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ナヴィドさんの家族

 ファルシャードの準備が整うまでの間、長の隣にいたナヴィドさんが村を案内してくれることになった。ナヴィドさんは、自由に動き回れない長の身の回りのお世話や仕事をサポートしている男性だ。物腰も柔らかく、親しみやすい笑顔に加え銀色のお髭が素敵。なにより服をちゃんと着ているところが良い。いや、異文化を否定するわけじゃないけど、耐性がないわたしには地味に辛いのだ。


 案内ついでに、ナヴィドさんの家でルークスが倒したビッグホーンをご馳走してくれるらしい。薄く切った肉や野菜を鉄板で焼いて食べる料理って、それバーベキューだよね? ……わたしもついにリア充の仲間入りか……。ここ現実リアルじゃないけど。


 ビッグホーンは見た目からして牛の魔物なので、わたしも抵抗なく食べることができる。ルークスの話では「臭みもなく、脂がのっていて旨い!」とのことだ。久々の牛肉! 楽しみ!


 わたしは口に溜まったつばを飲み込み、肉への期待を膨らませる。ふんふんと鼻歌交じりに長の家を出たところで、ナヴィドさんがわたし達に深々と頭を下げてきた。


「……先ほどは失礼いたしました。ご気分を害されませんでしたか?」

「あ、いえ! 大丈夫です! ……長も大変ですね」


 わたしの言葉に、ナヴィドさんは困ったような笑顔を見せた。そうして、歩きながら大地の民についての色々な話をしてくれた。


「先の戦争が起こる前、私達大地の民は農奴として扱われ、多くの者が他の土地に連れていかれました。……力が強く、体力があり、それでいて争いを好まない大地の民は、労働力として最適だったのでしょう。当時の村の長は残された大地の民の血を守るべく、少ない村人の中で近親者同士の婚姻を繰り返しました。……過ちに気が付いた時にはもう遅かった。生まれてくる子は大地の民の特徴を持ちながらも虚弱な子が多く、ほとんどが年若い内に亡くなってしまいました。そこで長は村を三つに分け、他の民族と交わりながら少しずつ一族を増やしていくことにしたのです」


 ……BBQでワクワクしていた気分が一転、いきなり重い話になったな……。口を挟むのも気が引けたので、わたし達は黙ってナヴィドさんの話に耳を傾けながら歩く。


「当時アルサラーン様は純血の大地の民として、たった一人の健康な若い男性でしたので、それぞれの村からやはり純血の大地の民である三人の妻を娶ることが決まっていましたが……幼いころより慕われていた奥様以外の女性を愛せないとして、頑なに他の二人の女性との婚姻を拒まれたのです」


 うん……純愛を貫くのは良いことだよね? だが、ナヴィドさんの表情からして、この村にとっては喜ばしいことじゃなかったみたい。一夫多妻が当たり前のこの村においては、かなりのイレギュラーだったのだろう。


「奥様はファルシャード様とメフリ様を残されましたが、もともとお体が弱く、メフリ様がまだ幼いうちにお亡くなりになられました。アルサラーン様は長として、父親として、お二人をそれはそれは厳しく育てられました。長としての力を付ける為、日々の鍛錬はもちろんのこと、兄妹同士で競わせることによって元来穏やかな大地の民としての気性を、戦いに適したものへと変えていったのです」


 え……あの二人、厳しく育てられたんだ……。そうは見えなかったけど……押さえつけられた反動ってやつかな。


「ファルシャード様とメフリ様は最後の純血の大地の民。周りからも多くの子を残すよう期待されています

。心根の優しいお二人は、健気にその期待に応えようとなさっているのです。少々行き過ぎたところはございますが……ご理解いただければと思います」


 その後もナヴィドさんは二人がどれだけ優しいか、どんなに努力しているかを滔々と語って聞かせてくれた。ナヴィドさんは小さいころから見てきた二人のことを自分の子どものように思っているらしい。……そのせいか、若干贔屓も入っていると思う。


 かなり長い話だったが、ナヴィドさんの家にはまだつかない。歩きながら改めて思ったが、大地の民の村はとにかく広い。それは村の中に広大な畑があるからだ。畑の横には水路が整備されていて、若い男性が水を汲んでは作物に水をやっていた。いや、見れば男性だけでなく女性や小さな子どもも働いている。偉いなー。


 水路を目で追っていくと、遠くの方には水田も見える。青々とした背の高い稲穂が風に揺れていた。そう、この土地にはお米がある……! ひょっとしたらナヴィドさんの家で振舞われるかも……? 久々のお米! 楽しみ!


