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スポンサー発見

 現場監督に最終チェックをしてもらい、夜を迎える前に祭壇は完成した。やや斜めってはいるが、サラマンダーは気にしていないっぽい。祭壇の上をちょろちょろと歩き回っては、満足げに何度も頷いている。


 早く家に帰って、疲れた体を休めたいのだろう。行きとは違い、帰りのドラ子便には我先にとみんなが向かっていった。わたしは残って道具の後片付けをすることにした。……といっても、創造で作った道具だから、消すだけなんだけどね。洗わなくていいのが助かるわー。


「ユーリ、さっきの話の続きなんだけど……」


 おお! そうだ! カイン君に話しかけられていたんだった! わたしは作業の手を止め、落ち着いて話を聴くため適当な石の上に座った。カイン君もすぐ横に腰を下ろす。


「……ユーリは魔王を倒したら、元の世界に帰っちゃうの?」

「うーん、そうですね。あまり長く仕事も休めませんし、目的を果たしたら戻ろうと思っています」


 本当はカイン君が幸せになるまでずっと見守っていたいけど、そうも言っていられない。あくまでここはゲームの中で、現実の世界でわたしの体と仕事が待っている。魔王を倒して、カイン君がアメリアと幸せに暮らせるようにお膳立てをしたら、わたしは現実世界に帰らなくちゃ。……朔夜の神社を建てるって約束もあるしね。


 カイン君は自分の両手を足で挟むようにして、ゆらゆらと前後に揺れている。なんだそれ。動きかわいいな。


「そうなんだ……」

「どうかしましたか?」

「ううん、ただ寂しいなーって思って」


 カイン君がわたしの顔を覗き込むようにして呟いた。……首傾げ上目遣いの威力半端ない。いや、これは……狙ってやってるの? え? 素なの? 素で、そんなに仕草がかわいいの? あ、そうか天使か。なら納得。


 寂しいか……。カイン君のこと気にかけてくれてるのって、わたしの他にはアメリアぐらいだもんね。お城の人達もどこか距離があるっていうか……。一見仲良さそうに見えるんだけど、友達って感じではなかったし。多分カイン君が強すぎるせいもあって、誰も心配とかしないんだよな。わたしはうるさい位に毎日カイン君カイン君言ってるし、そんなうるさいのがいなくなると思えば……寂しいって思うのも当然だよね。


「大丈夫ですよ! 寂しくないように、わたしがカイン君とアメリアが一緒に暮らせるように頑張りますからね! 大船に乗ったつもりでいてください!」

「……え? アメリア?」

「カイン君のいた孤児院の近くに、良い土地があるんです! あそこに家を建てれば、城からもそれなりに近いし、森も湖もあるから自然も満喫できるし、少し歩けば町にも行けます! 魔物も少ないし、静かに暮らすにはもってこいの場所ですよ!」

「へー、そうなんだ。見てみたいな」

「はい! 今度一緒に見に行きましょうね!」

「うん、楽しみにしてる」


 良かった。カイン君笑ってくれてる。わたしもそれを見て自然と顔がほころんだ。わたし達が笑いあっていると、ルークスがみんなを送り届けて戻ってきた。さて、わたし達も帰るとするか。


 石から立ち上がったところで大事なことを思い出した。そうだ、祭りのことをサラマンダーに言わなきゃ!


「サラマンダー様! 久しぶりにここでお祭りをしようと思うんです! 楽しみにしててくださいねー!」


 わたしが祭壇の上をちょろちょろしているサラマンダーに大声で話しかけると、サラマンダーはくるっと宙返りをして見せてくれた。……あれは喜んでるんだよね? 祭りを開くことを了承してもらえたって事だよね? よし、村に帰ったら色々準備しなきゃ! わたし達はサラマンダーに手を振って別れ、グクス村へと戻った。




 村に着くと見覚えのある荷馬車が止まっていた。これ、ラダマンさんのグリフォンじゃない? 首輪に見事なオレンジ色の宝石がついている。こんな豪華な首輪をしてるのって、ラダマンさんとこのグリフォンぐらいだよ。市場の方をのぞいてみると、ラダマンさんが商品の買い付けをしているところだった。ルークスが手を振りながら近づいて行く。


「ラダマンさん!」

「おや! あなた達もこちらにいらっしゃったんですね!」


 ラダマンさんは昨日に引き続き、今日も買い付けに来てくれたらしい。お店の人は、支払われた金額に手が震えている。どうやらかなりの量の香辛料を買ってくれたらしい。どんどんと包まれていく香辛料の数は、優に百を超えている。


