飲み比べ対決
急遽開催されることとなった、サラマンダーとの飲み比べ対決。会場にいる大人達に声を掛け、二人程参加者が集まった。一人は祭壇作りを手伝ってくれた、現場監督の女性。もう一人は、すでにべろんべろんなおじさん。すでに自立歩行が難しいレベルですが……大丈夫ですか?
まあせっかく参加してくれるというのだ。わたしは火炎舞の音楽にノリながら演奏部隊の真ん前で踊るサラマンダーに声を掛けた。
「サラマンダー様、とりあえず二人は集まりましたよ。始めちゃいますか?」
『たった二人か! これだけの人数がいながら! それでは盛り上がらんではないか! よし、お前たちの中から誰か参加しろ! それで我慢してやる! 飲み比べの間の音楽はなくて良い!』
えー……無茶ぶりだよ。サラマンダーは演奏部隊の中からも参加者を出せという。こういうの、パワハラだと思うな……。ザザはお酒飲めないらしいし、他の人達もそこまで強くないらしい。ルークスとエステラとカイン君は未成年だから飲ませられないし……結果、わたししかいなくない?
「あ……じゃあわたしが参加します……」
不本意ではあるが、右手を上げて参加の意思を示す。演奏中に座っていた椅子を祭壇に並べ、参加者に腰掛けてもらう。司会進行はザザにお願いすることにした。呼び込みで鍛えられているのか、ララちゃんに似て、よく声が通る。
「さあ! それではサラマンダー様との飲み比べ対決を始めたいと思います! 参加者はマチルダ、ゴダ、それからえーと……おい、お前名前なんて言うんだ?」
「……優理です!」
あれだけ一緒にいたのに! 話しもしたのに! ザザはいまだにわたしの名前覚えていなかった! え? わたし自己紹介したよね?
「──この村の人間ではありませんが、祭りの準備を手伝ってくれたユーリ! この三名が参加者です! それでは一人ずつ意気込みをどうぞ!」
「酒ならいくらでも飲めるよ! 絶対あたしが勝つからね!」
「……酒は酔ってからが本番だ……! こっからの俺は長いぞ……!」
「あ……がんばります」
酔っ払いが多いためか、場内は異様な盛り上がりを見せている。マチルダは村人から人気があるようで、色々な人からエールが送られている。たくましい腕を振って声援に応えていた。……ん? ラダマンさんに妙な動きが……。ああっ! お金賭けてる! だれが優勝するかにお金かけてるよ! ほんと抜け目ないな! って、ルークス達も買ってる! 誰に!? 誰に賭けたの!? わたしに賭けたんなら、簡単に負けられないじゃないか! まじか!
「今、挑戦者達の前に酒が注がれました! サラマンダー様は……お皿に注いだんでいいですか? ……はい、はい。じゃあこんな感じで……。はい! 準備が整いました! 全員が同時に注がれた酒を飲んでいき、潰れた者から脱落です! それでははじめ!」
まずは一杯目だ。注がれた葡萄酒をぐいーっと一気にあおる。……うん、ちょっと酸味が強いけど香りも豊かで甘いワインですね。おいしいです。まだ一杯目というとこもあって、全員が余裕の表情だ。サラマンダーの皿も空になっていた。
「続いて二杯目が注がれます! おお! みなさん早いですね! 三杯目……四杯目……五杯目……」
……まずい。そろそろお腹がいっぱいになってきた。だが、みんな飲み続けている……! もう少し頑張ってみるか!