 わたしは米をご馳走してもらうべく、この村の畑について下心全開で褒めることにした!


「立派な畑ですね、女性や子どもも働いているんですか?」

「そうですね、作物を育てるのには手間がかかりますから。特に教えるわけではないのですが親が働いている姿を見て、子どもも自分にできる仕事を自然と手伝うようになります。幸い土地が豊かですので、家族が多くても働きさえすれば食べるものには困りません」

「へーそうなんですね。素晴らしいです! ……ところで、あそこに見えるのはひょっとしてお米ですか?」

「そうです。この島でしか育たない作物なのですが、よくご存じですね。今植えているものはまだよく実っていませんが、前回収穫したものでしたら我が家にもございます。よろしければ召し上がりますか?」

「……いいんですか!? 是非!」


 やったー! お米だ! 米と肉って最強コンビじゃない? わたしは一層足取り軽く、ナヴィドさんの後をついて歩く。すると向かいから一人の女の子が近づいてきた。


「とうさーん!」


 女の子はナヴィドさんに抱き着くと、自分が今日した仕事について話していた。後ろからカゴいっぱいの野菜を抱えた女性も歩いてくる。


「紹介します。私の末の娘と、三番目の娘です」


 女の子の方はよく見れば、先ほど見かけた沢山の瓜を抱えていた子だった。言われてみれば、ナヴィドさんと同じ褐色の肌に銀の髪、そして黒い瞳を持っていた。三番目の娘さんは二十歳ぐらいで褐色の肌に黒い瞳だが、髪の色は亜麻色だ。柔らかい笑顔がナヴィドさんによく似ていた。


 すぐ近くにある大きな家がナヴィドさんの家らしい。正直、長の家よりも大きいと思う。連なった半球の数が村で見た中で一番多い。


「……随分大きいお家ですね」

「そうですね、私も比較的濃く大地の民の血を引いていますので、多くの妻を娶りました。新しい妻や子どもが増えるたびに新しい部屋を作りますので、このような大きさに……」


 なんと、奥さん達一緒に住んでるんだ!? 喧嘩にならないのかと聞くと、不思議そうな顔をされた。大地の民にとっては、家族が一緒に暮らすのは普通のことらしい。部屋同士が繋がっているため、移動するには各自の部屋を通らなければならず、食事も揃って一緒にとる為、奥さんや子ども同士の仲も良いとのこと。ナヴィドさんが帰ったことを告げると、家の中からわらわらと沢山の女性が出てきた。な、何人いるんだ……!


「一人目の妻、二人目の妻、そして三人目の妻です。左から順番に一番目の娘、二番目の娘──」


 流れるように、奥さんや娘さん達と挨拶を交わしていく。こ、これは大家族だわ……! 最後にさっきの女の子と挨拶を交わした。みんなバーベキューを準備を手際よく進めてくれている。


「こ、これで全員ですか?」

「いえ、まだ一人……」


 ナヴィドさんが声を掛けると、家の中から見事なサシが入った薄切り肉を持った、十六歳ぐらいの若い女性がでてきた。ま、まだ娘さんがいたんだ……!


「あの方は何番目の娘さんですか?」

「彼女は娘ではなく、わたしの四人目の妻です」


 ……わたしは開いた口が塞がらない。どう見ても、上の娘さんより若いよね? 聞けば、お互い一目ぼれで結婚したばかりらしい。若妻を抱き寄せるナヴィドさんは、確かに大地の民だった。

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