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みんなの意外な才能

 翌日、わたし達は祭壇作りを手伝ってくれた人達に残りの金貨を支払った。ついでにお祭りの話もしておく。作業をしながら一日一緒に過ごしたことで、村人のサラマンダーに対する畏怖の念も少しは和らいだみたいだ。みんな喜んで祭りに参加してくれるとのことだった。思ったより賑やかになりそう! 祭りの為に、渡した報酬から祭壇に捧げる供物を購入してくれると言ってくれた人もいたので「サラマンダーが好きなのは果物!」と教えておいた。……果物の種類までは知らない。


 族長から聞いた祭りの内容は「一晩中火のまわりを音楽に合わせ回りながら踊る」というキャンプファイヤーと盆踊りを足したようなものだ。つまり、歌と踊りと楽器要員を見つけなければならない。踊りの方は「火の島に住んでいる者なら殆ど踊れるポピュラーなものがある」ということだったので、問題ないだろう。あとは歌と楽器かー。一晩中ってことは交代要員も確保しておかなければならないだろうな……。


「うーん、どうしようかな……」

「何を悩んでいるの?」


 考えていたことが思わず口から出てしまっていたらしい。わたしの呟きを拾って、エステラが話しかけてきた。


「いえ、祭りの音楽のことでちょっと……。歌を歌ってくれる人と、楽器を演奏してくれる人を見つけないといけないなーって思って」

「歌? 歌ならわたしが歌いましょうか?」

「俺もリュートなら演奏できるぞ」

「僕も笛なら吹けるよ」


 え……すごい。みんな、何かしら出来るんだ……! う、三人が期待に満ちた目で、じっとわたしの方を見つめてくる! わたし? わたしは歌えないよ! 大して上手でもないし、大勢の前で歌うなんてそんな恥ずかしいことできないよ! わたしって何かできたっけ!? 楽器も学校の授業でしか触ったことないし……。鍵盤ハーモニカでしょ? カスタネットでしょ? あとは──


「た、縦笛なら……少々」


 小学校の頃の記憶を呼び起こし、リコーダーを創造してみる。程なくして、プラスチック製のつるっとした笛がわたしの手の中に現れた。うわー、懐かしい! 口をつけてポヒーーッと音を出してみる。続いてドから順番に音階をたどってみた。……意外と覚えてるもんだな。


「珍しい笛だね。形も音も、僕が吹ける笛と違うね」

「あ……これはわたしが元いた世界で使っていたものなんですが……こんなのでもいいですかね?」

「いいと思うわよ。祭りで使う曲を教えてもらったら一緒に覚えましょうね」

「あー……すまない。俺リュートは弾けるけど、自分の楽器を持ってはいないんだ。まずは楽器を用意しないと練習もできないな……」

「僕も笛は城に置いてきちゃった。使うと思わなかったから……」


 うーん。二人の分も創造で作りたいところだけど、わたしには詳しい構造が分からない。イメージが固まらないと、作りだせないんだよね。まあ、演奏できる人が見つかっただけでも一歩前進かな?


 祭りのことをザザに相談するために宿屋へと向かっていると、空をグリフォンの荷馬車が飛んでいるのが見えた。あ、ラダマンさん本当に今日も来てる。商売熱心だな……。あとで市場にも寄ってみよう。





「祭り? へー! いや、俺も参加したことはないけど、話に聞いたことはあるぞ。歌いながら一晩中踊るんだろ?」

「そうなんですよ、それで祭りで楽器を演奏してくれる人と、歌を歌ってくれる人を探してるんですけど……」

「俺も太鼓ならできるぞ。自分の楽器も持ってるしな。村で踊るときに一緒に演奏してる奴らに声をかけてやるよ。あと歌ならウチのララが得意だ! 百年に一度の歌姫として、村でも評判の──」

「本当ですか! 助かります! 是非、紹介してください! 急ですけど、今から大丈夫ですか?」

「あ、ああ。いいぞ。今日は宿泊客もいないし、ちょっとくらいなら……。おーい! ララ! お父さんちょっと出かけてくるから店番頼むぞー!」


 ザザが店の奥にいるララちゃんに呼びかけると、すぐにかわいらしい声が返ってきた。


「いいけど、早く帰ってきてねー! わたしも友達と遊びたいからー!」


 なるほど。たしかにララちゃん、よく通るきれいな声をしている。百年に一度は言い過ぎかもしれないけど親にとってはそんな感じなんだろうな。紹介してくれる人の家に着くまでずっっっっと、ザザからララの歌声がどれだけ素晴らしいかを滔々と語られた。お父さん、娘さんの素晴らしさは充分伝わりました!


