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カイン君、大好きです。

「ユーリ! 起きて! カイン、助かったわよ!」


 エステラの声が聞こえて、瞬時に覚醒する。辺りを見回すと、カイン君がルークスに支えられながらではあるが、上体を起こしルークスと会話していた。サラマンダーも満足げにしっぽを振っている。


『うむ、人間の割にはなかなかしぶとい奴だな! まさか我らの炎を受けて、助かるとは思わなんだ!』


 え……ちょっと待って……助かると思ってやったんじゃなかったの? でもでも、そんなことより! カイン君治ったんだよね!? いやっったーーーーーーー!!


 わたしは即座に立ち上がり、カイン君に抱き着いた。かなり勢いがついてしまっため、ルークスごと倒れこんだが気にせずカイン君の額に手を当てる。


 ……熱くない! 熱下がってる! 顔色も良い! 口の中も火傷……してない! カイン君、無事っ!


「カイン君! 痛い所ないですか? もう苦しくないですか? 大丈夫ですか?」

「ちょっ、ユーリ、もう大丈夫だから……顔近い」

「良かったーーーーーーっ!!」


 わたしは再びカイン君を抱きしめる。良かった! とんだ拷問めいた治療法の所為で一時はどうなるかと思ったけど、カイン君元気になってる! 神様ありがとう! サラマンダーありがとう! 願わくば、もうこれ以上カイン君の事をいじめないでください! ちょっとカイン君の不幸要素、多すぎません? そろそろ幸せにしてあげてくださいっ! なんならわたしが幸せにしますっ!


 わたしはカイン君にしがみついたまま、嗚咽し、ぐりぐりと顔を胸にうずめた。服に鼻水がついてしまった気がするが、カイン君はわたしが落ち着くまで好きにさせてくれた。大好きです。


「あの、二人とも……そろそろ降りてもらえるかな……?」


 我慢しきれなくなったルークスが、カイン君の下で苦しそうな声を上げた。





 元気になったカイン君は、サラマンダーにお礼を言っている。わたしも深々と頭を下げて、感謝の気持ちを表した。サラマンダーは蜥蜴顔なので変化は分かりにくいが、ちょっぴり嬉しそうだ。


「簡易的ではありますが、祭壇はわたしが作りますね。後日ちゃんとしたものを村の人に作ってもらいますから」


 わたしはサラマンダーへのお礼に祭壇を創造する。以前ここにあったものよりも、若干豪華にしてみた。村の人達にはこれをお手本にしてもらおう。真新しい祭壇を見て、サラマンダーのしっぽは千切れんばかりに振られていた。……犬みたいだな。


「それであとは信仰を取り戻せばいいんですよね? この祠には、最近人が訪れていないんですか?」

『うむ! 以前はシャーマンが定期的に供物を持ってまいったが、最近はとんと見ん! 我らは食事を必要とはせぬが、供えられた物は食す! あの甘い香しい果実がまた食べたい!」


 ふむふむ、サラマンダーは果物が食べたいのか……。うーん、まずは人が来なくなった原因から調べてみるかな。マーダチカおばあちゃんはサラマンダーのこと様付けで呼んでるくらいだし、すべての人の信仰心がなくなったわけじゃないと思うけど……


「ねえユーリ、ちょっとカインにくっ付きすぎじゃない? カインが困ってるわよ……」


 へ? ……エステラに指摘されるまで気が付かなかった。ぼーっと考え事をしている間に、体が自然にカイン君に触れている。なんだこの現象は。夢遊病か? いや、寝てはいないので白昼夢遊病か? しかも困ったことに、カイン君が元気なことが嬉しくて嬉しくて嬉しすぎて、衝動が抑えられない。カイン君は明らかに困っている。顔を赤らめて、どうしたら良いか分からないといった感じで俯いている。


「すみません……わたしもカイン君が嫌がることはしたくないんですけど……体が勝手に……」


 そう言いながら、後ろからぎゅーっと抱きしめる。あと十秒だけ! そうしたら離れますから! わたしは十秒の間に、カイン君の体の温もりや匂いを充分に堪能して、名残惜しいが手を放した。




「さあ! グクス村に帰りましょう! おばあちゃんにもカイン君が助かったことを早く報告しないといけないし! サラマンダー様待っててくださいね! すぐに戻ってきますから!」

『うむ! 頼んだぞ!』


 わたしは達はドラ子に乗ってグクス村へと帰って行った。カイン君とお話ししながらだったので、今回はとっても早く着いたよ。


 おばあちゃんはカイン君の元気な姿をみて、泣き崩れてしまった。その姿をみて、わたしも再び涙が溢れてきたので一緒になって泣いた。ゴブリンがそれを不思議そうに見ていた。エステラが「人は感情が溢れだすと、目から涙っていう水がでるんだよ」とゴブリンに教えていた。




「マーダチカさんいるかい? これは薬のお礼だよ! 食べてくれ! ……って随分人が多いな……足りるかな」


 宿屋のザザが、仕留めた鳥を持っておばあちゃんに持ってきてくれた。そういえば今日はまだ何も食べていない。先日市場で買った鳥は、おばあちゃんが夕食を作るのに使ったので、今回はこの鳥を使ってカレーを作ろう! そうしよう! わたしは久しぶりにカレーが食べられると思うとワクワクしてきた。


「ん? その人は……」


 帰りがけにザザがゴブリンをガン見している。やばい。忘れてた。ゴブリン、魔物だった。村に勝手に入れてしまった。怒られる? 捕まっちゃう? どどど、どうしよう!


「マーダチカさんの親戚かい? よく似ているね。じゃ、本当にありがとうね!」


 そう言うと、ザザは颯爽と去って行った。……良かった。魔物だって、ばれなかった。これもマーダチカおばあちゃんがゴブリン顔だったおかげ……ってヒイイイッ


 そこにはゴブリン顔と言うより、般若に近い顔のおばあちゃんがザザが去って行った方を睨んでいた。




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