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火の精霊祭り、終

 わたしは祭り会場中を目を皿のようにして捜し、ちょろちょろと地面を這うサラマンダーを見つけた。いた! 勢いよく両手でむんずと捕まえる。サラマンダーはわたしの手の中でじたばたと暴れまわった。


『な! 何をする! む……また其方か! だから、なぜ我らに触って平気なのだ!』

「それには色々と事情がございまして……いや! 今はそんなことより! サラマンダー様! 宝石! ルビー! ありがとうございます!」


 わたしは手の中のサラマンダーの感謝の言葉を述べ、深く頭を下げた。あれを売れば、当面お金には困らないんじゃない? やっふーー! 潤沢な資金、万歳!


『……ふん! 我らにはよく分からぬが、人間にとっては価値があるものであろう? あのような物、山の中にゴロゴロあるというのに……』

「……ん? 今、なんて言いました?」

『だから、そこら中に埋まっていると言ったのだ! もともと火山が多い土地だったからな……今は地上から離れてしまったので、ただの岩山でしかないが……』


 オーケー、落ち着けわたし。呼吸を整えて……よし、大丈夫。冷静だ。周りに誰もいないことを確認して、サラマンダーに顔を近づけ、なるべく小声で問うてみた。ダメ元で訊いてみるだけでも……ね。


「ちなちなちな……ちなみになんですけど、た、た、例えば……どの辺にあったり……するんです?」

『そうだな……街道の脇の岩山にも多く眠っているぞ。最近崩れた辺りだ』


 あそこか! いや、現場で作業してたけど気が付かなかったよ! ただの岩としてしか見てなかった……! ともあれ、とてもいい情報をタダで手に入れた……! これは……一儲けできるんじゃない? というか、優勝賞品よりこの情報の方が価値があるのでは!? わたしはサラマンダーに再びお礼を言って、そっと手を放した。




 ──その後、火炎舞で踊りつかれて数名が脱落。更に酔いつぶれた数名が脱落。睡魔に勝てなった十数名が脱落していき、朝を迎えるまで起きていられたのは二十人程であった。あ、マーダチカおばあちゃんとチコリも途中で帰って行ったよ。お年寄りに無理はさせられない。


 火の部族長は「シャーマンとしての立場がある!」といって無理して一晩中起きてたけどね。朝を迎え、閉会の挨拶をしてもらって祭りは終了した。みんな一様に疲れた様子で村へと帰って行く。……さあ、わたし達は後片付けをしないと……。


「……なかなかハードなお祭りでしたね。完徹したのは久しぶりです……」

「そうだな……流石に疲れたな……。みんな盛り上がってるもんだから、俺も必死で大きい音を出そうとして……あ、マメが潰れてる……」

「……わたしも、もう声が出ないわ……。しばらく喋らないけど……気にしないで……」

「楽しかったね。もう一日ぐらいあってもいいのに……」


 満身創痍のわたし達と違い、カイン君はまだまだ平気そうだ。……若いってすごいな……。


「……カインは元気だな……。俺、体力には自信があったんだけど……」

「…………」

「ここを片付けたら、今日は一日ゆっくり休みましょう……! 休息も大事です!」


 わたしは疲れた体に鞭打って、後片付けをして回る。創造で作った物は消したし、屋台もアイテムバッグに仕舞ったし、ごみも拾った。……よし、こんなものかな?


「サラマンダー様、わたし達もそろそろ帰りますね。……どうですか? 今回の祭りはご満足いただけましたか?」

『うむ! 久々に賑やかであったな! ……我らの願いを叶えてくれたこと、その………………感謝する』


 おおっ! ツンデレが! デレた! ぷいっと恥ずかしそうにすぐ顔をそらしてしまったが、しっぽが元気に揺れている。蜥蜴であってもかわいく見えてくるから不思議だ。……そっか、しばらくはここを訪れることもないだろうし、サラマンダーともお別れだな。


「……また近くに寄ったときは会いに来ますからね」

『いや、我らは世界中に存在しておる。この場所は力が強まるのでこうして具現化しておるが、別にわざわざここに来ずとも、こちらからはお前たちの動向が分かる。そこの金髪! 困ったことがあれば我らを呼ぶがよい!』


 ……あ、そうなんだ。寂しいとか思ってたけど、そうでもないんだね。


 サラマンダーに別れを告げ、通路に設置しておいた灯りを順番に消しながら祠を後にした。いつもは恐ろしいドラ子の背中も、今は羽ばたきの振動が心地よい。……やばい、眠っちゃいそう。さっきまで元気そうだったカイン君も、瞼が落ちてきている。眠そうなのに頑張って起きようとしてるところ、かわいい!


 エステラはあれから本当に一言も発していない。いつもは明るく元気な彼女だが、今は表情が無で固定されている。目が虚ろではあるが、起きているようだ。……はやくいつものエステラに戻ってほしい。


 わたしも迫り来る睡魔を打ち払い、必死で目を開けた。すると信じられない光景が目に入った。なんと、ルークスがうつらうつらしているではないか! 手綱握ってるの、ルークスだから! 一番眠っちゃダメな人だよ! ドラ子に任せておけば大丈夫だとは思うけど、せめて起きてて! わたしはルークスに声を掛け、無理やり起こす。それを三回繰り返して、ようやく村にたどり着いた。


 よろよろになりながら村はずれまで歩き、おばあちゃんに帰ったことを告げる。挨拶だけ済ませると、家の側に張ってあるテントの中に倒れこんだ。……その後は四人で死んだように眠り、目が覚めたのは翌日の昼だった。

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