祭壇再建
「えーみなさんおはようございます。今日からよろしくお願いします! それでは事故、ケガのないように気を付けて頑張りましょー!」
ザザが集めてくれたのは、村の力自慢五人。一人女性も交じってるが、上腕二頭筋は一番立派なものをお持ちだ。工事に入る前にみんなに金貨を二枚ずつを渡す。なくさないようにね! 何人かは家に金貨を置いてくるため、一旦走って帰っていった。持ち慣れない金貨を持って作業をすることが、どうにも不安らしい。……完成してから全額支払った方が良かったかな……。待っている時間ももったいないので、わたし達は先に火の祠に向かうことにした。色々準備もあるしね。
火の祠までは距離があるので、ドラ子に何回か往復して運んでもらう。突如現れた伝説のレッドドラゴンに、村人は腰を抜かしあんぐりと口を開けたまま固まってしまった。だ、大丈夫か? これからこの背中に乗ってもらわなきゃいけないんだけど……。アンケートではサラマンダーのことを怖がっていた村人も何人かいたが、ドラ子の顔に比べれば、サラマンダーなんてかわいいものだよね。一応座席は四つつけてあるのだが、ドラ子の主人であるルークスは常に乗ってないといけないので一度に運べるのは三人だ。
「えーと、わたしは先に現場に行きたいのですが、どなたか同乗されますか?」
挙手を求めたが、皆、ぶんぶんと首を横に振っている。……どうせ次かその次の便で乗らなきゃならないのにな。結局わたしとカイン君とルークスで一端祠に向かうことにした。
祠に着いたらルークスは村へとんぼ返り。わたしはカイン君と共に祭壇に向かう。みんなが来る前に、わたしが創造で作った祭壇を消しておいた。カイン君は不思議そうに首を傾げている。
「なんで消しちゃうの? 折角きれいにできてたのに。わざわざ新しく作らなくても、そのままで良かったんじゃない?」
「あー……いや、なんとなくなんですけど、わたしずっと残しておきたいものは創造で作るんじゃなくて、ちゃんとしたものを作っておきたいんです。創造はわたしのスキルですから、例えばわたしが死んだり、元の世界に帰った時にどうなっちゃうかわからないでしょう? だからこの祭壇も、みんなで作りたいんです」
素人集団のわたし達が作ったものが、何年もつかは分からないけどね。でもまた壊れちゃったとしても、石で作っておけば後世の人が補修できるよね? わたしはルークスから預かったアイテムバッグの中から材料の石をどんどん取り出していく。カイン君も黙って手伝ってくれていたが、突然顔を上げてわたしの目をじっと見つめてきた。
「ユーリは──」
『なんだ! お前達か! 何をしにきた!』
「……おはようございます、サラマンダー様」
カイン君が何か言いたそうにしていたが、サラマンダーの登場によって遮られてしまった。……ごめんなさい、後で聴かせてください。
「……今日は祭壇を修復しに来たんですよ。ほら、これが設計図です! いい感じでしょう?」
『ほう! 悪くない! 其方が作った祭壇もそれなりではあったが、これはこれで! よし、早く作れ!』
「今、準備中です」
わたしは漆喰のような目地材をねりねり練っていく。……結構力がいる作業だったので、途中からカイン君に代わってもらった。そんなこんなで準備をしている間に第二便が到着したようだ。今回は男性二人と女性一人がやってきた。ルークスの話によると怖がってなかなかドラ子に乗れない男性達を、家から戻ってきた女性が一喝したらしい。……聞けばこの女性、自らが住む石造りの家も自分で建てたとの事だった。……監督! この人が現場監督に決定! 良かった! 建築経験者が見つかった!
石の詰み方を女性に習いながら、みんなで祭壇の石を積んでいく。ところどころアクセントカラーの石を入れながら、ジグザグになるように置いてっと。……わたし、この作業好きだ。黙々と石を積んでいる間に第三便が到着した。後は全員でひたすら石を積んでいく。たまに監督から指示が入るが、おおむね順調と言えよう。
サラマンダーは作業の様子を見ながらしっぽを振り振り、石の上をちょろちょろ歩いている。サラマンダーが近づくたびに、みんなが怖がって作業の手が止まるので、できればどっか行っててほしいな……。
切りのいいところで、お昼休憩に入ることにした。今日のメニューはカレーパンだ。エステラがとろみのあるカレーを作ってくれたので、それをナンの生地で包んで揚げてある。ルークスに頼んで表面をカリッとしてもらってからみんなに配った。あ! 手洗いうがいをしなくちゃね! カイン君がお水を出してくれたので、みんなの汚れた手を綺麗にしてからカレーパンを頬張った。
「う、うまい! なんだこれは! も、もうひとつくれ!」
「この中に入っているのは、ザザが教えてくれたカレーじゃないのか? こういった食べ方もあるのか……」
良かった、カレーパンも受け入れてもらえたみたい。カレーより食べやすいし、これをお祭りのメニューにしてもいいかもしれないね。ルークスがいれば、いつでも温められるしね。不意に視線を向けると、体を動かしておなかが空いたのか、ルークスとエステラの食欲がいつもの三割増しですごい。ちょっと辛めの味付けが、食欲を更に増幅させているのかもしれない……。
「これ、サクサクしてておいしいね」
カイン君も気に入ってくれたみたいで良かった! 火の祠は暑いので水分補給もしなくちゃね。チコリがいったん沸かして冷ましてくれた水も水瓶ごと持ってきたからね! みんな自由に飲んでください!
みんなの食事風景を黙ってみていたサラマンダーが、わたしの周りをぐるぐる回り始めたので、カレーパンを一つ勧めてみた。『ほしくはないが、捧げられたものを食べぬわけにはいかぬな!』と言って早速カレーパンにかぶりつくサラマンダー。しっぽがリズミカルにパタパタ動いているので、どうやら味には満足らしい。
「……おいしいですか? おいしいって言ってくれたら、もう一つあげますよ?」
『…………ぐっ!』
……素直でないサラマンダーをちょっといじめてみたが、かわいそうなので結局もう一つカレーパンをあげた。サラマンダーがとても小さな声で『……うまい』と言ったのが聞こえた。念話ってボリューム調節もできるんですね。