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祭りの衣装

 わたしが火の精霊に捧ぐ歌をどうにかこうにか吹けるようになるまでに、三日を要した。その間、チコリは音の違う三つの太鼓を使いこなすようになっていたし、ルークスとエステラとカイン君は火炎舞という曲もマスターしていた。べ、別に悔しくなんてないんだからね! 今日はザザの家で祭りで纏う衣装を見せてもらうことになっている。そろそろ祭りの日取りも決めないといけないな。


「うわーかわいい!」


 わたしは思わず感嘆の声を上げた。ララちゃんが身に着けているのは、ぴったりとした黒いワンピースに村の色であるレンガ色と黄土色の薄い布が巻かれたものだ。腰には、ピカピカの丸い金属をつなぎ合わせた飾りがついている。ララちゃんの動きに合わせて金属がシャラランと音を立てた。


「村で踊るときに身に纏う衣装だけど、かわいいだろう? 歌姫らしくもっと飾り立ててもいいんだが……」


 ザザはさらに飾りを増やそうと考えているみたいだが、ララちゃんに止められていた。うん、このぐらいがちょうどいいと思うよ。あんまりゴテゴテしてると動きにくいしね。


 わたしはララちゃんの衣装を細部まで良く見せてもらった。あとで同じものをエステラとわたしように作るためだ。男性用の衣装はザザの物を見せてもらった。こちらは女性と違い丈の長いの白いシャツで、上から下まで一直線に刺繍が入っている。糸の色がレンガ色と黄土色になってるんだね。これもよく見ていおいて、ルークスとカイン君にも同じものを作らないといけない。……刺繍の模様が異様に細かいのでうろ覚えにはなるが、だいたいの形は把握できた。


 これで衣装は良し、音楽もよし、会場への移動手段も確保した。あとは祭りで振る舞う食べ物と飲み物を用意しなきゃだけど……全員分を無償で用意するのは難しいな。市場の飲食店の人に協力してもらって、何店か出店をだしてもらうことにしよう。わたし達もカレーパンを大量に作って、先着五十名様くらいに無料配布しようかな? ラダマンさんから貰った資金もあるし、サラマンダーの為に集まってくれた人への感謝の気持ちだよね。あ、火の祠は暑いから熱中症にならないように飲み水だけはこちらで用意した方が良いいかも。……チコリとルークスに頑張ってもらわなくては。祭りってことでお酒なんかも用意した方がいいのかな? そうなってくると子ども達も来るだろうし、お酒だけじゃなくジュースもあった方が……。これは有料で販売することにしよう。カイン君に協力してもらえば、冷たい物が提供できそうだ。また大量に紙コップを創造しないといけないな……。あ、売り子さんはどうしよう。わたし達は当日楽器の演奏があるから、村人で協力してくれる人を探さないといけないな。そうなってくるとボランティアってわけにはいかないだろうし、お金を支払って──


「ユーリ! ユーリ!」

「……え? あ、はい……なんですか?」

「大丈夫? さっきから顎に手を当てたまま微動だにしないから心配になって……」

「いえ、ちょっと考え事をしていただけですよ。この後市場に寄っていいですか? 祭りで食べ物を販売してくれそうなお店を見つけたいので……」

「それはいいけど、本当に大丈夫か? 笛の練習も頑張ってたし、寝不足なんじゃないか?」


 寝不足? いやいや、しっかり六時間以上寝ていますよ。ウチの会社ややブラック寄りだから、三時間睡眠が当たり前の週とか普通にあったからね。それに比べれば全然、全然。


「全然大丈夫です! さ、市場に向かいましょう!」


 わたし達はザザ達にお礼を言って、市場へと向かった。祭りで食べやすそうな物を扱っている店に声を掛け、焼き鳥屋さんとパン屋さんと果物屋さんが店を出してくれることになった。どれも屋台で販売されていたので丁度良い。前の日に屋台ごとアイテムバッグに入れて運んでしまおう。わたし達の代わりに売り子をやってくれる子も雇ったよ! 焼き鳥屋さんとパン屋さんと果物屋さん、それぞれの店の看板娘さんをお借りしました! ララちゃんともお友達らしいので、当日はララちゃんの歌を楽しみにしているらしい。出来れば祭りを次の代に引き継いでいってもらいたいので、若い子の参加は大歓迎です!


 よし、大体の準備は整ったんじゃない? あとは日付を決めてビラでも配ってそれから──


「ユーリにばっかりやらせちゃってごめんね……僕にも何か手伝えることある?」

「え? いやいや! カイン君には笛も教えてもらいましたし、楽譜も書いてもらっちゃって逆にお世話になりっぱなしです! 充分手伝ってもらっていますから、お気になさらず!」

「でも、元はと言えば僕が原因だし……」

「そんな! カイン君の所為じゃないですよ! 誰だって風邪引くことくらいありますって! わたしなんかしょっちゅう風邪引いて寝込んでましたよ! マーダチカさんには引きそうにない顔してるとか言われましたが……。と、とにかく! 大丈夫です!」


 そう言うと、カイン君はちょっと悲しそうな表情になってしまった。ああっ! そんな顔させたいわけじゃなかったんだけど……! わたしはすぐさまカイン君のおかげでどれだけ助かっているか、これから手伝ってほしいことがいっぱいある! といった趣旨のことを説明した。


「……うん、わかった。何かしてほしいことができたら、遠慮なく言ってね」

「はい! わかりました! ……あ、早速なんですけど、いいですか?」

「何?」


 お言葉に甘えて、ちょっと欲を出してみてもいいだろうか。このぐらいならセーフだよね? 良いよね?


「あの……『優理は頑張ってる』って言ってもらえませんか?」

「そんなことでいいの?」

「……はい!」


 カイン君が立ち止まったので、わたしも立ち止まる。ルークスとエステラは話しをしながら先に行ってしまった。向かい合ったカイン君が頭に手を伸ばしてくる。……これはまさかの頭ポンポン付!? ……くっ! なぜわたしの体は透けてしまうんだっ……!


「……ユーリは頑張ってるよ」


 カイン君がわたしの頭をなでながら労をねぎらってくれた。わたしは精いっぱいカイン君に撫でられた感触を想像しながら言葉を噛みしめる。大丈夫……! わたし、想像力で補完できる……!


「……ありがとうございますっ! これで三日は寝ずに頑張れます!」

「いや、夜はしっかり休んでね?」


 カイン君がくすくすと笑うその顔があまりに可愛らしかったので、わたしは心の中で「五徹もいけるな」と思った。

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