「八杯目……そろそろ辛くなってきたか? 九敗目……おーっと! ここでゴダが脱落! 村一番のウワバミもここまでかー!? だれか! 水を飲ませてやってくれ! ……さあ! 残る挑戦者はまだ余裕の表情だ! ……おっと! ここで葡萄酒がなくなったので酒の種類が変わります!」
新しく目の前に注がれたのは、琥珀色の透き通った液体だ。少し味見してみると、先ほどまでのワインとは違い、かなりアルコール度数の高い酒のようだった。うわー、強いお酒苦手……。だが、マチルダは平気なようだ。サラマンダーも皿に口を付けている。わたしも喉が焼けるような感覚を我慢しながら、飲み干した。……うーん、やっぱりあんまりおいしくないや。
「十五杯目……十六杯目……十七杯目…………だ、大丈夫か!? マチルダ!」
平気そうに見えていたマチルダだったが、新しい酒はかなり効いたみたいだ。祭壇に倒れこむようにして眠ってしまった。よし、残るはサラマンダーのみ! 薄々気がついてはいたが、わたし、酔わない! 多分、食べたものがどっかに行っちゃってるから! お腹はいっぱいになった感覚はあるけど、無理すれば食べれる! 飲める! よって、多分優勝できる!
少々ずるい気はするが、個性ということで認めてもらいたい。公表するつもりはないが。……それにしても、サラマンダーは全然酔わないな……もうかなりの量の酒を飲んでいるはずなのに……。わたしはサラマンダーの皿に注がれた酒を注視してみた。
うーん、わたしと同じぐらいの量が注がれてるよね? ……ん? なんだか……火? 皿の酒に火がついている! しかもそれを構わず飲んでいるサラマンダー!
「ず! ずるいです! それ、アルコール飛んじゃってるじゃないですか!」
『何を言う! 仕方ないであろう! 顔を近づけると火がついてしまうのだ! 我らの個性だ! 認めろ!』
……ぐっ! これでは勝負がつかないのではないか! よろしい。ならば飲み尽くすまでだ!
結局、供えられた酒はわたしとサラマンダーによってすべて飲みつくされ、飲み比べ対決は終了した。ザザが一応勝者を決めたいというのでサラマンダーと話し合ったが、『楽しかったので其方の勝ちで良いと』言われ、わたしが優勝した。優勝賞品として、サラマンダーがどこからか持ってきた、ごつごつとした巨大な岩が贈られた。……こ、これが人間が喜ぶもの!? ただの岩じゃん!
みんなは一応の勝利者が決まって満足したのか、また祭りをそれぞれが楽しみ始めた。わたしはサラマンダーに一言文句が言いたい! せっかく頑張ったのに、これただの岩じゃん!
わたしがサラマンダーに文句を言ってやろうと怒っていると、ラダマンさんがこちらにやってきた。
「ユーリさん、おめでとうございます。じつは今の飲み比べ対決で少々賭け事をしておりまして……あなたに賭けた人が少なかったので、ルークスさんは大儲けでしたよ」
やっぱり! わたしに賭けてくれてたんだ! 勝ってよかった! わたしが臨時収入に喜んでいると、ラダマンさんが岩をぺたぺたと触り始めた。
「……笑っちゃいますよね。せっかく勝ったのに、この岩が商品ですって……。こんな岩、そこらにゴロゴロ……」
「……いえ、これは……すごいですよ」
「……え?」
岩を見ていたラダマンさんが振り返り、つばを飲み込んでこう言った。
「これ、宝石です」
「……宝石?」
いやいや。ないわー。だってこれ、そこらにある黒い岩だよ? こんなんだったら土砂崩れ片付けた時に山ほどありましたよ。しかも、見た目美しくないからね。とても需要があるとは思えない。
「またまた、ラダマンさん……からかわないでください」
「いえ、からかってなど……ああ、そうですね。見た目では分からないかもしれませんが、この岩の中に宝石が入っているのです! 鑑定持ちの私が言うのですから、間違いありません!」
……え? 鑑定? 鑑定ならわたしも持ってるよ。わたしは半信半疑で、サラマンダーがくれた岩を鑑定してみる。
【玄武岩・極大ルビー入り】
溶岩が冷えて固まったもの。中に極大ルビーが入ってるよ! あなたはラッキー!
「あの……もし、もしよろしければ私にこれを売ってくださいませんか? 金貨八百……いえ、金貨千枚はお出しします!」
前言撤回。サラマンダー様、本当にありがとうございます。