極大ルビー
今日は朝から、ラダマンさんが宿泊している部屋にみんなでお邪魔している。預けていたルビーの原石が取り出せたとの連絡があったのだ! テーブルに置かれたトレイの上には布が掛けられており、ルビーはまだ直接は見えない……のだが、布の盛り上がり方から見てかなりの大きさだと窺い知ることができる。……いや、それにしてもでかくない? 十センチくらいあるんですけど……。
「では、こちらがお預かりしておりましたルビーの原石です。ご確認ください」
ラダマンさんがふぁさっと掛けられていた布を取り払った。トレイには、きれいな赤い石が左から大きさ順に並べられている。磨かれる前のルビーは、なんだか色鮮やかな砂糖菓子のようだ。予想通り、右端のルビーは見たこともないような大きさだ。……これ、いくらよ?
「おおっ! すごいな! こんな色の石が入ってたんだな!」
「これを磨くと更にきれいになるんでしょう? わたしが見つけたのは……これかしら?」
「わー、きれいな赤だね!」
「随分大きいですね……」
先日の話し合いの結果、相場の二割程度がわたし達がもらえる金額になったのだが、中から出てきたルビーのあまりの質の良さに、買い取り金額は跳ね上がった。ラダマンさんも初めはサラマンダーがくれたような大きいサイズの物を買ってくれようとしていたのだが「少しでも売れるサイズの物を中心に」ということで、小さい物から中くらいの物を買い取ってくれた。今、ルークスのアイテムバッグの中にはものすごい量の金貨が収められている。ちなみに売り上げの一割は、島の為に使うことになっているよ!
今わたし達の目の前に並べられているのは、資金が足りないと言うことで先日買い取られなかったルビー達だ。この前見せてくれた丸く磨かれたルビーは、あの後半分に割られたそうで、これから二つの指輪になる予定らしい。すでに二個とも買い手がついているんだって。その手付金を利用して、ラダマンさんは今日も追加で数個を購入してくれた。
わたしが簡単に描いて見せたカット方法も、職人が試行錯誤しながら挑戦している途中らしい。完成すれば、今でも充分高額なルビーの値段が更に上がるかもしれない……。わたしは大きすぎるが故に売れ残った極大ルビーにそっと触れた。
「このサイズの物はなかなか売れないかもしれませんね……いっそのこと割ってしまいましょうか……」
「ここまで大きなルビーは大変貴重ですから、出来ることならこの大きさのまま保存してくれる買い取り手を探しているのですが……なかなか見つからず……。申し訳ありません」
でしょうね。このサイズだと……多分、個人で購入できる人はいないんじゃ……? アクセサリーにもできないんなら、飾っておくぐらいしか使い道ないもんね。資料的価値もあるかもしれないけど……売れるかなあ……。
「……もしどうしても売れない場合は、小さくすることも検討してみてください。わたし達も急ぐわけではないので、今回買い取っていただかなかった分も、ラダマンさんにこのまま預けておきます」
「……! 私のことをそこまで信頼してくださるのですか……! わかりました。商人の名に懸けて、必ずや売りさばいてみせます!」
これからルビーの採掘も始まるわけだし、市場価格も少し落ちてくるかもしれない。ラダマンさんにはあまり価値を下げないように注意してもらいながら、息の長い産業にしてもらいたいとの旨を伝えた。火の島の人達が豊かにならないんじゃ意味ないからね。限りある資源だろうし、ゆっくり少しずつ売っていってほしい。
「ところで、サラマンダー様から頂いた賞品の石はどれですか? この右端の一番大きいのです?」
わたしは右端のルビーを鑑定してみる。極大ルビーとの表示だったので、やっぱりこれかな? ルークスが見つけた石の中にも極大サイズがあったはずだけど……左隣の石は特大ルビーとの表示だった。……あれ? 記憶違いかな?
「いえ、後で説明しようと思っていたのですが、あれは大きすぎて部屋まで運ぶのが難しかったのです。今はまだ荷馬車にのせています。……あ! 大丈夫ですよ! 見張りを付けていますし、グリフォンにも積み荷を守るように命令を出していますから!」
あ、じゃあこの右端の石がルークスが見つけたやつなんだね。ラダマンさんは預けたルビーを金庫へと移し、グリフォンの荷馬車へと案内してくれた。わたし達を見て、四頭のグリフォン達が瞬時に警戒態勢に入ったが、ラダマンさんがなだめるとすぐに大人しくなった。……これはセキュリティばっちりだわ。
荷馬車の中にいた男性が、ラダマンさんの指示で荷台側面部に垂れている布を大きく開けてくれる。そこにあったのは、先ほどの十センチ極大ルビーよりも遥かに大きい、五十センチ四方はあろうかという赤い岩だった。
「…………これは?」
「これが火の精霊様より賜った、ルビーです。……私も驚きましたが、あの岩の中にこの極大ルビーが入っていたのです! さすが、精霊様は羽振りがいいですね。私も火の島に住むからは、これから火の精霊様を信仰していこうと──」
いやいやいやいや、おかしいでしょう。ルークスが見つけた極大ルビーが十センチだよ? これ五十センチぐらいあるよね? それで同じ極大ルビー!? どういうこと? あ、極大がMAX表示ってこと? これ以上デカいやつがあったとしても、みんな極大ルビーってことになるの? それにしてもでかくない!?
わたし達四人は肩を組み、小声で緊急会議を開いた。……これは、完全にわたし達の手に余る。満場一致で決まった結果をラダマンさんに伝える。
「すみません、ラダマンさん。……これ、火の島の人達に寄付します。みんなの為に使ってください」
「……!? よろしいのですか!? おそらく……数億、いや数十億Gはする品ですよ!? 二割でも相当な額に……」
「……だからです。そんなお金貰っても使いきれないし……何より……売れないでしょう?」
十センチルビーでさえ買い取り手がないのだ。このサイズのルビーは、まず売れないだろう。ここまで大きいと持ち運ぶのも大変だろうし、思い切って割ってほしい。そして売り上げを火の島のみんなの為に……できればサラマンダーの為にもなるようなことに使ってほしいと伝えた。
「……わかりました! 私にそのような大役が務まるかはわかりませんが……精一杯頑張ります! ……そうだ! 火の祠へ向かう道を新しく作るのはどうですか!? 今は山を大きく迂回して街道が通っていますが、丁度ルビーの採掘も始める予定ですし、山を突っ切る形にして街道を通せば、かなりの近道になります! そうすれば、祠を訪れる人も増えるでしょうし! 街道が新しく整備されれば、グクス村への人の流れも多くなるかもしれません!」
「あ、それいいですね! それでお願いします!」
採掘のついでにトンネルも掘れれば、一石二鳥じゃない? いやー、ラダマンさんがいてくれて良かったわ。わたし達もうすぐこの島を出ていくし、こういうこと任せられる人がいてほんと助かったわー。
少々無責任な気もするが、ラダマンさんにすべてを丸投げし、旅立ちの準備を整える為、わたし達は市場へと向かった。
今回で火の島を旅立てると思ったんですが……! あと一話ぐらいですかね……!