ラダマンさん、大興奮
「す……素晴らしい……! このサイズのルビーがこんなにも……!」
わたし達は、今日見つけたルビー入りの石をラダマンさんにも見てもらうことにした。やっぱりルークスが見つけたルビーが一番大きかったみたい。テーブルの上に並べられ石を、ラダマンさんは大事そうにサイズごとに仕分けている。……わたしが見つけた小さな小石は、そっとテーブルの端に追いやられていた。結構時間がかかりそうなので、カイン君とエステラはララちゃんのところに遊びに行ってしまいました。
「なあ、本当にこんな石に価値があるのか……?」
ザザはまだルビーの価値に懐疑的だ。つまらないものでもつまむように、赤色がちょっとだけ見えている小さな石を下から眺め、ため息をついた。ラダマンさんはぐるんと首だけを回転させ、ザザに再び詰め寄っている。……今日のラダマンさんはなんだか動きがホラーチックで怖い。
「これはまだ原石の状態ですからね。磨けば美しい石になるのですよ。……小さいものならば私も持っています」
ラダマンさんは自分の左手の小指にはめられた指輪を見せてくれた。シンプルなデザインで、金の地金に丸く磨かれた小さいルビーがついている。あら、可愛らしい。
「……綺麗な石だとは思うが……」
ラダマンさんの指輪を見せられても、ザザの表情はまだ明るくない。ちらりと見ただけで、すぐに指輪から視線を外してしまった。
「……ちなみに、私がこれを購入したときに支払った金貨は五十枚です」
「ご、五十枚!?」
ザザの反応が薄さが悔しかったのか、ラダマンさんが追加情報を投入してきた。効果はてき面だ。先ほどまで興味なさげにしていたザザが、ラダマンさんの手をとり、食い入るように指輪を見つめている。かく言うわたしも、内心驚いている。ルビーってそんなに高い宝石だったっけ……?
「嘘だろう!? こんな小さな石にそんな価値があるのか!?」
「そうですね、石は小さいですが、ルビーはかなり硬いので、専用の魔道具を使わなければ磨くことすら難しいです。当然、職人の手間賃も高くなります。その分も加味されての値段ですが、わたしは良い買い物をしたと思っていますよ? それにこの色を見てください! 透明度といい、鮮やかさといい、文句なしに美しい! ここまで見事な赤はなかなか出回らないのです!」
ヒートアップしてだんだん近づいてくるラダマンさんに、ザザはそっと距離をとった。だが、先ほどまでとは違い真剣な表情でラダマンさんの話を聴いている。
「あとは大きさも重要です。極大サイズであれば昨日もお話ししましたが、原石の状態で金貨千枚払うという商人もいると思います。というか、私が買います。ぜひ、中の色を確認させていただきたい!」
昨日の岩も外からは色が見えなかったからね。ラダマンさんの知り合いに宝石を加工してくれる人がいるので、その人に頼めば岩の中からルビーを取り出してもらえるそうだ。……わたしもどんなルビーが入ってるのか気になるし、頼んじゃおっかな……? わたしがお願いしようとしたその時、ルークスから肩を叩かれた。……あ、そうだった。
「あの……お気持ちは嬉しいのですが、ラダマンさん。この地で採れたルビーは、この地に住む人たちの物らしいのです。ラダマンさんに売却していいものかどうか……」
別にラダマンさんに売ったところで、ばれなければ捕まるようなことはないだろうが、お世話になった火の島の人達が不利益を被るようなことはしたくない。……グクス村の人達が買えないって言うんだったら、カルダカで売ればいいしね。
「それでしたら問題ありません。私がこの島に住めば良いのです。明日にでも、エルグランスの自宅を引き払います。あの家が売れれば、ルビーの購入資金に充てることもできますし……丁度良いです」
「そうですか…………って、ええっ!? そ、そんな簡単に移住を決めちゃって良いんですか!? っていうか、この島に住めば良いって問題でもないような……」
わたしがラダマンさんのフットワークの軽さに慌てていると、だまって話を聞いていたルークスが口を挟んできた。
「いや、問題ないぞ? 住んでる人達の物なんだから、新しく引っ越してきた人たちにも権利はあるはずだ。だれに売るかは発見者の自由だから、ユーリがラダマンさんに売りたいならそうすれば良い」
「それなら村としては大歓迎だ。最近は出ていく人ばっかりで、人口も減ってきたからな。顔なじみのラダマンさんが引っ越してきてくれるなら、こんなに嬉しいことはないよ」
「香辛料に加え、ルビーも採れる……なんて魅力的な島なんでしょう! 島の一員となったからには、私も今まで以上に協力を惜しみません! ……この島は豊かになりますよ!」
きゃいきゃいとはしゃぐ三人。どんどん話進んでっちゃってるけど……いいんだ!? ほんとにそれでいいの!?
「しかし、この島のどこでこんなに沢山のルビーが採れるのですか? グリフォンで上空から見た限りではそれらしい川は見当たらなかったのですが……」
「川? なんで川なんですか?」
「……え? この石は川で拾ってきたものではないのですか?」
えー……どこで採ってきたかって言っちゃってもいいのかな? ……ま、いっか! ラダマンさんもこの島の人になるらしいし! 悪い人じゃないし!
「これは、この前土砂崩れがあった岩山から拾ってきたんですよ。崩れた部分だけでこれだけ見つかったので、山全体でみればまだまだ埋まっているかもしれませんね」
「山? なんで山なんですか?」
「……え? 宝石って山から採るものでしょう?」
ラダマンさんとわたしは揃って首を傾げた。しかしラダマンさんはすぐに何か閃いた様子で、口に手を当てぶつぶつと呟いている。
「……そうか、そう言うことか……だからこんなに大きな物が……! ユーリさん! これは大発見ですよ!」
「な、何がですか?」
「宝石が、山で採れるということです! 基本的に宝石は川でどこからか流れてきた物を拾うだけだったのですが、小石程度の小さいものが多く、見つけるのが大変だったのです! ですが、山! 山から流れてきていたとは! すぐにその山に向かいましょう!」
すぐにでも飛び出しそうな勢いのラダマンさんを、三人がかりで押さえつける。す、すごいパワーだ。
「ラ、ラダマンさん、落ち着いてください! 今日はもう遅いですし、山を削るには道具も人手もいります。ついこの間崩れたところですから、安全かどうかも分かっていません。そんなに焦らなくても宝石は逃げませんから、落ち着いて準備を整えてからにしましょう! それに、引っ越しの準備もあるんじゃないですか?」
「そ、そうでした。……すみません、つい興奮してしまって……」
すぐに冷静さを取り戻したラダマンさん。よ、良かった。具体的な話はラダマンさんが引っ越してきてからするということで、今日のところはもう遅いので解散することにした。ザザにカイン君とエステラを呼んできてもらい、わたし達はおばあちゃんの家に帰り遅めの夕食をとった。マーダチカおばあちゃんが考えたという薬草入りのカレーは、以前飲んだ薬草ジュースとは違いとても食べやすく、わたしは二杯目をおかわりした。