表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/122

グクス村

 ドラ子に揺れないように、でもなるべく急いで飛んでもらい、近くのグクス村へと到着した。小さな村だが、宿屋くらいはある。わたし達はすぐに宿屋へと向かった。


「すみません、四人なんですけど空いてますか?」

「いらっしゃい、空いてるよ……って、そっちの人大丈夫? 具合悪そうだけど……」


 ルークスに抱きかかえられてぐったりしているカイン君を見て、お店の人は嫌な顔をした。具合が悪いから部屋を借りたいんだよ!


「ちょっと風邪をひいてしまったみたいで……すぐに休ませたいんですけど、部屋を貸してもらえませんか?」

「……ほんとに風邪なの? 今流行ってる熱病なんじゃない?」


 むきーーーー! 急いでるのに! 熱病じゃないよ! ただの風邪だよ! そんなのステータス見ればわかるでしょ!? って、普通の人は他人のステータス見れないのか……


「いえ、本当にただの風邪で……お金ならいくらでもお支払しますから!」

「……悪いけど、ウチには泊められないよ。他のお客さんにも悪いし……すまないね」


 他にお客さんなんていないじゃん! 嘘つき! だが宿屋の主人はわたし達を追い出すと、ガチャリと扉を閉めてしまった。こうしてる間にもカイン君の顔色はどんどん悪くなっている。ど、どこか休めるところを探さなければ!


「こまったわね……せめて横になる場所でもあるといいんだけど……」

「かなり汗もかいてるみたいだし、水も飲ませた方が良い。弱ったな……」


 今から別の村に移動する? たしかこの島には、火の部族の村とカルダカの町がある……が、どちらもここからかなり離れている。一刻も早くカイン君をベッドで休ませてあげたいのに! この村にお医者さんとかいないのかな? お医者さんじゃなくても、薬に詳しい人とか…………あ!


「思い出しました! わたし、泊めてくれそうな人の心当たりあります!」


 これ、グクス村の熱病イベントだ! 近くの山から薬草を採ってきて、村の薬師の老婆に調合してもらうミッションだったはず。あの心優しい老婆なら、カイン君のことも診てくれるはず!


 わたし達は村はずれの一軒家へといそいだ。小さな家の煙突から、もくもくと煙が出ている。良かった! 老婆在宅中っぽい! わたしは期待に胸を膨らませ、木の扉をノックした。


 ギギッと音を立てて扉がわずかに開く。隙間から老婆がゆっくりと顔をのぞかせた。骨と皮のようなしわしわの顔の中で、目だけが異様に爛々としている。そのぎょろりとせわしなく動く眼球でさえも、今は愛おしい。おばあちゃん! 会いたかったよ!


「すみません! 薬師のマーダチカさんですよね? 診てもらいたい人がいるんです! お願いできませんか?」


 当然オッケーだよね? 困っている人を見るとほっておけない心優しいおばあちゃんだもんね? 村の人達の為に、無償で熱病の特効薬を調合するぐらいだもんね? さあ! お返事をどうぞ!


「……なんだい藪から棒に。だいたいあんた、誰だね? 急に訪ねてこられてもね……」


 老婆はあからさまに嫌そうな顔をして、わたしを睨みつける。あ、あれ? なんだか印象が違うぞ? もっと感じのいいおばあちゃんだったような……。だがここは下手にでなければ! カイン君の為だもん!


「も、申し遅れました。わたしはユーリと申します。旅の途中なのですが、仲間が風邪を引いてしまったみたいで熱がかなりでているのです。薬師として名高いマーダチカさんに是非とも診察していただきたいのですが、お願いできないでしょうか?」

「お断りだね」


 ……え? 今、なんて言った?


「もうすぐ日も暮れるし、今日の仕事は終わりだよ。さっさと帰んな」

「ちょ、ちょちょっとまってください!」


 老婆は無情にも扉を閉めようとする。わたしはすかさず、ガッと足を挟んでそれを阻止した。それに気づいた老婆が無理やり扉を閉めようと全体重を掛けてきた。わたしも負けじと扉をこじ開けようと反対側に力を入れる。ろ、老婆のくせにやるな……!


「おばあちゃん、お願い。仲間が苦しそうなの」


 エステラもお願いしてみてくれたが、老婆はツーンとそっぽを向いている。しかも扉に力はかけたままだ。


「おばあちゃん頼むよ。困ってるんだ」


 ルークスもカイン君を抱えたままお願いしてくれている。……はぁ。ここで無駄な時間を過ごすよりは、別の村に向かった方が良いのかもしれない。諦めて……


「あらあらあら、大変! んまぁ! こっちの子はかなりの熱があるじゃないか! ささ、早く中へお入り!」


 突然老婆が手を放した為、扉を開けようと全力引っ張っていたわたしは派手にスっ転んでしまった。そんなわたしには目もくれず、老婆はルークスが抱えるカイン君の首筋や手首をぺたぺたと触っている。


 ……え、態度違くない?


 わたしとエステラは顔を見合わせる。先ほどまで見せていた表情とは打って変わって、今は見るからに優しいおばあちゃん風だ。釈然としない思いを胸に抱えたまま、わたし達は老婆の家へと入って行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