表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/122

カレーのレシピ、公開します

 わたし達が仲良くカレーを食べていると、ザザが新たに仕留めた鳥をわざわざ持ってきてくれた。うん、根はいい人なんだよね。おばあちゃんが「充分お礼はしてもらったので、持って帰って娘さんに食べさせてあげるように」と言っている。ちょっぴりしょんぼりしてそのまま帰ろうとしたザザだが、わたし達の皿の中身が気になったようで遠慮気味に首を伸ばしてのぞき込んできた。


「うまそうな匂いだな……なんていう食べ物なんだ?」


 ザザは辺りを漂う食欲をそそる香りに鼻を動かし、堪らず生唾を飲み込んでいる。


「これはカレーという料理です。こっちはナン。美味しいですよ、食べてみますか?」

「い、いいのか?」


 良いですよ。おばあちゃんの家にはくろねこ亭のような冷蔵庫もないし、気温が高いこの土地では、残しておいても痛むだけだ。張り切って少々作りすぎてしまったので、鍋にはまだ少しカレーが残っている。


 ザザに手を洗いに行ってもらっている間に、ルークスのアイテムバッグから取り出すふりをして、創造でザザの分の食器も用意する。流石に椅子を取り出すのは不自然かと思ったので、わたしが座っていた席を譲った。


 ザザは目の前にだされたカレーとナンを凝視している。……あ、食べ方わかんないかな? わたしは「ナンを手でちぎって、カレーをつけて食べるんですよ。別々に食べてもおいしいですけど」と説明した。早速ザザがナンをちぎると、まだ暖かいナンのチーズがとろりと伸びた。ザザは伸びたチーズをうまくまとめ、カレーをつけて口へと運ぶ。


「う、うまい……!」


 そうでしょう、そうでしょう。みんなで一生懸命作ったカレーだからね。ていうかこれだけ市場に香辛料があるのに、カレーがないこと自体が不思議だよ。逆に何に使ってるの? みんなもカレー作ればいいのにね。


「よろしければ、作り方を教えましょうか?」

「い、いいのか?」


 良いですよ。わたしも自分が作るだけじゃなくて、人が作ったカレーも食べてみたいし。カレーは自由な食べ物だからね。材料やスパイスの組み合わせ次第で、何通りものカレーができる。まさに、「人の数だけカレーがある」といっても過言ではない。なんならカレーコンテストでも開いて、この村の名物にすればいい。そしておいしいカレーをわたしに食べさせてくれ!


 ザザにカレーの作り方を簡単に説明する。なんなら村中に広めてもらっても構わない。スパイスを組み合わせによって味が変わることと、とろみを付けたい場合は小麦粉を使っても良いこと、魚でも、野菜でも、豆でも自分の好きなものをなんでも自由に入れていいことも伝えた。カレーコンテストについての下話も一応しておく。……これに関しては出来たらいいなレベルだけどね。今から研究してもらうとして、形になるのは何年後かな……。ナンの作り方はおばあちゃんから説明してもらった。わたし生地の発酵具合とかよくわかんないしね。


 ザザは熱心におばあちゃんの話を聞いている。一通りの説明が終わると、おばあちゃんの手を握ってお礼を言っていた。わたし達一人一人の席も周り、丁寧に謝辞を述べてくる。……そんな感謝されるほどのことじゃないけど。


 順番にお礼を言って回っていたザザが、カイン君の前に立った時に表情が変わった。深々と頭を下げ、謝辞を述べている。……お礼も言ってるけど、謝ってるね。宿泊を断ったことについてだろうな。ザザから謝られたカイン君は特に気にした様子もなく、にこにこしている。会話の内容までは聞き取れないが、許している……いや、そもそもカイン君は怒ってすらないのだろう。本人がなんとも思ってないのに、わたしがいつまでも根に持ってるのもおかしいな。その様子を見て、わたしは胸の奥にあったザザに対する瘡蓋のようなわだかまりが、ポンととれた。


 カレーも食べ終わったことだし、ザザがそろそろ帰ると口にしていたので、わたしは慌てて呼び止めた。宿屋の主人であるザザに、最近の精霊の祠へ向かう人の数について尋ねたいのだ。東からカルダカ、火の部族の村、グクス村、そして火の祠へと一本の大きな街道が通っているが、徒歩で移動する場合、グクス村には必ず立ち寄るはずだ。ここから祠への距離も歩いた場合は半日程度かかると思うので、宿をとる可能性は高い。で、どうなの?


「いや、宿泊客の行先までは分からないけどね。でも確かに昔に比べれば客は減ったなあ……だが、それはこの島全体に言えることなんだが、北側の砂漠も広がってきたし、熱病の件もあって、この島に住む人や訪れる人自体が減ってきているんだ。そりゃ俺だって金があれば中央や他の島へ引っ越したいけど、人が来ない村の宿屋なんて儲かるわけないだろ? それでなくてもこの島は他の島に比べて貧しいからね。特産品の香辛料も他の町で商人に買いたたかれるらしいし……いくらこの島で稼いでも、他の島での生活に必要な金額を溜めるのは難しいのさ」


 なんだかまだまだ言いたいことはあるみたいだが、長くなりそうなのでそのぐらいにしてもらった。


「えっと、後はシャーマンについて何か知っていることはありますか? 定期的に火の祠に供物を運んでいたらしいんですが……」

「シャーマン? ああ、火の部族の村の族長のことじゃないか? 代々火の精霊様の加護を持った者が引き継いでいるんだろう。年に一度果物やら何やら色々もって祠に運んでいたな……。だが、今年は土砂崩れのせいもあってまだ見ていないな」


 ……土砂崩れ? そういえば、序盤に立ち寄る火の部族の村からグクス村に向かう道は、土砂崩れで閉鎖されていた。レベルが低いうちに強い敵がいるところに行かせない為の措置だろうけど、国王に手紙を渡して土砂の片づけを依頼してしばらくすると通れるようになったはず……ルークスが闘技大会の時に渡していた火の族長からの手紙がそれだ。まあ、わたし達はすぐにドラゴンを従えたので関係な……


「ああっ!」

「ど、どうしたの? ユーリ」


 そうだ……すっかり失念していた。強くてニューゲームばかりやっていたせいで、移動用の魔獣も引き継いでいた為、街道が閉鎖されてるイベントは放置していた。別に通れなくても飛んでいけるからね。だが普通にストーリーを進めた場合、中央からの土砂片付け部隊が魔物に襲われているイベントがあったんだ……。そいつを倒さないと、土砂が片付かない! 街道が通れない! そのせいで多分シャーマンが来ない! イベントを端折りすぎた弊害が今ここに!


「……街道の土砂崩れの件は……わたし達でなんとかします。あとすみません、何人か人を雇いたいのですが伝はありませんか? ……火の祠の祭壇をこわしてしまったので、それを復元したいのです。材料を運んだりはこちらでしますので、力や体力に自信のある人にお願いしたいのですが」

「祭壇をこわした!? なんて罰当たりな……火の精霊様がお怒りになるぞ……。まあ、人ならすぐに集まるよ。みんな仕事をほしがっているからね。金払いのいい雇い主なら大歓迎だ」


……う、お金足りるかな……。山で倒した魔物、換金してこなきゃな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