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わたしVSレッドゴブリン

 わたし達三人は、火炎草が生えている山のふもとまでドラ子に送り届けてもらった。え? 山頂に降ろしてもらえばいいって思いました? ダメなんですよ。ダンジョン内には乗入不可っていうお約束が……というより、ドラ子はあまり他の魔物や魔獣が住んでいる土地には立ち入らないようにしているらしい。ドラ子ほどの魔獣が近づくと、気配だけで驚いちゃうからね。


 さあ、自分達の足で山頂を目指しますか! わたしは杖をつきながら、ハイキングには程遠い、険しい山道を登り始めた。うろ覚えではあるが、山頂までのルートが分かるわたしが先頭、つづいてルークス、しんがりがエステラだ。


 岩ばかりで歩きにくい山道を歩いていると、雑魚モンスター【レッドゴブリン】に遭遇した。この山では腐るほどでてくる、火炎系の魔法を覚えたゴブリンだ。赤い三角帽子とベストを身に着け、手には棍棒を持っている御馴染みの人型モンスター。見慣れた顔ではあるのだが、今までほとんど雑魚にエンカウントすることがなかったので、なんだか新鮮に感じる。


「お、ゴブリンか。丁度良い、ユーリが一人で倒してみたらどうだ?」

「ええ!? わ、わたしがですか!?」

「そうね、体の使い方を覚える良い機会よ。危なくなったらわたし達も手助けするから、頑張って!」


 二人に背中を押され、わたしは一人ゴブリンの前に立たされた。あちらは完全にやる気モードだ。バッターボックスに入る前の野球選手ばりに、キレのある見事なスウィングを繰り返している。


 いや、多分攻撃は当たらないから大丈夫だとは思うんだけどさ。なんていうか……人型の魔物って……戦いにくくない? かわいい系の魔物とはまた違ったモヤモヤ感がある。しかもわたしの攻撃方法って、打撃オンリーだからね。それを相手が絶命するまで繰り返すって……見た目にも痛いよ……。


 わたしはチラリと後ろを振り返るが、ルークスとエステラは「頑張れー!」としか言ってくれない。……ここは腹をくくるしかないのだろうか……。わたしがあれこれ考えている内に、ゴブリンの方からわたしに殴りかかってきた。


 ブンッ! という風切り音と共に、一瞬視界がゆがむ。渾身の一撃がスカッてしまったので、ゴブリンはそのままグルっと回ってズッコケた。起き上がりながら、忌々し気にわたしを睨んでくる。いや、こけたのはそっちの所為でしょ! わたし悪くないでしょ!


 しかもこいつ、いきなり頭を狙ってきたよ! 殺す気か! そっちがその気なら、もう遠慮はしない。わたしも覚悟を決めねばなるまい……いざ!


「えいっ!」


 わたしが振り下ろした杖は、ぽこんと音を立ててゴブリンの肩に当たった。ゴブリンは避けようともせず、曲がった鼻を更にゆがませて、にやりと笑った。む、むかつく……!


「ユーリ! もっと体全体を使って! 腕だけで振ろうとしちゃだめだ!」


 そんなこと言われても! 全力でやってるよ! わたしはゴブリンを杖で何度か殴りつけたが、まるでダメージが入らない。ゴブリンは先ほどの攻撃でわたしに物理攻撃が効かないことに気が付いたのか、魔法の詠唱を始めている。……意外と賢いな。しかし、詠唱中の今がチャンス! わたしは繰り返し、ゴブリンの体の弱点を探すように色んなところを殴りつけた。ルークスのアドバイスを受けて、腰の回転も加えてみたが、効果のほどは今一つだった。


 んもう! 全然だめじゃん! きっとこの杖が悪いんだ! わたしは手にした杖を睨みつける。……あれ? 落書き部分が光っていない。もしかして……! 慌てて杖を調べてみると、魔力が溜まり、次の段階へと進化できるようになっていた。わたしは迷わず杖を進化させる。


 杖はきつく捻じれながら伸びていき、枝分かれしながらお互いに巻き付いて、最終的に私の身長よりも少し高いくらいになった。木というよりは、蔓のようだ。ぐるぐると渦を巻いていた部分からは、緑の葉っぱが何枚か生えてきている。……うわ、いままでは死んだ木って感じだったけど、なんか今回の杖は生きてるみたい……。杖の変化が終わると、また落書き部分がうっすら光を放ち始めた。……まだ進化するみたいだね。


 とにかく新しい杖を鑑定してみよう!


【魔木の杖・改】

 持ち主の魔力を吸い取りながら成長を続ける杖。任意の対象を捕縛することが可能。捕縛中は継続ダメージが与えられる。魔法の効果がアップする。


 おおっ! なんか特殊効果きたんじゃない? わたしはさっそくゴブリンを捕縛しようと試みる。ゴブリンは先ほどから詠唱していたファイヤーボールを発動し、わたしに全弾を放ってきたが、煩わしいだけだ。後ろにそのまますり抜けて、完全に油断していたルークスの顔面に当たっていた。サラマンダーの加護を得たルークスには大したダメージにはなっていないはずなのに、すかさずエステラがヒールをかけている。……仲良いですね。


 よーし、わたしのターンだ! いっけえ杖! わたしが念じると同時に、絡み合っていた杖の一部が、しゅるしゅるとゴブリンに伸びていった。ゴブリンは手でそれを払おうとするが、蔓は足元からぐるぐると巻き付いて行き、ゴブリンはすぐに身動きが取れなくなった。蔓は巻き付いた後、ゴブリンを締め上げるようにギリギリと少しづつ縮んでいく。


 締め上げられているゴブリンの足が、地面から離れる。蔓はゴブリンを捕らえたまま、ゆっくりとこちらへ戻ってきた。ゴブリンは蔓に雁字搦めにされたまま、空中にふよふよ浮かんでいる。……ゴブリンの風船みたいだな。


「おお! すごいなユーリ! ゴブリンを捕まえたのか!」

「頑張ったわね! すごいわ!」


 褒められて悪い気はしないが、あまり戦闘能力が上がったような気はしない。わたし自身の成長というよりは、単に杖がちょっと便利になっただけだ。捕縛中は継続ダメージが入るらしいので、放っておくだけでゴブリンを倒すことが出来るだろう。しかし、あまりここで時間を取られるわけにもいかない。わたしはゴブリン風船を持ったまま移動することにした。先頭をルークスにゆずり、さっさと山頂まで行こうとせっつく。


 ルークスはわたしとは違い、魔物と出会った瞬間に一撃で相手を仕留めていた。素材としての価値があるものは、倒したそばからアイテムバッグに入れている。……初めからこうすればよかった。わたしはゴブリン風船を見上げながら、ため息をついた。

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