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ツンデレ精霊サラマンダー

 わたし達が火の部族の村に戻ると、先に戻っていた土砂崩れ片付け部隊が族長の家から出てくるところだった。土砂も片付いたので、これからすぐに城へと戻るところらしい。一晩位休んでいけばいいのにね……お疲れさまです。何人かはカイン君と顔見知りだったらしく、笑顔で言葉を交わしている。


「しかし、城にいた時から強かったのは知っていたが……更に化け物じみてきたな」

「そうだな、あのように高度な魔法を何種類も同時に扱うとは……もはや人間ではないな……」


 兵士達は腕組みをして、うんうんと頷きながら、土砂崩れ現場でのカイン君の活躍の様子を褒め……ん? カイン君、褒められてるんだよね? 軽くディスられてるわけじゃないよね? 本人はさして気にした様子もなく、にこにこと笑っている。……これは会話がめんどくさいから、笑ってごまかしている時の笑顔ですね。


 わたしは段々とカイン君の笑顔の種類が分かるようになっていた。カイン君は積極的にしゃべる方ではないので、いつも一歩引いて後ろの方でにこにこしていることが多い。が、笑っているからといって機嫌が良いわけではないのだ。今もそう。多分「早く会話を切り上げたい」って思ってる。わたしは横からカイン君に声を掛けた。わたし達、急いでるんですよ! って感じをだしながら。


「……カイン君、火の族長にまだ少し尋ねたいことがあるので、わたし達は先に中に入っていますね」

「あぁ、すまない! 呼び止めて悪かったな。私達も急ぎ、城へと戻らねばならぬ。じゃあな、カイン! 元気でな」


 良かった。兵士さん達は空気の読める人だった。兵士達はカイン君に手を振りながら、ペガサスに乗って飛び立っていった。


「……ありがとう、ユーリ。みんな悪い人じゃないんだけど、一度話し始めると長くって……」

「あ、いえ! お節介かとは思ったんですけど、なんだかカイン君が困った顔になっていたので……」


 わたしがそう言うと、カイン君はちょっと驚いた顔になった。


「……僕、そんなに表情に出てた?」

「いやいや! 全然! ちゃんと笑顔でしたよ! ……ただ、口角の上がり方だったり、眉毛の角度だったり、どことなく本当に楽しいときの笑顔とは違うかなって……」

「ユーリはカインのこと、いつも見てるものね? さあ、早く族長の話を聞きに行きましょう! ここで話し込んでたら夜になってしまうわ」


 エステラに背中を押され、火の族長の家に入る。すでに土砂崩れ片付け部隊から報告を受けている族長は笑顔でわたし達を迎えてくれた。


「おお! 勇者よ! 其方たちのおかげで街道が元通り通れるようになった! 感謝するぞ!」

「あ、いえ俺はちょっと手伝っただけで……ほとんどこのカインが魔法で……」

「なんと! このような年若いおのこが! ふむう……人は見た目によらぬのう……」


 カイン君、またにこにこしてる。今度は本当に嬉しそうだけど、小さい子扱いされてるのがちょっと気になってる感じかな。あ、そうだ。カイン君の笑顔眺めてる場合じゃないや。サラマンダーのことについて訊かなきゃ!


「すみません、不躾ながら火の精霊サラマンダーについてお伺いしたいことがございまして……」

「なんじゃ? 儂にわかることで良ければ答えるぞ」

「ありがとうございます。実はわたし達、サラマンダーから『人々の信仰を取り戻してほしい』って依頼を受けているんですが、サラマンダーの求める信仰っていうのが何なのかが、いまいち分からなくて。……シャーマンである火の族長なら、何かご存知ですか?」

「ふむう……サラマンダー様のことは儂達火の部族も長きにわたり信仰しておるが、信仰心を表す方法か……。毎年供物を祭壇に捧げてはおったが、……その事かのう」


 やはり、供物の果物が食べたいだけなのだろうか。街道も通れることになったことだし、族長も近いうちに火の祠へ向かうらしい。んじゃあ、それで問題解決?


「……ところで、わたし達が祠に行ってもサラマンダーはあんまり歓迎してくれなかったんですけど、族長が行ったときは違うんですか? 何回か会いに行くと、少しは仲良くなれるんでしょうか……」

「あぁ、サラマンダー様はお言葉は冷たいが、内心はとても喜んでおられるのじゃ。どちらかというと、尾の反応を見た方が分かりやすいかもしれんの」


 何? あれで喜んでいた……のか? まさかのツンデレだと? ……蜥蜴のツンデレ。いやいや、かわいくないでしょ。


「サラマンダー様はああ見えて音楽や踊りがとてもお好きでな。笛や太鼓に合わせ、尾で拍をとりながら一緒に踊っ……あああああっ!」

「ど、どうしました!?」

「思い出した! 儂が若いころは、祠でサラマンダー様を称える祭りが行われておった! 祭壇を囲んで、皆で音楽に合わせて一晩中踊るのじゃ。もう、かれこれ五十年以上前の話じゃが……」

「そ、それだーーーー!!」


 祭りか! 五十年以上祭りがないから、自分が信仰されなくなったって思ってたのかも! じゃあそれを復活したらいいんじゃない? きたこれ! 多分正解だ!


「良かったな! 祭りなら、ユーリの出番だな!」

「へ? 何のことです?」


 ルークスがきらきら笑顔をこちらに向けてくる。カイン君と違って、ルークスの笑顔はいつでも眩しいだけでよくわからない。説明求む。


「昨日話してくれたじゃないか! 前は祭りの仕事をしてたんだろう?」

「あ、いや、あれは説明のために祭りっていう単語を使っただけで、別にいつも祭りをやってたわけじゃないし、そもそもわたしは新人でまだ自分で担当した仕事は無いっていうか、上司の手伝いで色々──」

「なんと! そちらの女性は祭りを生業にしておったのか! 儂からも頼む! 是非、サラマンダー様のために祭りを復活させてくれ!」

「いや、だからその──」

「ユーリ、わたしも手伝うから頑張りましょう! ……祭りの料理はカレーがいいかしらね?」

「……話しを聞いてください。わたしは別に祭りの専門家では──」

「お祭りって楽しそうだね。僕も見てみたいな」

「……わたし、頑張ります!」




 族長の家から出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。わたし達はドラ子に乗り込み、グクス村のおばあちゃんの家へ急いで戻った。



「というわけで、火の祠で祭りを行うことになりました! マーダチカさんも手伝ってくださいね?」

「何がどうしてそうなった……」


 夕食の席で報告をすると、おばあちゃんはめんどくさそうな顔をしながらも昔を思い出したのか、どこか懐かしそうだ。おばあちゃんは火の族長と同じ、祭り経験者らしい。祭りであった、若かりし頃の甘酸っぱい思い出を語ってくれた。わたしはもぐもぐとパンを頬張りながら相槌を打ち、その話を聞いている風に見せかけて全然違うことを考えていた。


 明日は祭壇を修復しないといけないな。その時にザザにも祭りの相談してみよう! カイン君の為に頑張るぞ! カイン君の為に!


 にやにやと笑いながらパンを食べるわたしを見て、チコリが少し怯えていた。

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