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大地の民の村

 村に入るなりルークスは一人で駆け出して行ったが、しばらくするとまた走って戻ってきた。


「ユーリ! どこに行けばいいんだ!?」

「ルークス、落ち着いてください。長の家に行けばいいんですが、その前にちょっとしたイベントがあるので……」

「イベント?」

「あ、いや、ほんと大したことじゃないんですけど、話をスムーズに進めるために必要なので、とりあえずこっちの方角に歩いて行きましょう」


 土の島は農業が盛んな土地で、なんと米もある。火の島程ではないが比較的暖かい気候の為か、住んでいる人の肌の露出が多い。男性などは畑仕事で鍛えられた引き締まった体を見せつけるように、上半身裸がデフォだ。故に、目のやり場に困る。あ、女性はちゃんと上半身にも服を身に着けていますよ。……布面積は少ないけどね。


 この村の服は、白い布を金糸で縁取ったものだ。畑で農作業をしている村人も、真っ白な服を身に纏っている。土で汚れたりしないのかな……?


 トリニアの町でも見かけたことがあるが、この島には褐色の肌を持つ人が多い。それは島の人達が、少なからず大地の民の血を引いているからであろう。これから仲間になる予定の長の子ども達は、純血の大地の民だ。強靭な肉体、それでいてしなやかな筋肉、底知れぬ体力、獲物を逃がさない猛禽類のような眼。大地の民の血族は、みな一様に身体能力が高い。


 そしてその血は、見た目にも現れる。純血の大地の民は、褐色の肌、輝く銀の髪、金の瞳、この三つが揃っている。村を行き交う人々の中に、この特徴をすべて併せ持つ人はいなかった。


「わー、すごいね。小さな女の子なのに、あんなに大きな野菜を運んでる」


 カイン君の視線の先には、五歳くらいの少女がいた。手に持ったカゴの中には、巨大な瓜がごろごろ入っている。……普通の五歳児なら、カゴの中の一つの瓜ですら持ち上げることはできないだろう。少女は褐色の肌に銀の髪を持っていたが、瞳の色は金ではなかった。


「あの子は大地の民の血を引いているんでしょうね。大地の民は生まれつき、とっても力が強いんです。これから仲間になってくれる人たちもその大地の民ですよ」

「へーそうなんだ。強そうだね!」


 いや、うん。でも今のレベル差ならカイン君の方が全然強いけどね。大地の民は鍛え上げた自らの肉体で戦う格闘家スタイルなので、武器による攻撃力の底上げもできないし、レベルを上げたところで人数制限あるから連れていけないしね。ちゃちゃっと魔法陣起動を済ませて、早くエステラを迎えに行こう。


「えーと……あ、あの辺りかな。ルークス、今から戦闘になるので注意してください。カイン君も気を付けてくださいね」

「戦闘? 村の中だぞ?」


 ルークスの疑問と衝撃音とはほぼ同時だった。村を囲う柵をなぎ倒して、巨大なウシ型の魔物、ビッグホーンが侵入してきた。突然の事態に、村人が慌てふためいている。


「た、大変だ! ビッグホーンに柵が壊された!」

「突然何の前触れもなくどうしてビッグホーンが!? こんなこと、今までなかったのに!」


 イベントだからですよ。突然村を襲ったビッグホーンを倒すことによって、スムーズに長へと取り次いでもらえるのです。ルークスとカイン君も素早く剣を抜き、戦闘態勢に入った。


「ビッグホーンか! ……脂がのってて肉がうまいんだよな! よし、俺が行く!」

「じゃあ僕は周りの人達を助けてくるね」


 二人は即座に役割分担を決め、ルークスはビッグホーンに向かっていった。……ん? わたしは? わたしは何をすればいい? 今まさに駆け出そうとしているカイン君を呼び止め、わたしの役割を訊いてみる。


「わ、わたしは何をすればいいですか?」


 わたしに呼び止められたカイン君は一瞬困ったような表情を見せたが、すぐに笑顔で答えてくれた。


「えーと、ユーリはここで待機しててね」

「待機……分かりました!」


 カイン君は逃げ遅れた女性を抱きかかえて安全な場所に降ろしたり、パニックになっている村人に避難の指示を出している。ルークスは剣を構えてビッグホーンに向かっていき、いきなり二つある内の右の角を叩き折った。地面にドスンと音を立てて巨大な角が落ちる。自慢の角を折られたビッグホーンは、まさに怒り心頭に発するといった感じで「んも゛おおおおおおお!」と激しく鳴いた。体制を立て直し少し距離をとると、地面を何度も蹴って払っている。うん、明らかにこれから突進してくるね! 予想通り、助走をつけたビッグホーンは、ルークスに向かって一直線に突進してきた。


 ルークスは慌てるでもなく、剣を構えて待っている。ルークスを突き上げようと、顎を引いたビッグホーンの一瞬の隙をついて、残った左の角をへし折った。しかし、ビッグホーンの勢いは止まらない。そのまま大きく首を振って、剣を握るルークスの手に一撃を加える。格下相手からの思わぬ反撃に、ルークスの大剣が地面に落ちた。ビッグホーンはルークスの脇を駆け抜けると方向転換をし、再び猛スピードで突進してくる。そしてルークスの腹めがけて、渾身の頭突きをズドンとかました。


「ぐっ……!」


 スピードにのったビッグホーンの頭突きを、もろに腹にくらったルークス。だが、あれほどの巨体がぶつかったというのに平然とその場に立っている。村人の避難を終えたカイン君がルークスに声を掛けた。


「ルークス大丈夫? 手伝った方が良い?」

「……いや! 大丈夫だ! 捕まえた……!」


 ビッグホーンはルークスに頭を密着させたまま動かない。いや、よく見ればルークスがビッグホーンの前脚に腕を回し、押さえつけているようだ。ビッグホーンは後ろ脚で何度も地面を蹴って、なんとか抜け出そうとしているが、それをさせてもらえない。ビッグホーンの「んも゛おおおおお!」という悲痛な叫びが、辺りに響いた。


「よいしょ……!」


 なんという事でしょう。ビッグホーンの後脚がふわりと宙に浮いたではありませんか。ルークスです。ルークスがビッグホーンを持ち上げようとしているのです。今までの人生? 牛生? で持ち上げられた経験などないであろうビッグホーンも、思わずきょとん顔です。


 ビッグホーンはそのままルークスの頭上まで持ち上げられ、勢いよく背中から地面に叩きつけられた。ボキリと嫌な音がして、ビッグホーンは仰向けに泡を吹いたままピクリとも動かなくなった。しばらくの静寂の後、あちこちから黄色い歓声が聞こえ始めた。


「きゃーーーーー!」


 安全な位置から一部始終を見ていた女性達が、ルークスに駆け寄る。布面積の少ない豊満なボディの女性達の突撃に、ルークスはたじたじだ。


「あなた強いのね! 大地の民でもないのにこんなに強い男性、見た事ないわ!」

「腕も細いのに……どこにそんな力があるの? ちょっと触らせてくれる?」

「ねえ、恋人はいるの? いてもいいんだけど、わたしと付き合わない?」


 ……今この場にエステラがいなくて良かった。わたしは心底そう思った。

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