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どちらにしようかな

「客人に対して失礼だろう! 少しはわきまえなさい……!」

「は、はい! すみません!」


 ……しまった。普段から会社で上司に怒られ慣れているせいか、条件反射的にわたしが頭を下げて謝ってしまった。さすが一族の長と言うだけあって、その声は威厳たっぷりだ……! ルークスなどはすくみ上ってしまっている。


 しかし、怒られた当の本人達は素知らぬ顔で引き続き愛を囁いてくる。……やばい、このままだと長の血管が切れるかもしれない。怒りの矛先が向いていないわたしの方が、長の怒りをひしひしと感じ取ってしまい、だらだらと流れ出す脂汗をぬぐった。その様子を見たファルシャードが「暑い? 向こうで一枚脱いでくる? 俺も手伝うよ」と、見当違いなことを言い始めた。……むしろ寒いわ。


「……お前達!」


 態度を改めない子ども達を見て、ついに怒りが頂点に達したのか、胡坐を組んでいた長が、立ち上がろうと床に手をついた。わたし達の後ろに控えていた男性が慌てて長に近寄り跪くと、長の肩に手を置いて「どうかそのまま……」と懇願している。しばらくの間があり、男性の言葉を聞き入れた長は、少しだけ上がっていた腰を再びクッションへと下した。


「……動けないんだから、無理するなよ」


 わたしの隣でファルシャードがそう呟いた。……お、お前がそれを言う!? わたしは目を見開いて、ファルシャードの顔を二度見した。ファルシャードは長の方を向いたまま立ち上がると、腕を組んで大げさにため息を吐き、偉そうなことを言い始めた。


「……大体、父さんが『母さんしか愛せない』なんて馬鹿なことを貫いたせいで、純血の大地の民がこんなに少ないんだぜ? 長として少しでも多くの子孫を残さないといけなかったのに……その自覚ある?」

「そうよ! だからわたし達が頑張ってるんじゃない。邪魔してほしくないわ」


 ……うん? え? 二人とも何言ってんの? 今、そういう話だったっけ? わたしは開いた口が塞がらない。自分が怒られているにも関わらず、話をすり替えてその上逆切れしてきた。わたしはもう、長がどんな顔をしているのか、怖くて見ることが出来ない。長が何も言わないのを良いことに、ファルシャードはやれやれといった様子で首を振った後、再び口を開いた。……お前がやれやれだよ!


「ま、話はナヴィドから聞いたよ。要はこの人達と一緒に旅に出て見識を深めろってことだろ? いいよ、俺が行くよ。……この村じゃあ親戚ばっかりであんまり手が出せないし、丁度いいや」

「お兄ちゃんずるい! わたしもこんなにかっこいい人となら旅に出たいもん! わたしが行く!」

「はあ!? お前さっき散々行きたくないってわめいてたじゃないか!」

「それはお兄ちゃんも一緒でしょ! 気が変わったの!」


 再びぎゃーぎゃーと喧嘩を始める兄妹。……ど、どっちでも良いから選ばないと! 長の気苦労が絶えない……! 恐る恐る長の方を向いてみると、肩を震わせている。相当怒って……いや、泣いている。い、居た堪れない! 早く、早くどっちか選ぼう! わたしはルークスとカイン君を呼び集め、小声で緊急会議を開いた。


「ど、どうします!? このままじゃあ長が可哀想です! 早く決めましょう!」

「う、うん。でも俺は二人のことよく知らないし、ユーリに任せるよ」

「僕もそれでいいよ」


 わたしは喧嘩をしている二人をちらりと見る。うーん、そうだな……


「……正直どっちでもいいです! すぐにエステラに戻ってきてもらう予定ですし、二人とも格闘家タイプで土魔法が使えてスペックも一緒……あ、ファルシャードは味方の能力を上げるサポート魔法を覚えるんですけど、メフリは敵の能力を下げるサポート魔法を覚えます! 敵のレベルが上がってくると効きにくくなるんで……ファルシャードにしましょうか!?」

「そうだな、じゃあそうしよう!」


「はい! 決まりました! ファルシャードにします!」


 わたしはビシッと手を挙げてファルシャードを選んだことを宣言する。メフリは残念そうだったが、ファルシャードにどや顔で見下ろされたのが悔しかったのか、つんとした顔でツインテールを揺らしながら黙って部屋を出て行ってしまった。あ……ちょっと可哀想だったかも……。後でフォローしておこうかな……。


 選ばれたファルシャードは、短い髪をかき上げ得意げに笑った後、わたしの方に近寄ってきた。ひいぃぃぃ、ずっとキメ顔で一歩ずつゆっくり近づいてくる……! 美形なところが逆に怖い……!


「ユーリ……俺を選んでくれてありがとう。改めてよろしく」


 ファルシャードが手を差し出してきたので、わたしは仕方なく握手を交わした。熱っぽい目で見つめられているが、わたしの心は冷え切っている。ファルシャードはルークスとカイン君とも自己紹介を交わし、自信満々に「俺が魔王を倒してやるよ!」と宣言していた。……魔王戦にあなたは連れていかないつもりです。


 ファルシャードはさっそく旅立ちの準備を整えるとのことで、弾むような足取りで部屋を出て行った。準備を整えるんなら、せめて上に何か着てほしい。……他の土地でさすがに上半身裸は困る。


 ファルシャードがいなくなり、側の男性に慰められ続けて、ようやく少し持ち直したらしい長から「愚息が迷惑をかけると思うが……よろしく頼みます」と頭を下げられた。魔法陣さえ起動してもらえれば、あとは適当な所で別れて自由にしていてもらおうと思っていたわたしの心がチクリと痛んだ。

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