米とBBQ
家族の紹介も一通り終わったところで、いよいよバーベキュータイムの始まりだ! やっふう! ナヴィドさんが家の外に作られた背の高いかまどの上に鉄板を乗せ、野菜や肉を焼いていく。薄切りにされたビッグホーンの肉は見た目にも美しく、テレビの中でしか見たことのないA5ランクの肉を彷彿とさせた。鉄板に乗せた途端じゅううううっっという良い音と共に、ふわっといい匂いが漂ってくる。めったに食べることのできないごちそうだ! 五感をフルに使って堪能しつくしてやる……!
「さあどうぞ。軽く塩は振ってありますが、お好みでこちらの果汁を掛けて召し上がってください」
「わー、いただきます!」
ナヴィドさんが取り分けてくれた肉をぱくっと口に入れる。瞬間、溶けた。……何これ。こんなの食べたことないよ……!
「……おいしいです! 柔らかくて、脂がすぐに溶けて、でも肉の旨味もしっかりあって、何よりしつこくない! これなら何枚でも食べられます!」
ビッグホーンは野生の魔物だし、もっと筋肉質で硬い肉を想像していた。だが、食べてみれば肉質はブランド和牛さながらだ。用意された柑橘の果汁を掛けて食べると、更にさっぱりと頂くことができた。あまりのうまさに全員の箸が止まらない。大皿に盛られていた肉は一瞬にしてなくなり、四人目の奥さんが追加の肉を切りに家の中へと走って行った。その間、娘さんたちが育てたという野菜も食べたが、どれもこれもおいしい! すぐ横の畑で収穫したばかりの新鮮野菜だ。旨くないわけがない。わたしのお気に入りは、一本丸ごとのトウモロコシだ。皮付きのまま焼くと、甘みがぎゅっと濃縮されて、何もつけなくてもめちゃくちゃおいしかった。
ビッグホーンを倒したルークスは一番良い部位を勧められ、厚切りのステーキにして焼いてもらっている。ステーキといえばということで、アイテムバッグから粗びきのブラックペッパーを出して使ってもらうことにした。みんながルークスの食べる姿に注目している……!
「じゃあ、食べるぞ……!」
一口大に切ったステーキが口に運ばれる。何度か咀嚼した後、ルークスは額を押さえて黙って何度も頷いた。……言葉にならないぐらいおいしいんだね? あまりにもおいしいので、みんなにも食べてほしい! ということで、一センチ角ぐらいになってしまったが全員にステーキのおすそ分けがきた。
柔らかそうな赤身をレア気味に焼いたステーキは肉汁たっぷりで、脂の旨さとはまた違った肉本来の風味がガツンと主張してきた。一センチ角のくせに、存在感が半端ない。噛めば噛むほどに味わい深さが舌に広がったが、当然、噛めば噛むほどにどんどん無くなっていき、余韻だけを残して数秒後には完全に無くなってしまった。しかしこの物足りなさが最高のスパイスとなって、わたしはビッグホーンを「今までの人生の中で出会った一番うまい肉」に認定した。
「そろそろ米が茹で上がりますよ」
「……え? 茹で……?」
先ほどからかまどの端でぐらぐら煮え立っていた鍋は、なんと米を茹でていたらしい。炊くんじゃないんだ!? ナヴィドさんは茹で上がった米をざるにあげて、蓋をしてしばらく蒸らした後、一人ずつに配ってくれた。日本のお米とは違う長細いインディカ米だ。混ぜて食べる用にバターも用意されたが、まずは何もかけずに食べてみることにした。
……うん、日本のお米とは違うけど、これはこれでおいしい! 意外とモチモチしているし、パラパラなので絶対カレーに合う!! ナヴィドさんにお願いして少し分けてもらうことにしよう! エステラにカレーライス作ってもらうんだ!
わたしはカレーライスの妄想を膨らませて、ニコニコしながら米をほおばった。バターをかけるとまた違った感じがしておいしい! お肉とも合う! 幸せ!
「ユーリって食べてるところも可愛いね」
突然耳元で囁かれ、飲み込みかけていた米が気管に入ってしまった。ゴホゴホとむせながら振り向くと、そこにはファルシャードが立っていた。い、いつの間に!
「ゴホッ! ゲホッ……! な……なんでここに? 旅立ちの準備をしてるんじゃなかったんですか?」
「旅立ちの準備してるよ? 今は付き合ってた村の女の子にお別れを言って回ってるんだ。ナヴィドの娘達とも付き合ってたから」
……娘達ね。ファルシャードはナヴィドの三番目と四番目の娘に別れの挨拶をしている。「寂しい!」とか「行かないで!」とかそういった反応があるのかと思いきや、二人ともあっさりとした様子で別れを告げていた。……この村の恋愛感ってわかんないわ……。
意外と話が進まなかった……。肉と米のことしか書いてない……!
短いですけど一旦ここで切ります!