 村を回って何人かをザザに紹介され、笛と、太鼓とリュートの演奏ができる人が確保できた。楽器をよく見せてもらい、ルークスとカイン君の分の楽器もこっそり作り出す。早速今夜、ザザの店に集まって練習をすることになった。


「音楽に関してはなんとかなりそうね」

「そうですね、休憩を挟みながらなら、今いる人数で頑張ればどうにか……あ、あと火の祠への移動手段も考えなければ」


 昨日はドラ子に往復してもらったが、なんだかんだでグクス村のほぼ全員に声がかかっている。あと火の部族の村からも参加したいと言う声もあったので、トータル百人ぐらい集まるんじゃない? ドラ子じゃ無理だ。歩いて行ってもらうのも時間がかかるしな……。あー、転移魔法陣が欲しいな。


 わたしは歩きながら腕を組んで悩む。目を瞑ったまま歩いていたので、途中何回か木や看板にぶつかったらしい。いや、すり抜けたから痛くはないんだけど……傍から見ていた人に驚かれるので、せめて目を開けて歩いてほしいとエステラから懇願された。今度は目を開けながら道を歩いていると、市場にたどり着いた。ちょうどいい、ラダマンさんに進捗状況を報告しておこう。大事なスポンサーだしね。ラダマンさんはわたし達に気が付くと、柔和な笑顔で声を掛けてくれた。


「みなさんこんにちは。どうですか? 祭りの準備は進んでいますか?」

「こんにちは、ラダマンさん。音楽に関しては何とかなりそうなんですが、火の祠に向かう移動方法をどうしようか悩んでいまして……」


 わたしは一度に大量の人を火の祠に運ぶいいアイデアがないかラダマンさんに相談してみた。間髪入れずにラダマンさんが口を開く。


「良ければ私の荷馬車をお貸ししましょうか? 今日乗ってきている物の他に、大型の荷馬車もあるのです。グリフォンはこの四頭しかいませんが、ペガサスでしたら十頭ほどおりますし、一緒に従業員も貸し出しましょう。何回か往復すれば、かなりの人数を運ぶことが出来ると思います」

「ラダマンさん……! そうしていただけると、ものすごーーく助かるのですが……、どうしてそこまでしてくださるんですか? 祭りの資金もかなり出資していただきましたし、その……正直、内輪で行う祭りですから、そこまで利益が上がるかどうかはわからないのですが……」

「いえ、単純に面白そうだというのが大きいですが……少々打算もあります」

「打算?」

「はい、実は私がエルグランスで販売している香辛料の売れ行きに、他の大店が目を付け始めているのです。……まだこの村のことまでは知られていないようですが、時間の問題でしょう。祭りに参加されるのはこの村の方々でしょう? 今回の祭りは好機です! 私は少しでも村人との繋がりを太く持っておきたい! 他の店が介入してきたときに、私に優先的に良い品物を回していただきたい! 欲を言えば、私以外には売ってほしくない! ……そんな打算です」

「は、はあ……」


 ラダマンさん、くろねこ亭のご主人にも話を通しているらしく、料理に使っている香辛料がどこの物か聞かれても「ラダマンさんの店で買える」としか言わないようになっているらしい。そのかわり、安く香辛料を売ってくれているんだとか……。いや、グクス村の人がそれでいいならいいんだけどね。ババーンと大々的に宣伝して色んなところからお客さんが来た方がいいと思ったんだけど……。しかし市場の香辛料屋さん曰く、ラダマンさんの注文分を揃えるだけでも手がいっぱいなので、今新規のお客様が増えても対応しきる自信がないとのことだった。


 うーん、ラダマンさんのおかげで売上自体はかなり上がったみたいだから……いいのかな? みんなで共同出資して、今度グクス村でも飛行魔獣を購入することになったらしい。「ラダマンさんがトリニアまで連れて行ってくれて、一緒に魔獣を選んでくれる!」と嬉しそうに話してくれた。……すごい、そんなところでもパイプを作っていってるんだね。ここ数日の付き合いのはずなのに、道行く人がみんなラダマンさんに笑顔で声を掛けてくる。お、恐るべし商人のコミュ力……! わたしも、見習わなければ……!


 ラダマンさんと別れ、市場で果物を数種類買っておばあちゃんへのお土産にした。お世話になってるしね。あとこの村を去る前に、何かプレゼントを贈りたいな……。何が良いか考えておこうっと。


 わたし達はおばあちゃんへの家へと戻り、夜の合同練習まで楽器の練習をすることにした。……カイン君、めっちゃうまいよ。演奏する姿もまるで絵画のようだった。まさに「笛を吹く美少年」。おばあちゃんとわたしはすっかり魅了されてしまい、演奏が終わった後もしばらく意識が戻ってこなかった。

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