土砂崩れ片付け部隊のお手伝い
火の族長が住んでいる家は、他の家よりほんのちょっと広いだけの、布張りの簡単なものだった。族長の家を守るようにして両脇に立っている戦士は、門番の男性以上に屈強で、首飾りの獣の牙のサイズが大きく、数が多い。ほうほう、この首飾りで戦士の熟練度が分かるわけですね?
中に案内されると、頭の毛は全くないが、その分おひげがふさふさした老人が胡坐を組んで座っていた。この人が火の族長だ。ひょろひょろのおじいちゃんといった風貌だが、首飾りの牙の数は、この村で見た中で最多だ。やるな、おじいちゃん。
「おお勇者よ、其方の薬のおかげで多くの者の命が救われた。村を代表して、感謝する」
「いえ、俺は薬を届けただけで、材料の火炎草を倒したのはこのユーリだし、薬を作ったのは、グクス村の薬師のマーダチカさんです」
「なんと! この様な、あえかな女性が火炎草を倒したというのか!? むむ……人は見かけによらぬものだな……」
いや、おじいちゃんこそ見かけによらず、かなりお強いみたいですが……。火炎草を倒したのだって、実力っていうより完全に杖のおかげだしね。わたしは曖昧な笑いを浮かべて、族長の好奇に満ちた視線を受け流した。
「あ、それと街道の土砂崩れはどうですか? 片付きそうですか?」
「おお、それも其方が手紙を王に届けてくれたおかげだの。昨日ようやく中央からの兵が到着したのだ。……なんでも砂漠の大蜘蛛につかまっとったとかでやけに疲弊しておったが……今朝から作業に入ったところだ」
う……ごめんなさい。もっと早くに助けに行けば良かったね……。せめてもの償いとして、わたし達も土砂崩れを片付けるお手伝いをすることにした。村の若者もこれから手伝いに行くというので、わたし達も一緒に現場に向かう。村からそう遠くない距離だったので、みんなで街道を歩いて行った。
現場にたどり着くと、街道は完全に土砂や大岩で埋まっていた。両脇にそびえ立つ岩山から流れたものだろう。なぜこんな危険な場所に、街道を作ったのだ……。村の若者の話によると、ここ最近は全く雨が降っていないが、土砂崩れが起きる前は局地的な大雨が続いていたらしい。土砂崩れ片付け部隊がペガサスに乗って、土砂を袋に入れては運んでいる。若者も早速、手にした棒切れを持って、手伝いに駆け出して行った。
ちょ、ちょっと待って。これ、人力で片付けるの無理なレベルじゃない? 重機が必要なんじゃない? 袋に土砂を詰めて、運んで、詰めて、運んでって何往復すれば終わるの!?
「……オルランド中将を呼びたいですね」
「……中将は、よっぽどのことがない限り城から離れられないからね。僕も手伝うから、頑張ろう!」
カイン君はそう言うと詠唱をはじめ、スノーマン達をぽぽぽぽぽんっと生み出していった。スノーマンがバケツリレー方式で土砂を運んでいる。……うん、さっきよりは確実に片付いてる。やるしかないよね、頑張ろう!
わたしも杖を使って、重くて動かない大岩を運んでは、邪魔にならないところに投げ捨てていった。周りの兵士から「おおおおおっ!」と拍手と歓声が沸き起こる。違うんです! わたしじゃなくて、杖がすごいだけなんです……! 恥ずかしい……!
粗方の岩が片付いたので、残るは大量の土砂のみだ。スノーマン達も頑張ってくれているが、いかんせん量が多い。体力が自慢のルークスも、少々疲れてきたようだ。
「うーん、もっと手っ取り早く片付ける方法ってないですかねえ……」
「そうだなあ、俺の魔法で吹き飛ばそうか?」
「いえ……新たな土砂崩れが起きそうなんで、やめておきましょう」
「んーじゃあ、ドラ子を呼んで手伝ってもらうか?」
ドラ子かあ……「森を焼き尽くせ!」とかのミッションなら間違いなくお願いするんだけどなあ……。行動の一つ一つが破壊力抜群なドラ子さんが作業に加わると、一緒に作業をしている皆さんの命が危ないかもしれない。なんかもっと安全で、効率的な方法が……カイン君が【タイダルウェイブ】を覚えていれば、一気に洗い流すんだけどなあ……洗い流す……流す……流すといえば……
「流しそうめん?」
「え? なんだそれ?」
流しそうめん……竹は無いけど、半円状のものなら何でも代用できるはず。むしろロングな滑り台? 土砂自体が山になっているので、傾斜はついている。水も【タイダルウェイブ】ほどの量は無理だろうが、水牢を覚えているカイン君なら出せるはず。いける……! いけるぞ……!
わたしはこそこそと隠れながら、人数分のシャベルを創造していった。あとは竹の代わりになるものがほしいが、これもついでにカイン君に氷で作ってもらおう。わたしはスノーマン達と一緒に土砂を運んでいるカイン君のところまで行き、イメージを説明して、長ーーーーーい氷の滑り台を作ってもらった。そこにちょろちょろと水も流してもらう。うん! こんな感じ! それにしてもカイン君は、わたしの創造並みに自在に氷を操るな……きっと器用なんだな。素敵。
みんなを呼び集め、シャベルを手渡す。これを使って土砂を流していってもらうのだ! 流しそうめんのように人を配置し、一斉にシャベルですくった土砂を流していってもらう。袋に詰める作業がなくなっただけでもかなり早くなった! スノーマン達も大活躍だ! それにしても、カイン君……氷の滑り台に、流してる水に、大量のスノーマン……同時に出しちゃってるけど、涼しい顔して自分も土砂を流している。わたしからお願いしておいて何だが、すごいね。出会った時と比べると、格段に強くなったなあ……。カイン君の成長を感じ、しみじみと感動してしまった。わたしも少しは成長できてるかな……? 杖だけは間違いなく成長してるけどね。
土砂の山は見る見るうちに片付いて行き、もともとあった街道が見えてきたところで氷の滑り台を消した。あとは人力で頑張ろう! 最後に残った土砂を道の端に寄せて、ようやく、街道が元通り通れるようになった。