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模倣剣の担い手  作者: 掃除 
プロローグ
2/144

プロローグ2

プロローグ最後

改良済み

 2.


 雲ひとつ無い満天の星空の日、ある屋敷にて新しい命が誕生した。


 とても喜ばしい夜に……なる筈だった。


「旦那様!! 急いで──」


「わかってる!! セリアは無事なのか!!」

 

 従者の言葉を遮り、男は走る。


「はい!! 奥様は治癒を受け回復しています!」


「そうか、クソッ!」


 まだ二十代後半になったばかりであろう黒髪黒目の男性は声を荒げ(あらげ)、更に速度を上げた。


 何時もは気持ちいい夜風も、この時ばかりは煩わしく感じる。


 妻のいる部屋に近づくに連れ、男の焦燥は大きくなり、やがて、目的の部屋の前に辿り着く。


 扉の前で男性は肩で息をしながらも、ドアノブに手を掛ける。部屋から数名の人の気配があり、バタバタと忙しなく物音や怒号が聞こえてきた。

 

 男は呼吸を整えると扉を開ける。


(あぁ……)

 

 部屋にいた人物達は男の方を向くとすぐさま駆け寄り事情を話し始める。


 しかし男はそれを遮ると、ベットの上に横になりながらも、自ら抱いているそれに向かって、一生懸命、魔法を流し続ける女性の側へと寄る。


「おねがい……おきて、声を上げて……」


 泣きそうになりながら、魔力をソレへと送り続ける妻、悔しくて悲しくて、それでも歯を食いしばり感情を押さえつけ、妻の肩を抱いた。


 部屋の前に辿り着く前から察していた。


 本来あるべき反応が部屋の中からは1つ足りなかったから。


 生きる為に必要な魔力の反応が、ソレからは感じなかった。


 魔力は生きるためのエネルギーであり、この世界すべての生き物が持つ。


 魔力が枯渇すれば人は倒れ、衰弱する。


 生命維持に使われる魔力すら喪われれば、もはや語る必要も無い


 赤子は母体から栄養と共に魔力を受けるとされる、自身に魔力がない以上、へその緒が切られた今、母体から与えられた魔力を使い切れば、その時……この小さな命は消える事になる。


 魔力を流し込む妻も、出産の疲労が抜けておらず、魔力切れでいつ倒れてもおかしくない、無理をすれば、妻の方も危険な状態になる。


 どちらにしろ、時間の問題でしかない。


 そんな時だった。


 部屋の中を突如発生した光が溢れ、光の強さに皆が目を覆う。


 やがて光が収まり男が目を開けると、目の前には光を纏った女性の姿をした何かが宙に浮いていた。


 警戒し身構えた男に構わず、人の姿をしたそれは妻の抱く赤子に近づくと、フワフワとした幻想的な光を放つ何かを赤子へと近づける。


 とっさに男は人型の腕を掴んで阻止しようとしたが、男の手は光を掴むことができず空を掴む。


 人型は警戒する妻に優しく微笑みかけると、その手から赤子を受け取り、先程の光を赤子へと触れさせた。


 光は赤子に触れると、赤子を包み込みゆっくりと消えていく。


 そして


「ァ…ア……アァァーー!!」


 赤子が、大きく泣き声を上げた。


 それと同時に信じられない程の膨大な魔力が、赤子から発せられる。


 先程まで全く感じなかった魔力が、赤子の泣き声とともに空間に溢れ出す。


 魔力の奔流により近くの花瓶が割れ、窓ガラスにヒビが走る。


 しかし、人型が払うように腕を振ると、先程まで荒れていた魔力の暴風がピタリと止んだ。


 人型はそれに満足したのか泣き叫ぶ赤子のを妻へと渡す。


 受け取った赤子を、妻は目を見開き、やがて、涙を流しながらあやしだす。


 赤子が泣き止み眠りにつくのを確認すると、人型は新たに光を放つと、いつの間にか手に一本の剣を持っていた。


 改めて警戒した二人をよそに、人型は剣に先程と似た幻想的な光を押し当てる。


 光が剣を包み込むと、剣が輝き出しゆっくりと光の球へと変化していく。


 光の球となったそれは赤子へとフワフワとした動きで近づき、赤子に触れた途端、赤子に吸収されるかの様に消えた。


 それを見届けた人型は頷くと、身に纏う光が急激に強くなり、部屋を満たす。


 やがて、光が収まった時には、何事も無かったかのように、人型は消えていた。


「なんだったんだ、いったい……」


 取り残された人々は、呆然としながらも先程の出来事に混乱する。


 そして、この日の事は、見ていた者達に疑問を残しながらも、やがて不思議と男とその妻以外の者の記憶から消えていった。



 真っ白な一室に着物を着こなしたヤクザの親分を思わせる初老の男性が一人座っていた。


「そろそろ時間か?」


 男がそう呟くと、目の前に光が発生する。


 そして光が収まると、そこには一人の若い男が立っていた。


「おう、またあったな」


 初老の男性がそう言うと若い男はあたりを見渡す。


「……なるほど終わったのか……」


 若い男がつぶやく。


「クリアー出来るなんて思ってなかったぞ。だが、ゲームクリアーだ」


 初老の男。否、黄泉の神は、男に声をかける。


「早速で悪いんだが早く椅子に座れ」


 黄泉の神に促され、司は取り敢えず席に座った。


「さて、オメェはゲームクリアーと言う大挙を成し遂げたわけだ。一体、オメェが転生してからどれだけ経ったかわかるか? わからないと思うからここで教えてやろう。ざっと百十六正年だ。まぁ、わかり易くいやぁ、0が43個だ、よく正気でいられたな? まぁ、地球時間に直すと三年くらいなんだけどよ」


 途方もない時間を言われ、司は唖然とした感じで口を聞いていた。


「まぁゲームクリアーしたんだ報酬を払おう」


 そんな司を気にも止めず、黄泉の神は机の上にあった紙を司の前に差し出す。


「これでよかったか?」


  司は迷いなく頷く。


「分かった。ここに書いてある通りにオメェを俺達神々の誇りにかけて転生させよう」


 黄泉の神はそう言って椅子から立ち上がる。


 すると、今までの真っ白な一室から広い広場に景色が移り、そこには沢山の人達が司と黄泉の神除くの周りを取り囲むように現れた。


「コイツ等は人では無く神々である。今ここにゲームクリアーを讃えその願いを成就する」


 黄泉の神は高らかに告げる。


「オメェを此れから異世界に転生させる。もう合うことは無いだろう。だが、もし会うことがあったならば、その時は話を聞かせてくれ」


 すると、司の足元に魔法陣が現れ、回転を始める。やがて司を包む光が強くなり、その光が最高潮に達した時。司は広場から姿を消す、その瞬間──。


「「「「ゲームクリアーおめでとう!!」」」」


 そう、神々の声が聞こえた。


 こうして葉山 司は異世界へ旅立ったのであった。

修正完了(8/17)

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