「……すごい量ですね」

「これでも少ない位です! 昨日仕入れた分はすでに卸先が決まっていて、今日は違う種類のものを探しに来たんです! ですが、あまりに数が多くて目移りしてしまいます! 一体何を買えばいいのやら……いっそのこと、全部買い占めてしまいましょうか……」


 ラダマンさんが言うと冗談に聞こえない。この人かなりのお金持ちらしいし……。わたし達が話している間に、お店の人は大量の香辛料を包み終わったみたいだ。……これは、運ぶだけで一苦労だな。グリフォンが大きすぎる為、市場からは離れた場所に荷馬車を止めてある。お店の人に手押し車があるか聞いてみたが、生憎用意がないとのことだった。


「良かったら、俺が荷馬車まで運びましょうか? アイテムバッグに入れていけばいいので」

「アイテムバッグですって!? ちょ、ちょっと見せていただけませんか!?」


 ラダマンさんはルークスの腰に着いたアイテムバッグを食い入るように見つめ、ルークスに断った後、バッグの中に手を入れたり出したりしていた。


「……素晴らしい! 本物じゃないですか! どこでこれを!?」

「親父が使っていたものを譲り受けたんだ。多分遺跡から発掘されたものだと思うんだけど……」

「あの……もしよろしければ、私に譲っていただけないでしょうか? 今は持ち合わせがないのですが、家に帰れば五百万Gは用意できます」

「ご、五百万G!?」

「少ないようでしたら、どうにか工面して六百……いえ、七百万Gまでなら出せます! これは私達商人にとって夢のような道具なのです!」


 あー、確かにアイテムバッグ便利だもんね。大きな荷馬車を用意しなくても良くなるし、商人さんにとっては喉から手が出るほどほしいものなんだね。だが、わたし達の旅にもなくてはならない重要アイテムだ。……一時は盗まれちゃったけどね。ルークスもやんわりと断っている。


 アイテムバッグが手に入らないと分かると、ラダマンさんは見るからにしょんぼりしてしまった。そ、そんなに落ち込まなくても……! なんか楽しい話題でも……あ、そうだ!


「あの、わたし達今度、火の祠で火の精霊サラマンダーの為にお祭りをしようと思うんです。よかったらラダマンさんもいらしてください」

「ほう、祭りですか! いいですねえ、賑やかなのは大好きです。あ、もし良ければそこで私も商売をさせていただくことはできないでしょうか?」


 さすが商人さん。ビジネスチャンスは逃さないね。さっきまで落ち込んでいたのに、もう目が輝いている。祭りにも出店があった方が盛り上がるだろうし、喜んで了承した。あ、そうだ。ダメもとでこっちもお願いしてみよう。


「ラダマンさん、ご相談なんですが……祭りの資金を少し出資していただくことはできないでしょうか?」

「資金をですか?」

「ええ。そのかわりといってはなんですが、ラダマンさんのお店の宣伝をわたし達でできる限りします。あと……そうですね、今なら香辛料の効能をまとめた資料をお渡ししますよ! どうです?」


 薬についてマーダチカおばあちゃんが研究している本があるのだ。その中から、香辛料の効能についての部分をわたしが書き写せばいい。勝手に交渉に使ってしまったが、おばあちゃんもなるべく多くの人に知ってもらいたいと言っていたので反対はしないだろう。ラダマンさんも香辛料の数の多さに戸惑っていたし、効能がわかれば少しは買いやすくなるかもしれない。……でも、いきなりスポンサーになってほしいなんて言っても、普通は断られ──


「いいですよ。五十万Gぐらいでよろしいですか?」


 ……え? 五十万G? 即決してくれたけど……、お腹から金貨じゃらじゃら出してくれてるけど……あ、お腹がやけにぽっちゃりしてると思ってたら、金貨が入っていたんですね。ってもうルークスに金貨五十枚渡してるし! いいの? もうちょっとよく考えなくていいの? 大金だよ? 自分でお願いしといてなんだけど、本当にいいの!?


「い、いいんですか?」

「ええ。祝い事はパーッと盛大にやった方が良いですからね。こういう事をけちけちしていると、商売の神様に嫌われてしまいます。しばらくは私、こちらの村に日参することになると思いますので、詳しい日取りが決まったらまた声を掛けてください」


 ……太っ腹だなあ。ラダマンさんが買った分の香辛料を荷馬車へと運び、ラダマンさんは「また明日も来る!」と宣言して帰っていった。わたし達も家へと戻り、わたしはマーダチカおばあちゃんに香辛料の資料を見せてもらいながら紙に書きうつしていく。おばあちゃんも自分の研究成果を一人でも多くの人に伝えたいとの事だったので、快く了承してくれた。書きながらわたし自身も勉強になる事が多く、思ったよりも時間がかかってしまったが、よく使われる香辛料についてまとめた冊子が出来上がった。

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