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新しい仲間

 ──もうそろそろ、いいだろうか。


 わたしとカイン君は、村の女性からルークスへの質問タイムが終わるのを地面に座って待っている。ルークスも適当にあしらえばいいものを、一々律儀に答えるものだから時間が掛かってしょうがない。……せめてもの救いは、隣にいるカイン君の体育座りがべらぼうにかわいいってことだな。


「じゃあ次の質問ね! 好きな食べ物は何?」

「え? えーと……肉が好きだけど、最近はカレーも好きかな……」

「カレー? カレーってどんな料理なの?」

「えーと……香辛料が沢山入ってて、食欲をそそる良い匂いがして、色んな食材の旨味が混ざり合ってて、ちょっと辛いんだけど、それがまたくせになるっていうか……」

「何それ! 食べてみたーい!」

「わたしも!」


 きゃいきゃいとはしゃぎながら、ルークスの腕をとり、自分の体に密着させる女性達。……そうなんです。この島の人達は、なぜだか肉食系が多いのです! たまたま、腕に胸が当たっちゃってるんじゃないからね。自分から当てにいってるからね! ルークスも気が付いてるんだかいないんだか……、顔を真っ赤にしながら一生懸命カレーについての説明をしている。そして、いつの間にか好きな女性のタイプに関する質問が始まっていた。……待って、さっきも似たようなこと訊いてなかった!? これ、終わらないんじゃない!?


 人の恋路の邪魔をするようで悪いが、あまりここで時間をとられるわけにもいかないので、わたしはルークスに声を掛けようと立ち上がった。


「ルークス、そろそろ──」

「お話し中失礼いたします」


 わたしが声を掛けるより早く、ルークスに群がる女性をかき分けるようにして、一人の男性がやってきた。銀色の口ひげをたっぷりとはやしていて、この村の男性にしてはめずらしく、シャツのボタンを一番上まで止めている。来た! 長の使いの人だ! 男性は一度深々と頭を下げたあと、ゆっくりと話し始めた。


「旅のお方、先ほどはありがとうございました。あなた方のお陰で、幸いにも怪我人は一人も出ておりません。村の危機を救っていただいたあなた方に、長が礼をしたいと申しております。本来であればこちらから出向くのが礼儀ではございますが、数年前より足を悪くしておりまして……。申し訳ございませんが、長の家までご足労願えませんでしょうか?」


 男性は女性達にも「そろそろ仕事に戻るように!」と声を掛け、女性達は名残惜しそうに畑に散っていった。た、助かった! ようやく質問攻めから解放されたわたし達は、男性に長の家まで道案内をしてもらう。たどり着いた長の家は、半球状のドームがいくつも連なったような造りで、見た目が丸くてかわいい。部屋との境には扉がなく、かわりに色鮮やかな布で仕切られていた。


「こちらへどうぞ」


 案内をしてくれた男性が、長が待つ部屋との境に掛けられた布を上にあげてくれる。布を上げた瞬間、お香のいい香りがふわりと漂ってきた。窓が低い位置にある為か、昼間だというのに部屋の中は薄暗い。床の上には火のついた蝋燭ががいくつか置かれ、部屋の奥で輝く金の瞳を持つ男性が、一人座って待っていた。


「失礼、足を痛めておりまして、このまま挨拶をさせていただきます。私がこの村の長を務めております、アルサラーンです。この度は村を救っていただき、ありがとうございます。我が血族は力は強いのですが戦いとなると不慣れな者が多く……あなた方がいなければ、どうなっていたかわかりません。本当にありがとうございました」


 そういって深々と頭を下げる長。めっちゃ腰が低い! 立ったまま話を聞いていたわたし達も、慌てて座り、長の目線の高さに合わせた。


「いえ、そんな! 顔を上げてください! 俺は勇者なんで、困っている人を助けるのは当然のことですから!」

「……勇者?」

「はい、実は──」


 ルークスがかくかくしかじかで、魔王を倒す旅の途中だという説明を長にした。長はところどころ相槌を打ちながら、真剣にルークスの話を聞いてくれた。


「──そうでしたか。魔王を倒す旅を…………あの、急な話で申し訳ないのですが、もし宜しければ、その旅に私の子どものどちらかを……同行させていただくことはできないでしょうか?」


 きた! ルークスにも一応話はしてあるが、いきなり「じゃあお願いします!」とは言えない。そのままゆっくり話を進めてもらおう。


「それは……ありがたいお話ですが、いいんですか? かなり過酷で危険な旅になると思います。お子さんの安全は保障できませんが……」

「はい、承知の上です。あの二人にとっては精神面での甘さをとる良い修行になるでしょう。流石に二人も面倒を見ていただくわけにはまいりませんので、どちらか一人だけでも……すまない! 二人を呼んできてくれ!」


