに駄目になるか……)


「以上が模倣剣の大まかなルールだ」


 インスは話を終わらすとベットに戻りくつろぎ始める


「待ってくれ。まだ、俺との融合の理由について話してないぞ?」


 すると、インスはジークを指差す


「お前は記憶力が異常に良くなかったか?」


(確かによく記憶力はいい方だと思うけど歳を重ねるごとに小さい頃よりは、はっきり覚えていられなくなったが……)


「お前から回収したのは俺の記憶の容量だ。この中には俺の【模倣】に必要な記憶が詰まっていたんだが、魂が変わった影響でお前の中に大半が残ってしまった状態だったんだよ。このままお前に残しておくと【模倣】が万全に使えない可能性があったから回収させてもらった」


 すると、インスはにこやかに笑う。


「それでもお前には、まだ人としては膨大な記憶の容量が残っている。だから、勉強は弾むぞ」


 ジークが呆然としていると、インスはベットに寝転がった。


「俺はしばらく記憶の整理に入る。じゃあな」


 そのまま人化を解き何事も無かったかのように黙り込んだ。


「あ、おい! はぁ……そろそろ治療魔法士が来る頃か」


 ジークはその後、魔法士に治療されミラの沸かした風呂に入ってそのまま夕飯まで眠るのだった。

修正完了(8/25)

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