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山頂での戦い

 特にこれといった問題もなく、わたし達は山頂にたどり着いた。ここでボス戦となる為、ある程度の足場はあるものの、切り立った崖から見下ろす景色は高いところが苦手なわたしにとっては恐怖でしかない。ドラ子の背中とはまた違った怖さがある。


 山頂の岩場には巨大な植物の蔓が張り巡らされ、赤い大きな花をいくつもつけていた。これがボスモンスター火炎草だ。ひと際でかい花がわたし達の気配に気づき、むくりと頭を起こした。とげの付いた蔓を、自分の手足のようにクネクネとくねらせている。


「お、あれが火炎草か?」

「そうです。さっさと倒して持って帰りましょう」


 わたしが言い終わる前に、火炎草はルークスを捕まえようと蔓を鞭のように伸ばしてきた。それに気づいたルークスが剣で素早く切り落とす。蔓は本体から切り離された後もびちびちと動いていた。……気持悪っ。


「きゃああああっ!」

「エステラ!」


 後ろの方でエステラにも蔓が伸ばされていたらしい。火炎草は捕まえたエステラを盾のようにして、自分の前に浮かべている。必死でもがくエステラの腕に、どんどんとげが食い込んでいる! 痛そう!


「今助けるからな!」


 ルークスはそう言うと、火炎草の蔓を次々に切っていく。だが、エステラは蔓から蔓へと渡され、なかなか近くまで行くことができない。


「ルークス、魔法を使いましょう。エステラには魔法が効かないので、大丈夫なはずです」

「そ、そうか! よしじゃあこの前覚えたのを使ってみよう!」


 ルークスが魔法の詠唱に入った。火炎草は今度はルークスを捕まえようとして蔓を伸ばしてくる。さっきは華麗に切り落としていたルークスだが、今回は詠唱に集中するため、目をつぶっている! いや危ないよ! 戦闘中だよ! 魔法使えとは言ったけど、目をつぶれとは言ってないよ!


「ルークス! 蔓が来てますよ! 目を開けてください!」

「え? あ、ほんとだ。うわあああああああっ!」


 間抜けな声とともに、ルークスは火炎草にあっけなく捕まってしまった。せっかく詠唱していた魔法も最初からだ。二人とも強いんだからさ! もっと気合い入れて戦ってよーー!


 二人が捕まってしまった以上、ここにはわたししかいない! あと、薄々気づいてはいたのだが、火炎草とわたし、攻撃方法がかぶってる! しかもあっちが本家だ!


 そのうえ、わたしの杖はすでにゴブリンを捕まえている! こいつ意外と体力多いんだ! 捕まえたまま山頂まで来てしまった! ……ええい、仕方ない!


 わたしはレッドゴブリンを一旦解放した。ぺいっと地面へ投げ出されたゴブリンは、瞬時に起き上がり戦闘態勢をとる。敵の数を増やしてしまったが、今はとにかくルークスとエステラを助けなければ! あー、こんなことになるんなら戦闘訓練ちゃんとやっておくんだったよ!


 わたしはとりあえず杖でエステラを捕まえている蔓をぶっ叩いてみた。


「痛いっ!」


 あ、これはまずい。蔓の衝撃が伝わって、とげが刺さって痛いみたい! しかも叩いたところで、ダメージは入っていない様子。……どうするよこれ。


 火炎草はわたしのことも捕まえようとして、蔓を伸ばしてくる。だが、攻撃はわたしの体はすり抜けてしまうので、蔓がこんがらがっている。まあ、こんなかんじで防御に関しては問題ないだろう。問題は攻撃だ。うーん、もっと攻撃力を上げないとなあ……。あ、そうだ。


 幸いにもここは岩場。岩ならばその辺りにごろごろしている。わたしは岩の中からなるべくでかくて重くて鋭いものを選んで、杖で持ち上げた。魔力で操っているせいか、不思議と重さは感じない。


 そうだよね。なにも敵を捕まえるだけが能じゃないよね。こうすれば、簡易巨大ハンマーのできあがり~! しかもわたしなら絶対に持てないような大岩も、杖を使えばこの通り!


 いっくぞーーー!


 わたしは大岩を、火炎草の花の部分にたたきつけた。念のため、ぐりぐり押しつぶしておく。そろそろいいかな? と岩を挙げてみると、火炎草はぺちゃんこの押し花みたいになっていた。よしこれで……って、ええええ!?


 今度は別の花が頭の役割を果たしているらしい。離れたところで再び、うにょうにょと動き始めた。……まさか、この花全部倒さないといけないの? え、何個ある? 何個咲いてる? 一、二、三、四、五、六、七、八、九、十……と、とにかくたくさん! わたしは途中から数えるのをやめた。意味がないからだ。そこからは無心で、ただひたすら花を見つけてはつぶし、見つけてはつぶしの繰り返しだ。日も暮れ始めたころに、ようやくわたしは火炎草を倒すことができた。


「ふー、助かったよありがとう」

「ごめんなさい、ユーリ。……油断しちゃったみたい」


 エステラが自分とルークスに回復魔法をかけながら可愛く謝ってくる。いや、いいよ……いつもはおんぶにだっこだからさ。でも次からはもう少し本気で戦ってくれると助かります……。


「ところで、あいつは何してるんだ?」


 ん? あいつ? わたしがルークスの指さす方を見ると、ゴブリンが岩陰からこちらを見つめていた。……まだいたのか。わたしの視線に気が付いたゴブリンは小走りでこちらにやってくる。ん? なんだこいつ! やる気か!? わたしは前傾姿勢で杖を構える。


 だが、予想に反し、ゴブリンはわたしの前に座り込んで両手を組み、やたら瞬きの回数の多い視線を向けてくる。え、何……気持ち悪い。


「あら、ひょっとしてこの子……仲間になりたいんじゃない?」


 なん……だと……? これがあの「ゴブリンは仲間になりたそうにこちらをみている」の視線だというのか!? え、なんか想像と違う……。エステラの話では、おそらくここのボスモンスターである火炎草を倒したわたしを新たなボスとして認めているのではないかとのことだった。……全然うれしくないよ。


 しかし追い払っても追い払ってもついてくるので、最終的にはあきらめて好きにさせることにした。わたし達が火炎草の残骸を集め、アイテムバッグに詰めていると、ゴブリンもそれをみて手伝ってくれるようになった。……ほんと、意外と賢いんだよね。


 程なくして全ての残骸を回収し終わり、わたし達とプラスゴブリン一匹は、山を後にした。

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