 側で控えていた男性が、すっと部屋を出ていった。長は「妻を亡くしてからというもの、男手一つで二人を育ててきたが、どうにも我がままに育ててしまったみたいで、このままでは村の後を継がせるのに二人とも不適格だ」と嘆いていた。……長っていうのも大変なんだね。


 布の向こうから、なにやらぎゃーぎゃーと騒ぐ男女の声が聞こえてくる。その声を聞いた長が、頭を抱えて長い溜息をついた。


「なんであたしが、そんなことしなくちゃいけないのよ! お兄ちゃんが行けばいいでしょ!」

「はあ!? 俺だって嫌だよ! お前が行けばいいだろ! お前の方がわがままで性格悪いんだから、ちょっとはマシになって帰ってこれるんじゃないか?」

「お兄ちゃんに言われたくないわよ! いっつも修行さぼって女の子と遊んでばっかりいるくせに!」

「お、お二人とも! お静かにお願いします……!」


 布を上げて顔をのぞかせた男性が、困った顔で「……お二人をお連れしました」と言った。……うん、聞こえてる。苦笑いをするわたし達に頭を下げ、長の眉間の皺がより一層深くなる。


 二人を連れてきてくれた男性に続いて現れたのは、長と同じ大地の民の特徴を併せ持った兄妹だ。だが二人ともぶすっとした表情でそっぽを向いている。二人を呼びに行った男性から大体の話は聞いたのだろう。……きっと、ものすごく旅に出たくないんだろうな。その様子を見た長の表情が、さらに曇ってしまった。


「……私の子ども達です。息子がファルシャード、娘がメフリです。二人とも、挨拶をしなさい」


 ファルシャードは長に促され、しぶしぶといった感じでこちらを向き、じっと二人を見つめていたわたしと目が合った。鷹のような鋭い眼差しが、一瞬にしてわたしの体を硬直させる。


「……なんだ! 女の子がいるんだ! それなら俺が行くよ!」


 先ほどまでの不遜な態度とは一転、ファルシャードはさっとこちらにやって来てわたしの前に恭しく跪くと、父親と同じ金の瞳を揺らめかせながら甘い声で囁いた。


「俺はファルシャード……君の名前を教えてくれる?」

「……ユーリです」

「ユーリか、いい名前だね。瞳の色も素敵だ……ずっと見ていたいな」

「いえ、そんな……よくある目の色なんで……」


 わたしは思わず顔を逸らしたが、ファルシャードは小さくクスリと笑い、なおも顔を覗き込んでくる。


「……ここじゃ恥ずかしい? なら今度、二人だけの時にならゆっくり見せてくれる?」

「いや、大丈夫です……!」


 うわーゲーム中でエステラに言ってたこと、まんまわたしに言ってくるよ……。ほんとファルシャード苦手……! 恥ずかしいのはお前の頭の中だよ……! みんな見てるし……! あ、カイン君にも見られてる!? は、恥ずかしい……!


 ちらりとカイン君の方を見ると、なんとカイン君は妹の方に言い寄られていた。い、いつの間に! メフリはカイン君の黒髪を遠慮がちに触って、感嘆の声をもらした。


「わあ、綺麗な髪の色ね、夜の空みたい……! ……見て? わたしの髪、銀色でおばあちゃんみたいでしょう?」


 メフリは高い位置で二つに結んだ自分の銀髪を、切なげな表情でいじっている。ちらりとカイン君を見るその瞳は、少女には不釣り合いなほどの色気をはらんでいた。


「え? そんなことないと思うけど……君の髪の色も綺麗だよ?」

「本当に? 嬉しい……!」


 メフリはカイン君の両手をきゅっと握って、はにかんだ笑顔で体を更に寄せてきた。握っていたカイン君の両手を自分の太ももの上に置くと、流れるような所作でするりとカイン君の腕をつかみ、完全にしなだれかかっている! 待って、距離が近い! 初対面だから! まだ出会って二分ぐらいだよ! もう少し離れて! だがメフリはわたしの心の声などお構いなしに、カイン君の耳元で何かを囁いてはくすくすと笑っている。……何話してるのかめっちゃ気になる!


「ユーリ、あっちばっかり見てないで、俺のことも見てくれる?」


 こっちはこっちでうるさいし! わたしは段々と顔を近づけてくるファルシャードを押しのけるようにして、メフリとカイン君の様子をうかがった。あー! だから顔が近いってば!


「……二人とも、いい加減にしなさい!!」


 しびれを切らした長の怒号が家中に響き渡り、なぜだかわたしがビシッと姿勢を正してしまった。

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